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        65歳現役社会政策ビジョン研究会報告概要





   「高齢者が参加する経済社会とそれに対応した労働市場の展望と課題」

    −活力ある高齢化(アクティブ・エージング)の実現を目指して−







1.はじめに

  本報告は、高齢化の急速な進展、高齢者の雇用環境の深刻化、年金支給開始年齢

 の段階的引上げ等高齢者雇用をとりまく状況を踏まえ、向こう10年間程度の間に

 おける我が国の高齢者雇用対策の在り方について、展望と課題を示すものである。





2.高齢者雇用を取り巻く状況と課題

(1)高齢者雇用の現状

   我が国における60〜64歳の男性の労働力率は欧米と比較しても高い水準に

  あり、就業を通じた生活の維持、向上の必要性がその大きな背景となっているこ

  とが伺える。

   我が国では、20数年にわたる60歳定年の普及に向けた取組により、特に

  50歳台後半層の雇用が大きく進展してきた。

   一方、高齢者の雇用失業情勢は引き続き極めて厳しい状況にあり、高齢者の再

  就職は非常に困難な状況となっている。



(2)中長期的な労働力需給の展望

  @ 全年齢層における労働力需給

    労働力人口の推移は、1998年から2005年までは年率0.1%の増加、

   その後2010年まで年率0.4%の減少見込み。

    一方、労働力需要は、2010年までの経済成長を、国民1人あたり平均し

   て2%成長、国民1人あたり平均して1%成長、平均して2%成長のいずれの

   仮定においても、就業者数が減少する見込み。

  A 高年齢層における労働力需給

    我が国の人口は、2010年には、約3人に1人が60歳以上となる見込み。

    また、労働力人口の約5人に1人が60歳以上の高齢者となる見込み。とり

   わけ、60〜64歳の労働力人口は、「団塊の世代」が60歳台前半となるこ

   とから、大幅に増加する。

  B 中長期的な労働力需給展望を踏まえた政策課題

    こうした労働力需給の見通しの下で、高齢者雇用対策に関しては、今後、

   60歳台前半層を中心として労働力供給の大幅な増加が見込まれることを踏ま

   えつつ、適切かつ十分な雇用機会を確保していく必要。具体的には、高齢者に

   係る賃金負担や能力開発に係る投資効果、さらには、各企業の労務構成高齢化

   といった問題等への対応を通じて、高齢者の豊富な職業経験、知識の活用を図

   る。また、高齢者について短時間雇用の機会を確保していくことは、高齢者の

   多様な就業ニーズに適切に対応する観点から有効。

    なお、EUにおいても、かつての高齢者の早期引退促進政策を改め、高齢者

   の早期引退のインセンティブを弱め、労働力率を高める方向に政策転換が図ら

   れている。



(3)高齢者に係る雇用管理の現状

  @ 定年制

    一律定年制を定める企業の99.2%が60歳以上の定年を定めている。

    企業規模別では、企業規模が小さいほど定年を定めていない企業の割合が高

   い。

    定年年齢の分布では、一律定年制を定めている企業のうち91.2%が60

   歳定年、1.8%が61〜64歳定年となっており、65歳以上の定年年齢を

   定めている企業は6.2%にとどまっている。

    他方、一部の大企業においては、年金支給開始年齢の引上げをにらみつつ、

   労使協議に基づいて定年の引上げ等による65歳までの継続雇用の確保に向け

   た積極的な動きがみられ始めている。

  A 定年後の継続雇用制度

    定年後の継続雇用制度(勤務延長制度又は再雇用制度)がある企業の割合は

   一律定年制を定める企業の67.8%。しかしながら、希望者全員を65歳ま

   で継続して雇用する制度を有する企業の割合は約2割。

    定年後の継続雇用制度の内容については、雇用形態の多様化、定年前に比し

   ての賃金の低下等がみられる。

  B 中高年齢者の賃金・人事処遇制度の動向

    我が国の賃金構造は、いわゆる年功的要素が強く、また、生活給的側面も有

   しているが、近年、賃金の年齢間格差は縮小傾向にある。

    一方、長期継続雇用については、基幹的な雇用者中心に今後も我が国におけ

   る基本的な就業形態であり続けると考えられるが、労働移動の増加、働き方の

   多様化により長期継続雇用型の労働者の比率は低下するものと考えられる。

