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(別添2)
キャリア・コンサルタントに係る試験のあり方
に関する調査研究報告書
平成14年8月
厚生労働省職業能力開発局
目次
第1 キャリア・コンサルタントに係る試験のあり方研究会設置の背景と目的
第2 キャリア・コンサルタントに係る試験のあり方
表1 試験に係る能力基準項目
表2 キャリア・コンサルタント養成に係るモデルカリキュラム
第3 助成対象となる試験の指定について
第4 今後の課題
<資料>
資料1 キャリア・コンサルティング研究会報告(概要)
資料2 キャリア・コンサルティング実施のために必要な能力体系
資料3 研究会参集者一覧及び開催経過
第1 キャリア・コンサルタントに係る試験のあり方研究会設置の背景と目的
1 研究会設置の背景
個人主導のキャリア形成や求人と求職の効果的なマッチングを進める上で、キ
ャリア・コンサルティングの重要性が増している。こうした中で、平成13年10月
に、有識者及び官民の関係者からなるキャリア・コンサルティング研究会が開催
され、9回にわたりキャリア・コンサルティング実施のために必要な能力要件等
について検討がなされ、本年4月に報告がとりまとめられたところである(報告
書の概要は資料1、キャリア・コンサルティング実施のために必要な能力体系は
資料2)。
今後、この報告を踏まえ、キャリア・コンサルティング実施のための体制づく
りやキャリア・コンサルティングの普及・活用、これを担う人材(キャリア・コ
ンサルタント)の養成を推進していくことが必要とされている。
2 研究会の目的
キャリア・コンサルタント(キャリア・カウンセラー、アドバイザー、ファシ
リテーター等の名称に関わらず、キャリア・コンサルティングを担う人材をキャ
リア・コンサルタントという。以下同じ。)の養成については、官民双方におい
て推進策を展開していくこととされており、民間における取組については、厚生
労働省において助成制度の活用等を通じて推進していくこととされている。具体
的には、キャリア・コンサルタントに係る能力評価試験を従業員に受けさせる事
業主に対して、キャリア形成促進助成金(職業能力評価推進給付金)を支給する
こと等により、民間におけるキャリア・コンサルタントの養成・能力評価を奨励
し支援する予定となっている。
このため、こうした支援の対象となりうるキャリア・コンサルタントに係る能
力評価試験の基準について、検討することが求められている。
そこで、当研究会においては、キャリア・コンサルタントに係る能力評価試験
を実施している既存の民間機関等の実態を踏まえ、標準的なキャリア・コンサル
タントに係る能力評価試験のあり方とその関連事項について検討することとした。
第2 キャリア・コンサルタントに係る試験のあり方
1 「試験のあり方」作成に当たっての考え方
(1) 基本的な考え方
能力評価試験のあり方を検討するに当たって、
1) キャリア・コンサルティング研究会報告で示された「キャリア・コンサ
ルティング実施のために必要な能力体系」(資料2)を踏まえること
2) 我が国の民間機関等で現に行われているキャリア・コンサルタントに係
る資格試験等の実態を参考とすること
を前提に、標準的なキャリア・コンサルタントとしての能力を評価する試験
のあり方、試験の望ましい姿を示すことを目指した。
(2) 検討結果
試験について一定の水準を確保するためには、試験そのものだけでなく、
試験の実施体制についても検討する必要がある。そのため、キャリア・コン
サルタントに係る試験のあり方として、試験の出題範囲、試験方法、出題数、
時間配分、採点基準、合否基準、受験資格といった「試験内容」と、試験運
営、試験問題作成、審査、実施責任者、組織体制、設備等といった「試験実
施体制」の二つの側面に大別して示すこととした。
2 試験のあり方
キャリア・コンサルタントに係る試験のあり方について、以下のとおり整理し
た。なお、試験の望ましい姿の要件を示すとともに、各項目に掲げた方針につい
て、補足説明を付した。
(1) 試験内容について
1) 試験の出題範囲
平成13年度キャリア・コンサルティング研究会の報告「キャリア・コ
ンサルティング実施のために必要な能力体系」(資料2)に基づき作成
した「試験に係る能力基準項目」(表1)について、万遍なく問うこと。
ア “万遍なく”とは、試験の出題内容が「試験に係る能力基準項目」の特
定の分野に偏ることなく、全体にわたって出題されることを意味する。
