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                              平成10年2月

                              労働省労働基準局





平成10年度労働基準行政の運営について
第1 労働基準行政を取り巻く情勢と課題

第2 平成10年度労働基準行政の重点対策

第3 労働基準行政展開に当たっての基本的対応






第1 労働基準行政を取り巻く情勢と課題



 1 社会経済情勢



   我が国経済は、累次の経済対策の実施により景気を下支えしてきたにもかか

  わらず、力強い景気回復の軌道に乗っておらず、最近の動向をみると、家計や

  企業の景況感の厳しさが個人消費や設備投資に影響を及ぼしており、景気はこ

  のところ停滞している。

   また、中長期的には、経済活動のグローバル化や情報化、サービス経済化さ

  らには技術革新の進展等内外にわたる経済環境や産業・就業構造の大きな変化

  が進みつつあるとともに、急速な少子・高齢化の進展に伴う労働力供給構造の

  変化が予想される。

   さらに、雇用情勢については、完全失業率が高い水準で推移するなど厳しい

  状況にある。

   こうした中で、政府では、平成10年度においては、適切かつ機動的な経済

  運営に努めることにより、我が国経済を民間需要中心の自律的な安定成長軌道

  に乗せていくとともに、経済構造改革・行財政改革の推進等を行っていくこと

  としている。







 2 労働基準行政を取り巻く情勢と課題



  1 労働基準法制を取り巻く情勢と課題



    現在、我が国においては、経済活動のグローバル化が進んでおり、企業の

   世界的な競争が激化し、国境を越えた経営資源の移動が加速する中で、雇用

   の維持・創出、豊かで安心できる社会、健全で活力ある経済を実現していく

   ためには、産業、企業が積極的に事業展開できるようにするとともに、労働

   者も創造的な能力を十分に発揮し、労働を通じて自己実現ができるようにし

   ていくことが重要となっている。

    また、情報化、サービス経済化さらには技術革新に伴い働き方の多様化が

   進行しているとともに、女性や若年者、高齢者を始めとして多様な働き方を

   求める労働者が増加しており、こうした労働者が意欲を持ち安心して働くこ

   とができるようにしていくことが重要となっている。特に、男女共同参画社

   会の実現に向け男女労働者が共に充実した職業生活と家庭生活を営むことが

   できるよう職場における労働条件や環境の整備を進めることが重要となって

   いる。

    さらに、高学歴化が進み、就業意識やライフスタイルが変化する中で、専

   門的な知識、技術や創造的な能力をいかし、主体性を持って働きたいという

   労働者の増加がみられ、こうした労働者の要請に応えつつ、複雑化、個別化

   する労働関係が公正、妥当なものとなるようにしていくことが必要となって

   いる。

    こうした状況の下で、従来行われてきた労働条件に係る法規制については

   、求められる効果が今日なお十分に及び得ていないものは実効性を高めるた

   めの方策を講ずるとともに、労働条件をめぐる状況の変化により規制の意義

   が薄れてきているものは率直に見直すことの必要性が増している。

    以上の基本的視点に立って、現行の労働基準法制について、中小企業及び

   そこで働く労働者等の実情にも配慮しつつ、その実効性を高めるための制度

   的基盤を強化するとともに、経済社会及び労使の新たな要請に応えるべく、

   労働者の主体的な選択の可能性を広げ、併せて労働者保護及び職業生活と家

   庭生活との調和の観点から、労働者が健康で安心して働ける環境の形成を図

   ることとし、そのための新たなルールを設定することが必要である。





  2 労働時間を取り巻く情勢と課題



    平成9年における年間総実労働時間は1,900時間、所定内労働時間は1

   ,750時間と前年に比べそれぞれ19時間、24時間減少し、いずれも過

   去最低となった。

    こうした中で、週40時間労働制の実施事業場の割合は平成9年5月から

   6月に実施した調査によると約8割となっており、早期にすべての事業場で

   週40時間労働制が実施され、定着するよう、中小企業に対し、地域の実情

   に応じた効果的かつきめ細かな指導・援助を精力的に行う必要がある。





  3 現下の経済情勢の変化に対応した労働条件面での課題



    経済情勢を反映して企業倒産が増加しており、昨年来大型倒産も続発して

