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6 ヒト摂取量の実態とTDIとの関係
要旨
ダイオキシン関連化合物による食品汚染は広範囲に及び、また人体への暴露は大気、
水、食品のうち食品経由の暴露寄与が主であると考えられている。厚生労働省が実施
しているマーケットバスケットによるトータルダイエット調査では、平成10〜12年度
の3年間の平均的な1日摂取量は1.90 pgTEQ/kgbw/日であり、我が国のTDIを下回っ
ており、現在のところ、食品衛生上の問題はないと考えられている。またダイオキシ
ン類の1日摂取量は約20年間で約1/3に低下している。食品群別では魚類からの摂取
が74.4%と大部分を占めている。一方陰膳試料による摂取量は7日間で日間変動によ
って約10倍も異なることが示されている。諸外国においても最近のダイオキシン類の
摂取量は以前より減少傾向にある。ヨーロッパ諸国のダイオキシン類の1日摂取量は
1.3〜2.7 pgTEQ/kgbw/dayで、その他の諸国の1日摂取量は0.33〜4.6 pgTEQ/kgbw/day
である。日本人の平均的なダイオキシン類摂取量は、これらの数値内にあり、他国と
比べ特に問題のあるレベルではないと考えられ、更にJECFAやEUで提案されている耐
容摂取量のTMDIやTWIと比較してもこれらの数値内に収まっている。
本論
6.1 我が国におけるヒト摂取量の実態
ダイオキシン関連化合物による食品汚染は広範囲に及び、また人体への暴露は大気、
水、食品のうち食品経由の暴露寄与が主であると考えられている。そこで、我が国で
は主に厚生労働省が、ダイオキシン類等の食品を介した人への暴露状況を正確に把握
する目的で、通常の食事から摂取されるダイオキシン類の量を推察するためのトータ
ルダイエット調査を平成9年度より実施し、また同一地区の保存トータルダイエット
試料による22年間の経年的摂取量の調査等を実施している。
我が国で実施しているマーケットバスケットによるトータルダイエット調査とは、
約120品目を厚生労働省の国民栄養調査による食品群別摂取量表を基にして、7地区
10〜16機関で食品試料を購入している。購入した各食品は、実際の食事形態に従い、
そのまま又は調理した後、13群に大別し、混合しホモジナイズし、−20℃で保存した
ものを分析用試料としている。13食品群の内訳は、1群は米・米加工品、2群は米以
外の穀類・種実類・芋類、3群は砂糖類・菓子類、4群は油脂類、5群は豆類・豆加
工品、6群は果実類、7群は緑黄色野菜類、8群は他の野菜類・きのこ類・海草類、
9群は調味料・嗜好飲料、10群は魚介類、11群は肉類・卵類、12群は乳・乳製品、13
群はその他の食品(カレールー等)であり、14群として飲料水(水道水)を加えてい
る。
調査対象ダイオキシン類はPCDDs7種、PCDFs10種及びCo-PCBs12種の合計29種類で
ある。なお数値はNDの場合、ゼロを用いた値で表記している。
トータルダイエット調査の結果、平成9年度は7地区10ヶ所で実施し、ダイオキシ
ン類の平均的な1日摂取量が2.41 pgTEQ/kgbw/日(範囲1.37〜3.18 pgTEQ/kgbw/日)で
あり(厚生省、平成10年)、平成10年度は7地区10ヶ所で実施し、平均的な1日摂取
量が2.01 pgTEQ/kgbw/日(1.23〜2.77 pgTEQ/kgbw/日)であり(厚生省、平成11年)、
平成11年度は7地区16ヶ所で実施し、平均的な1日摂取量が2.25 pgTEQ/kgbw/日
(1.19〜7.01 pgTEQ/kgbw/日)であり(厚生省、平成12年)、平成12年度は7地区
16ヶ所で実施し、平均的な1日摂取量が1.45 pgTEQ/kgbw/日
(0.84〜2.01 pgTEQ/kgbw/日)と報告されている(厚生労働省、平成13年)。各年
度毎の個別データの分布を表1に示した。
最近4年間におけるダイオキシン類の食事由来摂取量の全国平均値は、我が国の
TDIである4 pgTEQ/kgbw/日以下となっている。平成12年度のダイオキシン類の平均
1日摂取量は調査が始まって以来最も低い値となっている。この低い値がダイオキシ
ン類摂取量の減少傾向を意味しているか否かを判断するためには引き続き摂取量調査
を継続して実施する必要がある。このように食品からの日本人の平均的なダイオキシ
ン類摂取量は我が国のTDIを下回っており、現在のところ、食品衛生上の問題はない
と考えられている。
なお、同一地区(関西地区)の保存トータルダイエット試料(飲料水以外の13群)
による22年間の経年的摂取量の調査から、6トータルダイエット試料(1977、1982、
1988、1992、1995、1998年度)からのダイオキシン類の体重kg当たりの1日摂取量は、