「試験に係る能力基準項目」全てについて出題しなければならない、とい
う意味ではない。
イ ただし、試験実施機関がそれぞれの理念に基づき、特徴を持った試験を
行っていることを考慮する必要がある。したがって、出題内容を“万遍な
く”構成した上で、一定の分野について、さらに深く問うことを妨げるも
のではない。
2) 試験方法
学科試験と実技試験を課すこと。基本的には、「試験に係る能力基準
項目」の知識面については学科試験で、「試験に係る能力基準項目」の
スキル面(II−2及びIII)については実技試験で問うこと。
ア 学科試験の出題形式としては、多肢選択式や記述式、論述式等が考えら
れるが、基本的に自由とする。ただし、さまざまな出題形式を組み合わせ
ることが望ましい。
<多肢選択式のパターン例>
・ある理論・手法等に関する複数の記述のうち、正しい(間違った)
記述を選ぶ
・ある理論・手法等に関する複数の記述のうち、正しい(間違った)
記述の組み合わせを選ぶ
・ある理論・手法等に関する記述において、複数の空欄に埋める言葉
を選択肢の中から選ぶ
<記述式のパターン例>
・ある理論・手法等に関する記述において、複数の空欄に埋める言葉
を記述する
<論述式のパターン例>
・ある理論・手法等について、その意義・具体的な内容、目的・実施
方法等について論述する
イ 実技試験の出題形式としては、筆記式(記述式・論述式)によるものと
対面式によるものが考えられるが、実技試験の一部に対面式によるものを
含めること。
<筆記式による実技のパターン例>
・未完成(いわゆる虫食い)のキャリアシートを元に、相談者に対し
てどのように作成指導を行っていくか、論述する
・キャリア・コンサルタントの発言の一部を空欄とした、相談者とキ
ャリア・コンサルタントの相談のやりとり(相談場面の逐語記録)
の記述を元に、相談者のある言動に対して、キャリア・コンサルタ
ントとしてとるべき適切な言動について記述・論述する
<対面式による実技のパターン例>
・審査員と(又は受験者同士で)ロールプレイングを行う
・複数の受験者により、グループワークを行う
・口頭試問を行う
・面接を行う
ウ 対面式実技においては、キャリア・コンサルタントとして求められる基
本的な心構え、姿勢や態度をみることが望ましい。
エ 「試験に係る能力基準項目」のスキル面(II−2及びIII)について、
基本的に実技試験で問うこととしているが、全てを実技試験によって判定
しなければならないとの趣旨ではなく、実技試験と学科試験を併せて実施
することでもよい。
3) 出題数、時間配分
学科試験、実技試験それぞれについて、適正な出題数及び時間配分を
定めること。
ア 適正な出題数や時間配分は、出題形式(学科における多肢選択式や論述
式の割合、実技における筆記式や対面式の割合等)、問題の難易度等によ
って異なるものと考えられるが、出題形式等に照らして適正な水準に設定
する必要がある。
イ 例えば、次のようなものが考えられる。
・学科試験:多肢選択式120分程度(50〜60問程度)、記述式・論述
式60分程度(5問程度)
・実技試験:記述・論述式60分程度(2〜3問程度)、対面式20分程度
(1〜2事例程度)
4) 採点基準
学科試験、実技試験それぞれについて、適正な配点、採点項目、採点
方法等について定めること。
採点項目及び採点方法は、採点の公平を保つために、可能な限り客観
的なものとすること。
ア 配点は、出題形式や出題数、難易度等により異なるため、それらに照ら
して適正な水準に設定する必要がある。
イ 特に、実技試験において対面式による出題については、審査員が評価す
る際の評価項目、評価基準等について、明確にかつ客観的に定める必要が
ある。
5) 合否基準
学科試験、実技試験それぞれについて、適正な合否基準を定めること。
ア 合否基準は、試験内容の難易度により異なるため、それに照らして適正
な水準に設定する必要がある。
・例えば、比較的容易な試験の合否基準を6割程度に設定することは、
望ましくないと考えられる。
イ 学科試験と実技試験を別々に採点した上で、それらを合わせて総合的に
合否の判定を行うことも考えられるが、いずれか一方が一定水準に達しな
い場合は、合格としないことが望ましい。
ウ また、学科試験、実技試験いずれにおいても、一定の分野に出来不出来
が偏る場合は合格としない配点・合否基準設定となるように配慮すること
が望ましい。
6) 受験資格
「キャリア・コンサルティング実施のために必要な能力体系」を習得
するために、一定の教育訓練を受けること、又は相当の実務経験を有し
