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第1部 1997〜98年の海外労働情勢



1 経済及び雇用・失業の動向と対策



 (1) 経済及び雇用・失業の動向



  @ 経済の動向
・アメリカ、イギリス、カナダで96年に引き続き景気が拡大し、ドイツ、フラ

 ンスでは景気は回復。イタリアでも景気は緩やかに改善。


・実質GDP成長率

 アメリカ  =2.8%(96年) → 3.8%(97年)

 イギリス  =2.0%(96年)  → 3.1%(97年)

 ドイツ   =1.4%(96年) → 2.2%(97年)

 フランス  =1.5%(96年) → 2.4%(97年)

 イタリア  =0.7%(96年) → 1.5%(97年)

 カナダ   =1.2%(96年) → 3.8%(97年)

 [参考]日本=3.9%(96年) → 0.9%(97年)

 

・アジアでは、シンガポール、台湾で景気は回復が続いているが、97年7月の

 タイの通貨切下げを契機とした通貨危機の影響により、韓国、インドネシア

 、タイで景気が減速。


・実質GDP成長率

 韓国    =7.1%(96年) → 5.5%(97年)

 シンガポール=7.0%(96年) → 7.8%(97年4〜6月期)

 台湾    =5.7%(96年) → 6.8%(97年)

 インドネシア=8.0%(96年) → 4.6%(97年)

 タイ    =6.6%(96年) → 1.1%(97年)

 マレイシア =8.2%(96年) → 8.0%(97年)

 香港    =5.0%(96年) → 5.2%(97年)


  A 雇用・失業の動向

 97年の雇用・失業の動向は、先進国では、96年における状況が更に鮮明化した。

  

      ・アメリカ、イギリスでは、雇用・失業情勢が引き続き良好に推移し、失業率は

       、アメリカでは4%台、イギリスでは5%台となり更に低下傾向が続く。

   ・ドイツ、フランス、イタリアでは景気が回復する中でも戦後最悪の状況に改

    善の兆しはみられず。失業率は、ドイツでは11%超と悪化し、フランスでは

    12%台で推移。イタリアにおいても、失業率は12%前後と高水準で推移。
          

・失業率:アメリカ  = 5.4%(96年) → 5.0%(97年)

     イギリス  = 7.5%(96年) → 5.0%(97年12月)

     ドイツ   =10.4%(96年) → 11.4%(97年)

     フランス  =12.3%(96年) → 12.5%(97年7〜9月期)

     イタリア  =12.0%(96年) → 12.2%(97年)

     カナダ   = 9.7%(96年) → 9.2%(97年)

     [参考]日本= 3.4%(96年) → 3.4%(97年)


・アジアでは、通貨危機の影響により、韓国、インドネシアにおいて雇用失業

 情勢が急速に悪化しており、またタイでも今後失業率の大幅な上昇見込み。

 一方、シンガポール、台湾では労働力需給は逼迫気味に推移。

・中東欧・ロシアにおいては、中東欧諸国では国によって状況に差異がみられ

 、ロシアでは経済の下げ止まりの兆しにもかかわらず、9%台の失業率で推

 移。

 



 (2) 雇用・失業対策
  @ アメリカ、イギリス
     職業能力開発に重点を置いた対策を実施
・アメリカでは、従来連邦政府主導によって実施されてきた職業訓練プログラ

