タイトル:「1997年 海外労働情勢(海外労働白書)」の概要

     雇用失業問題の解決に向けた先進国の取組

発  表:平成10年6月26日

担  当:大臣官房国際労働課海外労働情報室

      電 話 03-3502-6678(内線5131、5139)

          03-3502-6754(夜間直通)







 「海外労働情勢(海外労働白書)」は、先進国を始めアジア、大洋州各国の労働情

勢全般に関する情報を整理・分析し、広く提供することを目的として、各国の@経済

及び雇用失業情勢、A賃金・労働時間等の状況、B労使関係の動向などについて労働

省が毎年とりまとめ、公表しているものである。

 本年は、第1部の「1997〜98年の海外労働情勢」で、先進国を中心に97年から98年

初頭にかけての雇用失業情勢・雇用対策の最新の動向に関する情報を国別にとりまと

めるとともに、雇用失業問題を考える上で特に注目されるトピックを取り上げ、分析

を加えている。トピックでは、@ヨーロッパ大陸(独・仏)における深刻な雇用失業

情勢のなかで際立った好調さを示しているオランダの労働市場政策、A経済、雇用失

業情勢の好調が続く一方で、所得格差の拡大という陰の部分を抱えているといわれる

アメリカの現状を取り上げている。

 また、第2部では、現在先進国共通の課題であり、政治的社会的にも重要性の増し

ている雇用失業問題について、OECD及びG7(雇用サミット等)の動向を中心に

、雇用失業問題の解決に向けた先進国の取組をまとめた。






1997年 海外労働情勢のポイント







第1部 1997〜98年の海外労働情勢



1 雇用失業情勢 



 @ 先進国では、雇用・失業の状況が良好に推移しているアメリカ・イギリスと戦

  後最悪の状況にあるドイツ、フランス、イタリアの違いがより鮮明となった。



 A アジアでは、通貨危機の影響により、韓国、インドネシアにおいて雇用失業情

  勢が急速に悪化した他、タイでも悪化の見込み。





2 雇用・失業対策の動き



 @ アメリカ、イギリスでは、職業能力開発に重点を置いた対策を実施。ドイツ、

  フランス、イタリアでは、新規雇用を創出し失業率を低下させるための対策を実

  施。フランスでは、ワークシェアリングによる雇用創出を目的として法定労働時

  間を35時間に短縮するための法律案を提出。



 A アジアでは、通貨危機に陥った国々で雇用対策が実施された。韓国では、労働

  市場改革を進めるため、整理解雇制の導入を決定。また、雇用保険制度の拡充等

  、短期失業対策を発表。インドネシアでは、公共事業により失業者を吸収する雇

  用プロジェクトを発表。タイでは、国家失業問題対策委員会が開催され、雇用・

  失業対策を発表。





3 賃金・物価に関する対策の動き



 @ 97年にブレア労働党政権が誕生したイギリスで最低賃金制度復活の動き。



 A 通貨危機の影響を受け、タイ、インドネシアにおける最低賃金の改訂において

  引上げ幅の抑制や引上げ額決定の遅れ。





4 労使関係制度の動き



  アジア通貨危機の影響により、韓国では、整理解雇制の導入を決定。タイでは、

 「経済危機下における労使関係の円滑な推進に関する行動規範」を作成。





トピック1 「オランダ・モデル」と呼ばれる好調な労働市場



○ オランダでは、80年代初頭以降、労働市場の柔軟性を高めるための構造改革を実

 施した結果、90年代半ば以降、失業率は顕著に改善。独仏等、他の欧州大陸諸国の

 高失業率と対照的で、市場の柔軟性を重視する米国型とも異なる「オランダ・モデ

 ル」として近年注目を集める。



○ 構造改革は労使間の合意に基づいて進められ、@賃金調整政策(労使合意に基づ

 く賃金抑制と国民所得の適正な分配)、Aパートタイム労働者の雇用促進(OEC

 D諸国間でもっとも高いパート比率、高い女性労働力率)、B社会保障制度改革(

 受給者の就労インセンティブの向上)が中心。



○ 95年以降も労働市場の柔軟化と労働者保護のバランスをとるため、「労働時間法

 」の制定、「労働市場の柔軟化及び雇用の安定に係る法案」の議会提出等の施策を

 展開。

 



