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            パート労働の課題と対応の方向性

          (パートタイム労働研究会の最終報告)



               平成14年7月

まとめ



(求められる方向性)



 これまでみてきたように、企業、個人、双方が柔軟で多様な働き方を求める方向を

指し示している中で、パート等の働き方が拡大していくのは不可逆的な流れである。

主に男性が若年、壮年の時期に集中的に働いて産業社会や家計を支えた時代から、女

性や高齢者を含め、幅広い社会構成員がライフスタイルに合わせてゆとりを持って働

く時代に変化しつつある。



(問題点と課題)



 ただ、現状をみると、パート等において基幹的な役割が増しているにもかかわらず、

処遇や雇用保障の面で働きに見合った対応がなされているとは言い難い。正社員とパ

ートとの大きな処遇差の中で正社員からパートへのシフトが加速しており、正社員雇

用の入り口が狭まるなど、労働市場のアンバランスも広がっている。近年、若年のパ

ート入職が急増している背景にも、若年者の意識の問題のみならず、こうした労働市

場の問題が内在している。

 今後、多様な働き方の拡大は不可逆的な流れであるとしても、それが労働市場全体

の不安定化や処遇条件の低下に結びつくのではなく、いわば多様な働き方が「望まし

い」形で広がっていくためには、どうすればよいのか。それは今後のわが国の労働市

場のあり方にも関わる重要課題である。

 同時に、多様な働き方が「望ましい」形で広がっていく仕組みができれば、それは

少子化の下での社会の支え手の確保に寄与し、子育て後の魅力ある再就職の道を開く

ことにより少子化抑制にも寄与するものと考えられる。



(あるべき雇用システム)



 こうした課題への対応を考える上で、1,200万人を超えるパートのグループとして

の大きさやフルタイムも含めた就業意識の変化を念頭に置かねばならない。すなわち

部分的にパートの処遇改善をすればいいということではなく、フルタイム正社員の働

き方や処遇のあり方も含めた雇用システム全体の見直しが必要である。

 一つの方向性として、現在の雇用システムを多元化し、フルタイムでも配転、残業

などの拘束性の少ない働き方を中間形態として位置づけ、他方、パートであってもよ

り基幹的な役割を果たすグループについては、やはりそこに位置づけ、その中では、

フルとパートの評価・処遇の仕組みをできるだけ合わせていくという考え方がありう

る。こうした多元化した仕組みの中で、フル、パートを問わず「働きに応じた処遇や

雇用保障の仕組み」を確立していくことや、ライフステージの中でそれぞれの働き方

の行き来が可能となる「連続的な仕組み」を構築していくことが根本的な問題解決へ

の道であると考えられる。



(政策課題)



 問題は、こうした仕組み作りをいかに進めていくかであるが、それはすでに進みつ

つある複線型人事管理や仕事・能力・成果で評価する処遇制度の流れの延長線上にあ

るものであり、企業の雇用処遇システムは、こうした仕組みを形成する途上にあると

考えられる。これを政策的に推進していくための条件は何か。

 いま、労使の間でワークシェアリングの議論が活発化しているが、こうした機会を

とらえて多様な働き方が広がる中での雇用処遇システム全体のあり方について大所高

所からの議論が行われ、



  ・企業側は、自らの活性化のために、パートの戦力化や働きに見合った処遇を進

   めることの重要性を、



  ・労働側は、パートのみならず、正社員の雇用安定のためにも、パートの処遇向

   上を正社員の処遇を見直してでも進めることの重要性を、



ともに強く認識する中で、正社員、パートの双方が「働きに見合って処遇される」仕

組みについて労使間の包括的な合意に至ることが期待される。

 政府は、こうした労使の取組を推進するべく、多様な働き方がより望ましい形で広

がっていくための制度改革を着実に実行していくべきである。実行にあたっては、

「企業の雇用の選択肢を拡大する方向での制度改革の要素」と「多様な働き方の下で

の雇用保障や処遇についての公正なルール確保の要素」の両面を有機的に組み合わせ、

総合的なパッケージとして進めていくことが大切である。

 前者の要素としては、派遣労働者の拡大、有期労働契約の拡大、裁量労働制の拡大

など就労形態の多様化を可能とする制度改革が中心となるが、後者の要素としては、

(1)パートについての日本型均衡処遇ルールの確立、(2)フルとパートの行き来ができ

る仕組みの推進、(3)働き方に中立的な税・社会保険制度の構築、などの制度改革や

環境整備が重要である。

 このうち、(1)については、「フルかパートかにかかわらず、働き方が同じであれ

ば、同じ評価の枠組みの中で処遇する」というルールを確立するための法整備につい

て国民的合意を進めていくことが必要であり、そのためにもルールの具体的な内容を

わかりやすく事業主等に示すためのガイドラインを策定すべき(別添ガイドライン案

参照)である。

 (2)については、フルとパートの行き来ができる仕組みを社会的に醸成していく上

で、フルタイム正社員とパート非正社員のバイパスとしての「短時間正社員制度」を

政策的に広げていくことが有効であると考えられることから、企業のこうした制度導

入への取組への支援のあり方を検討すべきである。

 (3)については、税、社会保険制度の関係で、収入が一定額を超えないようにする

就業調整行動については、低賃金を助長し、能力発揮への妨げにもなっていることか

ら、年金制度等について、適用拡大による労使の保険料負担の増加に配慮しつつ、パ

ートに対して被用者にふさわしい年金保障を行うことの重要性を認識する中で、パー

トへの適用拡大を行う方向で検討を進めることが必要である。

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