 ムの予算を3つの総合的な補助金に統合して各州に分配し、各州政府がその

 権限と責任の下で職業訓練プログラムの実施を図ることを目的とする職業訓

 練改革法案が審議された。

・イギリスでは、97年5月に誕生したブレア労働党政権の下で、「Welfare-to-

 Work」対策の一環として、若年失業者及び長期失業者の失業保険給付への過

 度の依存に歯止めをかけ、就職に結びつく技能の向上を図ること等が盛り込

 まれた「New-Deal」プログラムが開始された。

  A ドイツ、フランス、イタリア



    新規雇用を創出し失業率を低下させるための対策を実施
・ドイツでは、雇用情勢の悪化に対応するため、雇用政策関係の基本法である

 雇用促進法の改正が行われ、長期失業者のための職場適応契約制度が新たに

 導入された。

・フランスでは、97年6月に誕生したジョスパン政権が、深刻な雇用・失業情

 勢を背景に、若年者を期限付きで新規雇用する自治体や各種公共団体等に助

 成金を支給する制度により、今後5年間で35万人の若年者雇用を公共部門で

 創出するための法案を成立させた。また、ワークシェアリングによる雇用創

 出を目的として、法定労働時間を35時間に短縮するための法律案を議会に提

 出した。

・イタリアでは、雇用形態の多様化の促進や政府の助成金支給による新規雇用

 の創出等を内容とする雇用対策法が制定された。

  B アジア



    通貨危機の影響により深刻な経済危機に陥った韓国、インドネシア、

   タイにおいて、以下の雇用対策が実施された。
・韓国では、IMFとの資金支援合意に基づく労働市場改革を進めるため、政労

 使間の合意を経て、経営上の理由による労働者の解雇を可能にする整理解雇制

 の導入を決定した。また、雇用保険制度の拡充や職業紹介、職業訓練の充実等

 を内容とする短期失業対策を発表した。

・インドネシアでは、労働集約型の公共事業を行うことにより約390万人の失業

 者を吸収する雇用プロジェクトを発表した。

・タイでは、98年1月、チュアン首相を委員長とする国家失業問題対策委員会が

 開催され、タイ国内の外国人労働者を約30万人削減しタイ人労働者の雇用を確

 保する等の雇用・失業対策が発表された。





2 賃金・労働時間等労働条件の動向



 (1) 賃金・物価の動向と対策



  @ 賃金・物価の動向
・名目賃金上昇率

 アメリカ    = 3.2%(96年) → 4.3%(97年)

 イギリス    = 3.9%(96年) → 4.4%(97年)

 ドイツ(旧西独)= 3.7%(95年) → 3.2%(96年)

 フランス    = 2.4%(96年) → 2.7%(97年7〜9月期)

 イタリア    = 4.1%(96年) → 4.4%(97年)

 カナダ     = 2.1%(96年) → 2.1%(97年)

 韓国      = 11.9%(96年) → 6.8%(97年7〜9月期)

 [参考]日本   = 1.1%(96年) → 1.6%(97年)



・実質賃金上昇率(参考)

 アメリカ    = 0.3%(96年) → 2.0%(97年)

 イギリス    = 1.5%(96年) → 1.3%(97年)

 ドイツ(旧西独)= 2.0%(95年) → 1.8%(96年)

 フランス    = 0.4%(96年) → 1.4%(97年7〜9月期)

 イタリア    = 0.3%(96年) → 2.6%(97年)

 カナダ     = 0.5%(96年) → 0.5%(97年)

 韓国      = 6.6%(96年) → 2.9%(97年7〜9月期)

 [参考]日本   = 1.1%(96年) → 0.0%(97年)

  A 賃金・物価に関する対策
・97年にブレア労働党新政権が誕生したイギリスで、最低賃金制度の復活に向けて

 、最低賃金諮問委員会が発足し、最低賃金法案が議会に提出された。

・タイ、インドネシアにおいて毎年行われる最低賃金の改訂において、通貨危機の

 影響を受けて、引上げ幅の抑制や、引上げ額の決定の遅れが生じた。







 (2) 労働時間の動向と対策



  @ 労働時間の動向
・週当たり支払い労働時間

(イギリス、フランス、日本は週当たり実労働時間)

 アメリカ =34.4時間(96年) → 34.6時間(97年)

 イギリス =40.2時間(96年) → 40.3時間(97年)

 ドイツ(旧西ドイツ地域)

      =38.5時間(95年) → 37.7時間(96年)

 フランス =39.99時間(96年) → 38.94時間(97年7月)

 イタリア =公式統計なし。

 カナダ  =30.7時間(96年) → 31.3時間(97年)

 [参考]日本=38.3時間(96年) → 38.1時間(97年)

  A 労働時間に関連した動き
・欧州司法裁判所が、女性の夜間労働を禁止したフランスの労働法の規定は、E

 Uの男女均等待遇指令に違反し無効であるとの判決を下した。これにより、フ

 ランス政府は労働法の当該規定を廃止する義務を負うこととなった。

・97年にジョスパン新政権が誕生したフランスでは、法定労働時間を週35時間に

 短縮する法案が議会に提出された。これについて、当初より労働組合側は概ね

 歓迎しているが、使用者側は強く反発し、フランス経営者連盟会長が辞意を表

 明するなど態度を硬化させたが、週35時間労働制の導入については、企業レベ

 ルの労使協議に委ねられることとなり、同法案は、98年2月、国民議会(下院

 )を通過した。







3 労使関係・労使関係制度の動向
 (1) 労働組合組織の動向
・労働組合組織率

 アメリカ   =14.5%(96年) → 14.1%(97年)

 イギリス   =38.2%(94年) → 36.8%(95年)

 ドイツ    =36.0%(95年) → 35.3%(96年)

 フランス、イタリア、カナダは公式統計なし

 [参考] 日本 = 23.2%(96年) → 22.6%(97年)

 

 (2) 労使関係制度の動向
・韓国では、97年末からの経済危機を打開するため、整理解雇条項を含む勤労基

 準法の改正等の労働分野における法案等が成立した。

・タイでは、通貨危機の影響による経済情勢の悪化に伴い、98年2月に政労使の

 合意により、経営状況についての労働組合への報告、労使協議による解雇・倒

 産防止のためのコスト削減努力、等を内容とする「経済危機下における労使関

 係の円滑な推進に関する行動規範」が作成された。また、労使紛争を調停する

 ための特別の三者構成の組織である「経済危機下における労使紛争の防止解決

 委員会」が設置された。

 

 


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