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労働力需給の展望と課題 (要旨)

−人々の意欲と能力が活かされる社会の実現を目指して−



 

T 労働力需給の長期展望



1 労働力供給の見通し等

 ・ 少子・高齢化の進行は、経済活力の低下のおそれがある反面、国民一人

  当たりの豊かさの向上につながる面もあり、将来の我が国の経済社会のあ

  り方に大きな影響。

 ・ 経済社会の活力を維持、発展させていくためには、高齢者の高い就業意

  欲が活かされ、その有する能力が十分に発揮されることが必要不可欠。

 ・ 労働力率は徐々に低下し、労働力人口の伸びは、2005年までは鈍化、以

  降は減少に向かう第2表第3表参照)。



2 労働力需要の見通し等

 ・ 情報化の進展は、雇用機会を減少させる可能性がある一方、新たな市場

  創造の下で専門的・技術的職業従事者など良好な雇用・就業機会を生み出

  す。

 ・ 経済社会のグローバル化は、我が国の産業構造を大きく変化させる。外

  資系企業の増加は、雇用創出に寄与するとともに、企業の人事・労務管理

  諸制度に少なからず影響を与えるものと考えられる。

 ・ 規制改革の推進や商慣行の是正、技術革新の促進等によって、実質所得

  の向上、選択肢の拡大を通じ、より豊かな国民生活の実現につながるとと

  もに、新たな経済分野の拡大などにより雇用・就業機会の増大も期待され

  る。

 ・ 構造改革を進めるに当たっては、その雇用に及ぼす影響にも十分注意を

  払いつつ、これに伴って必要となる労働移動ができる限り円滑になされる

  ようにしていく必要がある。

 ・ 経済のグローバル化や規制改革等による競争の活発化により、労働生産

  性の向上が見込まれるため、特に対策を講じなければ、労働力需要は弱含

  み傾向。



3 労働力需給、就業構造の長期展望

 (1) 労働力需給のミスマッチの動き

 ・ 産業構造の変化のスピードが速まり、産業間の労働力需給の不均衡が拡

  大する。労働者の希望する職業が無くなったり、労働者の持つ技能が陳腐

  化するスピードが速くなる。

 ・ 少子化により新規学卒者の供給が減少し、高年齢層は、労働力供給が増

  えるため、年齢間の需給の不均衡がさらに拡大する。

 ・ 若年層については、完全失業率の持続的な高まりによって、技能形成、

  能力開発に重大な支障が生じることが懸念されるのみでなく、失業者の多

  いコーホートが持ち上がっていくことにより、マクロレベルでの労働生産

  性や活力の維持など経済や社会全体への影響が生じる可能性がある。

 (2) 完全失業率の見通し

 ・ 経済成長率にもよるが、特に対策を講じなければ、完全失業率は、4%

  台前半〜5%台前半となる(第4表参照)。

 ・ 適切な経済対策や雇用対策を講じることにより、需要不足失業を減少さ

  せるとともに構造的失業の増加を可能な限り抑制し、就業者数の増加を図

  るとともに、完全失業率を引き下げる必要がある。今後の雇用政策の目標

  としては、2010年の完全失業率は、3%台後半を目指すべきである。



   仮に、2010年まで国民一人当たり平均して2%の経済成長が見込まれる

  と仮定すると、2010年の完全失業率は4.2%となるが、さらにこの仮定

  に加え、(a)職業能力開発施策が拡充される、(b)時短が進み、パート労働

  者が増加する、(c)a、bの想定に加え、第4表の(注)のような施策が全て

  実施された場合、を試算すると、完全失業率はそれぞれ、0.2%ポイントか

  ら0.5%ポイント低下する。(詳細は、第4表参照)



