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  「管理栄養士・栄養士養成施設カリキュラム等に関する検討会」報告書


【目 次】


 1.検討の背景


 2.検討の基本的考え方


 3.管理栄養士養成施設のカリキュラム等について

   1)管理栄養士養成施設カリキュラム改正の基本的考え方、教育内容及び目標

     について
   2)教員の数及び資格要件について
   3)施設・設備について


 4.栄養士養成施設カリキュラム等について
   1)栄養士養成施設カリキュラム改正の基本的考え方、教育内容及び目標につ

     いて
   2)教員の数及び資格要件について
   3)施設・設備について


 5.おわりに


  
1.検討の背景

 近年、がん、心臓病、脳卒中、糖尿病等の生活習慣病が国民の健康問題の大きな課

題となっている。これら疾患の発症と進行を防ぐには、生活習慣の改善、なかでも食

生活改善が重要であり、栄養指導に求められる知識や技能は高度化・専門化している。
 平成10年6月には、新しい時代が求める栄養士像の形成に向けての検討結果とし

て、「21世紀の管理栄養士等あり方検討会」報告書がとりまとめられた。そこでは、

管理栄養士の業務の一部として傷病者への栄養指導を明確化することのほか、教育科

目の充実、管理栄養士国家試験の改善、生涯教育の充実等が必要であることの提言が

なされた。

 このような状況の中、平成12年3月、栄養士法の一部改正が行われ、これまで

「複雑困難な栄養の指導等」とされていた管理栄養士の業務について、「傷病者に対

する療養のため必要な栄養の指導」、「個人の身体状況、栄養状態等に応じた高度の

専門的知識及び技術を要する健康の保持増進のための栄養の指導」、「特定多数人に

対して継続的に食事を供給する施設における利用者の身体の状況、栄養状態、利用の

状況等に応じた特別の配慮を必要とする給食管理及びこれらの施設に対する栄養改善

上必要な指導等」と明文化された。また、管理栄養士の資格が「登録制」から「免許

制」とされ、管理栄養士国家試験の受験資格の見直しにより専門知識や技能の一層の

高度化が図られることとされた。
 管理栄養士が保健医療サービスの担い手として、その役割を十分に発揮するために

は、高度な専門的知識及び技術を持った資質の高い管理栄養士の養成を行う必要があ

り、このため平成14年4月の法施行に向け、管理栄養士養成施設カリキュラム等の

見直しを図ることを目的とし、平成12年10月から「管理栄養士・栄養士養成施設

カリキュラム等に関する検討会」を開催し、具体的な検討を進めてきた。今般、次の

とおり検討の結果をとりまとめたので報告する。

  
2.検討の基本的考え方

 高度な専門的知識及び技術を持った資質の高い管理栄養士の養成を基本的視点とし、

下記の点に留意して検討を進めた。

 (1)管理栄養士として必要な知識及び技術が系統的に修得でき、養成施設が教育

   内容の充実強化並びに効果的な教育をねらいとしたカリキュラム編成に積極的

   に取り組めるよう、カリキュラムの体系化を図ること。

 (2)栄養評価・判定に基づく適切な指導を行うための高度な専門的知識及び技術

   全般を修得できるよう、臨床栄養を中心とした専門分野の教育内容の充実、演

   習や実習の充実強化を図ること。

 (3)専門分野の教育内容の充実強化に対応できるよう、教員に関する事項を見直

   すとともに、施設・設備の見直しを行うこと。


 さらに、栄養士法上、管理栄養士の免許は、栄養士免許の取得を前提としているた

め、管理栄養士養成の課程では、栄養士としての養成をあわせて行うことになるが、

一方で、管理栄養士、栄養士にはそれぞれの専門性があることから、各々の養成カリ

キュラムにその専門性を反映させる必要がある。このため、栄養士免許取得という観

点から管理栄養士、栄養士養成カリキュラムの整合性を図りつつ、それぞれの専門性

を明確にするため、管理栄養士養成施設とともに、栄養士養成施設のカリキュラム等

についても見直しを行うこととした。

  
3.管理栄養士養成施設のカリキュラム等について

 1)管理栄養士養成施設カリキュラム改正の基本的考え方、教育内容及び目標につ

  いて


   管理栄養士養成施設カリキュラムの改正にあたっては、(1)管理栄養士が果

  たすべき多様な専門領域に関する基本となる能力を養うこと、(2)管理栄養士

  に必要とされる知識、技能、態度及び考え方の総合的能力を養うこと、(3)チ

  ーム医療の重要性を理解し、他職種や患者とのコミュニケーションを円滑に進め

