原材料費・エネルギー価格の高騰によるコスト増、上海ロックダウンの長期化で生産活動が停滞。来期は価格転嫁の難しさで厳しい見通し。K字型回復の様相に変化の兆しも

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2022年第2四半期(4~6月期)の業況実績は「雨」が8.7%、「本曇り」が19.6%となるなど、前期(「雨」8.9%、「本曇り」17.8%)から大きな変動はなかった。判断要因については、原材料費やエネルギー価格の高騰に苦慮する声が多かったほか、製造業では上海ロックダウンが生産活動の支障となったとの指摘が目立つ。次期(2022年7~9月期)の見通しは、「雨」が6.5%と2020年以降では最も低い割合となると同時に、「快晴」がゼロとなり、コロナ禍で続いてきた業況回復の2極化(K字型回復)に変化の兆しがみえる。各業界の状況をみると、昨今の物価の上昇でパン・菓子などの業界がコスト増による値上げに苦慮しているほか、好調な売り上げが続いていた自動車販売も今後の在庫確保に懸念をみせた。

調査の趣旨

JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。

今回は2022年第2四半期(4~6月期)の業況実績と2022年第3四半期(7~9月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計56組織、46業種から得た。

各企業・団体モニターの現在の業況
「雨」の割合は減少傾向

第2四半期の業況をみると、回答があった46業種中、「快晴」は1(業種全体に占める割合は2.2%)、「晴れ」が10(同21.7%)、「うす曇り」が22(同47.8%)、「本曇り」が9(同19.6%)、「雨」が4(同8.7%)となっている()。

表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
画像:表
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図:調査開始以来の業況調査結果の推移
画像:表
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前回調査の2022年第1四半期と比較すると、「快晴」が2業種減って約5ポイント減少したものの、「晴れ」は4業種増えて約8ポイント上昇した。また、「雨」の割合は、コロナ禍にあった2020年第2四半期で最高の45.5%を記録したが、今期は8.7%と1割を下回っており、多くの業種がコロナ禍でのどん底の状況から回復しているものとみられる。

製造業・非製造業別の傾向をみると、「快晴」は製造業がゼロで非製造業が1業種、「晴れ」は製造業が7業種で非製造業が3業種、「うす曇り」は製造業が10業種で非製造業は12業種となっている。これに対し「本曇り」と「雨」の合計は製造業が3業種、非製造業が10業種となっている。

現在の業況の判断理由

商社は資源価格の上昇に加え、それ以外の事業でも増益

今回、「快晴」としたのは【商社】のみだった。判断理由について、「エネルギーや金属資源の価格が上昇したほか、資源以外でも多くの事業が増益」となったことから、「総合商社7社のうち6社が4~6月期で最高益を見せるなど、前期に続き好調を維持している」と報告した。

パン・菓子は原材料費等が高騰も、効率化で利益を確保

「晴れ」と評価した業界は【食品】【パン・菓子】【硝子】【電線】【工作機械】【金型】【電機】【情報サービス】【自動車販売】【請負】の10業種。このうち、判断を前期の「うす曇り」から「晴れ」に引き上げたのは【パン・菓子】【工作機械】の2業種となっている。

【パン・菓子】の企業モニターは、「原材料や水道光熱費が高騰」したものの、「全体的な生産量の増加と効率が上がったため、予算を超える利益をあげることができた」としている。なお業界団体モニターによれば、「近年の小麦粉、油脂、包材等の原材料価格の高騰に加え、都市ガス、電気などのエネルギー費の高騰の下で、業界各社は1月以降価格改定を実施」しており、その結果として「売上額は伸びたところも多かったものの、物価上昇によりお客様の節約志向がさらに強まっており、消費自体は伸び悩んでいる」状況にあるという。【工作機械】は内需・外需がともに好調に推移していることを理由にあげた。

電機、電線は事業環境が好調も上海ロックダウンが水を差す

前期に引き続き「晴れ」と判断したのは、【食品】【硝子】【電線】【電機】【情報サービス】の5業種。

判断理由をみていくと、【食品】は、業界団体モニターが内食需要の落ち着きや価格上昇による販売点数の減少から「うす曇り」と判断したものの、企業モニターは「主力の乳製品で、高付加価値型商品を中心に売上が大きく伸長」したことで前年同期比で大幅増収となったことや、円安の影響で海外配当等も増加して経常利益も増益となったことを理由に「快晴」と判断しており、【食品】全体では「晴れ」となった。