   いる。これに伴い、解雇や賃金不払事案の発生は依然として予断を許さない

   状況にある。こうしたことから、これらの事案に関するものについて早期に

   情報を把握するとともに、労働条件についての相談・申告に対し的確に対応

   していく必要がある。





  4 労働者の安全と健康確保を取り巻く情勢と課題



    労働災害による被災者数は、今なお年間約60万人を数えている。特に、

   死亡災害については、昭和56年に初めて3千人を割って以降、2千人台で

   推移するとともに、一度に3人以上が被災する重大災害についても年間20

   0件前後で推移し、減少の傾向が認められない。さらに、昨今の厳しい経済

   情勢の下で、依然として安全衛生に係る意識の低下や活動の停滞が懸念され

   る。

    このような状況の中、平成10年度から新たにスタートする第9次の労働

   災害防止計画に基づき、改めて原点に立ち返って安全衛生活動の展開を図る

   とともに、死亡災害の大幅な減少を図ることが重要な課題である。

    このためには、まず、企業における安全衛生管理活動や労使が一体となっ

   た安全衛生活動の積極的な実施を促進することが重要であり、特に、事業者

   及び労働者の安全衛生意識の高揚を図る必要がある。

    また、死亡災害全体の約4割を占める建設業を始めとする死亡災害が多発

   している業種や交通労働災害に係る対策を推進することが重要である。

    一方、最近の労働者の健康状況を見てみると、依然として、じん肺、有機

   溶剤中毒等の職業性疾病の発生は後を絶たず、また、高齢化の進展、産業構

   造の変化等に伴い、脳や心臓の疾患につながる所見を有する労働者が増加し

   ているとともに、疲労やストレスを感じている労働者の割合が増加しており

   、これら業務上の心身の負担の増大等に対応した労働衛生対策の推進を図る

   必要がある。





  5 労災補償を取り巻く情勢と課題



    最近の労災補償の動向としては、厳しい社会経済情勢の下、「過労死」、

   「自殺」等の問題が社会的にも大きな関心を集めており、今後、これらの労

   災請求は増加するものと見込まれる。

    これらの事案を含めた業務上疾病等の複雑・困難事案については、被災労

   働者及びその遺族の早期救済という労働者災害補償保険法の基本理念に基づ

   き、より一層、迅速・適正な労災補償の実施に努める必要がある。

    また、重度被災労働者に対する介護施策については、近年の核家族化の進

   展や重度被災労働者及びその介護に当たる者の高齢化等により、家族の介護

   負担が大きくなっていることにかんがみ、体系的に施策を推進していく必要

   がある。









第2 平成10年度労働基準行政の重点対策



   平成10年度の労働基準行政の運営に当たっては、上記第1のような情勢を

  踏まえ、労働時間法制及び労働契約等法制の整備を推進するとともに、週40

  時間労働制の完全定着を始めとした法定労働条件の履行確保はもとより、より

  質の高い労働条件、労働環境の実現を図ることを目指し、以下に示す対策を重

  点として行政を推進していく必要がある。







 1 労働時間法制及び労働契約等法制の整備等



  1 経済社会の変化に対応した労働基準法の改正等



    産業、就業構造や就業意識の変化等に対応した働き方の新たなルールを設

   定するため、「労働基準法の一部を改正する法律案」を今通常国会に提出し

   たところであり、その成立を待って、関係政省令等の整備等の施行準備に万

   全を期することとする。





  2 改正労働基準法等の周知



    1により提出した改正労働基準法の成立を待って、その内容について事業

   主等に対する周知に万全を期することとする。





  3 労働条件紛争の解決援助のためのシステムの整備



    社会経済情勢の変化等を背景として、労働条件をめぐる様々な紛争は増加

   傾向にある。このため、個別の労働契約に関する苦情等に的確に対応し紛争

   を未然に防止するため、相談等の多い労働基準監督署を中心に設置された労

   働条件相談員等による懇切丁寧な相談・支援をより積極的に実施することと

   する。また、平成10年10月より、各都道府県労働基準局において、労働

   条件紛争担当官(仮称)を中心に紛争当事者の求めに応じ、必要に応じ判例

   法理や労働問題に関し専門的知識等を有する者の意見を聴取して紛争事案の

   問題点の整理等を行い、それらを都道府県労働基準局長の指導・助言という

   形で当事者に提示することによって労使の自主的な紛争解決を促進すること

