タイトル:「高齢者が参加する経済社会とそれに対応した労働市場の展望と課題」 −活力ある高齢化(アクティブ・エージング)の実現を目指して− 〔65歳現役社会政策ビジョン研究会報告〕 発 表:平成11年10月20日(水) 担 当:職業安定局高齢・障害者対策部企画課 電 話 03-3593-1211(内線5816) 03-3502-6778(直通)
我が国はこれまで世界で例をみない急速な高齢化の中で、21世紀を迎えようとし ている。このような中で、高齢者雇用対策は、高齢者の意欲や能力を十分に発揮で きるようにし、高齢者が経済社会を支える仕組みを作ると同時に、高齢期において も豊かな職業生活を実現しようとするものであり、人々が年齢にかかわらず常に充 実した人生を過ごすことができるようにするために、極めて重要な政策的意義を有 する。 労働省では、「少なくとも65歳までは現役として働くことができる社会(65歳現 役社会)」の構築のために必要な政策ビジョンを示すため、「65歳現役社会政策ビ ジョン研究会」を開催し、昨年1月から調査、検討を重ねてきたところである。 この間、雇用失業情勢は厳しい状況が継続し、とりわけ、高齢者の雇用環境は深 刻な状況にあり、高齢者雇用の安定のための総合的な政策対応が求められている。 また、老齢年金の支給開始年齢の段階的な引上げ開始が間近に迫ってきており、高 齢期における新たな社会保障の在り方に対応した雇用・就業システムの整備が重要 課題となってきている。 本報告は、こうした高齢者雇用をとりまく状況を踏まえ、向こう10年程度の間に おける我が国の高齢者雇用対策の在り方について、展望と課題が示されている。 報告書のポイント 急速な高齢化の進展、高齢者の雇用環境の深刻化、年金支給開始年齢の段階的引 上げ等高齢者雇用をとりまく状況を踏まえ、向こう10年程度の間における我が国の 高齢者雇用対策の在り方について、展望と課題を示すものである。 (1) 中長期的な高齢者雇用対策の基本的な考え方 ○ 21世紀初頭においては、「高齢者が参加する経済社会とそれに対応した労働 市場」を政策目標とし、将来的には、高齢者が、健康で、意欲と能力がある限 り年齢にかかわりなく働き続けることができる社会を実現していくことが必要。 ○ 労働力需要の年齢構造を大きく変化させていくことが必要となるが、従来の 雇用慣行の見直しをはじめ様々な課題があり、これらを解決していくためには、 労使が率直に話し合い、政・労・使が協力して、段階的な取組を行っていくこ とが必要。 ○ 個々の企業においては、賃金・人事処遇制度の見直しを行いながら、高齢者 の職域開発など高齢者が働き続けることができるような条件整備を行い、高齢 労働力を一層活用していくことが必要。 ○ 米国における年齢差別禁止のような手法を用いる場合には、定年制の見直し が求められるが、現時点においては、定年制が高齢者の雇用機会の維持・確保 に貢献している側面を無視するわけにはいかず、その性急な見直しを避けるこ とが適当。 ○ 活力ある高齢化を実現する観点からは、高齢者に対して様々な選択肢を用意 し、職業生活からの引退時期や高齢期における勤務態様等の選択に当たっての 個人の自由を実質的に確保していくことが必要。 (2) 定年の引上げ等による65歳までの雇用の確保 ○ 意欲と能力がある限り年齢にかかわりなく働き続けることができる社会の実 現を目指すという将来的な方向を明確にした上で、向こう10年程度の間におい ては、個々の企業において、定年の段階的な引上げ、定年後の継続雇用制度、 あるいは他企業への再就職のあっせん等により、働く意欲と能力のある高齢者 について、何らかの形で65歳までの雇用を確保するよう努めることが必要。 ○ この場合、定年の段階的な引上げや定年後の継続雇用制度を拡大していくた めには、従来の賃金・人事処遇制度の見直しが大きな課題となることから、各 企業において労使が十分に協議をしていくことが望まれる。 ○ 行政としては、労使の主体的な取組を尊重し、これに対する支援を行う必要。 現時点においては、法律で強制的に定年の引上げ等を行うことは適切ではない。 (3) 高齢者の再就職の援助、促進 ○ 可能な限り雇用の中断が生じないような労働移動を実現すること、また、雇 用の中断が生じた場合であってもできるだけ早期の再就職を実現することが必 要であり、そのための離職前からの積極的な求職支援が必要。 ○ 再就職に当たっては、労働者自身が主体性をもって職業生活設計、職業能力 開発、求職活動を行うための環境整備が必要。 ○ 事業主に、事業主の果たすべき役割に加え、労働者募集段階における年齢制 限の緩和を求めていくことも必要。 (4) 高齢者の多様な雇用・就業機会の確保等 ○ 高齢期には、なだらかな引退も含めた多様な働き方の志向の高まり、年金支 給開始年齢の段階的引上げに伴う、短期間や短時間の就業をはじめとする高齢 者の多様な雇用・就業ニーズの高まりが予想される。 ○ このため、公共職業安定機関による求人開拓、職業相談、職業紹介の強化に 加え、民間の労働力需給調整機関が高齢者のニーズに対応し、かつ、高齢者の 熟練や知識を有効に活用するための適切なマッチングが行われることが望まし い。 ○ また、シルバー人材センターの機能強化とともに、安心して就業できる就業 環境の整備が期待される。 ○ 年齢にかかわりなく働き続けることができる就業形態として起業や自営、ま た、高齢者の社会参加の促進の観点から、NPOへの参加やボランティア活動 の促進も重要。 年齢かかわらず働き続けることのできる社会の構築、定年の引上げ等による65歳 までの雇用の確保、高齢者の多様なニーズに応えた機会の確保等の課題について政 府の施策の方向を示すことが不可欠。
(参考)
65歳現役社会政策ビジョン研究会参集者 |
稲上 毅 | 東京大学文学部教授 | |
今野 浩一郎 | 学習院大学経済学部教授 | |
岩村 正彦 | 東京大学法学部教授 | |
岡 正規 | 自動車総連調査局長 | |
奥沢 泰一 | 東京ガス人事部長 | |
小野 旭 | 東京経済大学経済学部教授 | |
小柳 勝二郎 | 日本経営者団体連盟労政部長 | |
座長 | 神代 和欣 | 放送大学教授 |
島田 尚信 | ゼンセン同盟常任執行委員 | |
須永 宏 | 日本経営者団体連盟労務法制部長 | |
清家 篤 | 慶応義塾大学商学部教授 | |
橋本 一美 | 全国中小企業団体中央会調査部長 | |
久川 博彦 | 連合労働対策局長 | |
古郡 鞆子 | 中央大学経済学部教授 | |
堀岡 弘嗣 | 東芝勤労部労政担当グループ長 | |
桝本 純 | 連合生活福祉局長 | |
森 敏雄 | 連合労働政策局長 | |
(50音順、敬称略) |