2027年までの死亡災害5%減、死傷者数減少への転換を目標に
 ――「第14次労働災害防止計画」を労働政策審議会が了承

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労働政策審議会(会長:清家篤・日本赤十字社社長、慶應義塾学事顧問)は先ごろ、「第14次労働災害防止計画」を了承し、厚生労働大臣に答申した。2027年までに、死亡災害を5%以上減少させ、死傷災害については増加傾向に歯止めをかけ、死傷者数を減少に反転させることを全体の目標とした。

第14次の計画期間は2023年度~2027年度

労働災害防止計画は、労働災害の防止に向けて、国、事業者、労働者などの関係者が重点的に取り組む事項を定めたもの。1958年に初めて策定されて以降、社会経済の情勢や技術革新、働き方の変化に対応しながら継続して策定され、今回で第14次の計画となる。

今回の計画は、労働政策審議会の安全衛生分科会で、2022年9月から審議されてきた結果に基づくもの。厚生労働省では、答申を踏まえて2023~2027年度の中期5カ年計画を策定し、目標の達成に向けた取り組みを進めることにしている。

建設、製造など特定の業種で多く災害が発生

計画によると、労働災害の近年の状況は、死亡災害の死亡者数が2015年に1,000人を切って減少傾向にあるものの、産業別には建設業、製造業などで多く、それぞれの業務内容に起因する特有の災害の割合が高くなっている。このため、計画はこうした業種を中心に労働災害防止対策に取り組むことが必要だとしている。

労働災害による休業4日以上の死傷者数(以下「死傷者数」)は、ここ数年増加傾向にある。労働災害発生率が高い60歳以上の高年齢労働者が増加しており、また、中小事業場での労働災害の発生が多数を占めている。計画は「中小事業場を中心に安全衛生対策の取組推進が不可欠」と指摘する。

コロナ禍やAI化進展など多様化する課題に対応

労働者の健康保持増進に関する課題の多様化も指摘している。多様化の具体的な内容として、「働き方改革への対応、メンタルヘルス不調、労働者の高齢化や女性の就業率の上昇に伴う健康課題への対応、治療と仕事の両立支援やコロナ禍におけるテレワークの拡大など」をあげ、「現場のニーズの変化に対応した産業保健体制や活動の見直しが必要」と強調している。

こうした状況を踏まえて計画は、誰もが安全で健康に働くために、安全衛生対策の責務を負う事業者や注文者、そして労働者等の関係者が、安全衛生対策について「自身の責任を認識し、真摯に取り組むことが重要」とし、対策は、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナ社会も見据えながら、DXの進展も踏まえウェアラブル端末やAIを活用するなど、就業形態の変化のみならず、価値観の多様化にも対応するものでなければならないと指摘。そのうえで、「費用としての人件費から、資産としての人的投資」への変換の促進が必要だとし、「労働者の安全衛生対策に積極的に取り組む事業者が社会的に評価される環境を醸成し、安全と健康の確保の更なる促進を図ることが望まれる」と強調している。

重点対策8項目ごとに目標指標を設定

計画の重点対策事項として、にある8項目を定め、それぞれに取り組みの進捗状況を確認する指標(アウトプット指標)と、期待される達成目標(アウトカム指標)を設定した。

表:計画の重点項目
画像:表

(公表資料から編集部で作成)

そのうえで、向こう5年間に達成を期待される全体的な結果として、死亡災害については「2022年と比較して2027年までに5%以上の減少」をあげ、死傷災害については、「2021年までの増加傾向に歯止めをかけ、死傷者数は2022年と比較して2027年までに減少に転ずる」ことを掲げた。

増加する高年齢労働者に転倒・腰痛防止対策を推進

まず、『自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓蒙』をあげる。事業者が安全衛生対策や産業保健活動の意義を理解し、必要な安全衛生管理体制を確保するよう、周知啓蒙を図る。安全衛生対策に取り組む事業者が社会的に評価される環境を整備し、デジタル技術やAI、ウェアラブル端末などの新技術を活用し、安全衛生対策のDXを推進する。

