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(別添2)
外国人雇用問題研究会報告書(要旨)
第1章 国際的な労働移動をめぐる環境の変化
グローバリゼーションの進展により国際的な競争が激化し、各国で産業構造の転換
や企業の再編が急速に進められる中、我が国の企業においても、国境を超えた高度な
人材の獲得や外国人労働者を含めた多様な労働者への人事労務管理などが大きな課題
となっている。
EUなど地域統合の動きが加速する中で、国際的な人の移動も一層活発化し、WTO
(世界貿易機関)やAPEC(アジア太平洋経済協力)などにおいても、国際的な人の移
動の枠組みについての活発な議論が行われている。
また、我が国においては、世界でも例を見ないスピードで少子・高齢化が進行して
おり、労働力人口減少への対応や社会保障制度の在り方など、経済・社会の諸システ
ムの見直しが急務となっている。
一方、我が国の周辺諸国の状況を見ると、国内の雇用機会の不足や日本との経済格
差といった要因が早急に解消されるとは考えにくく、依然として強い労働力送出圧力
が続くものと考えられている。
第2章 外国人労働者受入れ制度の見直しの必要性
1.現行の外国人労働者受入れ制度の下における問題点及び課題
(1)我が国が置かれている環境の変化への対応の必要性
我が国の経済社会の活性化を担う高度な人材の受入れの促進、少子・高齢化
に伴う労働力不足への対応、我が国周辺の国々からの労働力送出圧力の増大に
対する適切な対応など、前述したような環境変化への対応が必要である。
(2)現行制度が想定していた受入れの姿と実態の乖離等への対応
入管法改正から10年余りが経ち、我が国が積極的に受入れを図ってきた専門
的・技術的分野の労働者以上に日系人労働者等の増加が著しいなど、当初受入
れ制度が想定していた姿と乖離している部分が出てきている。
外国人労働者の多様化が進むとともに定住化傾向も強まっており、長期にわ
たって居住している日系人を中心に、外国人が日本社会の一員として日本国民
と「共生」する上で、教育問題、医療問題などの様々な問題が表面化しはじめ
ている。
さらに、不法就労の悪質・巧妙化が進み、実態がますますつかみにくくなっ
ているほか、悪質なブローカー等の仲介など様々なケースが見られるようにな
っている。
2.外国人労働者受入れの在り方を検討する際に考慮すべき点
我が国は、活力ある経済社会と豊かな国民生活を目指して、外国人労働者をめ
ぐる環境変化に適切に対応し、また、現行制度下で生じている問題を解決してい
かなければならない。その際、経済の将来見通し等、国の在り方をどう想定する
かにより、目的に向けた対応シナリオは異なる。これらの課題への対応について
は、国内労働者の更なる能力の活用など外国人労働者の受入れよりも先に検討す
べき政策があり、また、外国人労働者の受入れだけで解決できるものではないが、
外国人労働者の受入れ制度を見直して秩序ある受入れを行うこともシナリオの一
つと考えられる。
以上を踏まえ、一つの選択肢として我が国の外国人労働者受入れ制度の見直し
を検討することとした場合には、以下の3つの留意点と7つの基本的事項に留意
しながら議論を行う必要があると考えられる。
[3つの留意点]
a.経済や社会の在り方を含めた「国家」の在り方が、外国人労働者受入れ
の在り方の前提となるものであること
b.外国から「労働力」を求めたとしても、受け入れるのは「人間」である
こと
c.外国人労働者受入れには様々な問題が伴い、受入れ国はその解決に向け
て絶えず努力を続ける必要があること
[7つの基本的事項]
(1) 国の在り方や中長期的な政策の方向性との整合性の確保
外国人労働者の受入れは、目指すべき国家の在り方を踏まえ、中長期的な産
業政策や少子・高齢化対策等の様々な政策との整合性を確保することが必要で
ある。
(2) 国内労働市場政策の優先
外国人労働者の受入れの必要性を考える際には、まず、国内労働力の供給を促
進するための施策等を実施することが必要である。
(3) 国内労働市場への悪影響の防止
外国人労働者の受入れに当たっては、国内労働市場への影響を十分に考慮し、
国内労働者の雇用機会の縮小や労働条件の悪化につながることのないようにす
べきである。
(4) 国内産業への悪影響の防止
外国人労働者の受入れにより、本来なされるべき雇用環境の改善や設備投資
による生産性の向上等、産業の高度化が阻害されることのないようにすべきで
ある。
(5) 我が国社会の在り方と日本人のアイデンティティについての合意
外国人労働者を受け入れるに当たっては、とりわけ長期間の滞在を認める場