 (3) 今後の就業構造等

 ・ 長期継続雇用は、今後も基本的な就業形態の一つであり続けるが、全労

  働者に占める長期継続雇用型の労働者の比率は低下し、労働移動が今まで

  以上に増加すると考えられる。

 ・ パートタイム労働、派遣労働、契約労働や在宅就業、テレワーク、

  SOHO、ワーカーズ・コレクティブ、NPOにおける就業など、働き方

  の多様化が進むと考えられる。

 ・ 景気の変動や産業構造の変化に対して、労働投入量の調整に加え、賃金

  による調整もこれまで以上に用いられ、雇用調整がよりフレキシブルに行

  われるようなシステムへ変わっていくと見込まれる。





U 雇用政策の方向



1 基本的な考え方

 (1) 21世紀初頭の10年間の課題

 ・ 第1の課題は、現在の長期的な不況を克服するととともに、来たるべき

  人口減少社会に備えること。雇用の安定は我が国の国政上の最重要課題で

  あり、需要不足失業を減少させるとともに、構造的失業の増加を可能な限

  り抑制する。

 ・ 第2の課題は、新たな社会的な規範、労働市場において労使、政府が共

  通して尊重すべきルールを社会全体でつくることと、その遵守システムを

  作ること。具体的には、労働者の再挑戦が可能になるようなルール、多様

  な働き方が選択肢として社会一般に受け入れられるようなルール、能力に

  応じた一定の所得格差を公正なものとして認め合うようなルールをつくる

  とともに、極端に所得格差が拡大しないような社会を目指すこと。

 ・ 第3の課題は、事前誘導・指導中心型の行政から事後規制型に力点を移

  ながら、両者を適切に組み合わせること。



 (2) 雇用政策の理念・目標と対象

 ・ 雇用政策の理念は、まず第1に、人々の意欲と能力が活かされる社会、

  意識や希望の変化に応じた多様な選択肢のある社会をつくること、再挑戦

  しようという意欲を支えるセイフティ・ネットを構築すること。

 ・ 第2に、自己選択や自己責任を強調し、個々人が主体的に行動できるよ

  うな社会を目指すこと。

 ・ 第3に、今後社会全体や労働者の立場から評価される企業のあり方につ

  いて、共通の認識を形成していくこと。

 ・ 第4に、全ての人々が意欲と能力に応じて職業生活に積極的に参加する

  ことのできる社会への転換を目指していくこと。

 ・ 雇用政策の具体的な目標は良好で長期的に働くことができる雇用機会

  が確保されるということを基本としながら、失業した場合には再就職先が

  早期に見つかるようにすること、職業能力開発の機会と時間が十分に確保

  されること、継続して一定の収入があること、健康で安心して働けること

  を実現すること、活力ある高齢社会の実現のため、長年培った知識や経験

  が活かされるような高齢期の雇用・就業の場が確保されること及び社会参

  加ができること、育児・介護環境が整備されること。

 ・ 雇用の安定なくして経済や社会の安定を図ることは困難であり、このた

  め、適切な財政、金融政策を講じて、マクロ経済の安定化に努めるととも

  に景気対策を機動的に実施する。また、短期的な雇用対策と中長期の雇用

  対策との整合性を確保する必要がある。

 ・ 雇用政策の対象はより緊要度の大きい労働者に重点的に施策を実施し

  ていくことが必要であり、短期的には、中高年労働者のうち倒産や解雇に

  より思いがけず離職をした人々を重点に施策を実施することが重要。中長

  期的には、若年者の活力の維持と能力の向上が重点的な対象。なお、雇用

  関係ではない多様な働き方も生活の安定、福祉の向上などの観点から、雇

  用政策の対象として視野に入れていくべき。



2 具体的な施策の方向

 (1) 新事業創出と雇用創出、雇用の安定

 ・ 新事業創出と雇用創出、失業なき労働移動への支援を強化。景気循環に

  対応した雇用の維持・安定対策の実施。中小企業の雇用管理改善を進め人

  材確保を支援。福祉関連分野の労働力の育成、確保に積極的に取り組む。



 (2) 経済社会の発展を担う人材育成の推進

 ・ 労働者のエンプロイアビリティ(就職可能性)の向上を支援し雇用の安

  定を図るとともに、今後の経済社会の発展を担う高度で専門的な職業能力

  を有する人材を育成。具体的には、企業において計画的な職業能力開発を

  推進するための環境整備、労働者が主体的に職業能力開発に取り組むため

  の支援、社会全体として職業能力の適正な評価を推進、高度熟練技能の維

  持・継承、離職者に対する能力開発対策を推進。



 (3) 労働力需給調整機能の強化

 ・ 公共職業安定機関の職業紹介等の機能の充実強化を図るとともに、民間

  機関が活力や創意工夫を活かし適切に労働力需給調整の役割を果たしうる

  ようにし、労働市場全体の需給調整機能を強化。公共職業安定機関と職業

  能力開発機関との連携を一層強化。求人者、求職者に対する情報提供機能

  の強化。カウンセリングや職場体験機会を提供する機能を強化。



 (4) 少子・高齢化と女性の社会進出への対応、多様な選択肢のある社会の

   実現

 ・ 全ての意欲と能力のある高齢者が65歳まで働ける社会を構築するため、

  65歳までの継続雇用を推進すること、又は、定年年齢の引上げを行うこと

  が必要。高齢者の多様なニーズに応える雇用就業機会を確保、高齢期に向

  けた社会参加を促進。

 ・ 男女雇用機会均等確保対策、仕事と育児・介護との両立支援対策の推進。

 ・ 若年者の適切な職業選択、円滑な就職促進を図ることが重要。学校教育

  も含め、若年者の能力向上のため社会全体としての対応も必要。

 ・ 確定拠出型年金制度の導入に向け、関係省庁とともに取り組む。

 ・ 労働者派遣制度の改正、短時間労働者の就業環境の整備など多様な働き

  方を可能とする環境整備。

 ・ 労使の個別紛争処理制度の検討。

 ・ 年間総労働時間1800時間の達成・定着、弾力的労働時間制度の導入促進

  及び適切な運用のための指導・援助等の実施。

 ・ 雇用保険について、制度の安定的運営の確保一層の雇用の安定及び再

  就職の促進に資する制度にしていく必要。



 (5) 国際化への対応

 ・ 専門的・技術的分野の外国人労働者については、積極的に受け入れるこ

  とが必要。他方、労働市場の状況に応じて受け入れるような仕組みについ

  ても検討。単純労働分野への外国人労働者の受入れについては、国民のコ

  ンセンサスを踏まえつつ、十分慎重に対応すべき。少子・高齢化に伴う労

  働力不足への対応として、移民を受け入れることは、その社会的、経済的

  影響は大きくかつ長期にわたること等から、適当ではない。



3 企業の雇用システムのあり方等

 ・ 長期雇用システムは、労使双方に長期的な経営・雇用の安定というメリ

  ットをもたらし、また、社会全体にとっても失業率を低く抑えるという大

  きな役割を果たしていることから、引き続きそのメリットを活かすように

  していく企業が持っている雇用システムに対して政府の政策は中立的な

  ものへ変更していくべき4 政策手法、行政体制の課題

 ・ 従来型の政策手法については、これまでの政策効果についての評価を行

  い、経済社会情勢の変化に応じて見直す努力をするとともに、新たな雇用

  政策の手法を検討。また、政策効果を評価するシステムも今後検討。

 ・ 産業政策など各省庁が政策を立案・実施する際には、雇用の創出という

  観点にも十分留意しながら、政府一体となって雇用対策に取り組む

 

*第1表 15歳以上人工の推移と見通し

*第5表 産業別就業者数の推移と見通し

*第6表 職業別就業者数の推移と見通し


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