   を予定しているので、改正労働基準法の成立を待って、その実施に万全を期

   することとする。





  4 その他



   イ 労働条件明示のためのモデル就業規則等普及促進事業



     労働契約締結時の書面による労働条件明示事項の追加が予定されている

    ことから、中小事業主に過大な負担となることなく、これら明示が適切か

    つ確実に行われるよう、労働者の雇用形態別に定型化したモデル様式を作

    成し、その普及を図る。

     また、労働基準監督署単位ごとに10人未満規模事業場を多数構成員と

    する中小企業集団を指定し、当該集団の自主的な就業規則の普及促進を支

    援する。



   ロ 深夜業に係る諸問題についての調査・検討



     深夜業に係る諸問題についての検討に資するため、深夜業に従事する労

    働者の就労実態等の調査及び深夜業による健康影響の調査研究を行う。







 2 労働時間対策



  1 週40時間労働制の完全定着及び労働時間短縮の促進



   イ 労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法に基づく施策の推進等



     週40時間労働制については、労働時間の短縮の促進に関する臨時措置

    法において2年間の指導期間が設けられ、その定着のためのきめ細かな

    指導・援助を精力的に行っているが、なお約2割の事業場において週40

    時間労働制が実施されていない状況にある。このため、特例措置対象事業

    場を除くすべての事業場において早期に週40時間労働制が実施され、定

    着するよう、指導期間の後半に当たる平成10年度においては、平成9年

    度の取組の成果を踏まえ、指導・援助の手法や内容等について最大の効果

    が上がるよう地域ごとの実情に応じたきめ細かな指導・援助を精力的に行

    う。

     具体的には、労働時間短縮支援センターの実施する「中小企業時短促進

    援助事業」の活用により、週40時間労働制の対応が遅れている団体や事

    業場等に対し週40時間労働制の定着のための指導・援助を効果的に実施

    するとともに、「事業主団体等労働時間短縮自主点検事業助成金制度」に

    ついて助成対象団体数の拡大及び事業運用の改善等を行い積極的な活用を

    促進することにより、中小企業の事業主団体等における自主的な取組によ

    る週40時間労働制の定着を進める。

     また、特に指導・援助が必要な中小企業事業主に対しては、週40時間

    労働制の定着等を図るため、省力化投資等、雇入れ措置やコンサルタント

    の活用を行った中小企業事業主に対して助成を行う「中小企業労働時間制

    度改善助成金制度」の活用の促進や変形労働時間制の採用、業務の効率化

    等の週40時間労働制の定着を図るための具体的な対応策についての情報

    提供や個別相談を積極的に行う。

     これらの対策の実施に当たっては、平成9年度に重点とした自主的な取

    組の促進よりは更なる指導・援助が必要と認められる事業場等を対象とす

    る集中的な指導に比重を移した取組を行うとともに、地域ごとの実情を踏

    まえた取組を強化する。

     さらに、引き続き「労働時間短縮実施計画」の承認制度を活用し、承認

    を受けた事業主を含む中小企業の事業主団体が行う所定外労働の削減や年

    次有給休暇の取得日数の増加等の労働時間短縮のための自主的な取組に対

    して助成制度の活用を図る。



   ロ 自動車運転者の労働時間等の改善対策



     「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の遵守の徹底等により、

    自動車運転者の労働時間等の労働条件の改善を図る。





  2 年次有給休暇の取得促進



    「ゆとり休暇推進要綱」に基づき、年次有給休暇の取得促進のため、広報

   ・啓発及び労使の自主的取組に対する指導・援助を行う。また、業種や地域

   の事業主団体が業界、地域の特性に即した年次有給休暇の積極的かつ有効な

   活用を促進するための必要かつ効果的な条件体制を検討し、その実現のため

   の手法を開発する「活力とゆとりをめざす休暇推進モデル事業」を実施する

   。





  3 所定外労働の削減対策の推進



    「時間外労働協定の適正化指針」を周知徹底するとともに、「所定外労働

   削減要綱」に基づき、所定外労働削減のための広報・啓発を行う。