合には、我が国の社会の在り方と「日本人とは何か」について改めて国民のコ
ンセンサスを得ることが必要である。
(6) 受入れに伴う様々な社会的コストの負担についての合意
外国人労働者を受け入れる際には単に労働政策のみならず、年金や医療保険
などの社会保障や住宅問題、子弟の教育問題など社会的統合の促進のための様
々な施策を検討し、実施することが必要であり、その在り方とコスト負担につ
いての国民のコンセンサスが必要である。
(7) 外国人の人権や外国人のアイデンティティへの配慮
入国した外国人については、日本人と同様に基本的人権が保障されるべきで
あり、また、外国人としてのアイデンティティを認め、日本社会で共生してい
くための配慮が必要である。
第3章 外国人労働者受入れ制度を考えるに当たっての視点
1.受入れの範囲を検討する際の視点
(1)受入れ範囲の設定について
受入れ範囲を定めるに当たっては、(1)受け入れられる外国人労働者に着目
した観点(職種、資格等)と、(2)受け入れる事業主に着目した観点(業種等)
が必要である。
(2)受入れニーズについて
受入れニーズの有無を把握することが必要であり、そのためには「社会的ニ
ーズ」というような漠然としたニーズの把握ではなく、具体的に「誰」が「ど
のような」ニーズを有しているのかについて、関連施策の動向にも十分留意し
つつ把握・分析をすることが必要である。
(3)国内労働市場への影響について
ニーズがあった場合でも、外国人労働者の受入れが国内労働者の労働条件等
に悪影響を及ぼす場合には、ニーズと悪影響を比較考量することが必要である。
(4)国内産業への影響について
外国人労働者の受入れが、特定の国内産業の発展又は高度化を阻害する等の
悪影響についても留意すべきである。
(5)範囲や基準の変更要望に対する柔軟な対応について
受入れの範囲や基準の設定に当たっては、社会経済状況の変化や国内各層か
らのニーズの変化に、的確かつ円滑に対応していくことができる制度設計をす
ることが必要である。
2.受け入れられる外国人労働者の質と量に影響を及ぼす要因を検討する際の
視点
(1)家族の呼び寄せの在り方
家族の呼び寄せを認める範囲が広いほど、外国人労働者にとって魅力的な制
度となると考えられるが、一方で、就労に関する入国・在留管理が困難となり、
また、社会的統合に関するコスト、社会的な摩擦が増大すると考えられる。
(2)在留期間の設定方法について
永住権の取得の容易さは、長期に在留を希望する外国人労働者にとって大き
な誘因となり得る一方で、在留期間を長期に設定するほど、社会的統合のため
の施策の必要性が高まるとともに、そのような施策の実施に伴うコスト負担も
大きくなる。
(3)社会的統合のための施策の在り方について
社会的統合のための施策を実施することにより、そのための有形無形のコス
トがかかることになるが、外国人と受け入れた社会との間の摩擦は減少する。
(4)受入れ及び社会的統合に伴う様々なコストの負担者及び負担方法
について
受入れ等に伴うコストについては、誰が、何を、どのように負担するのかに
ついて国民のコンセンサスが必要である。
3.受入れの仕組みを検討する際の視点
(1)受入れニーズ等の定期的な把握のための効果的な体制整備
情勢の変化に対応して適切な制度運営を行うため、当該分野の労使を含めた
関係者から定期的、効果的に受入れニーズや制度についての意見を把握する体
制を整備する必要がある。
(2)制度の法的な位置付けのレベル
法的安定性の必要な制度の枠組みや外国人労働者の権利保護に関する部分に
ついては法律等高位の法令で規定し、変化に応じた柔軟な対応が望ましい受入
れ量の毎年の変更や受入れ職種の変更等については政省令以下の低位の法令等
で規定するなど、適切な位置付けが必要である。
(3)申請者である外国人その他の利用者にとっての利便性、
外国人受入れ手続の透明性
制度改正や基準改正の手続の透明性や、処理時間の短縮、利用者窓口のワン
ストップ化等、利用者にとっての利便性の確保が重要である。
(4)行政にとっての外国人受入れ手続についての運営の効率性、利便性
受入れ制度の管理及び運営について、可能な限り少ない行政コストと高い効
率性を確保するよう努めるべきである。
(5)不服申立て等に対する処理についての適切かつ円滑な運営
明確な判断基準の提示など、不服申立てに的確かつ円滑に対応できるような
制度設計と運営に十分留意することが必要である。
(6)制度の実効性の担保
制度の実効性を確保する観点から、外国人労働者の質と量を制度の規定のと