 

トピック2 「AMERICA UNEQUAL(アメリカの不平等)」

 

○ アメリカでは、近年好調な経済に支えられて雇用失業情勢の改善が著しいが、一

 方で、賃金格差・所得格差が広がっており、社会が二極分化しているとの批判もあ

 る。



○ 格差拡大の原因としては、@技術革新による高技能労働者に対する需要増と低技

 能労働者の就労機会の喪失、A低い労働コスト国への生産移転や価格競争など経済

 のグローバル化による低技能労働者の賃金引き下げや失業の増大、B実質最低賃金

 の低下、組織率の低下、移民の増加、経済のサービス化による非正規雇用の増加、

 等による低賃金層の増加、等が指摘されている。



○ 格差是正策として、政府は教育・訓練の拡充を最重視。とりわけ高等教育を重視

 するとともに、労働者の教育訓練機会の拡大を図る。また、貧困者を対象とした医

 療保険制度(メディケイド)の充実や福祉受給者の就労促進を図るための制度改革、

 等に力を入れている。









第2部 雇用失業問題の解決に向けた先進国の取組



1 雇用失業問題の解決に向けた先進国の取組のあゆみ

1992年5月
  94年3月14、15日
      6月
  95年2月
  96年4月1、2日
      5月
      6月
      6月27〜29日
      11月
  97年6月20〜22日
      10月14、15日
      11月20、21日
      11月28、29日
  98年2月21、22日
       5月15〜17日
OECD閣僚理事会が「雇用研究」の実施を決定
デトロイト雇用サミット(アメリカ)
OECD閣僚理事会に「雇用研究」を提出
ILO、「世界雇用報告1995」を発表
リール雇用サミット(フランス)
OECD閣僚理事会に「雇用戦略」を提出
ILO総会で、「グローバル化の進展下における完全雇用の達成」を承認
リヨン・サミット(フランス)
ILO、「世界雇用報告1996/97」を発表
デンバー・サミット(アメリカ)
OECD労働大臣会合
特別雇用欧州理事会(EU雇用サミット)
神戸雇用会議(日本)「活力ある雇用社会の実現」
成長と雇用に関する8カ国会合(イギリス)「成長、雇用可能性及び社会的一体性」
バーミンガム・サミット(イギリス)






2  まとめ



 先進国の雇用失業問題は、景気の回復のみによって解決されるものではなくその原

因の多くが各国の構造的な問題に根ざすものであり、各国の状況に合わせた構造改革

のための対策が不可欠であるということが、各国の共通認識となっている。雇用失業

問題の解決はこのように先進国共通の課題であることから、先進諸国はサミット等の

場を通じて、これまで共同して取り組んできた。これは、すなわちアメリカ・モデル

(社会保障の水準は低く、賃金上昇は小さく均等ではないが、雇用は大きく増加して

いる)でも欧州モデル(社会保障は手厚く、賃金上昇も大きいが、雇用は増加してい

ない)でもない「第3の道」を模索する歩みであったといえる。          

 数次のサミット、雇用会議、またOECD、ILO等での成果により、雇用失業問

題解決のためのいくつかの有効な選択肢は既に明らかになっている。今後は各国がそ

れぞれの国に応じた具体策を講じていく段階にあり、各国の政策の効果をより拡大す

るためにも、こうした先進国共同の取組は引き続き継続されていくことが望まれる。






1997年 海外労働情勢  



   第1部 1997〜98年の海外労働情勢

  第2部 雇用失業問題の解決に向けた先進国の取組

 

「1997年 海外労働情勢」要約版につきましては、
[労働省ホームページ 労働省トピックス]を参照ください。

  



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