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【調査の概要】



1.調査の方法



 今回の分析では、「労働力調査特別調査」(1988〜1999)、「就業構造基本調査」

(1982,1987,1992,1997)、「雇用動向調査」(1986〜1998)、「事業所統計調査」

(1991,1996)「平成7年賃金労働時間制度調査」の個票データ等を再集計することに

より、労働市場の分析を行っている。



2.調査結果の概要



 (1) 離転職・失業行動の動向



 ア 失業化確率の要因分解



   前年就業者が1年後に失業している確率を「失業化確率」と定義した場合、そ

  の確率は、その就業者が

  <1>1年以内に離職し、

         (離職確率※)※離職確率=自発的離職確率+非自発的離職確率

  <2>求職を続け、

         (労働力継続確率)

  <3>しかも転職できなかった

         (転職不成功確率)

  状態であると考えられることから、

   「失業化確率=離職確率×労働力継続確率×転職不成功確率」

  と置くことができる。

   ここで、各要因について見ると、

  i-a) 非自発的離職は、88年から99年にかけての調査から、高齢者や男性独身者

  の解雇される確率(解雇確率)が高くなっている(図1表1参照)。これは、

  高齢者は労働生産性に比べて賃金が高く、男性独身者は雇用調整費用(解雇コス

  ト)が低いためであると考えられる。

  i-b) 自発的離職については、男性の場合は独身者の離職確率が高く、既婚者は

  よほど高い転職先賃金が望めないかぎり前の企業を辞めようとしない事が分かる。

  一方、女性の場合は子供のいる人の離職確率が高く、継続就業したい人にとって

  「子育て支援」が重要となると思われる(表2参照)。

  ii)  離職者の労働力継続確率、すなわち離職者が求職活動を続けているかどう

  かについては、定年退職した人々の多くは、リタイアせずに転職するか求職者

  (失業者)として労働市場にとどまっている(表3参照)。また女性については、

  従来は労働市場に残る割合の低かった25-29歳の労働力継続確率が上昇しており、

  働き続けようとする女性が増加していることを示している(表4参照)。また、

  既婚の女性の継続就業確率(1年以内に仕事をやめなかった確率)が高まってい

  る一方で(図2参照)、乳児を持つ母親の継続就業確率が低下している

  (図3参照)ことから、育児支援政策の充実が求められている。

  iii) 離職者の転職不成功確率、すなわち離職者が転職先を見つけることができ

  たかどうかを見ると、まず、性別に関係なく高齢になると転職不成功確率は上昇

  し、失業期間は長期化する(表5参照)。

  おおむね45歳以上層の男性の失業期間が長く、55歳を超えると極端に長くなる

  (図4参照)。前職を非自発的に離職  した人は、自発的離職者に比べ転職不

  成功確率が高く、失業期間が長い。また、高学歴者ほど転職成功確率が高く、さ

  らに所得の必要度が相対的に高いと思われる既婚者及び子供のいる人ほど転職成

  功確率が高いことも指摘される(表5参照)。



 イ 失業化確率が高い労働者の属性



   パートタイム労働者は、男性のケースにおいて、解雇確率、自発的離職確率と

  もに高く、転職成功確率が低い。一方、女性は、自発的離職確率と転職成功確率

  が高く、解雇確率が低い(表1表2表6参照)。このことは、男性パートタ

  イム労働者の多くが現在の仕事に満足しておらず、正規常用雇用者として就業す

  ることを希望しているが、現実には良質な雇用機会には恵まれていない可能性を

  示唆している。また、女性については、条件に応じて自発的に労働移動が出来る

  が、異動先は再びパートタイム労働である可能性が指摘できる。

   さらに職種別の離転職確率では、ブルーカラー(生産工・労務作業者)に比べ

  てホワイトカラー(専門・事務・管理職)は失業化しにくく、グレーカラー(販

  売・サービス職)は失業化しやすい傾向にある(表7参照)。



 ウ 新規「開業者」のプロファイル



   男性の自営業者・家族従業者は S57年〜H9年の期間に大きく減少している。こ

  れは主に継続就業者が大きく減少しているためで、転職又は新規就業者は逆にや

  や増えている。ただし、増加しているのは60-64歳層の割合が大きく、20-34歳の

  若手は減少している(表8参照)。

 



