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3 企業側から見た労働者のキャリア形成のあり方



 (3)企業内のキャリア支援の実態



   企業の経営・人事管理の変化の方向は、労働者の自立やキャリア形成における

  主体性尊重を目指す方向にあるが、実態はどのようであろうか。



  

 (「従業員に求める能力」を「知らせる」仕組み)



   労働者が、企業内において、主体的にキャリア形成を進めていくためには、

  「従業員に求める能力」が従業員に知らされていなければならない。



   この点について、三和総合研究所の調査(「職業能力に関する調査報告書」

  (平成12年、規模30人以上、回収909社))によれば、約8割(「十分」21.3%

  +「ある程度」55.6%)の企業が、従業員に、「従業員に求める能力」を知らせ

  ていると考えており、従業員の方でも、約7割の従業員(「十分」18.7%+「あ

  る程度」51.6%)が「会社・上司があなた(個人)に求める能力」を知らされて

  いると考えている(資料7)。



   企業側は「従業員に求める能力」について、概ね、「人事評価制度の運用」

  (45.9%)、「全体の教育訓練計画」(35.7%)、「部門別の教育訓練計画」

  (33.0%)を通じて従業員に知らせていると考えている(資料8)。

   他方、従業員側においては、「人事評価制度の運用」(35.7%)のほか、「個

  人別の目標管理シートや能力開発シート」(28.3%)を通じて知らされていると

  考えている(資料9)。



  

 (キャリア形成の主体)



   キャリア経営を従業員が主体的に考えているか否かについて、富士総合研究所

  の「能力開発等の活動に取り組むための長期休暇制度の導入促進に向けた調査研

  究報告書」(平成12年、規模100人以上、回収1099社)によって見ると、企業

  側の調査では、「8割以上の従業員がキャリア形成を主体的に考えている」とし

  た企業はわずか8.5%であり、逆に、そういう従業員はほとんどいないとした企

  業は、15.8%であり、半分程度と考えている企業が31.8%、1/4程度が41.4%と

  なっており、大半の企業が、半分から1/4程度の従業員が主体的にキャリア形成

  を考えているとしている(資料10)。



   他方、従業員の調査をみると、「○年中にこれをする」という具体的な形で今

  後の職業生活を考えている者はわずか8.7%であり、「漠然と考えている」

  (49.2%)、「考えようという気持ちはあるが、実際は考えていない」(35.5

  %)、まったく考えていない(5.4%)となっており、明確な形でキャリア意識

  を抱く者は少ない(資料11)。



  

 (キャリア支援)



   まず、キャリア開発研修について、前出の三和総合研究所の調査により、企業

  側の考え方を見ると、「大いに必要である」(15.3%)あるいは、「ある程度必

  要である」(59.6%)とすることから分かるように、2/3の企業は「必要であ

  る」と考えており、そのニーズは大手企業ほど強い(資料12)。対象層として

  考えているのは、中堅社員や係長クラスであり、若手社員と管理職クラスに対す

  るニーズは小さい。



   次に、キャリアについての相談の状況をみると、「十分」ないし「ある程度」

  「受けることのできる」労働者の割合は、34.3%であるが(資料13)、相談相

  手は、ほとんど上司、先輩、同僚であって、キャリア・コンサルティングの専門

  家は5〜6%(M.A.)に過ぎない(資料14)。同様に、企業側についても、キ

  ャリア相談が「十分」ないし「ある程度」「できている」割合は17.1%、特に、

  「十分できている」は0.4%に過ぎない(資料15)。



   より専門的にみると、企業が従業員にキャリアプランの提示機会をどのように

  準備しているかということについては、多くの企業がすべての世代にわたって定

  期的なミーティングを通じて対応している。キャリアデザイン研修などの研修を

  設けているところは、専門職で3.7%、総合職5.4%、管理職5.6%程度。キャリ

  ア・コンサルタントなど外部の専門家を活用するというのは管理職でも1%程度

  で、企業の中に浸透している状況ではない(資料16)。



  

 (自己啓発)



   自己啓発について、平成11年の労働省「民間教育訓練実態調査」(規模30人以

  上の事業所、回収事業所票1953件、従業員票5339件)によりみると、平成10年

  は56.4%の労働者が実施している(資料17)。実施方法については、「図書の

  購入や図書館の利用など独力で実施」という回答が最も多く(40.8%)、次いで

  「会社の主催する研修会・勉強会」(37.4%)、「通信教育講座」(34.1%)、

  「会社以外の研修会・勉強会」(29.5%)の順になっている(資料18)。

   自己啓発に要した費用に対する会社からの金銭的助成額の割合については、

  「助成を受けなかった」という回答が42.2%と最も多く、次いで「全額助成を受

  けた」が26.5%となっている(資料19)。



  

 (社内公募制)



   前出の三和総合研究所の調査によると、社内公募制度を実施している企業は

  10.0%であり、今後、実施を予定している18.5%と併せると、28.5%の企業が社

  内公募制度に積極的である。この割合は、規模が大きいほど多く、業種では、

  「卸・小売・飲食店」「サービス業」で多い(資料20)。

   社内公募制を実施する(予定を含む。)理由(M.A.)については、「従業員

  の意欲ややる気を高めたいから」(84.6%)が断然多く、そのほか、「適切な人

  材を見つけやすいから」(45.9%)、「従業員に自分自身のキャリアを考えさせ

  るため」(30.1%)、「管理職の意識を変えたいから」(25.9%)、「配置の柔

  軟化をはかるため」(21.2%)となっている(資料21)。

   「適切な人材を見つけやすいから」は、既に実施している企業で多く(60.4

  %)、逆に制度を導入しようと予定している企業で最も多いのは、モラール上の

  理由であり、「管理職の意識を変えたいから」(35.1%)が典型である

  (資料22)。



  

 (能力開発と休暇制度)



   能力開発のための休暇制度の活用については、前出の富士総合研究所の調査に

  よると、36.7%の企業が「既存の休暇を利用するように指導している」と答えて

  いる。

   能力開発のための特別な休暇を用意している企業は3.1%、休職扱いにする企

  業は、6.0%であった(資料23)。

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