また、人口の高齢化が進み60歳以上の高年齢労働者数が増加していることから、特に『労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進』と、『高年齢労働者の労働災害防止対策の推進』を進める。

転倒災害は、特に骨密度の低下が進む中高年齢の女性をはじめ、発生率が極めて高く、対策を講ずべきリスクであると指摘。そして、筋力を維持し転倒を予防するため、運動プログラムの導入やスポーツの習慣化の推進、非正規雇用労働者も含めた安全衛生教育の実施などに取り組むとともに、転倒・腰痛防止対策の具体的なメニューの提示と実践に向けた支援などを取り組み事項としてあげる。

アウトプット指標としては、転倒災害対策に取り組む事業場の割合を2027年までに50%以上とすることや、卸売業・小売業、医療・福祉の事業場の正社員以外の労働者への安全衛生教育の実施率を、2027年までに80%以上とすることなどを掲げた。アウトカム指標は、転倒の年齢層別死傷者年千人率を2022年と比較して2027年までに男女とも増加に歯止めをかける、などとなっている。

また、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」に基づき、高年齢労働者の就労状況を踏まえた安全衛生管理体制を確立し、職場環境の改善の取り組みが必要だと指摘する。健康診断情報の電磁保存・管理、保険者へのデータ提供を行い、こうした情報を活用して労働者の健康保持増進の取り組みを進める。保険者と連携して疾病予防、健康づくりなどコラボヘルスの費用を支援する。アウトプット指標は、同ガイドラインに基づく高年齢労働者の安全衛生確保の取り組みを実施する事業場割合を2027年までに50%以上とする。アウトカム指標は、60歳代以上の死傷年千人率を2022年と比較して2027年までに男女ともに増加に歯止めをかける。

外国人労働者や個人事業者にもマニュアルやガイドラインで対策強化

コロナ禍によりテレワークが急拡大するなど、働き方の多様化がさらに広がりを見せた。これを受けて、『多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進』を盛り込む。

自宅でテレワークを行う際のメンタルヘルス対策や作業環境整備の留意点などを示した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」や、健康確保に必要な措置を示した「副業・兼業ガイドライン」を周知し、安全と健康の確保に取り組むこととする。また、安全衛生教育マニュアルを活用して外国人労働者への安全衛生教育や健康管理の取り組み推進も指摘する(アウトプット指標:外国人労働者に分かりやすい労働災害防止教育実施事業場割合を2027年までに50%以上、アウトカム指標:外国人労働者の死傷年千人率を2027年までに全平均以下)。

労働者ではない個人事業者等に対する安全衛生対策についても重点項目として掲げる。『個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会』の議論を通じ、個人事業者等の業務上災害の実態を把握し、個人事業者自らによる安全衛生確保措置、注文者等による保護措置のあり方についても検討を進める、としている。

建設業は墜落・転落防止など業種リスク別に取り組み

労働災害は業務内容に起因する特有のものの割合が高いため、業種別の防止対策を行うことが必要となっている。『業種別の労働災害防止対策の推進』として、「陸上貨物運送事業」「建設業」「製造業」「林業」の4業種をあげ、それぞれ取り組み事項を整理した。

「陸上貨物運送事業」では、労働災害の約7割が荷役作業時に発生しており、トラックからの墜落や転落災害が多発していることから、トラックからの荷の積み卸し作業の際の墜落・転落防止対策の充実強化を指摘し、「荷役作業における安全ガイドライン」の周知徹底を図る。また、効果的な腰痛の予防対策のため、発生要因の詳細な分析や実効性のある対策の選定についても言及した(アウトプット指標:同ガイドラインに基づく措置を実施する事業場割合を2027年までに45%以上)。