それぞれ8.18、5.33、5.61、2.08、2.30、2.72pgと報告されている。この結果ダイオ
キシン類の1日摂取量は過去22年間で明らかに減少し、1998年度の総摂取量は1977年
度の総摂取量の1/3(33%)に減少し、特にダイオキシン類の摂取量は1/4(24%)となり、
Co-PCBsの摂取量は2/5(41%)に減少していることが分かった。また過去約20年間にお
けるダイオキシン類の摂取量の減少傾向は、母乳中ダイオキシン類濃度の減少傾向と
良く一致している。このことは、過去20年間に食事経由のダイオキシン類の暴露量が
減少し、人体汚染レベルの低下に反映していることを強く示唆している。
近年ダイオキシン類の摂取量調査は、自治体でも実施されているが、東京都の実施
した平成12年度のトータルダイエット試料による1日摂取量調査結果では、東京都民
の摂取しているダイオキシン類が2.18 pgTEQ/日であると報告している。また、埼玉
県では1.0 pgTEQ/kgbw/日、神奈川県では1.60 pgTEQ/kgbw/日であると報告している。
更に札幌市では1.04 pgTEQ/kgbw/日であると報告している。
これら4都県市による平均的な1日摂取量は1.46 pgTEQ/kgbw/日であり、厚生労働
省による平成12年度の16地域からの全国平均値1.45 pgTEQ/kgbw/日はこの値とよく一
致している。
ダイオキシン類の総1日摂取量に占める食品群別の割合は、3年間の平均データを
用いた場合、魚介類からが74.4%、肉・卵からが14.7%、乳・乳製品からが6.1%、
有色野菜からが1.4%、野菜・海草からが1.0%であり、その他の群の米、穀類・芋類、
砂糖・菓子、油脂、豆・豆加工品、果実、嗜好品、加工食品、飲料水からの摂取割合
は何れも1%以下と少なくなっている。
ダイオキシン類摂取量の調査はトータルダイエット試料を用いる他に、陰膳方式に
よる摂取量調査方法がある。即ち調査対象個人の1日分と同一の食事試料を全て確保
し、全試料を混合し、そのダイオキシン濃度を測定し、1日摂取量を求める方法であ
る。表2にその例を示した。環境省の研究データによる2名の陰膳からの摂取量は
1.3及び2.8 pgTEQ/kgbw/日となっている(Matsumura et al., 2001)。また福岡県では
成人2名の陰膳試料を7日間にわたり採取し、1日摂取量を求めている(Hori et al.,
2001)。ダイオキシン類摂取量は1名が平均1.41 pgTEQ/kgbw/日で、他者が
0.87 pgTEQ/kgbw/日と厚生労働省のトータルダイエットによる調査結果に近い値が
得られている。しかし、日間変動は大きく最大摂取量と最小摂取量では11〜13倍と約
10倍近い差があり、この原因は魚の摂取量差に依存すると報告している。
この様に、我が国における食品由来のダイオキシン類暴露は魚の寄与が最も大きい
ことから、魚の摂取量、摂取する魚種あるいは摂食部位の違いにより、ダイオキシン
濃度が大きく異なることや加工魚介類では比較的濃度が低い傾向が示唆されているの
で、偏りのないバランスの良い食生活が勧められている。
6.2 諸外国におけるダイオキシン類の1日摂取量
表3及び表4(PDF:45KB)にFood Additives and Contaminantsに記載されている各
国におけるPCDDs及びPCDFs並びにCo-PCBsの食品からの1日摂取量の表をそのまま示
した(Liem et al., 2000)。また表5(PDF:38KB)にECのレポート(2000)に記載されて
いる食品からのダイオキシン類の1日摂取量の表をそのまま示した。これらの表から
Co-PCBsも含んだ最近のデータを抽出し、さらに最近報告されている各国の新しいデ
ータも含め、EC及びその他諸国におけるダイオキシン及びCo-PCBsの1日摂取量をま
とめて表6に示した。表から諸外国においても最近のダイオキシン類の摂取量は以前
より減少傾向にあることは明らかである。またヨーロッパ諸国のダイオキシン類の1
日摂取量は1.3〜2.7 pgTEQ/kgbw/dayであり、その他の諸国の1日摂取量は0.33〜4.6
pgTEQ/kgbw/dayであり、日本人の平均的なダイオキシン類摂取量は、これらの数値
内にあり、他国と比べ特に問題のあるレベルではないと考えられる。
FAO/WHOのJECFAレポート(2001)では、食品のダイオキシン濃度とその食品の摂取量
から月間摂取量を試算している。更にダイオキシン高摂取群のリスク評価のために、
ダイオキシン摂取量の分布から、摂取量の90パーセンタイル値も算出している。これ
らの内容を表7に示した。1日摂取量に換算した場合の中央値は
0.5〜3.7 pgTEQ/kgbw/日となり、90パーセンタイル値では1.1〜9.3 pgTEQ/kgbw/日と
なる。表に示されている我が国の摂取量は前記トータルダイエット調査の結果より相