    中高年齢者については、大企業を中心として、早期退職優遇制度等の導入に

   より、大企業から中小企業への労働移動が特徴。その結果、中小企業において

   は、中高年齢者の能力が活用されている一方、大企業に比べ、中小企業におい

   て労働力構成の高齢化がより進行。

    「役職定年制」は、出向、転籍等との関連で導入されている場合が大企業を

   中心に多い。



(4)公的年金制度の改正等

   老齢年金支給開始年齢の段階的な引上げ等公的年金制度改正の動きの中で、雇

  用と年金との接続という観点から、高齢者の雇用機会の確保を図ることが一層重

  要な課題。

   60〜64歳層の生活設計は、雇用・就業に基づく収入と年金とを組み合わせ

  るとともに、貯蓄や個人年金、企業年金等個々人の経済状況の多様化も加わって、

  雇用・就業ニーズは極めて多様なものとなることが見込まれる。





3.中長期的な高齢者雇用対策の方向

(1)はじめに

   中長期的な労働力需給に関しては、2005年から労働力供給が減 少してい

  く一方で、労働力需要も伸びが鈍化し、特に対策を講じなければ完全失業率は4

  %台前半から5%台前半となる見込み。このように、雇用失業情勢が厳しい状況

  が続くとすれば、個々の企業の高齢者を活用するインセンティブが減退するおそ

  れが強い。

   以下に述べるような施策が効果を発揮する前提としては、全般的な雇用情勢の

  改善が不可欠であり、そのためには、適切なマクロ経済政策の展開が望まれる。



(2)基本的な考え方

  @ 高齢者雇用に関する将来展望

    急速に高齢化が進展する我が国において、その経済社会の活力を維持するた

   めには、できるだけ多くの高齢者が社会に支えられる側から社会を支える側へ

   回ることが必要。すなわち、21世紀初頭においては、「高齢者が参加する経

   済社会とそれに対応した労働市場」を政策目標とし、将来的には、高齢者が、

   健康で、意欲と能力がある限り年齢にかかわりなく働き続けることができる社

   会を実現していくことが必要。

    1997年6月のデンバー・サミットにおいては、高齢者が雇用をはじめ様

   々な形で社会に参加することを目指す「活力ある高齢化(アクティブ・エージ

   ング)」を追求することが確認され、その後、国際的にも議論が深められてい

   る。

    我が国においては、労働力需要の年齢構造を大きく変化させていくことが必

   要となるが、これについては従来の雇用慣行の見直しをはじめ様々な課題があ

   り、これらを解決していくためには、労使が率直に話し合い、政・労・使が協

   力して、段階的な取組を行っていくことが必要。個々の企業においては、賃金

   ・人事処遇制度の見直しを行いながら、高齢者の職域開発など高齢者が働き続

   けることができるような条件整備を行い、高齢労働力を一層活用していくこと

   が必要。

  A 定年制の在り方と年齢差別禁止との関係

    働く意欲と能力がある限り年齢に関わりなく働き続けることのできる社会を

   実現するための方策として、米国における年齢差別禁止のような法的手法を用

   いる場合には、定年制の見直しが求められる。

    しかしながら、我が国の定年制は、定年によって雇用が終了又は中断すると

   いう側面に加え、定年年齢まで高齢者の雇用機会を確保するという役割を実質

   的に果たしてきており、この点に十分留意する必要がある。

    また、中高年齢者の厳しい雇用失業情勢のもとでは、定年制を維持すること

   によって、高齢者の雇用を確保していくことも重要。

    このため、現時点においては、定年制が高齢者の雇用機会の維持・確保に貢

   献している側面を無視するわけにはいかず、その性急な見直しを避けることが

   適当。

  B 高齢者の選択の自由

    活力ある高齢化を実現する観点からは、高齢者に対して様々な選択肢を用意

   し、職業生活からの引退時期や高齢期における勤務態様等の選択に当たっての

   個人の自由を実質的に確保していくことが必要。



(3)定年の引上げ等による65歳までの雇用の確保

   高齢者雇用に関する将来展望等を踏まえると、意欲と能力がある限り年齢に関

  わりなく働き続けることができる社会の実現を目指すという将来的な方向性を明

  確にした上で、60歳台前半層の雇用機会の確保が重要課題となる向こう10年

