人手不足の業界を中心に65歳以上の積極的な雇用が進む
 ――企業・業界団体に聞く改正高年齢者雇用安定法への対応状況

ビジネス・レーバー・モニター特別調査

改正高年齢者雇用安定法が2021年4月から施行され、70歳までの就業確保が努力義務となった。JILPTが年4回実施している企業・業界団体モニター調査では、今回(2月実施)の特別調査として、改正法への最新の対応状況を尋ねた。建設や介護、情報サービスといった人手不足の業界を中心に、65歳以上の人材を積極的に雇用する事例や、法施行前から高齢者を活用している取り組みなどが報告された。特別調査は企業モニター25社、業界団体モニター26組織から回答を得た。

<企業モニター>

65歳以降も継続雇用で技術力のある人材を確保

企業モニターからの報告では、建設や金型の企業から、高い技術を持つ高齢者の活躍を期待する声が寄せられた。

定年が60歳で、定年後の再雇用期間を65歳で終了している【建設A社】は、「建設業界は今後も人材不足が続く見込み」であることを背景に、「継続的な企業価値の向上を成し遂げるためには高年齢者の活躍が不可欠」と考え、意欲・能力が高く活躍が期待できる人材について、65歳以降も積極的に雇用を継続。高齢者を継続雇用することで高い技術力を有する人材の確保に取り組んでいる。そのうえで、今後の課題に「高齢者がモチベーションを維持し続けられる制度の構築」をあげている。

【建設B社】は、2019年に定年を満65歳に延長し、定年到達後は会社と本人の合意による有期契約に切り替えて、1年更新で満70歳までの継続雇用を可能としている。今では継続雇用となる者が多数派になっており、貴重な戦力として活躍しているという。課題としては、「どういった基準で65歳以降の継続雇用可否を決めるかという部分の運用が多少曖昧になってきている」ことや、「ノウハウ・技術の次世代への継承がシステマティックに行われていない」「処遇の決め方が難しい」ことなどをあげた。

【金型】の企業モニターは、65歳に達する従業員に対して個別にヒアリングを行い、本人の意向を確認。在職を希望する従業員には、「後継者の育成・技術の伝承といったアドバイザー的な役割を果たすことを期待している」とする。

健康状態や業務を続けられる能力などをみて1年単位で雇用を継続

【電機A社】では、65歳以降は1年ごとに契約継続の妥当性・必要性をふまえて判断し、会社が定める要件を満たす希望者について、職を提示することとし、会社・本人の双方が合意した場合のみ嘱託として個別に契約を結んでいる。要件は①心身ともに健康である②経営ニーズに基づく業務に継続して適応できる高い能力と意欲を有する――の2点で、その両方を満たす必要がある。満65歳時点で、就業規則に定める退職事由(年齢に係るものを除く)または解雇事由に該当する者は対象外。制度運用の課題としては、60歳以降の再雇用も含めた同一労働同一賃金や、健康対策をあげている。

【電線】は65歳以降の継続雇用について「検討中」で、全員一律の再雇用は行わず、一定の要件に合致した者のみ再雇用を認める方向で議論しているという。要件(案)は、①65歳到達前3年間の評価が一定以上である②心身ともに健康である――の両方を満たすこと。②は、原則として65歳到達前3年間の毎年の定期健康診断で就業に支障なしと診断され、かつ通算1カ月以上の私傷病欠勤もしくは事故欠勤がないことになる。ただし、①②を満たさなくても、継続雇用を希望する者で部門が指定する必要経験・資格・能力等のニーズに合致した者も対象とすることも考えている。

【造船・重機A社】では、定年退職した従業員のうち、設定した基準に該当する者については、所定の手続きを経て1年以内の契約期間で再雇用し、原則70歳に到達するまで更新可能としている。

個々の状況に応じて65歳以降の雇用を判断

自動車や鉄道のモニターからは、個別に対応しているとの報告が寄せられた。

【自動車】は現時点では、個別判断で65歳以降の雇用も実施している状況。並行して、高年齢者がいきいきと活躍できる環境・業務を確保すべく、60~65歳の従業員の活躍状況を確認している。今後はそうした結果をふまえ、処遇を含めた制度および運用の見直しを行ったうえで、65歳以降に対する施策の具体化を行う考え。【鉄道】も70歳までの就業確保については、状況に応じて個別対応しているとしている。

