戻る


1.現状と課題


2)現状の問題点

(1)高卒者の就職を取り巻く環境変化への対応

 高卒者の就職を取り巻く環境が非常に厳しくなっているのは先に述べたとおりであ

るが、求人規模の縮小をはじめ、さまざまな指標が悪化の一途をたどりはじめるのが

バブル経済の崩壊以降であることなどから、高卒者の就職環境悪化の最大の要因が景

気の低迷や雇用環境の構造的変化にあることがうかがえる。
 また、こうした中、企業は求人数の絞り込みとあわせて、採用する人材に対して早

期戦力化が可能となる人材を求める傾向が見られる。高卒者に対する求人の減少の背

景にはこうした要因があると推察される。
 しかしながら、このまま高卒者求人が減少を続け、雇用機会が縮小していくことは、

今後の経済や社会全体にとっても望ましいことではない。将来を担う人材を育てると

いう観点から、これ以上の求人規模の縮小を回避するための何らかの方策を今後検討

していく必要があるだろう。またその中で、企業側には即戦力を求めるだけではなく、

これまでのような新規高卒者の採用と育成もあわせて継続することが期待されるとこ

ろである。

(2)現行の就職の仕組みにおける問題


  (a)ミスマッチを生み出している可能性

  (学校側の要因)
   高校生の就職における問題点としては、まず、現行の就職慣行下の就職の仕組

  みが職業選択の自由という観点から見て妥当かどうかということが挙げられる。
   現行の仕組みの下では、原則として一度に1社にしか応募できないため、学校

  の指導の下、応募先企業を絞り込むことになる。特に求人数よりも希望者数が多

  かった場合は、校内選考を経てそれぞれの生徒の応募先が決められることが多い

  が、その際、ややもすると生徒の希望や適性にあった職業・就職先、あるいは生

  徒自身が納得した職業・就職先を選定する視点が軽視され、生徒の成績や出欠状

  況のみを重視した選考になっていないか、ということが指摘されるようになって

  きている。また、こうした状況の中で、生徒も企業を十分に研究せずによく知ら

  ないまま応募をしてしまっているとの指摘もある。

  (企業側のメリット・デメリット)
   一方、企業側としては、この仕組みの中では、各高校内で事前に選考された生

  徒のみが、応募してくることになることから、低コストで良質な高卒者の確保に

  つながっているというメリットがある。しかしながら、それは反面、学校が推薦

  してきた人を受け入れるだけで、多くの人材の中から自社にあう人材を直接選ぶ

  ことができないというデメリットがある。
   このようなプロセスが、短期間で大量の求人・求職に対し効率的なあっせんを

  実現している一方で、必ずしも生徒が納得した上でのあっせんを実現していない、

  あるいは適性のあった生徒を紹介できていないというミスマッチを生み出してい

  る可能性がある。
   なお、アンケート調査によると、高校卒業後すぐに収入をともなう仕事に就い

  た人のうち、高校当時の進路選択(仕事の選択や職業生活)について「満足して

  いる」と回答した人は過半数に満たなかったほか、「別の会社を選んだ方がよか

  った」と回答した人が2割に達した。また、最初についた仕事をすでに辞めた人

  の退職理由について見ると、「労働時間が長かったり不規則だった」に次いで

  「仕事が自分に合わなかった」を挙げる人が多くなっている(参考資料 図表4、

  参考資料 図表5)。

  (b)就職を希望しても、応募することすらできない生徒


   不況により求人の絶対数が減少している中、現行の仕組みの下では就職を希望

  していても応募することすらできないという生徒も見られるようになってきてい

  る。その原因としては、1つには指定校制の下で学校間で求人数に偏りが生じ、

  指定校枠をあまりもっていない学校では応募可能な求人数が少なくなっているこ

  とが挙げられる。
   また、一人一社の応募先が、校内選考により割り当てられるため、特に求人数

  自体が少ない現在では、学業成績や出欠状況のみを重視した校内選考が行われる

  と、推薦されにくい生徒が生じてしまうことが挙げられる。さらに、こうしたこ

  とから、当初は就職を希望していても、自分の学業成績や出欠状況から判断して、

  自ら応募することをあきらめてしまう生徒も少なくないと指摘されている。この

  ような事態が卒業後の無業化、フリーター化につながっていく可能性も指摘され

  ている。
   なお、アンケート調査では、就職活動中に「学校の指導で希望する会社を受け

  られない」と「とても感じた」人及び「少し感じた」人はあわせて2割弱程度で

  あった(参考資料 図表2)。

(3)職業意識形成上の問題

 就職する高校生の資質や能力については、先に見たとおり企業側から厳しい見方も

されるようになってきている。
 このように、高校生の職業意識の形成が十分なされていないのは、日常的な教育や、

社会の中で生徒の職業意識を形成していくシステムができていないところに起因する

ものも大きいと考えられる。まず、学校の指導自体が、就職先の紹介、あっせんや、

履歴書の書き方や面接試験の受け方などが中心となり、たとえば入学時からの計画的・

継続的な指導により生徒の職業意識を形成していくような体制には必ずしもなってい

ないことがあげられる。そのために大きな役割を果たすと考えられる体験活動につい

ても、その意義や必要性の認識等が十分ではない学校もあることなどが指摘できる。
 さらには、高校生を含む若年層の職業意識の形成は、将来を担う若者を育てるとい

う意味で、単に学校だけではなく社会の問題でもある。しかしながら、そのような問

題意識が社会全体で共有されているとは言い難く、社会として生徒の職業意識を形成

していくような仕組みやシステムも十分には形成されていない。

                        TOP

                        戻る