ていること等、適正な受験資格を定めること。
また、当該試験の受験に関し、受験者の年齢、性別等に係る不合理な
制限を設けないこと。
ア 受験資格として教育訓練、養成講座の受講を設ける場合には、一種類に
限定しないことが望ましい。
イ 「キャリア・コンサルティング実施のために必要な能力体系」を習得す
るための教育訓練として、標準的なカリキュラムを表2に示す。
ウ 試験の一部免除等の措置を講ずることも考えられるが、当該免除措置が
適正であることが求められる。
(2) 試験の実施体制について
1) 試験に係る組織体制及び責任体制
試験を実施するための組織を整備し、その業務の範囲及び試験運営に
対する責任を明確にすること。また、当該試験を継続的に安定して遂行
する能力を有していること。
ア 事業の継続性及び安定性を確保する観点から、原則として何らかの法人
格を有する団体が組織したものであることが求められる。
2) 施設・設備、試験事務等
当該試験を滞りなく遂行するに足りる施設、人的体制を確保すること。
3) 審査等に当たる者の選任
試験問題の作成、採点基準の設定、審査(合否の判定)等に当たる者
については、「試験に係る能力基準項目」の担当する分野において適切
な専門的知識及びスキル、実務経験を有する者を選任すること。
ア 「試験に係る能力基準項目」全体を万遍なく網羅できる者を選任するこ
とが求められるが、複数人をもって網羅できる体制でもよい。
イ 客観性を確保するため、複数人の体制とすることが望ましい。
ウ 審査等に当たる者は、専門的知識及びスキル、経験をバランスよく持ち
合わせていることが望ましい。
エ 例えば、企業内の人事・労務管理・教育・職業能力開発部門を担当し、
能力開発プランの策定やキャリア形成に係る相談、教育等の実務経験があ
る者、職業指導や進路指導の実務経験がある者、教育学関連諸科学の博士
号を持ち、かつキャリア形成に係る教育等の実務経験がある者などが考え
られる。関連学会等における事例研究発表、論文投稿、本の執筆等の活動
を行っていれば、さらに望ましい。
4) 試験実施体制の監査機能
試験の運営が適正に行われていることを監査する体制を、試験実施機
関内部に整えること。
ア 試験の適正な運営には、試験に携わる者の秘密保持についても含まれる。
5) 倫理委員会の設置
倫理委員会(あるいはそれに相当するもの)を設置し、キャリア・コ
ンサルタントが守るべき倫理規程を定めるとともに、その履行確保を図
ること。
ア 試験合格者がキャリア・コンサルタントとして、倫理規程に反した活動
を行った場合について対応できる体制を有することが望ましい。
6) 合格者に対する支援(フォローアップ体制)
試験合格者が、継続的に適切なキャリア・コンサルティングを実施し
ていけるよう、能力の維持・向上に必要な対策を講じること。
ア 具体的には、以下のような体制を整備することにより、合格者の実務現
場における活動を支援することが望ましい。
・実際のキャリア・コンサルティング場面において有用な相談事例や
ノウハウ、関係情報などを蓄積する体制
・さまざまな情報の蓄積をもとに、合格者の実務遂行に必要な情報を
提供・発信、助言できる体制
・蓄積した情報等を最新のものに更新できる体制
・能力の維持・向上のための訓練の場を設け、合格者が必要に応じて
参加できる体制
イ なお、合格者に対して、関連職種の求人情報等を提供できれば、さらに
望ましい。
7) 受験料
適正な受験料を定めること。また、徴収する受験料と実際に受験する
試験の整合性を保つこと。
ア 当該試験に係る受験料が、当該試験を運営するために必要な範囲内で合
理的に算定した額であることが求められる。
イ 一部試験又は一部科目について受験の免除等を行う場合は、受験する試
験に対してのみ受験料を支払うのが原則であることに配慮することが求め
られる。
8) 情報公開
当該試験に関して情報公開を行うこと。
ア 受験しようとする者が適切な試験選択を行うため、例えば、試験を受験
するに当たっての受験者に課す要件、出題範囲、合格状況、合格者の就
職・活動状況等についての情報を公開することが望ましい。
9) 試験の実施回数
試験は年1回以上実施すること。
第3 助成対象となる試験の指定について
上記「第2 キャリア・コンサルタントに係る試験のあり方」に掲げた項目及
び方針に基づいて、今後、厚生労働省において、助成(キャリア形成促進助成金
(職業能力評価推進給付金))の対象となる試験を指定するための基準(以下
