当部会では、先の雇用保険法改正の際、雇用保険を取り巻く諸問題について「当部 会において引き続き十分な検討を行う」とされていたところであるが、その後雇用保 険を取り巻く状況が大きく変化する中で、平成11年6月1日から、雇用保険の見直し に向けて、最近の雇用保険をめぐる状況等について議論を重ねてきた。今般、その結 果を別添「雇用保険の見直しについて(中間報告)」としてとりまとめたので報告す る。 平成11年8月27日 中央職業安定審議会専門調査委員 雇用保険部会 主任委員 樋 口 美 雄 中央職業安定審議会 会長 西 川 俊 作 殿
雇用保険の見直しについて(中間報告)(案) 第1 雇用保険事業の現状 1 雇用保険制度の概要 (1)意義 ○ 雇用保険事業は、「失業等給付」と「三事業」から成り、失業等給付の目的 は、労働者の生活の安定、雇用の安定及び就職の促進、三事業の目的は、失業 の予防、雇用状態の是正、雇用機会の増大、職業能力の開発向上及び福祉の増 進とされている(雇用保険法第1条)。原則として全産業に強制適用され、他 の社会保険と同様に政府が保険者としてこれを運営している。 ○ 失業等給付の中心を成す求職者給付は、労使の雇用関係を前提に、一時的に その雇用関係から外れた(=離職)労働者が、再び雇用関係に入ろうとする意 思能力を有するにもかかわらず就職できない場合(=失業)に、必要な給付を 行い、その生活の安定を図りつつ再就職を援助しようというものである。 ○ 失業等給付については、これまで幾度かの制度改正が行われ、平成7年度に は、労働者(在職者)の職業生活の円滑な継続を援助促進するための雇用継続 給付が、平成10年度には、労働者の就業能力の向上を図るための教育訓練給付 が新たに設けられている。 ○ 三事業は、雇用保険の保険事故である「失業」の予防(失業を経ない形での 労働移動の推進を含む)、失業した場合の積極的な再就職の促進などを通じて 失業等給付を減少させるという効果を有しており、雇用保険事業自体の効果的 な運営はもとより、失業等給付とあいまって、我が国雇用対策に大きな役割を 果たしている。 ○ 以上のように、雇用保険は、失業中の生活の安定や再就職の支援のみならず、 雇用を継続するための援助や就業能力の向上の支援にも大きな役割を果たして きた。雇用保険は、いわば勤労権を裏付ける強制適用の労使の共済的制度とし て、雇用面におけるセーフティネットの中核を担っており、労使双方(三事業 は使用者のみ)が負担する保険料が、雇用保険事業に要する費用の主たる財源 となっている。また、保険事故である失業については、政府の経済政策、雇用 政策とも関わりがあり、政府もその責任の一端を担うべきであることに鑑み、 失業等給付に要する費用の一部について、国庫も一定の負担をしている。 (2)失業等給付 ○ 一般求職者給付(基本手当等) ・ 離職時における「年齢」と「被保険者であった期間(算定基礎期間)」に応 じて、90〜300日の所定給付日数が定められている。 ・ 給付率は、離職前賃金日額の原則6割、賃金日額に応じて6〜8割(60歳 以上は5〜8割)とされている。 ・ 賃金日額の下限(年齢一律)とともに、年齢区分別の上限が定められてい る。 ・ 延長給付制度として、個別延長給付、訓練延長給付、広域延長給付及び全 国延長給付が設けられている。 ○ その他 ・ 一般求職者給付以外の求職者給付として、65歳以上の高年齢継続被保険者 に係る高年齢求職者給付、短期雇用特例求職者給付及び日雇労働求職者給付 がある。 ・ 短時間労働被保険者の区分があり、一般求職者給付及び高年齢求職者給付 に特別の定めが設けられている。 ・ 派遣労働者(登録型派遣)についても、一定の要件を満たす場合には、一 般被保険者として雇用保険が適用される。 ・ 就職促進給付として、早期に再就職した者に残日数に応じた一時金を支給 する再就職手当等がある。 ・ 教育訓練に要した費用の一部を給付として支給する教育訓練給付がある (平成10年12月施行)。 ・ 雇用継続給付として、高年齢雇用継続給付、育児休業給付及び介護休業給 付(介護休業給付は平成11年4月施行)がある。 (3)事業 ○ 失業の予防、雇用状態の是正、雇用機会の増大その他雇用の安定を図るため に雇用安定事業が設けられており、雇用調整助成金等の各種の事業主助成が行 われている。 ○ 職業生活の全期間を通じての職業能力の開発向上を促進するため能力開発事 業が設けれており、事業主の行う職業訓練に対する助成及び奨励、公共職業能 力開発施設の設置運営等が行われている。 ○ 労働者の職業生活上の環境の整備改善、就職の援助その他福祉の増進を図る ために雇用福祉事業が設けられており、労働者の就職、雇入れ、配置等につい ての相談援助等が行われている。 (4)負担 ○ 失業等給付 ・ 失業等給付に係る保険料率については、「労働保険の保険料の徴収等に関 する法律」に規定があり、賃金の原則11/1,000(労使折半)とされている。 また、求職者給付の一部及び雇用継続給付に対しては一定の国庫負担がなさ れることとされており、その割合は、求職者給付費の原則1/4、雇用継続給 付の原則1/8とされている。 ・ いわゆるバブル期における積立金の積上がり状況等を背景に、平成4、5 年度において、保険料率、国庫負担率ともに暫定的に引き下げられ、さらに 10年度において国家財政の危機的状況等を背景に国庫負担率が引き下げられ た。現在では、基本的に保険料率が8/1,000(労使折半)、国庫負担率が原 則の56%とされている。 ・ 雇用失業情勢の変化に機動的に対応して雇用保険制度の安定的運営を確保 するため、積立金制度が設けられているとともに、その規模に応じて、中央 職業安定審議会の意見を聴いて保険料率を原則料率±2/1,000の範囲で変更 できるとするいわゆる「弾力条項」が設けられている。ただし、現在は、弾 力条項の変更幅を超えて保険料率の引下げを行うために、法附則による措置 が行われているため、弾力条項そのものも発動しないこととされている。 ○ 三事業 三事業については、使用者のみの負担となっており、保険料率は原則 3.5/1,000とされている。 2 適用給付等の現状 (1)適用状況 ○ 雇用保険の被保険者数は、平成10年度において、約3,420万人となっている。 被保険者数はこれまで順調に増加を続けてきたが、10年度は、対前年度比 △0.6%と、初めての減少となった。 ○ 年齢区分別には、10年度において、30歳未満が約981万人(構成比28.7%)、 30歳以上45歳未満が約1,097万人(同32.1%)、45歳以上60歳未満が約1,130万 人(同33.0%)、60歳以上65歳未満が約144万人(同 4.2%)となっている。 ○ 被保険者数のうち短時間労働被保険者数は、10年度において、約80万人とな っている。 (2)失業等給付の状況 ○ いわゆるバブル崩壊以降、基本手当の受給者実人員(月平均受給者数)の増 加が続いており、平成10年度の受給者実人員は、約105万人(対前年比17.1% 増)と、過去最高の規模となっている。 ○ 年齢区分別の受給者実人員及び支給金額は、10年度において、次のとおりで あり、60歳以上65歳未満層が最も多くを占めている。 ・ 30歳未満 約21万人(構成比19.7%)、 約2,871億円(構成比14.9%) ・ 30歳以上45歳未満 約19万人( 同 18.0%)、 約3,292億円( 同 17.1%) ・ 45歳以上60歳未満 約33万人( 同 31.0%)、 約6,406億円( 同 33.3%) ・ 60歳以上65歳未満 約33万人( 同 31.3%)、 約6,668億円( 同 34.7%) ○ 平成10年度における失業等給付関係費の総額(実績見込)は、約2兆7千億 円、うち一般求職者給付費(基本手当等)が約2兆円を占めている。 (3)三事業の状況 ○ 雇用活性化総合プラン及び緊急雇用対策に基づき、積極的な雇用対策が講じ られており、平成11年度予算(補正後)の三事業費は、約7千億円となってい る。うち雇用安定事業費が4,011億円、能力開発事業費が1,734億円、雇用福祉 事業費が1,362億円と、雇用安定事業費が中心を占めている。 ○ なお、平成10年度からは、雇用福祉事業について移転就職者用住宅及び福祉 施設の新設をストップしている。 3 雇用保険財政の現状 (1)失業等給付の状況 ○ 保険料率等が暫定的に引き下げられ、またいわゆるバブル崩壊後受給者が急 速に増加する等の中で、平成6年度以降、単年度での赤字が続いている。