デジタル技術による製造工程の定量化、将来の人材となる若者への発信、外国人の活用などが進む
 ――【特別調査】地域における技能継承と産業の維持・発展

地域シンクタンク・モニター特別調査

地域経済の主力となる産業や、長い伝統を有する地場産業では、ベテランが持つ優れた技能を後進に継承して産業を維持・発展させることが重要となっている。今回の地域シンクタンク・モニター調査(2023年1月実施)では特別調査として、地域における技能継承の取り組み状況を尋ねた。各モニターの報告をみると、デジタル技術を活用して製造工程の定量化を図る取り組みや、将来を担う人材となる若者への発信がみられたほか、地域おこし協力隊や外国人といった地域外の人材を活用する動きもあった。

酒蔵の仕込み工程をセンサーでモニタリング――山形県

山形県のモニターによると、山形県工業技術センターは昨年11月、情報通信研究機構の委託を受け、「デジタル技術を活用した日本酒製造条件管理技術の開発」に関する研究を開始したことを発表した。事業期間は2023~2025年度。IoTセンサーを県内の酒蔵に設置し、酒米の溶解特性の定量化や、もろみの発酵特性分析を行い、仕込み工程におけるIoTモニタリングシステムの構築を図る。山形県は昨年の全国新酒鑑評会で金賞受賞数が9年ぶりに全国トップとなるなど、質の高い酒造りに定評がある一方で、後継者不足が課題となっている。そのため、デジタル化によって製造技術を保存・継承し、個性ある酒蔵の持続的経営の実現を目指す。

若い世代にプロの技を実演――福島県

福島県のモニターによると、インクジェット事業などを手がける福島キヤノン(福島市)では、福島県のものづくり技術発展と次世代を担う人材育成への貢献を目的に、社員が高校に出向く「プロの技実演会」を実施することで、高校生にものづくりの技の楽しさを実感してもらっているという。

県のモデル事業で育成した技能実習生が永住可能な在留資格を取得――広島県

造船産業が集積する瀬戸内エリアでは、外国人も対象にした技能継承が成果をあげている。中国地域のモニターによると、因島鉄工(尾道市)は新入社員や外国人労働者に対して、船体製造で必要な溶接の技能継承を推進。勤務初日から1週間をかけて、安全保護マスクの着用から道具の使い方、現場での安全確保などの基礎を教えている。2023年、同社の技能実習生である3人のベトナム人が、在留資格「特定技能」のうち永住も可能な2号の試験に合格した。造船・舶用工業分野では全国初。同社は広島県の「特定技能外国人受入モデル企業支援事業補助金」の採択も受けている。

地元企業が連携してジーンズのスクールを開講――広島県

繊維産業が集積する福山市では、市内の8社が繊維産地継承プロジェクト委員会としてHITOTOITO(ヒトトイト)を2018年に立ち上げ、「デニムスクール」を開講している。縫製業者などが10日間にわたり指導を行い、受講者が一着ずつジーンズを完成させることで、担い手の育成と定着を狙う。受講者は地元だけでなく関東や関西、外国からも来ており、これまでに120人以上が受講し、修了生のうち10人ほどが会員企業に就職している。

地域おこし協力隊が伝統的工芸品の技術を習得――岩手県

公的機関による取り組みも報告された。岩手県のモニターによると、岩手県では伝統的工芸品として「南部鉄器」「岩谷堂箪笥」「浄法寺塗」「秀衡塗」の4つが指定されている。このうち「南部鉄器」は奥州市の主要な地場産業だが、高齢化や後継者の不足などにより技術の継承が課題となっているという。そこで同市は「地域おこし協力隊」の隊員を募集し、市内の鋳物工業協同組合や同組合員の事業所で、実際に南部鉄器の製造業務に携わってもらうとともに、南部鉄器に関する基礎知識や伝統的技術の習得・向上に努めてもらっている。

また、「浄法寺塗」の産地である二戸市も「地域おこし協力隊」による後継者の確保に取り組んでいる。伝承技術を用いて漆掻きを行う職人や企業の指導の下で、漆掻き技術を習得しながら漆林整備や情報発信を行い、将来的な漆関連産業での自立・就業を支援している。

技能継承のための講習会を自治体が補助――福井県

北陸地域のモニターによると、福井県は「伝統的技能継承促進事業補助金」として、熟練の技術・技能の習得に向け、建築分野等の団体などが高度かつ伝統的な技能を継承するための講習会を実施した場合に、経費の一部を補助している。1団体あたり60万円が上限で、講師謝金、講師旅費、会場借上料、材料などが対象となる。

輪島塗の産地は地震で壊滅的な被害――石川県

能登半島地震により石川県の輪島塗の産地が壊滅的な打撃を受けている北陸地域のモニターからは、「技術の伝承の前に、産地の存続という点でさまざまな対策がとられると想定される」との報告がよせられた。