【茨城】正社員の人手不足感が強まり、中途採用を強化する企業も

地域シンクタンク・モニター定例調査

茨城県の経済動向は、7~9月期は業況判断が1年ぶりに低下したことを理由に【悪化】となった。10~12月期は、業況判断の動きがおおむね横ばいであることから【横ばい】。雇用動向は、雇用指標や経営動向調査の結果から、7~9月期の実績、10~12月期の見通しともに【横ばい】となっている。モニター実施の調査によると、正社員の人手不足感は非製造業を中心員に強まっており、企業は中途採用を強化することで対応しているという。

<経済動向>

景況感が1年ぶりに低下

茨城県のモニターが実施する「県内主要企業の経営動向調査(7~9月期)」によれば、県内企業の景況感をあらわす自社業況総合判断DIは「悪化」超11.7%と、前期調査の「悪化」超3.3%から約8ポイント低下した。低下は1年ぶり。業種別にみると、製造業は「悪化」超14.3%で前期から約7ポイント低下、非製造業は「悪化」超9.8%で、前期から約10ポイント低下した。

モニターは製造業について、「海外経済の減速、半導体等の供給制約の残存等から、生産・受注が落ち込んだことなどが要因とみられる」としたほか、非製造業については「物価の上昇・高止まりを背景とした企業収益の悪化や消費マインドの低下、また、経済活動の正常化が進むなかでの人手不足の深刻化などが、景況感の下押し材料となったものと推測される」として、7~9月期の地域経済を【悪化】と判断した。

人手不足によるサービスの供給制約などが景況感の下押し懸念に

10~12月期については、「自社業況総合判断DIは全産業で『悪化』超10.5%と今期からおおむね横ばいの見通し」。これを業種別にみると、「製造業は『悪化』超10.1%で今期から約4ポイント上昇、非製造業は『悪化』超10.7%で横ばいの見込み」となっている。

モニターは、「半導体等の供給制約の緩和、大型観光振興策の実施といった追い風が吹くと期待される」としつつも、「物価の上昇・高止まりによる企業収益の悪化や消費マインドの低下、人手不足によるサービス等の供給制約、新型コロナやインフルエンザ等の感染症の拡大などが、景況感を下押しする懸念がある」とコメントしたうえで、判断を【横ばい】とした。

<雇用動向>

人員減が経営に悪影響をもたらす

7~9月期の雇用動向をみると、9月の有効求人倍率は1.42倍(前月比0.06ポイント上昇)で2カ月ぶりに上昇した。新規求人数は前年同月比マイナス6.4%と、4カ月連続で前年水準を下回った。新規求人数を産業別にみると、宿泊業・飲食サービス業(前年同月比プラス74.1%)などが増加した一方で、運輸・郵便業(同マイナス25.9%)、卸売業・小売業(同マイナス11.0%)、製造業(同マイナス8.7%)、建設業(同マイナス6.2%)、サービス業(他に分類されないもの)(同マイナス3.5%)、医療・福祉(同マイナス2.4%)などは減少した。

9月の雇用保険受給者数は8,850人で、前年同月比プラス5.4%と6カ月連続で前年水準を上回った。9月の事業主都合離職者数は539人で、同プラス30.2%と7カ月連続で前年水準を上回った。

モニターが実施した「県内主要企業の経営動向調査(7~9月期)」によると、雇用判断DIは「減少」超4.6%と、前期(「増加」超2.3%)から約7ポイント低下した。業種別にみると製造業が「増加」超1.1%で横ばい、非製造業が「減少」超9.1%で前期から約13ポイント低下している。一部の企業からは「人員減のため一部店舗で定休日を設けた」(飲食業)、「従業員が足りず予約を制限した」(娯楽施設)、「人材の流動化(離職)が進んだことなどから、経営が困窮している」(電気機械)など、人手不足が経営に悪影響しているとの声が聞かれた。

こうした動きをもとにモニターは、「有効求人倍率が2カ月ぶりに上昇した」ものの、「雇用保険受給者数が増加傾向にある」ことをふまえ、「持ち直しの動きに足踏みがみられる」として7~9月期の雇用の実績を【横ばい】と判断した。

10~12月期の雇用状況の見通しについても、モニターが実施した同調査の先行き(10~12月期)の結果をもとに、「雇用判断DIは全産業で『減少』超3.8%と今期から横ばい。業種別では、製造業が0.0%でおおむね横ばい、非製造業が『減少』超6.7%でおおむね横ばいの見通し」として、【横ばい】と判断した。

経済活動の正常化が進むなかで人手不足感は非製造業を中心に強まる

モニターは県内企業に対して9月に「人手不足に関する調査」を実施している。毎年実施しており、今回が5回目。それによると、正社員の充足度は「不足」が52.4%で最も割合が高く、以下「適正」が38.1%、「過剰」が5.2%、「その他」が2.4%、「わからない」が1.9%だった。この結果についてモニターは、「正社員の不足感は、コロナ禍での業績低迷などを背景に一時緩和されていたが、経済活動の正常化が進むなかで、非製造業を中心に再び強まっている」とコメントしている。

正社員が不足している理由(複数回答)をみると、「求人に対する応募が少ない」(73.4%)が最も高く、次いで「業務量が増加している」(32.1%)、「有資格者、技術者等の確保が難しい」(31.2%)、「新卒者が減っている(高卒等)」(28.4%)、「定年以外の退職者が多い」(27.5%)などとなっている。

人手不足で技術継承や育成が困難に

正社員が不足している理由について、過去の調査からの推移をみると、量的な不足を示す「求人に対する応募が少ない」や「業務量が増加している」が3年連続で前年水準を上回った一方、質的な不足を示す「有資格者、技術者等の確保が難しい」や「応募はあるが欲しい人材ではない」は3年連続で減少しており、人材の質よりも量(人数)の確保を優先する傾向が強まっている。この結果についてモニターは、「深刻化する『量的』な人手不足に対応するために、企業には、多様な人材に目を向けること、賃金水準の見直しや柔軟な雇用体制の整備、業務効率化等を図り労働負荷と報酬のバランスをとることなどが求められる」とコメントした。

人手不足による悪影響を尋ねたところ(複数回答)、「技術・ノウハウの伝承、人材育成が困難」(54.9%)が最も高く、次いで「受注増加への対応が困難」(51.3%)、「時間外労働の増加、人件費の増加」(49.6%)などとなった。

こうしたなか、企業の対応は中途採用の強化が中心となっており、「転職サイトで複数名を採用できた」(建設業)といった声がある一方で、「中途採用者の定着が課題」(製造業)、「中途採用によって社員の高齢化が早まった」(卸売業)などの声も聞かれた。