人事制度改革や多様な働き方の施策とあわせた検討も

【電機B社】は、会社として進めているジョブ型人財マネジメントへの転換と足並みを揃える制度を目指し、70歳までの就業機会確保について「検討中」としている。【電機C社】も、具体的な施策、導入時期ともに「内部で議論中」。70歳までの継続雇用制度の導入を中心に労働組合とも課題感等について共有しつつ、検討を進めている。また、50代の従業員を中心に、多様な働き方や、社外を含む業務体験等のキャリア選択に資する施策についてもあわせて検討している。

体力や安全面の課題を指摘する声も

活用に向けた取り組みの状況が報告される一方で、高齢者の就業確保に対し、課題をあげる回答も少なからずみられた。

【自動車販売】は、「従事可能な業務の質・量の問題で、全員が適材適所で充実した仕事ができるとは思えない」としたうえで、「今後は外注業務の内製化や、専門職者の他社への派遣を含め検討が必要」との考えを示した。

人件費や体力などの観点から、「高齢者を継続雇用することで会社の総人件費が増加し、若年層の給与上昇に抑制がかかり、組織不活性化が想定される」【石膏】、「高齢者の継続雇用については、労務費の負担増や技能職の体力面で懸念がある」【造船・重機B社】、「現業系の就労可能業務(体力・安全面)をどうするか、雇用延長の基準と処遇(公平性とモチベーション)をどうするかといった課題がある」【非鉄金属】といった回答がみられた。

<業界団体モニター>

人手不足の業界は法律の施行以前から高齢者を活用

業界団体のモニターの回答からは、人手不足の業界を中心に、改正高年齢者雇用安定法の施行以前から、高齢者を活用していることがうかがえる。

【シルバー産業】では、介護人材の不足が深刻な状況のなか、65歳以降も就業継続を希望する者への継続雇用が法律の施行以前から行われている。また、体力的に現場勤務が難しい資格者等を対象とするセカンドキャリアとして、外国人技能実習生を対象とした「介護技能実習評価試験」の試験評価者としての就労促進も図っている。

【情報サービス】は、恒常的な人材不足のなかで雇用延長の取り組みが浸透しており、「近年は他業界からの高齢人材の受け入れに積極的な企業も少なくない」とした。【職業紹介】は「人材紹介業界は従来から定年退職者の就業先となっている」とし、「70歳を超えても高齢者が活躍できる場となっている」とした。

東京しごと財団の研修修了者を積極的に雇用

【事業所給食】は会員企業の具体的な事例として、「以前より定年後の継続雇用及び高齢者の採用について、年齢による制限は設けておらず、70歳以上の者も勤務している。また、東京しごと財団が行う高齢者を対象とした『調理業務アシスタント』コースの修了者を積極的に雇用している」ことを報告した。

会員企業による意見交換や情報の周知を実施

会員企業どうしによる意見交換やセミナーなどの情報の周知を行っているとの報告もあった。

【繊維】の業界団体によると、加盟企業15社のいずれも、具体的な制度は導入されていない。ただし、会員企業の労務担当者会合で話題にはあがっており、意見交換を行っている。なお、UAゼンセン傘下の各社組合では、定年を65歳まで延長する要求が数年前から出されているが、現状はまだ進展していないという。

【パン・菓子】では会員企業のほとんどが60歳を定年とし、再雇用の上限は65歳としている。ただし、数社では70歳までの勤務も可能としている。

【鉄道】の各会員企業では、定年の65歳への引き上げの対応は行っているが、「70歳までの就業確保については、従業員の体力や健康が安全に直結する業種であることから、65歳定年への移行が完了した後に、各社慎重に検討をしていくものと思われる」という。モニターとしては、各社が集まる委員会で産業雇用安定センターの講演を実施するなど、情報周知に努めている。

【出版】では、働き方改革推進支援センター等の協力を得ながら、会員向けセミナーを開催することを検討している。【セメント】【石膏】【電力】【ゴム】は、法改正を会員企業に周知しているとそれぞれ回答した。

(調査部)