「建設業」では、死亡災害の約4割が墜落・転落災害となっているため、墜落や転落のおそれのある作業について、囲いや手すり等を設置し、墜落制止用器具を確実に使用すること、はしご・脚立等の安全使用の徹底などの防止対策を指摘した(アウトプット指標:墜落・転落災害防止に関するリスクアセスメントに取り組む事業場割合を2027年までに85%以上)。また、熱中症や騒音障害を防止するため、暑さ指数を把握して熱中症予防対策を実施すること、作業環境測定結果に基づく騒音対策の実施をあげた。

一方、「製造業」では、機械等による「はさまれ・巻き込まれ」による死亡災害が最も多くなっていることから、「機械の包括的な安全基準に関する指針」に基づいて使用者がリスクアセスメントを適切に実施することを指摘した。製造業で使用する機械等の安全基準の見直しなども盛り込んだ(アウトプット指標:「はさまれ・巻き込まれ」防止対策に取り組む事業場割合を2027年までに60%以上)。

「林業」については、小規模事業場の労働災害が多いことを指摘し、伐木等作業の安全ガイドラインを労働者に周知し理解を進めるとともに、安全な伐倒方法やかかり木処理の方法、保護具の着用、緊急時の連絡体制の整備など、安全対策の確実な実施を指摘した(アウトプット指標:同ガイドラインに基づく措置の実施割合を2027年までに50%以上)。

各業種別対策のアウトプット指標に対応するアウトカム指標は、いずれも2022年に比較して2027年までに、「陸上貨物運送事業」で死傷者数を5%以上減少、「建設業」で死亡者数を15%以上減少、「製造業」の機械による「はさまれ・巻き込まれ」の死傷者数を5%以上減少、「林業」の死亡者数を15%以上減少させる、としている。

小規模事業場のメンタルヘルス対策を強化

7項目目の『労働者の健康確保対策の推進』は、特にメンタル不調や過重労働による健康障害が課題になっていることから、特にこの2点への対策を推進する。

メンタルヘルス対策としては、ストレスチェックを実施し、その結果を集団分析して職場環境の改善を行う。また、小規模事業場ほど対策が進んでいないため、国は産業保健総合支援センターや地域産業保健センターを通じて、小規模事業場のメンタルヘルス対策の取り組みを支援することなどをあげている(アウトプット指標:メンタルヘルス対策に取り組む事業場割合を2027年までに80%以上、50人未満の小規模事業場のストレスチェック実施割合を2027年までに50%以上。アウトカム指標:仕事や職業生活に関する強い不安やストレスがある労働者割合を2027年までに50%未満とする)。

過重労働対策については、事業者は時間外・休日労働時間の削減、労働時間の状況の把握、健康確保措置等、年次有給休暇の確実な取得の促進、勤務間インターバル制度の導入など、労働時間等設定改善指針による労働時間設定の改善――の措置を行うことを盛り込んだ(アウトプット指標:企業の年次有給休暇取得率を2025年までに70%以上、勤務間インターバル制度導入企業割合を2025年までに15%以上、など。アウトカム指標:週労働時間60時間以上の雇用者割合を2025年までに5%以下)。

このほか、有害物等との接触、爆発、火災など、化学物質の性状に関連の強い労働災害が年間約500件発生しており、減少がみられない状況にあることから、『化学物質等による健康障害防止対策の推進』を掲げる。具体的には、化学物質管理者講習教材を作成し、化学物質管理者の育成支援や、化学物質ばく露防止対策マニュアルの作成などを盛り込む。

こうした計画に基づく取り組みが着実に実施されるよう、毎年、計画の実施状況を確認・評価し、労働政策審議会安全衛生分科会に報告するとともに、必要に応じて計画を見直すとした。計画の評価にあたっては、計画に基づく実施事項が、先に述べた指標(アウトプット・アウトカム)をもとに、どの程度目標の達成に寄与しているのかについても評価を行うとしている。

(調査部)