  4 フレックスタイム制等の弾力的な労働時間制度の普及促進及び指導・援助



    フレックスタイム制等の弾力的な労働時間制度の普及促進を図るとともに

   、これらの制度の適用を受ける労働者について適正な労働条件が確保される

   よう事業主に対する指導・援助を行う。







 3 労働条件改善対策



  1 現下の経済情勢を反映して生ずる問題への対応



   イ 解雇、賃金不払事案等に対する的確な対応



     企業倒産が増加しつつあることから、管内の経済情勢を注視し、企業の

    を動向的確に把握するよう努める。

     また、企業倒産、事業場閉鎖等の情報を把握した場合には、賃金・退職

    金の支払状況、社内預金の保全状況等を早期かつ的確に把握し、賃金不払

    の発生の防止及びその早期解決に努める。

     特に、このところ続発している大型倒産事案については、関連会社を含

    めできる限り早期に情報を把握し、時機を逸することなく賃金不払等が発

    生することのないよう指導を行う。

     さらに、解雇、賃金不払等に関する相談・申告がなされた場合において

    は、労働基準法上問題が認められるときは、解決のために迅速・的確な処

    理を行うとともに、労働基準法上問題が認められないときであっても、関

    連する裁判例等相談者が必要とする情報を提供するなど懇切丁寧な対応に

    努める。



   ロ 未払賃金立替払制度の適正な運営等



     厳しい経済情勢等に対応し、企業倒産により賃金の支払が受けられない

    労働者に対する未払賃金立替払制度について、立替払の対象となる未払賃

    金の限度額の引上げを行うとともに、制度の周知、迅速・確実な事務処理

    に努める。





  2 最低賃金制度の適正な運営



    地域別最低賃金については、地域の実情に応じた適正な改正を行う。

    産業別最低賃金については、地域別最低賃金との関係にも配慮しつつ、産

   業の実情に応じた円滑な改正等を行う。

    また、最低賃金の周知徹底に努めるとともに、問題のある地域、業種を的

   確に把握しつつ、その遵守を徹底する。





  3 賃金・退職金制度等の改善の推進



    企業年金に関する包括的な基本法の制定についての検討を、労働省、大蔵省

   、厚生省の3省において引き続き行うとともに、今後の望ましい企業年金制

   度の設計、運用等の在り方についての調査・検討を行う。

    また、「中小企業賃金制度支援事業」を効果的に推進する。





  4 労働基準法の実効性の確保のための取組の推進



    労働条件の最低基準を定める労働基準法は、厳格に遵守されその実効性が

   確保されることが不可欠である。特に、事業場における労働条件については

   、就業規則の作成、各種の労使協定の適切な締結等により、労働条件が明確

   に定められ、これが労使において周知徹底されていることが重要であるが、

   未だ一部にはこれらが的確に行われていない。

    また、経済社会の構造的変化に伴う就業形態や労働者の意識の多様化の中

   で、新たな労働環境が形成されつつあるが、このような変化の下で一部には

   不適切な労働条件管理を行い、労働基準法を逸脱するなどの問題も見受けら

   れる。

    このため、労働基準監督機関としては、労働基準法に定める最低基準の厳

   格な施行を図るとともに、特に、就業規則の作成及び労使間での話し合いが

   重要な各種の労使協定の適切な締結等を促進し、法定労働条件を事業場に確

   実に定着させるための取組を今後より一層推進することとする。





  5 その他



   イ 障害者である労働者の労働条件確保対策の推進



     障害者である労働者の労働環境の整備が強く求められる状況の中で、そ

    の法定労働条件の履行確保を図るため、関係機関との連携の下、これら労

    働者を使用する事業主に対する啓発・指導に努めるとともに、的確な情報

    の把握を行い、問題事案の発生の防止及び早期是正に努める。



   ロ 短時間労働者の労働条件確保対策の推進



     「短時間労働者対策基本方針」に従い、法律及び「事業主が講ずべき短

    時間労働者の雇用管理の改善等のための措置に関する指針」の趣旨及び内

    容についての周知・啓発活動を重点とした対策を「パートタイム労働旬間

    」等を中心に引き続き推進し、事業主による自主的な取組を促進する。

     また、「パートタイム労働者の労働条件整備事業」及び「パートタイム

    労働者の労働災害防止事業」を効果的に推進する。



   ハ 外国人労働者対策の推進