「指定基準」という。)が策定される予定となっているため、本研究会では当該
指定に関連した事項についても検討を行った。
その結果は、次のとおりである。
(1) 指定の対象
指定は、試験実施機関を対象とするのではなく、その実施する試験そのも
のを対象とすることが適当である。
ただし、個々の試験ごとに指定するのではなく、一定期間内に実施される
同種の試験を一括りにして指定することが適当である。
(2) 指定の有効期間
上記(1)の観点から、指定の有効期間を定めることが望ましい。なお、有
効期間内においても、定期的に試験の実施状況等について、報告を求めるこ
とが望まれる。
(3) 試験実施規程
指定を希望する試験実施機関は、その実施する試験について、上記「第2
キャリア・コンサルタントに係る試験のあり方」に掲げられた項目に関す
る「試験実施規程」(試験問題作成基準を含む。)を策定する必要がある。
この「試験実施規程」では、試験の実施回数、所要日数、合格者の登録及び
証明等についても定める必要がある。
(4) 指定の可否に係る判断の実施方法
指定は、原則として、試験機関から「試験実施規程」等と試験問題(案)
の提出を求め、これらが試験基準に合致しているか否かを調査して行うこと
が適当である。
この判断に当たっては、キャリア・コンサルティングに係る学識者、実務
経験者等の専門家から意見聴取を行うことが望ましい。
第4 今後の課題
1 想定レベル(標準的なレベル)
今回検討した「キャリア・コンサルタントに係る試験のあり方」については、
平成14年4月のキャリア・コンサルティング研究会報告を踏まえたものである。
従って、我が国における既存の資格試験等についても参考にしており、いわば標
準的なものとして位置付けられると考える。
今後、キャリア・コンサルティングをより広く世間一般に普及させていくため
には、導入的なレベル及びキャリア・コンサルタントに対する指導者(スーパー
バイザー)レベルの人材の養成及び能力評価について検討していくことが重要で
ある。
2 養成カリキュラム
本研究会において、試験のあり方等を検討してきたが、キャリア・コンサルタ
ントの質を確保するためには、その養成課程が重要なポイントであるとの意見が
多く出された。本報告においても、「キャリア・コンサルティング実施のために
必要な能力体系」を習得するための教育訓練として、標準的なカリキュラムを提
示したが、これは望ましい養成のあり方についての構想の骨格を示したものであ
る。今後は、養成カリキュラムの具体化、講師、教材、養成体制のあり方等、さ
らに詳細に検討を行っていくことが重要である。
3 合格者の能力水準の維持・向上
今後、助成制度等によりキャリア・コンサルタントの養成・能力評価を支援し
ていくことになるが、一定の教育訓練を受け、能力評価試験に合格したキャリア・
コンサルタントが、労働者のキャリア形成、ひいては生涯にわたる雇用の安定に
真に貢献していくためには、量的な確保を推進するだけではなく、能力水準の維
持及びさらなる能力の向上を図っていく必要がある。
このため、実際にキャリア・コンサルティングを実施する上で必要不可欠とな
る、相談事例に関する豊富な情報、最新の社会・経済動向に関する情報等につい
て適宜入手・交換できる体制や、自己研鑽・スーパーバイズを受けられる体制の
整備を支援していくこと等、試験合格後の能力水準の維持・向上のあり方を検討
していくことも必要である。
4 資格の更新制度
能力水準維持の一手段として、キャリア・コンサルタントに係る資格の更新制
度を設け、一定期間経過ごとに能力の再評価を受けたり、向上訓練・ブラッシュ
アップ訓練を受けること等について検討していくことも重要である。
5 試験の問題作成、合否の判定等に当たる者への講習
試験の質、試験合格者の質を確保するためには、試験問題の作成に当たる者、
合否の判定に当たる者等の質を確保することが重要である。したがって、経済・
社会情勢や雇用環境といった最新の情報を入手できる講習会や、情報交換を行う
勉強会等、これらの者の質を確保するための方法を検討していくことも重要な課
題である。
6 「試験に係る能力基準項目」の見直しについて
経済・社会的環境は絶えず変化していくものであることから、「キャリア・コ
ンサルティング実施に必要な能力体系」については定期的に見直すこととされて
いるが、その見直しに対応して「試験に係る能力基準項目」も随時修正して行く
必要がある。
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