平成 10年度(実績見込)においては、厳しい雇用失業情勢を反映して、収入が約1 兆7千億円、支出が約2兆7千億円、収支差は△約1兆円(9,600億円強)と なった。 ○ 収支差は、積立金の取崩しで対応してきており、10年度末の積立金残高見込 は3兆円弱となっている。今年度(11年度)も10年度以上の取崩しが見込まれ ることから、今年度末の積立金残高は、2兆円を相当程度下回ることが見込ま れる。 ○ このままの状況が続けば、13年度途中の給付に支障が生ずることが避けられ ず、従って、遅くとも13年度当初には、相応の収支改善措置が実施されること が不可欠の状況にある。 (2)三事業の状況 ○ 10年度末の雇用安定資金の残高見込は約3,700億円となっている。11年度予 算においては、収入が約5,672億円、支出が約7,118億円、収支差は△約1,446 億円となっており、収支差は雇用安定資金の取崩しで対応することとしている。 第2 雇用保険を取り巻く環境の変化 以上のように雇用保険事業が財政的に厳しい状況に直面している要因は、直接 的には厳しい雇用失業情勢にあるが、より根源的には、雇用保険を取り巻く様々 な環境変化が進展していることにある。その重要な環境変化として、次のような 点を指摘できる。 1 少子・高齢化の進展 ○ 少子化により新規学卒者の供給が減少し、高年齢層は労働力供給が増えるた め、現在のように若年者への労働力需要は旺盛、高齢者への労働力需要は乏し いという状況が続けば、年齢間の需給の不均衡が更に拡大するおそれがある。 雇用保険事業自身にとっては、受給額の多い受給者の増大というダブルパンチ で給付の増大を招くおそれがある。 ○ 今後とも、経済社会の活力を維持、発展させていくためには、高齢者の高い 就業意欲が活かされ、その有する能力が十分に発揮されることが重要な課題で ある。公的年金(基礎年金部分)の支給開始年齢の引上げも予定されており、 引き続き継続雇用の推進を図るとともに、多様な雇用就業機会の確保等を図っ ていく必要がある。 ○ 若年層については、完全失業率の持続的な高まりによって、技能形成、能力 開発に重大な支障が生じることが懸念されるのみでなく、時間の経過とともに 失業者の多いコーホート(同時出生集団)がそのまま高い年齢層へ移っていく ことにより、マクロレベルでの労働生産性や活力の維持など経済や社会全体へ の影響が生じる可能性があり、若年層の活力の維持と能力の向上が重要な課題 となっている。 ○ また、少子・高齢化が進展する中で、育児や家族介護を行う労働者が安心し て持てる能力を有効に発揮し、社会経済の活力を維持していく観点から、職業 生活と家庭生活との両立を支援していくことが重要な課題となっている。 2 雇用をめぐる状況の変化 (1)雇用慣行・賃金体系の変化、労働移動の増加 ○ 勤続年数による賃金カーブの傾きは、次第に緩やかになっている。職能・業 績給部分や職務給部分の拡大など、賃金制度の見直しの動きも見られる。 ○ 基幹的な雇用者を中心に、長期継続雇用は、今後も我が国における基本的な 就業形態であり続けると考えられるが、グローバル化や規制改革による企業間 競争の激化、産業構造の変化などに伴い、労働移動が増加し、また、働き方の 多様化が進むことによって、全労働者に占める長期継続雇用型の労働者の比率 は低下することが見込まれる。 ○ 労働者に対する調査を見ても、「(自分が)定年まで勤めることができると 思う」という回答は全体の3割強で、若年になるほどその率が低くなっている (平成10年3月、日本労働研究機構)。また、若年層を中心に、転職志向の高 まりが見られる。 (2)雇用就業形態の多様化 ○ パートタイム労働者の増加、派遣労働者の増加など、雇用就業形態の多様化 が進んでいる。 ○ 企業にとっては、雇用調整やコスト面で事業環境の変化に機動的に対応でき ることや、知識、技術、経験のある即戦力の労働者を採用できるというメリッ トがあり、一方、労働者側からすると、自らの能力を活かして自由な時間に働 けるというメリットがあることから、今後も多様な働き方が拡大することが見 込まれる。 ○ 去る6月29日には、派遣対象業種の原則自由化等を内容とする労働者派遣法 の一部改正法が成立した(派遣労働者を含む短期雇用労働者に係る社会・労働 保険の在り方について、早急に検討すること、との附帯決議がなされている)。 3 失業率の高まり (1)均衡失業率の上昇等 ○ 最近の失業率を均衡失業率と需要不足失業率とに分解すると、均衡失業率が 3.4%程度、需要不足失業率が1.2%程度と推計されている。現在の雇用保険制 度がスタートした昭和50年当時の均衡失業率は約1.7%と推計され、その後徐 々に増加を続け、現在では当時の約2倍の水準にまで上昇していることになる。 ○ 企業の雇用過剰感をみると、産業別には製造業、建設業などで、職種別には 管理、事務、単純工などで、相当の高さになっている。 ○ 今後、産業構造の変化のスピードの高まり等による産業間、職業間の労働力 需給の不均衡の拡大、少子・高齢化の進展による年齢間の需給の不均衡の拡大 等が指摘されている。 (2)完全失業率の将来見通しについて ○ 雇用政策研究会は、次のような見通しを示している。 ・ 労働力供給は、2005年までは増加、その後減少に転ずる。 ・ 一方、労働力需要は、一定の経済成長を前提にしても、経済のグローバル 化や規制改革等による労働生産性の向上により、かつてのような経済成長と の正の相関関係が変化し、弱含み傾向になるものとみられる。 ・ その結果、2010年(=労働力供給の減少後)の完全失業率(労働力供給と 労働力需要の差から求まる)は、特に対策を講じなければ、経済成長率にも よるが、4%台前半から5%台前半となる。 ・ 適切な経済対策や雇用対策を講じることにより、需要不足失業を減少させ るとともに構造的失業の増加を可能な限り抑制し、就業者数の増加を図ると ともに、完全失業率を引き下げる必要がある。今後の雇用政策の目標として は、2010年の完全失業率は3%台後半を目指すべきである。 ○ 雇用対策基本計画では、その別添「参考」で、「2010年頃の完全失業率は3 %台後半〜4%台前半と見込まれるが、適切な経済運営に努め、持続的、安定 的な経済成長の実現を図るとともに、新規雇用機会の創出、職業能力開発や職 業能力評価の充実、労働力需給の調整機能の強化を図ること等により、できる 限り低くするよう努める必要がある」とされている。 第3 雇用保険の見直しに当たっての視点 1 基本認識 ○ 雇用保険は、これまで、我が国労使の長期継続雇用慣行にも支えられ、財政 的にも良好なパフォーマンスを維持してきた。しかしながら、当面の厳しい雇 用失業情勢等を反映して財政的に極めて厳しい状況にあることに加え、均衡失 業率の上昇傾向にも見られるように、少子・高齢化の進展、雇用をめぐる状況 変化(雇用慣行・賃金体系の変化、労働移動の増加、雇用就業形態の多様化等 )など構造的な変化の影響を受けつつあり、またその影響は今後更に大きくな ることが見込まれ、制度の安定的運営について予断を許さない状況にある。 ○ 雇用保険制度としては、こうした長期、短期の環境の激変に的確に対応し、 雇用面におけるセーフティネットの中核として、引き続き安定的に十分な役割 を果たしていくことができるよう、早急に制度の再構築を図る必要がある。 ○ こうした観点から、雇用保険の総合的な見直しを行い遅くとも平成13年度当 初までに必要な収支改善措置を実施しておくことが不可欠な状況にあり、その ための法律改正を次期通常国会で行う必要がある。 2 留意すべき事項 ○ 雇用保険を取り巻く状況は、その創設時である昭和50年当時とは背景事情を 大きく異にしており、構造的に大きく変化している。雇用保険は、労働市場を 健全に機能させるためのいわば補完制度として重要な役割を担っているが、労 働需給が悪化している時にこそ、その真価が問われる。こうした観点から、雇 用保険が引き続きその役割を十全に発揮できるよう、しっかりした理念の下に 再編整理することが肝要である。 ○ 雇用保険は、失業時の対応にとどまらず、失業の予防、雇用の継続など、在 職中も含め職業生活の各段階において、幅広い機能を果たしてきている。しか しながら、今後、労働移動の増加等が見込まれる中で、労働者の生涯を通じた 職業キャリアの形成を支援するための制度として再整理し、その機能が十分に 果たされるようにしていく必要がある。 ○ 今後の雇用を取り巻く様々な状況変化に適切に対処していくためには、この ように雇用保険が雇用面でのセーフティネットの中核として十分な役割を果た していくことが重要であるが、労働力の適切な活用といった視点も重要であり、 若年者に偏った雇用指向を改めることも含め労働者募集や人事管理等における 企業の主体的な取組、教育の在り方など、幅広い観点からの取組が必要となる。 また、公的年金(基礎年金部分)の支給開始年齢が引き上げられていく中で、 企業における定年年齢の引上げも含め、60歳台前半層の労働力需要を高めてい くことが求められている。 ○ 雇用保険の財政状況から単に保険料率等を原則に戻せば足りるという状況で はなく、また、上記のように構造的にも雇用保険を取り巻く状況が今後大きく 変化することが見込まれ、それに適切に対処する必要があることから、制度の 在り方について、「給付」と「負担」の両面から見直すことが不可欠である (別添「収支構造のイメージ」参照)。 ○ 給付と負担の見直しに当たっては、雇用保険が将来にわたり真に効果的な制 度として安定的に機能するようにすることが重要であり、まずは給付の在り方 を検討した上で、それに必要な負担措置が講じられるというプロセスが重要で ある。 ○ 雇用保険は、勤労権を裏付ける強制適用の労使の共済的制度であり、労使の 役割が非常に大きいが、強制保険としての信認性を確保するため、公平・公正 なものであることが求められる。また、制度の適切な運営を図る上で政府の役 割が重要である。 ○ 雇用保険は、失業のリスクに対処するための失業等給付を、原則として当該 年度(1年間)における労使からの保険料収入等で支弁することとしているも のである。積立金制度は、このように短期間の中での収支均衡を原則としつつ も、経済の好不況に対応できるようにするための手段として設けられているも のである。 ○ 雇用保険制度の再構築に当たっては、今後の雇用政策の方向を十分踏まえる 必要があり、また、その際、雇用保険事業が失業等給付と三事業との有機的連 携で成り立っていることに留意する必要がある。「第9次雇用対策基本計画」 では、今後の雇用対策の重点的な方針として、次のような点を指摘している。 ・ 経済・産業構造の転換に的確に対応して、雇用の創出・安定を図るため、 良好で長期的に働くことができる雇用機会の創出・確保を雇用政策の目標の 基本としながら、失業した場合には再就職先が早期に見つかるようにするこ とが重要であること。 ・ 個々人の就業能力を向上させるとともに、経済社会の発展を担う人材育成 を推進することが重要であること。 ・ 高齢者や女性など、人々の意欲と能力が活かされる社会の実現を目指すこ とが重要であること。 3 視点 雇用保険制度の見直しに当たっては、1の基本認識及び2の留意すべき事項と ともに労使をはじめとする関係者の意見を十分に踏まえて対応することが必要で あるが、以下に示すように、これまで当部会においては、雇用保険の在り方につ いて、様々な意見が出されているところである。 (1)適用の在り方について ○ 雇用就業形態の多様化に対応した一定の適用拡大が必要ではないか。具体的 には、 ・ 登録型派遣については、その就業実態を踏まえ、特別の区分を設けること も含め早急に制度的な対応を講ずる必要があるのではないか。 ・ パートタイム労働者についても、所得要件を中心に現行の適用要件を緩和 し、適用拡大を図ることが必要ではないか。 ○ 適用範囲と収支とは密接な関係にあり、経営的立場にある者や公務員への適 用拡大も検討すべきではないか。 ○ 強制保険としての信認性の確保という観点からも、未加入事業所の加入促進 を一層徹底すべきではないか。 (2)失業等給付の在り方について <総論的な事項> ○ セーフティネットについては、給付水準について単に最低限の生活を確保で きるものとなっているかという視点だけではなく、人々の再挑戦しようという 意欲を支える積極的なものとなっているかという視点にも立って制度を構築す ることが重要ではないか。 ○ 雇用保険財政の逼迫の根本は未曾有の雇用情勢の悪化にある。そしてその主 たる原因は安易な雇用調整の横行である。この部分に歯止めをかけなければ病 根は断たれないのではないか。 ○ 雇用を取り巻く状況が大きく変化する中で、セーフティネットの役割が重要 になることから、雇用保険制度の積極的な整備充実を図っていくべきではない か。 ○ 雇用保険制度の抜本的な改革が必要であるとしても、現下の厳しい雇用失業 情勢下では混乱を招くおそれがあることから、失業給付については、当面現行 の水準を維持しつつ、給付期間の大幅延長や各種助成措置の維持を図るべきで はないか。 ○ 雇用保険の現在の収支状況や、今後の失業率の高まり、少子・高齢化で収入 増での対応に自ずから限界があること等を踏まえれば、安易に負担の引上げで 対応するのではなく、まずもって給付の内容を抜本的に見直すことが必要では ないか。 ○ 雇用保険が本来掛け捨てであるという原点に戻って、給付日数等を思い切っ て見直すべきではないか。 ○ 年齢にかかわらず、真に就職の緊要度の高い者への給付の重点化を図ること により、いわば労働力の安売りを抑制し、労働市場が健全に機能するようにす るという観点から、制度を考えていくべきではないか。 ○ 労働移動の増加等の状況変化を踏まえつつ、モラルハザードに留意し、本当 に必要としている人、困っている人に対して必要な給付がなされるということ を徹底すべきではないか。 ○ 雇用保険は、本来失業者を早期に再就職につなげることが最終目的であり、 給付という形に限られず、多様な雇用就業機会の確保、訓練の充実、需給調整 機能の強化などの総合的な対応を図ることが重要ではないか。 <各論的な事項> ○ 60歳以上の高齢者に対する基本手当については、60歳以上と60歳未満をはっ きり分けて考えるべきであり、その実態を踏まえ、給付日数、給付額とも縮減 する方向で見直すべきではないか。定年退職に甘い給付になっているのではな いか。 ○ 基本手当の見直しに伴い、高年齢雇用継続給付や再就職手当など、関連する ものについても、その見直しが当然に必要になるのではないか。特に、高年齢 雇用継続給付については、むしろ今後の賃金制度をゆがめる面があるので見直 しが不可欠ではないか。 ○ 60歳以上の高齢者に対する基本手当等については、この層が厳しい雇用失業 情勢の影響を受けやすい層であること、年金支給開始年齢は65歳に向けて確実 に引き上げられること等を考慮するならば、基本手当、高年齢雇用継続給付の いずれについても、当面は現行の給付内容を維持すべきではないか。 ○ 中高年齢者(45歳以上60歳未満)については、若年層と異なり、失業の深刻 度も高く、年齢に合う求人がないということが失業の理由となっていることか ら、セーフティネットをきちんとしておくべきではないか。 ○ 年齢と被保険者であった期間(算定基礎期間)に基づく現在の所定給付日数の テーブルを抜本的に見直し、失業の理由など必要度に応じて、より精密な対応 が可能となるよう再設計すべきではないか。 ○ 自発、非自発の区分にはグレーゾーンも多くあることから、それを前提に取 扱いに差異を設けるといったことについては、慎重にすべきではないか。 ○ 早期再就職の促進を図るため、エンプロイアビリティの一層の向上が重要な 課題となっており、この観点から、教育訓練給付を含め、給付の充実を図る必 要があるのではないか。 ○ 給付水準について、再就職意欲を阻害することのないよう、再就職時賃金も 考慮しつつ、見直しを行うべきではないか。 ○ 給付水準の見直しに関しては、賞与など一時金が算定基礎から除かれている ことにも留意すべきではないか。 ○ 少子・高齢化の中での職業生活と家庭生活との両立支援という観点から、育 児・介護休業給付の給付率の見直しが必要ではないか。 ○ 高年齢求職者給付については、年金との関係や雇用保険が掛け捨てを原則と していることを踏まえ、廃止も含めて見直しを行うべきではないか。 ○ 高年齢求職者給付については、既に今年度からその水準を半減したことに加 え、とりわけ65歳以上の高齢者には仕事がなく生活に困っているという現実が あるのであるから、安易に廃止するというのは問題ではないか。 ○ 不正受給防止を一層徹底すべきではないか。 (3)三事業の在り方について ○ 雇用調整助成金などの雇用維持中心の対策から、失業なき労働移動、雇用機 会の創出により重点を置いた対策を進めていくべきではないか。 ○ 雇用調整助成金は、雇用の安定や事業転換推進に大きく貢献しており、この 観点からは、むしろ維持拡充を図ることが必要ではないか。 ○ 今後の三事業の重点は、雇用福祉から能力開発へと、教育を重視したものに していくべきではないか。 ○ 今後の我が国経済社会の担い手である若年者について、大学等と社会とを円 滑につなぐ等の観点から、適職選択や技能形成等に対する支援を積極的に行っ ていくべきではないか。 ○ 高齢者の多様な雇用就業機会の確保を積極的に図っていくべきではないか。 ○ 早期再就職を促進するため、エンプロイアビリティの一層の向上が図られる ようにすべきではないか。 ○ 各種助成金が複雑で使いにくい面があることから、整理合理化を進めていく べきではないか。 ○ 今後新設を行わないこととした移転就職者用住宅及び福祉施設については、 既設のものの処分を適切に行うことにより、雇用福祉事業の合理化に引き続き 努めるべきではないか。 ○ 働き方の多様化が進む中で、これまで雇用保険の対象外とされてきた者に対 する雇用保険としての関わり方を再検討する一方、雇用対策に一般会計を一層 活用すべきではないか。 (4)負担の在り方について <保険料率の在り方> ○ いわゆるバブルが崩壊し、積立金の大幅な取崩しが加速度的に進んでいるな ど、保険料率を暫定的に引き下げた当時とは、そもそもの前提、時代背景が大 きく異なってきているのではないか。 ○ 現行の保険料率は、均衡失業率が1.7%台であった雇用保険創設当時のもの をベースとしており、今日、均衡失業率が3.4%台と当時の倍の水準に達して いることを踏まえれば、給付規模にもよるが、保険料率そのものを大幅に引き 上げる必要があるのではないか。 ○ 最大限の給付の効率化努力の後に初めて保険料率の引上げの話が出てくるの であって、給付の見直しについて労使が十分に話し合い、それとパッケージで 保険料率の見直しの話を打ち出すべきではないか。 ○ 失業率の高まりについては、どこまで視野に入れるかという問題はあるが、 産業活力再生(産業競争力強化)などの問題も現実に議論されているのである から、セーフティネットとしての雇用保険については、相当程度の幅を頭に入 れて議論すべきではないか。 ○ 弾力条項の仕組が使えない現状はおかしいのではないか。今後の構造変化の 中で雇用失業情勢が現実にどうなるかは予測できず、そのときにセーフティネ ットが働かないでは済まないのだから、弾力条項の仕組を使えるようにしてお くべきであり、その仕組や使い方についても十分に考えるべきではないか。 <国庫負担の在り方> ○ 雇用保険は、労使による共済を基本とするとしても、社会保障政策の重要な 一環を成していることから、現況の雇用情勢を非常の状態と認識し、国として の責任を果たすために一般会計からの充当により積極性を示すべきではないか。 ○ 国庫負担については、制度設計の仕方の問題はあるにしても、引き続き重要 な役割を果たすべきではないか。 ○ 財政構造改革法も凍結されたのだし、保険料率を見直すなら、まず国庫負担 率を原則の1/4に戻すべきではないか。また、雇用保険制度の整備充実を図る ために必要であれば、国庫負担率の引上げも検討すべきではないか。 ○ 給付費に対する国庫負担は当然に原則の1/4に戻すべきではないか。また、 それを上回る一般会計については、雇用創出のような、より積極的な雇用政策 に用いることを検討してよいのではないか。 ○ 急激かつ一時的な失業の増加により雇用保険財政が悪化した場合には、国庫 による特別な対応策がとられるべきではないか。 4 今後の対応 現時点では、以上のように、基本的認識においては関係者が共有しあう部分も あるが、個別の検討項目においては、関係者の意見に相当程度の乖離が見られ、 当部会としては、中央職業安定審議会(本審)から改めて検討指示を受けた上で、 今後更に具体的に検討を深める必要があると考える。 なお、雇用保険制度の在り方については、従来から当部会において度重なる議 論がなされてきた経緯がある。その蓄積については、別添「雇用保険部会におけ るこれまでの主な論点等」に整理しているとおりであり、今後の検討に当たって は、これらも参考にすることが必要であると考える。