     外国人労働者にも労働基準法等関係法令が適用されることを周知徹底す

    るとともに、「外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針」に基づく

    啓発・指導等により、引き続き外国人労働者の適正な労働条件及び安全衛

    生の確保対策を推進する。



   ニ 出稼労働者の労働条件確保対策の推進



     「出稼労働者対策要綱」等に基づき、適正な賃金の支払の確保、有給休

    暇制度の普及促進、労働災害の防止、健康管理の充実等を重点に対策を引

    き続き推進する。



   ホ 労働条件制度整備支援事業の推進



     労働条件制度の整備に向けた事業主及び事業主団体による自主的かつ計

    画的な取組を促進するため、「労働条件制度整備支援事業」を推進する。







 4 労働者の安全と健康確保対策



  1 原点に立ち返った安全衛生活動の展開



   イ 厳しい経済情勢下における安全衛生意識の啓発



     昨今の厳しい経済情勢の下、相対的に低下することが懸念される安全衛

    生意識の高揚を図るため、あらゆる機会をとらえ、より積極的な啓発活動

    を展開するとともに、さらに効果的な広報活動を行う。

     また、安全衛生意識の高揚を図るための各種手法の見直し等について検

    討を行う。



   ロ 労使一体となった安全衛生活動の推進



     労使による活発な安全衛生委員会の活動を支援するため、具体的な運営

    方法、調査審議の進め方等に関する検討を行う。

     また、職長クラスの安全管理に対する意欲を高めるため、安全優良労働

    者に対する顕彰制度(仮称)を新設し、その適切な実施を図る。



   ハ 中小企業における自主的な安全衛生管理活動の推進



     「中小企業安全衛生活動促進事業助成制度」における認定集団の安全衛

    生活動の一層の活性化及び当該助成期間終了後の集団(登録集団)に対す

    る安全衛生活動の継続的実施を図るための指導・援助を行う。

     また、新たに制度の改善を行った労働安全衛生融資や産業安全衛生施設

    等融資及び快適職場形成融資の積極的な活用の促進を図る。



   ニ 安全衛生管理対策の強化



     安全衛生担当者が退職等により異動する場合に、事業場の安全衛生水準

    が低下することのないよう、当該担当者の安全衛生管理のノウハウが円滑

    に継承される手法等を検討するほか、安全衛生管理に係るノウハウや実績

    を有する事業場外の組織を活用し、各種安全衛生対策を総合的に進めるた

    めの仕組みについて検討する。



   ホ 適切な情報提供を可能とする安全衛生総合センターの整備



     事業場が安全衛生活動を進める上で必要な情報を提供する等のため、安

    全衛生情報収集・加工・提供システム等の開発を行う。



   ヘ 安全衛生分野における科学技術研究等の推進



     産業安全研究所及び産業医学総合研究所について研究評価体制の充実等

    を図るとともに、労働災害の減少を図るための研究、職業性疾病予防のた

    めの研究、技術革新の進展等に伴う安全衛生問題に関する研究等を総合的

    に推進する。





  2 死亡災害を大幅に減少させるための施策の展開



   イ 建設業における労働災害防止対策の推進



     「中小地場総合工事業者指導力向上事業(仮称)」を新たに実施するこ

    と等により、中小地場総合工事業者が元請となって施工する工事現場にお

    ける労働災害防止対策を総合的に推進する。

     また、改正労働安全衛生規則及び「土石流による労働災害防止のための

    ガイドライン(仮称)」の周知徹底を図るとともに、「土石流労働災害防

    止モデル事業(仮称)」の実施等により、土石流による労働災害防止を徹

    底する。

     さらに、「足場先行工法に関するガイドライン」の周知徹底、「木造家

    屋等低層住宅建築工事安全対策推進モデル事業」の実施等により足場先行

    工法の普及定着を図り、木造家屋等低層住宅建築工事における墜落災害の

    防止を徹底する。

     加えて、「元方事業者による建設現場安全管理指針」の徹底を図るとと

    もに、「専門工事業者安全管理活動等促進事業」を引き続き実施し、専門

    工事業者の安全管理能力の向上を図る。



   ロ 交通労働災害防止対策の推進



     交通労働災害を防止するため、「交通労働災害防止のためのガイドラ

    イン」の周知を図るとともに、「交通労働災害防止対策推進事業」を実施

