今期は人流回復でサービス業は好転も、製造業は原材料価格の高騰を十分に価格転嫁できず。来期についてはコロナ関連需要の喪失を懸念する業種も

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2022年第4四半期(10~12月期)の業況実績は、前期よりも「晴れ」と「本曇り」が増える一方で、「うす曇り」が減少するなど、業況のバラツキが広がった。各モニターから寄せられた判断理由をみると、サービス業では、水際対策の緩和や全国旅行支援をうけて、人流が回復したことによる好転が目立つ。製造業では、円安がプラスに働いている業種もあるものの、原材料価格の高騰を十分に価格転嫁できていないことや、半導体不足がマイナス要因となっている。次期(2023年1~3月期)は今期よりも業況のバラツキが小さくなる見通し。コロナの流行が落ち着くなか、水際対策の緩和による外国人材の入国に期待する向きがある一方で、新型コロナ関連の官公庁案件の需要減や、巣ごもり需要の終了を懸念する業種もあった。

<調査の趣旨>

JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。

今回は2022年第4四半期(10~12月期)の業況実績と2023年第1四半期(1~3月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計56組織、44業種から得た。

<各企業・団体モニターの現在の業況>

前期よりも業況がばらつく

第4四半期の業況をみると、回答があった44業種中、「快晴」は1(業種全体に占める割合は2.3%)、「晴れ」が9(同20.5%)、「うす曇り」が19(同43.2%)、「本曇り」が12(同27.3%)、「雨」が3(同6.8%)となっている()。

表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
画像:表
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図:調査開始以来の業況調査結果の推移
画像:図
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前回調査の2022年第3四半期と比較すると、「うす曇り」が約7ポイント減少した一方で「晴れ」が約2ポイント上昇、「本曇り」は約7ポイント上昇しており、業況のバラツキが拡大した。

製造業・非製造業別の傾向をみると、「快晴」は製造業がゼロで非製造業が1業種、「晴れ」は製造業が3業種で非製造業が6業種、「うす曇り」は製造業が11業種で非製造業は8業種となっている。これに対し「本曇り」と「雨」の合計は製造業が6業種、非製造業が9業種となっている。

<現在の業況の判断理由>

商社は資源価格の上昇で好調が続く

今回、「快晴」としたのは【商社】のみ。判断理由については、資源価格の上昇等が寄与したことから、「総合商社7社のうち3社が2023年3月期連結業績予想の当期利益を2022年11月に続いて再び上方修正するなど、前期に続き堅調に推移している」と報告した。

鉄道は入国規制・行動制限の緩和や全国旅行支援で需要が回復

「晴れ」と評価した業界は【食品】【電線】【造船・重機】【情報サービス】【鉄道】【自動車販売】【遊戯機器】【職業紹介】【請負】の9業種。このうち判断を前期から引き上げたのは、前期は「うす曇り」としていた【鉄道】【遊戯機器】【職業紹介】の3業種となっている。

【鉄道】は、業界団体モニターが「各社の輸送人員は、国内向け全国旅行支援の開始や入国制限の緩和による訪日外国人の急増などが後押しし、前年度比では回復傾向にある」としたほか、企業モニターも「入国規制・行動制限の緩和、全国旅行支援等により、交通事業やホテル・リゾート事業を中心に段階的な需要回復がみられ、好調に推移した」と報告している。

【遊戯機器】は、新型コロナの流行が落ち着き市中の人出が増えたほか、アウトバウンドにも復活の傾向がみられ、都市部のゲームセンターで客数が回復している。

【職業紹介】は、求人需要は業界によって差はあるものの、新型コロナの流行前の水準まで回復しているという。

食品は物価上昇が影響するも高付加価値型商品で売上を伸ばす

前期に引き続き「晴れ」と判断した6業種について、その判断理由をみていくと、【食品】は業界団体モニターが「食料品は他の品目に比べて価格転嫁が進みつつあるが、企業物価の上昇も続いており、まだ追い付いていない」「百貨店、チェーンストア、コンビニエンスストアでの売上は、前年からいずれも横ばいか上昇しているものの、消費者物価指数の上昇率に比べて低い」として「本曇り」と判断する一方、企業モニターは「特に乳製品では物価上昇の影響を大きく受けたが、高付加価値型商品を中心に売上が大きく伸長した」ことで売上総利益は前年同期を大きく上回ったとして、「快晴」と判断している。