  る能力を養うこと、(4)公衆衛生を理解し、保健・医療・福祉・介護システム

  の中で、栄養・給食関連サービスのマネジメントを行うことができる能力を養う

  こと、(5)健康の保持増進、疾病の一次、二次、三次予防のための栄養指導を行

  う能力を養うことを基本的な考え方とした。
   これらの基本的考え方を踏まえ、カリキュラムについては、管理栄養士の専門

  性を高めることをねらいとし、その基盤となる「専門基礎分野」、高度で専門的

  な知識や技術を修得するための「専門分野」に大別した。また教育の内容につい

  ては、従来詳細に規定された「教科科目」ごとに単位数の規定がなされていたが、

  各養成施設において教育目標に応じた教育内容の充実を図ることができるよう、

  「教育内容」による表記とし、あわせて「教育目標」を提示することとした。こ

  れにより、各養成施設においては、「教育内容」に示された領域の中で、「教育

  目標」に向けた独自の教科科目の設定を行い、それぞれの教科科目の単位数につ

  いても各養成施設の独自性を生かして設定することが可能となる。
   「専門基礎分野」については、「専門分野」における知識や技術を修得するた

  めの基盤となるものであり、管理栄養士という専門職種を目指す動機付けにつな

  がることをねらいとし、「社会・環境(人間や生活)と健康」「人体の構造と機

  能、疾病の成り立ち」「食べ物と健康」を教育内容として位置づけた。
   「社会・環境(人間や生活)と健康」においては、人間や生活について理解を

  深め、社会や環境と健康の関わりについて理解すること、「人体の構造と機能、

  疾病の成り立ち」においては、人体の構造や機能を系統的に理解するとともに、

  主要疾患の成因、病態、診断、治療等を理解すること、「食べ物と健康」におい

  ては、食品の各種成分や人体に対しての栄養面や安全面等への影響や評価を理解

  することを教育目標とした。
   「専門分野」については、管理栄養士としての専門性を高めるために必要とさ

  れる「基礎栄養学」「応用栄養学」「栄養教育論」「臨床栄養学」「公衆栄養学」

  「給食経営管理論」を教育内容として位置づけた。いずれの教育内容においても、

  栄養評価・判定に基づいた企画、実施、評価の総合的なマネジメントを行うこと

  のできる能力を養うという基本的考え方を踏まえた教育目標とした。
   「基礎栄養学」においては、栄養とは何か、その意義を理解することを目標と

  し、「応用栄養学」においては、身体状況や栄養状態に応じた栄養管理の考え方

  を理解することを目標とした。特に「応用栄養学」においては、妊娠や発育、加

  齢など人体の構造や機能の変化に応じた栄養状態の特徴を十分に理解することに

  より、栄養状態の評価・判定(栄養アセスメント)の基本的な考え方を修得する

  とともに、健康増進、疾病予防に寄与する栄養素の機能等を理解し、それらの健

  康への影響に関するリスク管理の基本的考え方や方法について理解することを目

  標とした。
   「栄養教育論」においては、健康・栄養状態、食行動、食環境等の評価・判定

  に基づき、栄養教育プロラグムの作成・実施・評価を総合的にマネジメントする

  能力を養うこととし、そのために必要とされる健康・栄養教育に関する理論と方

  法を修得し、行動科学やカウンセリングの理論と応用についても理解することを

  目標とした。
   「臨床栄養学」においては、傷病者の病態や栄養状態の特徴に基づいた適正な

  栄養管理を行う能力を養うこととし、栄養アセスメントに基づいた栄養ケアプラ

  ンの作成、実施、評価に関する総合的なマネジメントの考え方を理解し、具体的

  な栄養状態の評価・判定、栄養補給、栄養教育、食品と医薬品の相互作用につい

  て修得した上で、医療・介護制度やチーム医療における管理栄養士の役割につい

  て理解することを目標とした。特に近年高齢者に対する適正な栄養管理の必要性

  が増していることなど、ライフステージや疾患別の具体的な栄養管理方法の修得

  が求められているので、様々な身体状況(口腔状態を含む)や栄養状態に応じた

  栄養管理についても十分理解できる教育内容とすることが必要である。
   「公衆栄養学」においては、地域や職域等における保健・医療・福祉・介護

  システムの栄養関連サービスに関するプログラムの作成・実施・評価を総合的に

  マネジメントする能力を養うこととし、栄養疫学、栄養政策の企画・評価につい

  て理解し、社会資源の活用や栄養情報の管理、コミュニケーションの管理などの

