(別紙) 中央職業安定審議会専門調査委員雇用保険部会報告書 雇用保険制度の再構築について 1 雇用保険制度の再構築の必要性 ○ 雇用保険制度は、極めて厳しい財政状況に直面している。その要因は、直接 的には現下の厳しい雇用失業情勢を反映した雇用保険受給者の急速な増加や、 保険料率等の暫定的引下げなどにあるが、より根源的には、産業構造の変化等 に伴う雇用慣行の変化、労働移動の増加、雇用就業形態の多様化や少子・高齢 化の進展など、雇用を取り巻く状況の構造的な変化を背景とした失業率の高止 まりがみられるなかで、給付体系の枠組が雇用保険制度創設当時のままである こと等にある。 ○ 他方、こうした状況変化のなかで、失業を予防し、あるいは失業期間の短縮 を図るために、雇用・就業機会の創出のための緊急事業の展開とともに、中・ 高年齢者の在職中からの再就職援助対策の充実や労働力需給調整機能の強化な ど、雇用に係るセーフティネットの再編成を図るための検討が別途進められて いる。 ○ このような中で、雇用保険制度が、今後とも、その安定的運営を確保しつつ 、雇用に係るセーフティネットとして他の諸施策との有機的連携の下にその役 割を果たしていくようにするためには、社会経済情勢の変化等を踏まえつつ、 適用、失業等給付、三事業、負担の各面にわたり、以下のとおり見直しを行い 、早急に制度の再構築を図る必要がある。 2 雇用保険制度の再構築の方向 (1) 早期再就職を促進するための給付体系の整備 @ 求職者給付の重点化 ・ 求職者給付については、中・高年齢者の在職中からの再就職援助対策の充 実、労働力需給調整機能の強化、職業能力開発施策の充実など、再就職を容 易にするための施策の整備が図られつつあることを踏まえ、再就職の難易度 を年齢によって画一的に決定することとなっている現行の給付日数の体系を 見直し、真に必要のある者に対する給付の重点化を図る必要がある。 ・ 具体的には、現行の給付日数の上限と下限に配慮しつつ、定年退職者を含 め、離職前から予め再就職の準備ができるような者に対する給付日数は圧縮 する一方で、中高年層を中心に倒産・解雇等により離職を余儀なくされた者 (注)には十分な給付日数が確保されるようにする必要がある。 (注)離職を余儀なくされた者の主な例 ・ 倒産に伴い離職した者 ・ 解雇された者(重責解雇を除く。) ・ 人員整理のために退職した者 ・ 採用条件と実際の労働条件が著しく相違したことにより退職し た者 ・ 企業による故意の排斥により退職した者 ・ 短時間労働被保険者の給付日数の体系についても、これに準じて再編成す ることが適当である。 ・ なお、給付日額の水準については、離職前6ヶ月間の月例賃金を基礎に積 算されていること等にかんがみ、現行の給付率は維持することが適当である。 A 職業能力開発に係る給付の改善 ・ 訓練延長給付について、再就職に積極的な受給者のニーズに応じた訓練内 容の充実に努めるとともに、訓練の早期開始に留意しつつ、十分な訓練期間 の確保が図られるようにする必要がある。 ・ 労働移動の増加等に対応し、労働者の雇用の安定、失業なき労働移動の実 現等を図るためには、労働者の主体的な能力開発に対する支援を充実する必 要がある。このため、特に在職中から高度で多様な教育訓練を受講しやすく なるよう、教育訓練給付の支給に係る要件を緩和することとする。 B 再就職手当の見直し ・ 再就職手当について、早期再就職の促進に資する観点から、暫定特例措置 (20日上乗せ)を廃止するとともに、支給残日数に応じてなだらかに逓減 する仕組みに改める必要がある。 (2) 雇用就業形態の多様化への対応 ○ 短時間労働者、登録型派遣労働者に係る適用基準の改正 ・ 雇用就業形態の多様化に対応して、短時間労働者、登録型派遣労働者に係 る適用基準を適用拡大の方向で見直す必要がある。具体的には、これら労働 者が、収入の多寡によらず経済社会における重要な労働力であることが反映 されるよう、年収要件に係る基準を廃止することとする。なお、その場合に は、併せて日額の最低基準を見直す必要がある。 ・ 登録型派遣労働者については、改正労働者派遣法の施行により、対象業務 が原則自由化されるとともに、拡大された業務については派遣先での就業が 一年を超えないものに限定されたことを踏まえ、同一の派遣先での就業が一 年を超えない短期のものであっても派遣労働者として働く場合には、雇用保 険の適用があることが明確になるよう、適用基準を改正する必要がある。 ・ なお、現行の適用基準が十分周知されていないことも適用が十分進んでい ない要因と考えられることから、その周知に努めるとともに、現に雇用が長 期化しているにもかかわらず雇用保険に未加入のままであるようなケースを 中心に、加入促進に向けた啓発指導を積極的に行うことが重要である。 (3) 少子・高齢化の進展に対応した就業支援対策の見直し @ 雇用保険三事業の見直し ・ 三事業については、雇用に係るセーフティネットの再編成の一環として、 別途行われている、定年退職者等の再就職に向けた労働者自身の主体的な活 動に対する支援など、中・高年齢者の在職中からの雇用の安定、再就職援助 対策の強化・充実についての検討結果を踏まえ、見直すこととする。 ・ なお、雇用福祉事業について、雇用促進住宅及び福祉施設の新設を取り止 めたことを踏まえ、所要の規定の整備を行うこととする。 A 育児休業給付・介護休業給付の見直し ・ 最近の少子・高齢化の進展に対応し、職業生活と家庭生活との両立支援を より充実し、職業生活の円滑な継続を援助、促進する観点から、育児休業給 付・介護休業給付の給付率の引上げについて、他の関連諸施策の動向も見つ つ、検討する必要がある。 (4) 雇用保険財政の在り方 ○ 保険料率及び国庫負担に係る附則暫定措置については、設定当時と前提背景 が大きく異なっていることから、廃止する必要がある。 ○ その上で、保険料率については、今後予想される失業水準を前提にしつつ、 それを超える事態が生じた場合でも機動的な対応が可能となるようにし、雇用 保険制度の安定的な運営が確保できるようなものに改める必要がある。 3 今後の課題 雇用保険制度については、雇用に係るセーフティネットとしての諸施策ともあい まって、再就職の促進等に資するべきものとして、経済社会の変化に的確に対応し つつ、その役割を十分に発揮できるようにしておく必要がある。 雇用保険制度に係る今回の見直しは、あくまで現時点における視点と見通しが前 提となっているものであり、今後とも、制度全般に亘って不断に点検を行い、その 見直しに努める必要がある。 また、以下の点に関しては、特に留意する必要がある。 (1) 早急に着手すべき課題 @ 雇用保険制度等の適切な運営について ・ 受給者の一層の早期再就職の促進が図られることが重要であり、この観点 から、今回の雇用保険制度の見直しにも関連して、中・高年齢者の雇用の安 定、再就職援助対策の充実強化、労働力需給調整機能の強化等の諸施策の充 実が着実に図られることが必要である。 ・ 雇用保険に対する信頼を更に高めるためにも、引き続き、事業主、被保険 者、受給者等に対して雇用保険制度本来の趣旨の周知徹底を図るとともに、 不正受給の防止等に積極的に努める必要がある。 A 三事業における各種給付金の整理合理化等 ・ 今後の少子・高齢化の進展、労働移動の増加等の経済社会の変化に対応し て、三事業のより効果的かつ効率的な運営を図っていく必要がある。 ・ この観点から、各種給付金については、不断に見直しを行い、その有効活 用が図られるよう、整理合理化を行っていく必要がある。 (2) 今後検討すべき課題 ・ 短期雇用特例求職者給付については、失業が元々予定された者に対する循 環的な給付であり、本来的には一般対策で措置することが適当なものである ことから、将来的にはその在り方を検討する必要がある。 ・ 高年齢求職者給付金については、本年度から給付日数が半減されたばかり であり、直ちに見直すことは適当ではないが、将来的には廃止も含め見直し を行う必要がある。 ・ 高年齢雇用継続給付については、高齢者の継続雇用を促進する観点から当 面は存続させることが適当であるが、将来的には、高齢者雇用の状況等も踏 まえつつ、その在り方を検討する必要がある。