    する。

     また、交通労働災害防止担当管理者教育及び自動車運転業務従事者に対

    する教育の推進を図る。

     さらに、「交通労働災害防止関係機関連絡協議会」の実効ある開催等に

    より、警察・陸運局等の関係行政機関及び関係団体との連携を強化する。



   ハ 第三次産業における労働災害防止対策の推進



     業種別の労働災害防止対策ガイドラインの周知徹底を図るとともに、業

    界団体の自主的な活動の促進のための支援を行う。



   ニ 機械設備の労働災害防止対策の推進



     機械設備に係る災害を防止するため、ハード面の対策として、フェール

    セーフに係る技術指針を策定・普及することにより機械設備の本質安全化

    を推進するとともに、引き続きすべての機械設備に適用される包括的な安

    全基準の検討を行う。併せて、ソフト面の対策として、メーカーからユー

    ザーに対して機械設備の危険情報の開示を行わせるための検討を行う。

     また、プレス機械・木材加工用機械による労働災害を防止するため、当

    該機械の一層の安全化、作業の安全化等を総合的に推進する。

     さらに、クレーン等安全規則の改正により新たに設けられた床上運転式

    クレーンに限定したクレーン運転士免許について、その周知徹底を図ると

    ともに適切な運用を図る。

     加えて、クレーン等に係る災害の中で玉掛けに関する災害の占める割合

    が高いことから、玉掛けの安全作業方法等についての検討を行う。



   ホ 爆発・火災災害防止対策の推進



     化学工業及び廃棄物処理業等における爆発・火災災害防止の徹底を図る。

     また、化学プラントに係るセーフティ・アセスメントの充実を図るため

    の検討を行う。





  3 労働者の健康確保対策



   イ 産業保健サービス機能の充実と勤労者のための医療提供体制の強化



     労働者の心身の健康を確保するに当たっては、疾病予防活動の充実やメ

    ンタルヘルスの問題への対応等勤労者医療を一層充実していく必要がある

    。このため、労災病院、産業保健推進センター、地域産業保健センター、

    労災指定医療機関等のネットワーク化を図ることにより、産業保健サービ

    ス機能を充実・強化していく。また、労災病院の有する特色を一層発揮で

    きるよう、各労災病院の専門性を向上していくとともに、メンタル面も含

    めてリハビリテーション医療を充実していく。



   ロ 産業保健活動の活性化の推進



     本年10月から改正労働安全衛生法の産業医の要件に係る規定が完全実

    施されることに十分留意して、産業医の選任を徹底させるとともに、その

    的確な職務遂行の励行を図るほか、健康診断の確実な実施及びその結果に

    基づく適切な就業上の措置の実施の徹底を図る。また、最近の労働者の健

    康状況の変化に対応し、一般定期健康診断項目の見直しを行う。さらに、

    労働者の健康確保対策を担う衛生管理者等について、その活動の活性化を

    図る。

     一方、小規模事業場の労働者の健康管理を促進するため、ニ−ズに即し

    た地域産業保健センタ−の機能を強化し、その利用の促進を図るほか、「

    小規模事業場産業保健活動支援促進事業」の一層の促進を図る。また、産

    業保健推進センターの整備を進めるとともに、その活動を強化して利用の

    促進を図る。

     さらに、職場における心身両面にわたる健康保持増進対策を推進すると

    ともに、労働者の自主的な健康管理の促進について検討を行う。



   ハ 職業性疾病予防対策等の推進



     第5次粉じん障害防止総合対策(仮称)に基づき、中長期的な観点に立

    脚した粉じん作業に関する適正な作業環境管理、作業管理及び健康管理を

    推進することによって、じん肺の発生及び進行の防止を図る。特に、中小

    規模事業場における粉じん障害防止対策をより一層推進するため、粉じん

    障害防止対策のモデルとなる事業場を育成するとともに、当該改善結果の

    同業種の事業場への周知普及を図る。

     また、粉じん障害防止規則等の改正により、粉じんの発散の防止を図る

    ための措置の一つとしてプッシュプル型換気装置の設置を認めることとし

    ており、その周知を図る。

     さらに、国際放射線防護委員会(ICRP)勧告の取り入れに伴い、電

    離放射線障害防止規則の見直しを行う。



   ニ 化学物質に係る健康障害予防対策の推進