おりに維持できる仕組みとなっているか、また、不法残留者を効果的に防止で
きる制度になっているかについて十分留意する必要がある。
(7)行政機関の在り方及び各行政機関相互の連携の妥当性
外国人労働者受入れ制度の実施機関の在り方については、中央政府内の各省
庁間、又は中央省庁と地方自治体との間の関係をどのように受入れ制度の中に
位置づけるのかを整理し、各行政機関が連携して円滑な制度運営ができるよう
留意することが必要である。
また、関係するNPO等の団体と行政機関との役割の分担や連携の在り方につ
いて整理することが必要である。
(8)社会的統合を要する場合の関連する外国人関連諸施策との整合性
外国人労働者を受け入れる場合の出入国管理制度、在留管理制度及び労働許
可制度等について議論する場合には、在留外国人に対する登録制度や各種制度
における外国人労働者に与えられる様々な権利及び課せられる義務における取
扱いが整合的に行われる必要がある。
(9)送出国と受入れ国との間の連携の妥当性
外国人労働者受入れに当たって、労働者送出国と受入れ国との間で効果的に
協力、連携を行うことができる仕組みを確保することに十分留意すべきである。
第4章 各国の外国人労働者受入れ制度の比較
我が国は外国人労働者受入れの経験が少ないことから、参考となる各国の現在の受
入れ制度(別紙1及び別紙2参照)とその運用の実態を整理するとともに、各制度
のメリット・デメリットについて検討した。
第5章 想定される我が国の外国人労働者受入れの在り方
1.想定される受入れの在り方
外国人労働者受入れ制度の見直しを行い、新たに外国人労働者の受入れを行う
こととする場合には、以下のとおり「経済社会の活性化のための高度人材の獲得」
及び「労働力不足への対応」の2つの受入れ目的を想定することができる。
その場合、外国人労働者の受入れに当たっては、第2章で述べた7つの基本的
事項を十分に考慮し、受入れに当たっての基本方針を定めることが必要である。
(1)経済社会の活性化のための高度人材の獲得
(ア)受入れの目的
今後、我が国の経済の持続的な成長と国民生活の改善、向上を維持してい
くためには、戦略的な研究開発分野や産業分野を発展させることが不可欠で
あり、これらの研究開発の推進や産業の育成・発展のために一種の「起爆剤」
となり得る高度な技術・知識を有する卓越した人材(「高度人材」)を海外
に求める必要がある場合が想定される。
(イ)受入れの範囲等
受入れの範囲については、高付加価値で、発展の可能性のある研究開発の
推進や産業の育成・発展に必要不可欠な人材であり、専門的・技術的分野の
労働者のうちでも卓越した技術や知識を有する人材(本人自身が卓越した技
術者等である場合のほか、他の卓越した人材を発掘・育成する能力にたけて
いる者である場合も含まれる)の類型が想定される。「卓越した」の具体的
なレベルについては、例えば、日本の博士号程度以上のレベルの学歴を持つ
者又はそれに相当する職業経験上の実績を有する者などが考えられるが、こ
の点は更に検討することが必要である。
受入れ期間については、少なくとも当該研究開発の推進ないし当該産業の
育成に必要な期間となるが、そのような期間終了後も、当該分野を担う中核
的人材として引き続き就業し続けてもらうことも考えられる。
(ウ)想定される受入れ制度
国際的な人材獲得競争に勝てるよう、(1)既存の入国及び在留にかかる
手続の障壁を限りなくゼロに近づけるとともに、家族の在留条件の優遇や
在留期間の特例的延長など(2)外国人労働者及びその家族の入国・在留等
について優遇措置を講じることや、住環境に対する支援や子弟の教育面へ
の配慮など(3)出入国管理制度以外の外国人労働者関連諸施策について受
入れ促進措置を講じることが考えられる。
(2)労働力不足への対応
(ア)受入れの目的
今後、我が国の経済又は国民生活にとって不可欠な産業分野で、持続的な
ミスマッチも含めた労働力の不足状況が続き、国内労働者の供給を促進する
ための諸施策や労働環境改善のための施策、労働生産性向上策等を講じても
なお、労働力の量的不足が解消せず、当該産業分野の成長及び発展のボトル
ネックとなる状況が生じる場合に、不足する労働力を外国人労働者によって
確保する必要がある場合が想定される。
(イ)受入れの範囲等
この場合、まず、業種・職種ごとに、どの分野において、どのような理由
で、どのような労働力が不足しているのかということを明らかにすることが
重要である。そして、それらの分野の労働力不足への対応の方向については、
その分野が、基幹産業あるいは発展可能性のある産業として育成すべき部門