【電線】は、自動車関連事業では、円安や銅価格上昇の影響で増収となったほか、営業利益も、資材価格や物流費が高騰したものの、コスト低減や売値改善の取り組みで増益となったとし、エレクトロニクス関連事業では、フレキシブルプリント回路や電子ワイヤー製品で需要の捕捉を進めたことに加え、円安の影響もあり増収増益となったとした。

【情報サービス】は分野別の11月の売上高の前年同月比が、受注ソフトウェア、ソフトウェアプロダクト、計算事務等情報処理、システム等管理運営受託、データベースサービスのいずれもプラスとなっていると報告。

【造船・重機】のA社は、各国の渡航規制の緩和による航空需要の増加などもあり、全体としては緩やかな成長が続いていることから「晴れ」と判断。ただ、B社は「うす曇り」と判断している。

【自動車販売】は「販売台数は新車が対計画マイナス10%、中古車は在庫不足が影響して同マイナス20%となった」ものの、「整備部門では計画をほぼ達成したほか、新車・中古車の在庫不足による値引率の減少や経費削減が収益に大きく貢献した」ことから、「経常利益では計画を大きく上回っている」と報告。

【請負】は、官公庁案件を引き続き獲得できたことなどから増収増益となったとした。

非鉄金属はスマホや自動車向けの素材が調整局面に

「うす曇り」と判断した19業種の判断理由では、海外の景気動向や原材料価格の高騰の影響が報告されている。

【非鉄金属】は「電気自動車の車載用電池用途向けの素材は堅調に推移している」ものの、「中国を中心としたスマートフォンなどIT向けや、その他の自動車向けなどの素材は調整局面に入っており、販売減となっている」と報告した。

【電機】は、業界団体モニターが「一般産業向け汎用機器は、電子部品や半導体などの設備投資が活発なため、輸出、国内出荷ともに堅調」となったものの、「受注生産品(発電用原動機、電力・産業向け電気設備)は前年同期を下回った」ことなどから「うす曇り」と判断した。企業モニターは、A社とB社が原材料高騰や半導体不足を理由に「うす曇り」と判断。C社は売上高が第3四半期としては過去最高を更新したことから「晴れ」としている。

【建設】は、国内事業について「製造業・非製造業問わず、複数の大型案件を受注した。資材価格上昇の影響を受けているものの、施工中工事の着実な進捗により、売上高・利益とも堅調に推移している」とする一方で、海外事業については「インフレや金利上昇などの影響もあり、米国開発事業における物件売却数が減少した」と報告している。

百貨店は水際対策の緩和で都心の旗艦店が好調も、地方の店舗は鈍い回復

【百貨店】は、水際対策の緩和により免税売上が増加したことで、都心の旗艦店では第3四半期の売上が現在の体制で過去最高を記録した。ただし、地方の百貨店では売上の回復が鈍い。

【ホームセンター】は、当期売上が前年同期比で全店ベースがプラス0.7%、既存店ベースがプラス0.1%と横ばいだった。月別の動向をみると、10月はDIY用品やレジャー用品で動きがみられたが、家庭日用品や衛生用品が伸び悩んだ。11月は冬物商品を中心に伸び悩んだ。12月に入ると、暖房用品や除雪用品を中心に動きがみられた。

【印刷】は、原材料費やエネルギーコストの度重なる上昇に対して、価格転嫁が進んでいない。

このほかに「うす曇り」と判断した業種は、【パン・菓子】【繊維】【木材】【印刷】【石油精製】【硝子】【石膏】【金属製品】【自動車】【港湾運輸】【ガソリンスタンド】【外食】【警備】【その他】となっている。

ゴムは円安や原材料価格・電気料金の高騰に加え価格転嫁も難しく業況が悪化

「本曇り」と判断した12業種は【化繊】【化学】【ゴム】【工作機械】【金型】【出版】【道路貨物】【水産】【事業所給食】【葬祭】【シルバー産業】【中小企業団体】。

判断理由について【ゴム】は、「主力の自動車タイヤの生産が10月、11月はマイナスで推移している」と報告。モニターが実施した中小企業景況調査(DI指数)をみても、当期の業況判断は前期に引き続きプラスではあるものの、プラス幅は大幅に縮小している。調査に回答した企業からは、円安や原材料価格の高騰に加えて電気料金の高騰が利益を圧迫していることや、十分な価格転嫁が難しいといった声が多く聞かれているという。