  仕組みについて理解することを目標とした。
   「給食経営管理論」においては、給食運営や関連の資源を総合的に判断し、栄

  養面、安全面、経済面全般のマネジメントを行う能力を養うこととし、マーケテ

  ィングの原理や応用について理解するとともに、組織管理などマネジメントの基

  本的な考え方や方法を修得することを目標とした。
   「実験・実習」については、必要な技能を修得することをねらいとするもので

  あり、教育効果を高めるためには講義の内容とどう組み合わせて行うかが重要で

  あるので、教育目標を達成するために有効に運用できるよう、専門基礎分野全体

  での設定とした。専門分野についても教育内容全体を通した設定とし、各教育内

  容についてはそれぞれ1単位以上を行うものとした。
   また、栄養評価・判定に基づいた適正な栄養管理を行うためには、専門分野の

  各教育内容ごとに修得した知識、技能を統合する能力が必要とされることから、

  専門分野の各教育内容を包含する演習を行うこととし、これを「総合演習」とし

  て位置づけた。
   さらに「臨地実習」については、従来の校外実習という表記を改め、学内で修

  得する知識・技術を栄養管理の実践の場面に適用し、理論と実践を結びつけて理

  解できることをねらいとし、充実強化を図ることとした。特に栄養評価・判定が

  行われる場で直接人に接する実習を推進するよう、臨床栄養を中心とし、公衆栄

  養、給食経営管理のいずれかで(いずれか1つの分野でも可)4単位とした。な

  お、4単位には栄養士免許取得に係る校外実習1単位(給食の運営)が含まれる

  ものである。また臨地実習施設については、実習指導者にふさわしい管理栄養士

  が従事している施設であることはいうまでもなく、将来的には実習指導者の研修

  や実習生を指導できる施設の認定についても検討すべきである。
   また単位数については、従来は「専門基礎分野」に位置づけられる科目に比重

  が置かれていたが、管理栄養士としての専門性を高めるためには「専門分野」に

  比重が置かれるべきものであり、臨床栄養を中心とした「専門分野」の充実を図

  ることとした。最終的に、「専門基礎分野」については38単位、「専門分野」

  については44単位とし、総単位数としての82単位は、管理栄養士の専門性を

  高めるために最低限確保すべき単位であると考えられる。  
   なお、教育内容及び目標は別表1のとおりである。
 
 2)教員の数及び資格要件について

   別表1に掲げる各教育内容を教授するのに適当な教員を有し、別表2に示すと

  おり、「専門基礎分野」を担当する専任教員については3人以上とし、また「人

  体の構造と機能、疾病の成り立ち」については、「主要疾患の成因、病態、診断、

  治療等を理解する」ことが教育目標としてあげられており、今回のカリキュラム

  改正の主旨でもあるので、専任教員のうち1人は医師であることが必要である。

  「専門分野」を担当する専任教員については各教育内容ごとに1人以上とし、

  「管理栄養士又は管理栄養士と同等の知識及び経験を有する者」であることが必

  要である。
   専任の助手の数は5人以上とし、このうち3人以上は専門分野を担当する者と

  し、専門分野を担当する助手は管理栄養士であることが必要である。
 
 3)施設・設備について  

   施設については、教育上必要な専用の研究室、実験・実習室とともに、栄養教

  育、臨床栄養、給食経営管理の実習を行うのに必要な設備を備えた専用の実習室

  を有することとし、必要な設備としては別表3の設備を備えることが望ましい。

  また、精密機器室、情報処理室を有することが望ましい。

  
4.栄養士養成施設カリキュラム等について

 1)栄養士養成施設カリキュラム改正の基本的考え方、教育内容及び目標について

   栄養士養成カリキュラムの改正にあたっては、(1)栄養士が果たすべき専門

  領域に関する基本となる能力を養うこと、(2)栄養士に必要とされる知識、技

  能、態度及び考え方の総合的能力を養うこと、(3)栄養の指導や給食の運営を

  行うために必要な能力を養うことを基本的考え方とした。
   これらの基本的考え方を踏まえ、カリキュラムについては「社会生活と健康」

  「人体の構造と機能」「食品と衛生」「栄養と健康」「栄養の指導」「給食の運

  」について教育目標を示し、専門的な知識及び技術の修得を図ることとした。
   「社会生活と健康」においては、社会や環境と健康との関係を理解するととも

  に、保健・医療・福祉・介護システムの概要について理解することを目標とした。