     化学物質に係る健康障害予防対策の充実を図るとともに、特に、建設業

    けにおる一酸化炭素中毒、有機溶剤中毒については、その撲滅に向け、法

    令の遵守はもちろんのこと、その防止のためのガイドラインの周知徹底を

    図る。

     また、化学物質の生殖毒性、神経毒性等について、専門家による検討結

    果等に基づき、人への有害性の評価を行い、有害な物質に係る健康障害防

    止対策を推進するため、作業環境測定手法、健康診断手法等の検討・開発

    を行う。

     さらに、廃棄物処理業におけるダイオキシン等へのばく露状況の把握の

    ための調査・検討を行い、適切な対応を期する。





  4 高齢化の進展、就業形態の多様化等に対応した対策の推進



   イ 職場環境の快適化の推進



     高年齢者等に配慮した快適化の措置に関する事例及び女性の就業分野の

    拡大等に対応した快適化の措置に関する事例を収集・提供し、快適化の促

    進の周知・指導を図るとともに、労働者の意見の把握等に基づく継続的・

    組織的な快適化の取組のための管理手法等について検討する。

     また、屋外の厳しい環境下で作業することが多い建設業、林業、陸上貨

    送物運業等の快適化について周知・指導を図る。



   ロ 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進



     従来、若年労働者が中心であった職場にも高年齢労働者が増加しつつあ

    ることを踏まえ、高年齢者と若年者が共に働く職場における労働災害防止

    対策について検討するとともに、職場の高齢化に対応した安全衛生基準の

    見直しに関する調査研究を行う。





  5 国際化に対応した安全衛生対策の推進



    海外進出企業等に対する安全衛生情報の提供及び海外派遣労働者に対する

   安全衛生教育、開発途上国の安全衛生指導者に対する教育等を実施する国際

   安全衛生センター(仮称)の設置を推進するとともに、海外派遣労働者の安

   全衛生を確保するため、海外安全衛生の情報の提供、安全衛生専門家の派遣

   等を行う。







 5 労災補償対策



  1 労災保険給付の迅速・適正な処理



    業務上疾病等の複雑・困難事案については、その事務処理に長期間を要し

   ているものも見られることから、引き続き地方労災医員を増置する等事務処

   理体制の整備を行うとともに、これらの効果的な活用を図ることにより、よ

   り一層の迅速・適正な事務処理を推進する。

    なお、近年、精神障害に係る自殺等の労災請求事案の増加や業務上疾病に

   係る新たな医学的知見が示される等により、新たな対応が必要になってきて

   いることから、これらの取扱い等について検討する。

    また、労災診療費の審査については、財労災保険情報センターとの連携に

   より的確な審査を行うとともに、医療機関からの誤請求については、その解

   消を図るため、都道府県医師会等の協力を得るとともに誤請求の多い医療機

   関に対する指導の強化等に努め、さらに、柔道整復師の施術料金についても

   的確な審査に努める。





  2 重度被災労働者に対する介護施策の推進



    在宅での介護に関する専門的な相談援助を行う「労災ケアサポート事業」

   、在宅の重度被災労働者に対して介護サービスを提供する「労災ホームヘル

   プサービス事業」、安価な料金で介護機器を活用できる「介護機器レンタル

   事業」、在宅介護に対応した住宅の新築、改造等の費用を低利貸付する「在

   宅介護住宅資金貸付制度」を推進するとともに、労災特別介護施設(ケアプ

   ラザ)の計画的整備を進めるほか、当該施設を活用した短期滞在介護サービ

   ス等を提供する。





  3 被災労働者の早期社会復帰対策の総合的推進



    被災労働者の社会復帰を支援・促進するため、義肢等補装具の支給対象者

   の拡大及び支給種目の新たな追加を行う。

    また、長期療養者については、症状固定後の職場生活順応への危惧、健康

   維持への不安等が社会復帰の阻害要因となることが多いことから、社会復帰

   を促すため、各種援護金、アフターケア及び義肢等補装具支給制度の活用を

   図り、療養から社会復帰までの一貫した総合的対策を推進する。





  4 労災保険率等の適正な適用の推進



    労災保険率等の適用に当たっては、本年4月に実施することとしている労

   災保険率表における事業の種類の統合・新設並びに労災保険率、特別加入保

   険料率及び労務費率の改定に十分留意の上、適正な適用を推進する。