 (2) 企業・事業所別に見た雇用の増減



 ア 97年末以降の雇用状況の悪化要因



   日本の労働市場における雇用変動には、既存事業所内部の雇用変動と比べて事

  業所の開業による雇用創出が大きく影響している(図5参照)。なかでも小企業

  や建設業の開業が雇用機会を創出することを通じて、経済全体の雇用純変動を大

  きくしてきた(表9参照)。97年以降は、小企業の開業減退による雇用創造率の

  低下(図6参照)とならんで大企業に属した事業所の廃業増加が、失業率の急上

  昇に見られる雇用情勢の悪化を生んだ原因として重要である(図7参照)。



 イ 社齢別に見た雇用創出と雇用喪失



   社齢別の純雇用量の変化を見ると、開業してから年数の短い「若い」企業や事

  業所の方が雇用を伸ばしている(表10参照)。これを雇用創出率・雇用喪失率

  に分けて見ると、雇用創出率は若い事業所の方が高く、事業所の開設が古いほど

  雇用創出率は低下する傾向にある。



 ウ フルタイム、パートタイム労働別に見た雇用創出と雇用喪失



   雇用就業形態別にフルタイム、パートタイム労働者の雇用創出率・喪失率を見

  ると、フルタイム、パートタイム労働者の雇用が共に増加しているのは、中堅規

  模企業とサービス業及び建設業のみであった(表11参照)。

   時系列では90年代に雇用喪失率はフルタイム、パートタイム労働者ともに上昇

  しているが、雇用創出率はフルタイム労働者で減少し、パートタイム労働者で上

  昇するといった違いが見られる(図8参照)。



 エ 若年労働市場の変化における労働需要側の影響



   90年代後半になって、労働需要の減退による若年に対するフルタイムの雇用機

  会が減少したが、その傾向は大企業で顕著である(表12表13参照)。大規

  模事業所の中では、既存社員の中高年齢化が進んでいる場合ほど新卒の求人及び

  採用が大きく減退している(表14参照)。このような若年を対象とした雇用調

  整については、中高年齢化した既存社員の雇用の維持が若年の労働需要を減退さ

  せる「置き換え効果」(若年者の採用と中高年齢者の雇用維持のトレードオフ)

  によって生み出されているという意見もある。



 オ 外資系企業の雇用の現状



   社齢別に全事業所に占める外資系企業の雇用比率を見ると、若い企業ほど外資

  系企業の雇用比率が高い。また、存続事業所の平均規模についても、外資系企業

  では設立時点で日本企業の倍以上の規模を有しており、最近の外資系企業の雇用

  における重要性が確認できる。



(3) 今後の検討課題



  これらの分析を踏まえると、今後の雇用対策としては以下の点が重要であろう。



 ア 労働者や企業の属性、事情に応じたきめの細かい対策



  <1> 離職確率と転職不成功確率の低下のための対策



    現在の失業率の上昇は、離職確率の高まりと転職不成功確率の上昇によって

   生じているが、労働者の属性によって失業化の要因は大きく異なっている。こ

   のため、在職者に対する離職確率の低下、特に非自発的離職確率の低下のため

   の雇用保障等と求職者に対する転職不成功確率の低下のためのマッチング・教

   育訓練の整備等のバランスをとった対策が重要になる。



  <2> 求職者プロファイリングに沿った対策



    限られた予算の中で雇用の安定を図るためには、非自発的離職確率が高い、

   あるいは再就職が困難な労働者層に対して集中的に就職支援サービスを行うこ

   とが効果的である。

    企業において総額人件費管理が進められる中で、雇用過剰感の強い高齢者や

   雇用の調整弁にされやすいパートタイム労働者など、雇用のトレードオフにお

   いて弱い立場にある者への支援が重要である。さらに、乳児を持つ母親のよう

   な労働の継続が困難となっている労働者層についても、特段の雇用支援が必要

   である。



  <3> 若年者対策



    若年層は近年自発的離職が増加しているが、こうした若年者の自発的離職を

   最小限に抑えるためには、早期適職発見のための情報提供が重要である。特に

   学生に対しては、インターンシップ等在学中から適職選択ができるような機会

   を与え、職業意識を啓発することが必要である。また、若年失業者に対し、転

   職市場で評価されるような実践的な職業訓練の機会を提供するとともに、企業

   側にも未就職卒業者を新規学卒と対等の条件で採用するよう理解を求めること

   も重要である。



  <4> 企業の属性、事情に応じたきめの細かい対策



    雇用対策の実施に当たっては、産業や地域の特性に配慮する以上に個別の企

   業の属性への配慮が必要である。

    調査から、社齢の若い企業は、社齢の古い企業よりも平均的に雇用増加率が

   高いが、個々の企業で見ると雇用変動の差が大きいと分かった。創出された雇

   用機会を安定的で魅力あるものにしていくためには、開業間もない企業に対し

   て機動的な助成を行う、あるいはそうした企業で働く労働者に対してエンプロ

   イアビリティを高める支援を行うことなどにより、労働者が背負わなければな

   らないリスクを軽減する対策が求められる。同時に、そうした企業に対しては、

   労働者の転職リスクを低減するため、企業情報・処遇情報の公開を求めること

   が必要である。



 イ 雇用のトレードオフを意識したバランスのとれた対策



   中高年の雇用の維持とともに、新規学卒者の採用抑制が行われるなど、雇用に

  おいては関係者間のトレードオフの関係が生じている。このため、若年者と高齢

  者、正社員と非正社員、在職者と求職者との間の雇用のトレードオフに係る現状

  を認識し、バランスのとれた対策を実施することが必要である。特に、大規模事

  業所では、従業員の中高年齢化が進んでいる場合ほど、新卒採用が大きく減退し

  ていた。新卒採用の抑制は、従業員年齢の上昇により個々の企業の活力を奪うだ

  けでなく、若年者の熟練機会の喪失による技能伝承の断絶をもたらす。

   このため、今後は個々の企業における <1>新卒採用を続けつつ中高年を活用す

  る柔軟な賃金形態やワークシェアリングの導入、 <2>移動せざるをえなくなった

  中高年の再就職をサポートする仕組みの導入、等を支援することにより若年者の

  採用を促す取組が必要と言える。



 ウ トレードオフを解消するための雇用創出対策



   雇用のトレードオフを解消するためには、適度な経済成長が不可欠であり、そ

  れを支えるための技術開発や人材育成が必要である。

   人材育成としては、特に、雇用創出能力の高いベンチャー企業の経営者に対す

  る財務管理・労務管理等教育を行うことが重要である。また、大企業を退職した

  中高年者を広く募集して業種横断的なチームを編成し、経営管理研修を実施して

  ベンチャー企業の経営補佐となる人材を育成することも有効である。


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