   「人体の構造と機能」においては、人体の仕組みについて構造や機能を理解し、

  食事、運動、休養などの基本的生活活動や環境変化に対する人体の適応について

  理解することを目標とした。
   「食品と衛生」においては、食品の各種成分の栄養特性について理解するとと

  もに、食品の衛生管理の方法について修得することを目標とした。
   「栄養と健康」においては、栄養とは何か、その意義と栄養素の代謝及びその

  生理的意義を理解するとともに、性、年齢、生活・健康状態等における特徴及び

  各種疾患における基本的な食事療法について修得することを目標とした。
   「栄養の指導」においては、個人、集団及び地域レベルでの栄養指導の基本的

  役割や栄養に関する各種統計について理解するとともに、基本的な栄養指導の方

  法について修得することを目標とした。
   「給食の運営」においては、給食業務を行うために必要な食事の計画や調理を

  含めた給食サービス提供に関する技術を修得することを目標とし、校外実習1単

  位以上を含むものとした。また、給食業務に関するコンピュータを用いた情報処

  理の方法についても修得することが望ましい。  
   教育内容及び目標については、別表4のとおりである。
  
 2)教員の数及び資格要件について  

   別表4に掲げる各教育内容を教授するのに適当な教員を有し、別表5に示す

  とおり、「社会生活と健康」「人体の構造と機能」「食品と衛生」を担当する教

  員については1人以上とし、「栄養と健康」「栄養の指導」「給食の運営」を担

  当する専任教員については各教育内容ごとに1人以上とし、「管理栄養士又は管

  理栄養士と同等の知識及び経験を有する者」であることが必要である。また「人

  体の構造と機能」を担当する教員のうち1人は医師であることが必要である。
   専任の助手の数は3人以上とし、このうち2名は管理栄養士であることが必要

  である。
  
 3)施設・設備について

   施設については、教育上必要な専用の実験・実習室を有することとする。なお、

  集団給食実習室については必要な設備を備えた専用の実習室を有することとし、

  必要な設備としては別表6の設備を備えることが望ましい。
  
5.おわりに

 管理栄養士等の資質の向上をねらいとし、その教育養成における教育内容の充実強

化を図るためには、カリキュラム、施設・設備の整備とともに、実際に教育を担う教

員の養成に対する認識を深め、教員自身の資質の向上を図ることが極めて重要となる。

社会の変化や国民の要請に的確に対応し、社会に貢献できる管理栄養士等を養成する

ために、どのような教育目標を設けるべきか、本来この答えを出すのが養成施設の教

員の責務であるとも考えられる。教員の資質の向上については、教員自身の自己研鑽

が必要であるとともに、教員の研修等環境整備が進められることも必要である。
 また、今回の検討過程において、教育目標に対応した教育内容をどう表記するかに

ついて、「栄養学」と「応用栄養学」、「栄養指導」と「栄養教育」、「給食管理」

と「給食経営管理」など、現行の教科科目名と新たな教育内容の表記の間で様々な議

論がみられたが、管理栄養士養成という観点から専門分野に関する新たな学問体系に

ついて検討を進めるためには、教育内容が専門分野に値するものとして評価されるよ

う、各教育内容における研究の充実を図り、その専門性を明確にすることが必要であ

る。
 一方、教育効果の高い、充実した臨地実習を実現するためには、実習指導者を含め

た質の高い受け入れ施設の確保が必要であり、実習指導者の研修や施設の認定などに

ついても具体化されることが望まれる。
 管理栄養士については今後もますます高度化・専門化した資質が求められることか

ら、果たして4年の修業年限で十分であるかという議論も含め、管理栄養士等を取り

巻く環境の著しい変化に常に対応していくための継続的な議論とその具体的方策の提

示が必要とされる。
 そのためには、養成施設の自主的・自発的な取組みが不可欠であり、関係団体及び

関係学会等関係者の理解と協力を得て、本報告書が提示した教育目標に向けた養成が

着実に実現されるとともに、今後も社会の変化に対応すべく高度化・専門化に向け、

必要に応じ随時、教育目標の見直しが行われるよう、養成施設を横断した教育内容及

び目標についての継続的な検討が行われるよう切に望むものである。

  

参 考

【検討会の開催状況】

【管理栄養士・栄養士養成施設カリキュラム等に関する検討会名簿】

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