【工作機械】は当期の受注額が8四半期ぶりにマイナスとなり、調整局面入りが鮮明化している。

【中小企業団体】は、モニターが会員企業に実施した調査によると、当期における製造業の前年同期比生産額業況指数はマイナス7で、前期(マイナス7)から横ばい。一方、小売業の前年同期比販売額業況指数はマイナス26で、前期(マイナス24)から2ポイント悪化しており、「厳しい状況」となっている。

セメントは石炭価格の急騰に伴う生産コスト上昇を販売価格に転嫁できず

「雨」と判断した業界は【セメント】【電力】【専修学校等】の3業種。

【セメント】はコロナ禍での建設需要の停滞のほか、引き続きの人手不足もあり厳しい状況が続いている。また、セメント生産では輸入石炭が熱エネルギーとして用いられているが、石炭の国際相場は急騰しており、生産コストの上昇を販売価格に転嫁しきれていない。【電力】は資源価格高騰の影響を受けている。【専修学校等】は学生数の減少を判断理由にあげた。

<次期(2023年1~3月)の業況見通し>

次期(2023年1~3月)の業況見通しについては、44業種のうち「快晴」とする業種がゼロ、「晴れ」が6業種(業種全体に占める割合は13.6%)、「うす曇り」が25業種(同56.8%)、「本曇り」が10業種(同22.7%)、「雨」が3業種(同6.8%)となっている。

シルバー産業は外国人材の入国再開に期待

今回、業況の好転を予想したのは【金型】【電機】【シルバー産業】の3業種。

好転を予想した【シルバー産業】は、水際対策の緩和により外国人の介護人材の入国が再開されたことを好材料として、判断を今期の「本曇り」から「うす曇り」に引き上げた。

【電機】では、業界団体モニターは、重電機器は一般産業向け汎用機器が前期に引き続き堅調に推移するとみているほか、家電機器についても、家電製品の堅調な買い替え需要があるとして「晴れ」と判断した。企業モニターでは、A社とB社は半導体不足や物価高騰を理由に「うす曇り」と判断したものの、C社は営業利益の見通しを上方修正したことから「晴れ」としている。

商社はウクライナ情勢などによる不透明感から判断を引き下げ

悪化を予想したのは【電線】【造船・重機】【鉄道】【商社】【職業紹介】【請負】の6業種。【商社】は今期の「快晴」から来期は「晴れ」に引き下げた。他は今期の「晴れ」から来期は「うす曇り」としている。

それぞれの判断理由をみると、【商社】は「長期化するロシアによるウクライナへの侵攻や、インフレ、各国中央銀行の利上げによる景気後退など、先行きの不透明感が続く」としている。

【電線】は自動車関連以外の事業について、「現時点では年初に掲げた計画を達成できると見込んでいる」ものの、自動車関連事業では、「海上運賃や資材価格の高止まり、顧客の急減産に伴う生産性悪化リスク等があり、極めて厳しい状況が継続する」見通し。【鉄道】は行動制限の緩和等を背景に、ホテル・リゾート事業、交通事業で需要回復による増益が見込まれている。一方で、物価上昇による買い控え等でリテール事業は減益を見込んでいる。【請負】は、コロナ渦の落ち着きに伴い、新型コロナ関連の官公庁案件の需要抑制の見込み。

情報サービスは雇用判断DIが過去最高を記録

今期の判断を継続した業種では、【情報サービス】(晴れ)は、業界団体であるモニターが実施した見通し調査の結果を報告している。それによると、雇用判断DIはプラス80.3で過去最高を記録した。売上DIはプラス54.5で、前期からプラス幅を拡大している。主要相手先別では、「電気・ガス業」「金融・保険業」「サービス業」「官公庁・団体」「建設・不動産業」がプラス幅を拡大し、「製造業」「情報通信業」「卸売・小売業」はプラス幅をほぼ維持している。

パン・菓子は鳥インフルの流行による鶏卵の調達難が製造に影響

そのほかの業種では、【パン・菓子】(うす曇り)が「鳥インフルエンザの大量発生で鶏卵の需給が極めてタイトになっており、価格上昇のみならず調達難、それによる製造への影響も出てきている」、【石膏】(うす曇り)が「住宅関係ではローン金利の上昇の兆しなどから住宅購入に対して慎重になっており、低調が続くと思われる」、【ホームセンター】(うす曇り)が「全国的な低温や降雪等による来店客数の減少が危惧される」、【出版】(本曇り)が「巣ごもり需要が終わり、売上を向上させる要素が見当たらない」などと報告している。

(調査部)