    なお、労災保険率等の適正な適用については、引き続き都道府県との密接

   な連携を図る。





  5 労災指定団体制度の効果的な推進



    平成10年度から新たに第5期の指定期間(3年間)が始まるに当たり、

   団指定体が作成する収支改善計画の円滑な実施に向け、収支改善対策協議会

   等により、指定団体に対し労働災害の防止、保険料の適正な申告等の指導を

   行い、収支改善対策の一層の推進を図る。









第3 労働基準行政展開に当たっての基本的対応



 1 計画的・効率的な行政の運営



   労働基準行政の運営に当たっては、管内事情を継続的に把握しつつ、これに

  即した重点課題を自主的かつ的確に選定し、重点指向に徹した運営を図る。

   また、重大事故の発生に対しては、迅速かつ的確に対応するとともに、労働

  災害の多発等管内事情の変化に対しては、機動的に対応する。





 2 各種手法による的確な行政展開



  1 的確かつ厳正な監督指導の実施



    労働基準監督機関の基本的使命は、臨検監督を中核とした各種の監督指導

   を通じ、法定労働条件の履行確保を図ることにあり、労働基準監督機関とし

   ては、一層的確な監督指導の実施を期する。

    さらに、重大又は悪質な法違反の事案や同種の法違反を繰り返す事案に対

   しては司法処分に付するなど厳正に対処する。



  2 行政指導、相談援助等の効果的展開



    社会経済の変化に即応した労働基準行政の積極的展開を図るため、労働時

   間の短縮や労働条件の改善、自主的な労働災害防止活動の促進、労働者の健

   康確保、労働福祉の増進等に関する行政指導を積極的に展開することとし、

   労使の自主的努力を基本に、産業、企業の実情、経済の動向も踏まえた指導

   を組織的、計画的かつ継続的に実施する。

    また、事業主等が利用しやすい相談窓口の設置等相談援助体制の充実に引

   き続き配慮する。



  3 関係者との積極的連携



   イ 的確かつ効果的な広報の実施等



     広報活動は、労使はもとより国民全体の労働基準行政に対する理解と信

    頼を高めるために重要であることから、行政を取り巻く状況を的確に把握

    し、適切な時期・手段により、創意工夫した効果的な広報活動を積極的に

    推進する。



   ロ 労使等のコンセンサスの形成



     労働基準行政の適切、円滑な推進を図っていくため、関係労使団体に対

    し、施策の推進について、本省から幅広く積極的な働きかけを行うととも

    に、局及び署においても、労働団体や経営者協会、中小企業関係団体等に

    対し、各種会議・会合の場や広報誌の活用を図る等幅広く積極的な働きか

    けを行うことにより、効率的な行政の運営に努める。

     また、地方労働基準審議会の活用等により、労使に対し行政施策につい

    ての理解と協力を求めるよう努める。



   ハ 関係団体との密接な連携



     労働基準行政を効率的・効果的に推進していくに当たっては、労働福祉

    事業団、労働災害防止団体、労働基準協会等関係団体の協力が不可欠であ

    り、これら団体と必要な情報を共有し、施策の推進を図る等、密接な連携

    を図る。



   ニ 関係行政機関との積極的連携



     本省において、事業所管官庁等関係行政機関との連携の強化に努めると

    ともに、局及び署においても、都道府県労働主管部局、女性少年室、公共

    職業安定所等の労働行政機関はもちろん、地方公共団体を始めとする関係

    行政機関との間で、各種施策の遂行について積極的かつ密接な連携を図る

    。







 3 窓口における行政サービスの向上



   国民に信頼される行政を実現するため、国民の立場に立った親切でわかりや

  すい窓口対応、事務処理の迅速化等行政サービスの向上に努める。







 4 情報公開等への対応



   労働基準行政機関が管理する文書の公開については「行政情報公開基準」(

  平成3年12月11日 情報公開問題に関する連絡会議申合せ)に基づき、ま

  た、審議会等の公開については「審議会等の透明化見直し等について」(平成

  7年9月29日 閣議決定)に基づき、それぞれ的確な対応を図る。

   さらに、国民の申請負担の軽減を図るため、「押印見直しガイドライン」(

  平成9年7月3日 事務次官等会議申合せ)に基づく押印の見直しを積極的に

  推進する。


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