当低く、これは食品中濃度の中央値を用いているためと考えられる。
表8に英国及びイタリアの陰膳試料による1日摂取量調査の結果を示した。英国に
おけるダイオキシン類の陰膳試料による1日摂取量はN.D.=0の場合最大摂取量と最
小摂取量では75倍の差が見られ、N.D.=LODでは約5倍の差となっている。これらの
差は食物消費量の差や汚染植物油の摂取によると考察している。イタリアでの1日摂
取量は極端に高摂取の2例を除いた、58陰膳試料では最大摂取量と最小摂取量の差
が約21倍となっており、その理由として主に乳製品の寄与が大きくその他肉製品と
魚の寄与を想定している。
6.3 新規提案TMDI及びTWIとの比較
最近食品のダイオキシン類汚染及び摂取量に関する国際的な関心も高くなり、
JECFA(FAO/WHO食品添加物合同専門家委員会)では2001年6月の会合でダイオキシン
類のTMDI(耐容月間摂取量)を70 pgWHO-TEQ/kgbw/月とすることが提案されている。
またEUではSCF(食品科学委員会)が2001年5月にダイオキシン類のTWI(耐容週間摂
取量)を14 pgTEQ/kgbw/週とする意見を出している。これを受けて英国ではFSAが別
途評価の見直しを実施しダイオキシン類のTDIを2 pgTEQ/kgbw/日とするよう勧告して
いる。これら新しい耐容摂取量設定の根拠は、人へのダイオキシン類暴露を可能な限
り減少させることを目的とし、またダイオキシン類の摂取量が摂取食品の種類により
かなりの日間変動があることを考慮し、月間の摂取量または週間の摂取量で規制しよ
うとするものである。
我が国の平成12年度の摂取量を提案TMDIと比較したところ、平均的な1日摂取量の
1.45 pgTEQ/kgbw/日を31日分に換算した値は45.0 pgTEQ/kgbw/月となり提案値より少
なく、最も大きな1日摂取量の数値2.01 pgTEQ/kgbw/日を用いた値は
62.3 pgTEQ/kgbw/月となり、提案値より少ないことが分かる。次いで提案TWIと比較
するため、同様に7日分に換算した場合、平均摂取量の数値は10.2 pgTEQ/kgbw/週と
なり提案値より少ないが、最大の数値を用いた場合は14.1pgTEQ/kgbw/週となり提案
値に近い値となる。
一方、福岡県の陰膳試料による調査では、7日間の食事の内1ないし2日の食事か
らの摂取量は2 pgTEQ/kgbw/日を上回っているが、2名の週間摂取量は6.12及び
9.89 pgTEQ/kgbw/週となり、EU提案のTWIの14 pg/kgbw/週より低く、1日の食事由来
の暴露が多かったとしても長期の暴露を考慮するとリスクは低下することが分かる。
参照文献
ECReport SCOOP task 3.2.5(2000) Assessment of dietary intake of dioxins and
related PCBs by the population of EU member states
Hori, T., Ashizuka, Y., Tobiishi, K., Nakagawa, R., Iida, T.(2001) Dietary
intake of dioxins and their daily variations estimated by duplicate
diet study, Org.Compounds, 52,251-255
Liem, A.K.D., Furst, P., Rappe, C.(2000) Exposure of populations to dioxis
and related compounds, Fd.Add.Contaminants, 17, 241-259
Matsumura, T., Seki, Y., Hijiya, M., Shamoto, H., Morita, M., Ito, H.(2001)
Dioxins and coplanar PCBs in diet samples by duplicate service method,
Org.Compounds, 52, 256-259
Summary of 57 meeting of JECFA(2001) Annex 4, Contaminants, 35-36
厚生省:平成9年度食品中のダイオキシン類等汚染実態調査報告(平成10年10月)
厚生省:平成10年度ダイオキシン類の食品経由総摂取量調査研究報告書
(平成11年11月)
厚生省:平成11年度ダイオキシン類の食品経由総摂取量調査研究報告書
(平成12年11月)
厚生労働省:平成12年度ダイオキシン類の食品経由総摂取量調査研究報告書
(平成13年11月)
(注)
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