  程度の間においては、個々の企業において、定年の段階的な引上げ、定年後の継

  続雇用制度、あるいは他企業への再就職あっせん等により、働く意欲と能力のあ

  る高齢者について、何らかの形で65歳までの雇用を確保するよう努めることが

  必要。

   この場合、定年の段階的な引上げや定年後の継続雇用制度を拡大していくため

  には、従来の賃金・人事処遇制度の見直しが大きな課題となることから、各企業

  において、労使が十分に協議していくことが望まれる。

   また、高齢者の自発的な職業能力の向上・再開発、それに対する事業主の積極

  的な促進、支援、個々の企業における雇用の継続を基本とした高齢者の職域の開

  発が、65歳までの雇用の確保に向けた労使双方の選択肢を増やす。

   さらに、高齢者の作業環境や労働時間等についての配慮とともに、健康の維持、

  増進に向けた個々人の努力や産業医の活用が重要。

   また、行政としては、こうした労使の主体的な取組を尊重して、これに対する

  支援を行う必要。具体的には、賃金・人事処遇制度の見直しや高齢期にも十分に

  能力が発揮されるようにするための能力開発などを行いつつ、定年の引上げや継

  続雇用制度の拡充、さらには、他企業への再就職あっせん等に取り組むことを促

  進していくために、各種の指導・援助を実施する必要。

   なお、現時点においては、法律で強制的に定年の引上げ等を行うことは適切で

  はなく、あくまで、個々の企業の努力に対して行政が支援を行う枠組みにおいて

  推進されるべき。



(4)高齢者の再就職の援助、促進

   高齢期において雇用が一旦中断した場合、当該高齢者の再就職は極めて困難な

  状況にあるため、やむを得ず離職を余儀なくされる高齢者については、可能な限

  り雇用の中断が生じないような労働移動を実現すること、また、雇用の中断が生

  じた場合であってもできるだけ早期の再就職を実現することが必要であり、その

  ための離職前からの積極的な求職支援が必要。

   この場合において、再就職に当たっては、事業主の果たすべき役割に加え、労

  働者自身が主体性をもって職業生活設計、職業能力開発、求職活動を行うための

  環境整備が必要。事業主に、労働者募集の段階における年齢制限の緩和を求めて

  いくことも必要。



(5)高齢者の多様な雇用・就業機会の確保等

   高齢期は、就業意欲や体力が多様化し、また、職業生活からの引退期でもあっ

  て、なだらかな引退も含め多様な働き方が志向されるようになる。特に、

  2001年度以降は、年金支給開始年齢の段階的引上げに伴い、短期間や短時間

  の就業をはじめとする高齢者の多様な雇用・就業ニーズの高まりが予想される。

   このため、公共職業安定機関による求人開拓、職業相談、職業紹介の強化に加

  え、民間の労働力需給調整機関が、高齢者の多様な雇用・就業ニーズに対応し、

  かつ、高齢者の熟練や知識を有効に活用するための適切なマッチングが行われる

  ことが望ましい。       

   また、シルバー人材センターは、その機能をさらに強化するとともに、高齢者

  が安心して就業できるために就業環境についても整備されることが期待される。

   さらに、高齢期において年齢に関わりなく働き続けることができる就業形態と

  して起業や自営についても注目すべきである。

   加えて、「活力ある高齢化(アクティブ・エージング)」を実現していくとい

  う観点からは、高齢者の社会参加の促進の視点も必要であり、NPOへの参加や

  ボランティア活動などの促進が望ましい。





4.おわりに

  かつてない高齢社会を迎えようとしている我が国にとって、年齢にかかわらず働

 き続けることのできる社会の構築、定年の引上げ等による65歳までの雇用の確保、

 高齢者の多様なニーズに応えた機会の確保等の課題について政府の施策の方向を示

 すことは、経済社会の活力を維持し、国民福祉の向上を図る上で不可欠の要件であ

 る。

  また、これから10年程度の期間には、雇用関係諸制度のみならず、教育、福祉、

 税制、社会保障等の課題をも含めて、活力ある高齢化の実現に向けた制度全般にわ

 たる大きな見直しを迫られることになろう。

  60歳定年制をはじめとする政、労、使のこれまでの努力の成果を今後の新たな

 出発点として賢明な選択とさらなる努力が重ねられることを願ってやまない。




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