2.男女間賃金格差の現状、推移と格差生成の要因 (2)男女間賃金格差の要因分析 上述した男女間賃金格差の現状からも推察できるように、男女間賃金格差をも たらす要因は多種多様であると考えられる。しかし統計的制約もあって、男女間 賃金格差を発生させている要因を精密に把握するのは極めて困難である。 a 単純統計分析、研究会調査及び企業ヒアリング 男女間で学歴や年齢、勤続年数、職階の違い、あるいは就業する産業や企 業規模の違いがあり、その結果として生ずる賃金格差生成効果(女性の労働 者構成が男性と同じであると仮定して算出した女性の平均所定内給与額を用 いて男性との比較を行った場合に、格差がどの程度縮小するかをみて算出) をみると、次の点を指摘できる(図表14)。 (1)職階(部長、課長、係長などの役職)の違いによる影響が最も大きく、 勤続年数の違いによる影響が次いで大きい。 (2)この他、学歴の違いによる影響、年齢の違いによる影響の効果もある。 (3)企業規模、労働時間の違いによる影響は小さい。 (4)産業の違いによる影響は、男女間賃金格差を縮小する方向に作用している。 以上のように、男女間での職階の違いが男女間賃金格差の生成に大きく影 響していることが言えるが、男性については、勤続10年以上25年未満では、 勤続年数が長いほど職階も高くなるという関係が顕著にみられる一方、女性 についてはそのような傾向は男性と比較するとあまりみられないという点に 留意する必要がある(図表15)。 また家族手当や住宅手当といったいわゆる生活手当は、男性世帯主を中心 として支給されているという実態がみられることから、男女間賃金格差の一 つの要因となっている。これらの手当を全面的に廃止した際の格差縮小効果 を推計すると、1.4%程度になる(補足資料)。 本研究会で行ったアンケート調査結果によれば、男女間賃金格差の生じる 理由として「管理職の女性が少ない」「業務の難易度が違う」「平均勤続年 数が短い」「職種が違う」「諸手当の支給がない」等を指摘する者が多い (図表16、注)。また、本研究会で実施した企業ヒアリングによれば、業務 の与え方に男女労働者間で相違が見られることが勤続年数を経た後の男女の 処遇、賃金差となって現れているとの指摘があった。 (注)アンケート調査結果によれば、男女間賃金格差を発生させている要因の うち、納得できないとしている者の割合が高いのが「管理職の女性が少な い」「業務の難易度が違う」「諸手当の支給がない」である。 b 計量分析 <賃金関数による分析> 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の個票を用いて、賃金を産業、 企業規模、年齢、勤続年数、学歴、職階で説明する賃金関数を推計して、 男女間賃金格差を分析すると次の点を指摘できる。 (1)年齢が高まったときに男性集団では賃金が大きく上昇し、女性集団で は賃金が余り上昇しないということが、男女間賃金格差を発生させてい る大きな要因であること。 (2)男女間賃金格差の長期的な縮小傾向の要因として、年齢、勤続年数、 学歴、職階の男女差の縮小による寄与度は小さいこと。 (3)男女間賃金格差の長期的な縮小傾向の要因として、業務内容や職務遂 行能力などの面で男女差が縮小したこと等が考えられること。 <賃金データと雇用管理データのリンクによる分析> 賃金構造基本統計調査(2001年)と女性雇用管理基本調査(2001年)の 調査対象企業で共通するものについて、2つの調査により得られるデータ をリンクして男女間賃金格差を計量分析すると、次の点を指摘できる。 (1)男女間賃金格差には統計的差別(注)だけでなく、女性に対する差別 意識も影響していること。 (2)企業内の昇進構造として女性が管理職に昇進することは少ないことが、 男女間賃金格差を生み出していること。 (3)コース別雇用管理制度(注)の導入企業の方が非導入企業よりも男女 間賃金格差が大きいこと。 (注)統計的差別とは、企業が採用段階において労働者ひとり一人の能 力や努力、あるいは長期勤続志向の有無などを学歴や性といった労 働者の属性ごとの平均値に基づいて推測することによって処遇する ことをいう。これは、企業が採用段階で労働者ひとり一人の能力や 努力、あるいは長期勤続志向の有無などを把握することが現実的に 難しいためである。例えば、平均的に女性の勤続年数は短いが、そ のために企業は女性に対する教育訓練を手控える可能性が高く、そ のことが男女間の賃金格差を拡大させる結果につながる。 (注)コース別雇用管理制度とは、企画的業務か定型的業務等の業務内 容や、転居を伴う転勤の有無等によって幾つかのコースを設定して、 コースごとに異なる配置・昇進、教育訓練等の雇用管理を行うシス テムをいう。典型的には、基幹的業務又は企画立案、対外折衝等総 合的な判断を要する業務に従事し、転居を伴う転勤があるコース (いわゆる「総合職」)、主に定型的業務に従事し、転居を伴う転 勤はないコース(いわゆる「一般職」)、「総合職」に準ずる業務 に従事するが転居を伴う転勤はないコース(いわゆる「中間職」) 等のコースを設定した上で行う雇用管理が挙げられる。 労働者を意欲、能力、適性や成果等によって評価し、処遇するシ ステムの一形態として導入されてきたものである。