なのか、国民生活の安定性や国家の安全保障等の観点から国内に維持すべき
部門なのか等、我が国の長期的な産業・職業のビジョンをあらかじめ決定し
た上で、それに基づいてそれぞれの分野ごとに労働力不足のうちのどこまで
を外国人労働者の受入れによって対応するのかを明らかにしていく必要があ
る。受入れの期間については、労働力が不足している間に限られ、労働力不
足が解消された後は原則として帰国することとなる。
(ウ)想定される受入れ制度
国内労働市場に配慮した秩序ある形で、必要な分野に、必要な量を的確に
受け入れることができる制度である必要がある。具体的には、諸外国も導入
している(1)労働市場テスト(一定期間求人を出して国内労働者により充足
されないことを確認するなど国内労働市場の状況を踏まえて外国人に就労の
許可を与える制度)を導入することが考えられる他、急激な流入増等への対
応のための(2)受入れ上限の設定や、(3)金銭的負担等を課す受入れ(雇
用税(事業主が外国人を一人雇用するごとに一定の税金を払う制度)や雇用
率(外国人労働者が当該企業の労働者に占める割合に上限を設ける制度)等)、
個別分野ごとの(4)協定方式等による受入れ(国と国とで受入れ数や期間
などを取り決めて外国人を受け入れる制度等)についても考慮に値すると考
えられるが、いずれの方式も解決すべき課題が少なくない。
なお、このような形で外国人労働者を受け入れる場合には、現在受け入れ
ている日系人労働者については、日系人への需要の減少による入国者の減少
と帰国者の増加、その一方での一部の日系人の永住化等による日本社会への
定着が予想される。また、研修生及び技能実習生については、制度本来の目
的である技能の修得に一層特化した形への運営の見直しや技能評価制度の充
実等、制度の在り方についての見直しを検討する必要性が生じることも十分
に考えられる。
2.受入れ施策の在り方〜不法就労者対策について〜
外国人労働者を受け入れる場合には、受入れ制度の運営と併せて、不法入国者
を阻止し、既に滞在する不法就労者を確実に取り締まり、国外に退去させること
が必要であり、送出国等関係各国と連携を図ることの他、諸外国における総合的
な不法就労対策の例も参考にして、積極的な対応を行うことが必要である。
3.受入れの実施に当たっての前提として考慮しておくべきこと
これまで、移民を含めて、長期に外国人労働者及びその家族が在留し、生活す
ることを念頭に置いて制度を構築してこなかった我が国においては、言語、教育、
文化、宗教、参政権等の諸問題について、我が国国民と外国人労働者及びその家
族のアイデンティティについてどのように考え、どのように対応するのかという
基本的な権利及び義務等の問題から検討することが必要となってくる。これらの
点について国民的な議論を経てコンセンサスを形成する必要がある。
また、受け入れた外国人が日本社会で共生していくために、差別問題の発生の
防止と、日本人と同様の待遇の確保の観点から、例えば、国・地方自治体やNPO
等、外国人労働者及びその家族の受入れに関わる各機関の密接な連携による外国
人に対する情報の提供、相談、苦情処理など、制度的な枠組みを整備するのみな
らず、これに実効性を持たせるための様々な仕組みを用意しておくことが必要で
ある。
附記:人口減少対策
人口減少の全てを外国人の受入れで補おうとすることは現実的でないが、他の
様々な対策によって人口の増加ないしは維持を図ってもなお人口減少が続く場合
に、一定程度の人口を確保することにより経済社会の活性化を図るため、職業分
野に関係なく外国人を受け入れることも、一つの可能性として想定される。
この場合、まず各種の少子・高齢化対策を実施しても、経済社会の活力や国民
の生活水準の低下の流れをとどめることができず、かつ、「経済社会の活性化の
ための高度人材の獲得」や「労働力不足への対応」による受入れの効果を考慮し
た上で、それでもなお外国人の受入れによって減少する人口を直接補うことが必
要と考えられる場合に受け入れるものである。したがって、この受入れの場合、
人口の望ましい規模等について国民のコンセンサスが形成されていることが前提
となる。
なお、このタイプの受入れを検討する際には、人口減を補充するためには、継
続的に、非現実的とも言える規模の外国人を受け入れることが必要であること
(国連人口部の推計によると、ピークの人口を維持するためには年平均38万人、
生産年齢人口を維持するためには年平均61万人の移民受入れが必要とされている)
に留意すべきである。
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