【電機】では、業界団体モニターが、「産業用汎用電気機器は、電子部品や半導体などの設備投資が活発なため、堅調だった」と報告。しかし白物家電機器については、「前年が高水準だったことに加え、上海で約2カ月続いたロックダウンによる生産・供給への影響もあり、前年同期を下回った」とした。

【電線】は、自動車関連事業が「上海ロックダウン等の影響により客先の自動車で減産が続いたことに加えて、資材価格や物流費高騰の影響もあり、前年同期比で減益」となったものの、自動車関連以外は事業環境が好調としており、「特に情報通信、エレクトロニクス、産業素材の事業は4~6月期として過去最高益を記録した」としている。【情報サービス】は「引き続き、産業界全般におけるDXおよびIT投資が堅調」とした。

自動車販売は海外生産の遅延が足かせで輸入台数を確保できず

判断を前期の「快晴」から「晴れ」に引き下げたのは【自動車販売】【請負】の2業種。

【自動車販売】は「コスト削減および値引きの縮小により、経常利益は計画を上回った」ものの、「海外生産の遅延により予定通りの輸入台数が確保できず売上高は予算未達」となったとしている。【請負】は「コロナ関連業務に係る官公庁案件の獲得等により短期業務支援事業が伸長した」ことを主因として、「売上高及び営業利益は前年同期比増収増益。販管費率を前年同期比で抑制できた」としている。

自動車は、販売台数減やエネルギー・資材価格の高騰で減益

「うす曇り」と判断した22業種の判断理由では、原材料高騰や円安の影響が報告されている。

【自動車】は「各国・地域における自動車需要は高い水準を維持」したものの、「半導体需給のひっ迫や、コロナ感染拡大による供給制約の影響に加えて、南アフリカの洪水や愛知県の用水での大規模な漏水による工業用水の制約等、想定外の案件が国内外で発生し、完成車工場の生産稼働調整等が発生」しているという。今期は為替の円安によるプラスの効果があったものの、販売台数は昨年比で減少しており、エネルギー価格や資材価格の世界的な高騰なども大きく影響して減益となった。

木材ではロシア産単板の輸出入禁止やコスト増が影響

【木材】では、ロシア産カラマツ単板の輸出入が禁止されたことから、各メーカーは代わりの原料の手当に追われているという。また、急激な円安や原油価格上昇も経営コストに厳しい影響を与えている。さらに「5月に西日本の合板大手メーカーで工場火災があり、復旧に長期間を要する見込み」となっており、「合板需給のひっ迫度合が更に増すこととなった。合板メーカーはフル操業で受注に応じているが、製材用・集成材用等との競合で必要量の原木の集荷ができず、苦労している」との報告があった。

短い梅雨と猛暑でコンビニの売上はプラス

【コンビニ】では、4~6月はコロナ感染者数が落ち着いており、また梅雨が短く気温が高かったことから、売上は全店・既存店ともプラスとなった。

【港湾運輸】では、当期の外貿コンテナ貨物の荷動きを示す指数が輸出・輸入ともにマイナスとなったとし、その要因について「上海ロックダウンの長期化で主要産業が軒並み落ち込んだことが響いた」としている。

このほかの報告内容をみると、【建設】は「資機材価格上昇の影響が一部現れている」、【玩具等販売】は「昨年同時期のような緊急事態宣言発令もなく、昨年よりは良い状況だが、物価上昇の傾向が明らかとなり、依然個人消費の動向に不透明感がある」、【鉄道】は「経済活動の持ち直しの動きが見られ、結果として交通事業やホテル・リゾート事業を中心に利用者数に回復が見られた」、【シルバー産業】は「コロナによる業績への影響は落ち着きつつも、インフレリスクや慢性的な人材不足は解消していない」と報告した。

これら以外で「うす曇り」と判断した業種は、【繊維】【化繊】【化学】【石油精製】【石膏】【非鉄金属】【金属製品】【造船・重機】【百貨店】【ホームセンター】【事業所給食】【遊戯機器】【職業紹介】【その他】となっている。

ゴムは「業況判断」が改善も、「経常利益」はマイナスで推移

「本曇り」と判断した9業種は【印刷】【ゴム】【道路貨物】【水産】【ガソリンスタンド】【ホテル】【外食】【警備】【中小企業団体】。

判断理由について、【ゴム】は、「新型コロナ・オミクロン株の感染者の増加のほか、半導体不足、上海ロックダウンに伴う部品供給の不足等を背景に、4月の自動車生産台数は前期に続いて前年比20%近いマイナスで推移した。輸出・販売もマイナスで推移している」と報告。モニターが実施した中小企業景況調査(DI指数)をみると、2022年第2四半期は「業況判断」がゼロとなり、前回調査(マイナス5.3)から改善しているとした。だが、「経常利益」および「資金繰り」は前期に続いてマイナスで推移しており、特に「経常利益」は大幅に悪化しているとしている。

行楽地の外食は回復したが、ビジネス街では厳しさが続く

【外食】では、まん延防止等重点措置が解除されて移動制限のないゴールデン・ウィークとなったことから、行楽地の店舗を中心に売上が伸びたものの、ビジネス街に立地する店舗や夜間の売上比重が大きい店舗の回復は遅れている。また、食材、包装資材、光熱費、人件費等が高騰しているが、「外食各社にとってメニュー価格への転嫁は容易ではなく、利益が圧迫されている」とした。

【水産】は「カツオ、サンマ、イカなどの主要魚種は依然として不漁。コロナ過の影響による外食産業の不振は一時的な回復はあったが、戻りきらないうちにまた流行の波が来ている」としている。

セメントはロシア産石炭の代替確保に苦心

「雨」と判断した業界は【セメント】【電力】【出版】【専修学校等】の4業種。

【セメント】はコロナ禍での建設経済活動の停滞のほか、人手不足で厳しい状況が続いている。さらに、セメント生産では輸入石炭を熱エネルギーとして使用しているが、「輸入石炭のうち半分近くをロシア炭に依存しており、代替炭の確保に苦心している」としている。同時に、「石炭の国際相場は急騰しており生産コストがアップしているが、販売価格に転嫁しきれていない」状況だという。

【出版】は推定実売金額が対前年度同期比93%となったことを判断理由にあげた。【専修学校等】は学生の減少を指摘している。

次期(2022年7~9月)の業況見通し

次期(2022年7~9月)の業況見通しについては46業種のうち、「快晴」とする業種がゼロ、「晴れ」が9業種(業種全体に占める割合は19.6%)、「うす曇り」が22業種(同47.8%)、「本曇り」が12業種(同26.1%)、「雨」が3業種(同6.5%)となっている。

パン・菓子は原材料等の高騰で2回目の値上げを実施

今回、業況の好転を予想したのは【出版】【ガソリンスタンド】の2業種のみ。一方、業況悪化を予想したのは【パン・菓子】【化繊】【商社】【自動車販売】【事業所給食】の5業種となっている。

好転を予想した【出版】は、「夏休みを控えた7月の新刊点数の発行動向は、慎重な状況となっている。一部の文芸書、コミックを除き、業界全体としては厳しい見通しと考えている」とコメントしたうえで、判断は「雨」から「本曇り」に引き上げた。

一方、悪化を予想した【パン・菓子】は、企業モニターが「原材料や水道光熱費の増加が非常に大きい。今年2回目の値上げを行っているが、その効果が遅れて出てくることから、この数カ月は厳しい状況は続く」と想定。業界団体モニターも、小麦粉や油脂等の高騰をうけて「各社は7月にも2回目の価格改定を実施」しているが、「店頭段階での大幅値上げはなかなか受け入れられていない状況」としており、今期の「晴れ」から来期は「うす曇り」に引き下げとなった。

自動車販売は入荷台数の減少を見込んで判断を2段階引き下げ

【自動車販売】は「今期以上に入荷台数の減少が見込まれており、コスト削減及び値引きの抑制でカバーできる状況ではない」として、今期の「晴れ」から来期は「本曇り」に2段階引き下げた。【商社】は「エネルギー、資源、食糧価格の変動、ウクライナ情勢等からの国際経済の不透明感は依然として強い」として、今期の「快晴」から来期は「晴れ」に引き下げた。

(調査部)