(別紙) シルバー人材センターの新しい発展方向について(概要) T 我が国の高齢化の進展及び高齢者を取り巻く環境の変化等 1.我が国の急速な高齢化の進展 ○ 人口の高齢化が急速に進展し労働者の供給構造が急激に変化する中、労働 需要構造も、これに合わせて変わっていかなければ、高齢者は大幅過剰、若 年者は大幅不足というアンバランスが生じる。 ○ こうした事態を避け社会の活力を維持するためには、社会の中で高齢者 がその経験を活かし、労働を含め幅広い方面で活躍できる仕組みを構築し ていくことが極めて重要。 2.高齢者像及び高齢者を取り巻く環境の変化 ○ 高齢者の健康状況に対する自己評価が高まるとともに、就業希望者のうち の雇用希望者(特に短時間勤務希望)の割合の上昇、高学歴化の進展など、 高齢者の属性の変化が生じている。 ○ 平成13年度から、特別支給の老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢が引 き上げられることとされているとともに、今後の年金制度改革の方向性とし て報酬比例部分についても支給開始年齢の引き上げ等が検討されており、今 後、年金制度改革が高齢者世帯の生活に大きな影響を及ぼすことが予想され る。 ○ 昨今の厳しい雇用失業情勢の中でも高齢者の労働市場の状況はとりわけ厳 しい。 * 雇用失業情勢(平成11年6月) (年齢計) (60歳〜64歳) 完全失業率 4.9% 7.8% 有効求人倍率 0.46倍 0.06倍 ○ これらを踏まえ、健康で就業意欲の高い高齢者のニーズに応じた多様な 雇用・就業機会を確保するための仕組みを今後一層強化していくことが必 要。 U シルバー人材センター事業の展開と問題点 1.シルバー人材センターの果たしてきた役割と事業効果 ○ シルバー人材センター事業は昭和50年に発足し、昭和55年から国庫補助が 開始された。昭和61年には「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以 下「高齢法」という)において指定法人として位置づけられた。更に、平成 8年には高齢法に、都道府県単位で事業を実施するシルバー人材センター連 合(以下「連合」という)に関する規定が設けられ、シルバー人材センター が設置されていない市町村でもシルバー人材センター事業を隈なく展開でき る法制度上の体制が整備された。 ○ シルバー人材センターの目的は、定年退職者その他の高年齢退職者の希望 に応じた臨時的かつ短期的な就業の機会を確保し、組織的に提供することに より高齢者の能力の積極的な活用を図り高年齢者の福祉の増進に資すること (高齢法第46条)である。 ○ シルバー人材センター事業は着実に実績を伸ばしており、平成10年度末現 在、団体数796、会員数約47万6千人、就業実人員約36万1千人、契約金額約 1,799億1千万円となっている。 ○ 平成10年度からは、労働省からの委託事業として、事業主団体等も参画し た雇用を前提とする技能講習の実施、公共職業安定所と事業主団体との合同 面接会の開催を一体的に行うことにより高齢者のより本格的な雇用を支援す る「シニアワーク・プログラム」を、各連合において実施している。 ○ 多くの会員が、シルバー人材センターでの就業が健康状態にプラスの効果 を持つと認識しており、シルバー事業への参加により健康が保持され、医療 費抑制に繋がる面もあると類推される。 2.シルバー人材センター事業の問題点 (1) 就業実態面の問題 ○ 特に増加の見込まれるホワイトカラー層の会員のための事務系職種の 開拓が急務。 ○ 「臨時的かつ短期的」な就業の範囲を実態的に超えるものを扱ってい たり、実態的に雇用になっており本来は無料職業紹介で対応すべき就労 を請負・委任の形態で対応するといった不適正就労が生じたりするなど 、法制度との乖離が見られる。 (2) 事業の地域的な偏り ○ 全国の約4割の地域ではシルバー人材センターが未設置であり、それ ぞれの地域での高齢者の就業希望を満たすための環境が不十分。 ○ 都道府県により事業の浸透度に格差があり、全国的に均整の取れたサ ービス提供ができていない。 (3) 事業運営が円滑に行われるための財政の問題 ○ 行政改革等の必要性が高まる中で、今後、国及び地方公共団体からの 運営費補助が減額されるおそれがある。 V シルバー人材センターの新しい発展方向 1.高齢者雇用・就業対策の中でのシルバー人材センターの位置づけと考え方 ○ 高齢者雇用・就業対策を効果的に推進していく上で、公共職業安定所及 び高年齢者職業相談室は、主として65歳までの常用雇用を中心とした本格 的雇用機会の確保を担う。一方、シルバー人材センターは、引退過程にお いて、生きがいを持ちつつ、本格的な雇用機会ではなく追加的な収入を得 るための就業機会を求める高齢者に対して、多様なニーズに対応した就業 機会を地域において提供する拠点であると位置づけられる。 ○ その際、シルバー人材センターがこれまで手掛けてきた雇用によらない 就業機会の提供機能を、潜在的ニーズの掘り起こしを含めて強化していく ことが重要。 ○ 更に、最近の高齢者のニーズの動向(任意就業希望から短時間勤務希望 へのシフト、ホワイトカラー層会員の増加等)を踏まえ、新たなニーズに も対応できる総合的な仕組みについての検討が必要。 2.シルバー人材センターの自主的・自立的取組の推進 (1) 新たな就業機会拡大のための取組 ○ 我が国の高齢化の進展に伴い増加する会員に、希望する就業機会を確保 し提供することが、今後、一層重要な課題。 @ 介護分野への対応 * 平成12年度(2000年度)からスタートする介護保険制度により、介 護関連の就業機会が拡大する余地が多分にあり、シルバー人材センタ ーが関係機関との連携のもと介護関連サービスへの関与を検討してい くことが有効。 * そのためには介護に携われる会員の充実が不可欠であり、現在、シ ニアワーク・プログラムで実施されている介護講習(3級、2級講習 等)の拡充が必要。 A 事務系分野への対応 * ホワイトカラー層会員の増加の見込みに対応し、事務系職種を積極 的に開拓していくことが、今後、益々重要。 * 具体的には、美術館、博物館、公共施設の案内や観光ガイド、補習 教育、英会話・パソコン教室等の社会人教育、NPOの運営支援、更 には社会経験を活かした学校教育への参画など。 (2) 独自事業の推進 * 会員の就業機会の拡大のために、発注者がいなくても自ら事業を創出 する取組を積極的に進めることが必要。 * 独自事業の積極的な推進を通じて蓄積された各事業法制との関係、リ スク管理等に関するノウハウや知識を通じ、シルバー人材センターは、 会員のグループ開業支援の役割も担うことができる。 (3) 会員参加によるシルバー人材センターの自主的・自立的運営 * 会員の事業運営への積極的な参加を進めることが必要。 (4) 連合を中心とした地域的広がりのための取組 * シルバー人材センターの未設置地域における事業展開環境の整備、小 規模なシルバー人材センターの連合加入の促進が必要。 (5) シルバー人材センターを支える地域団体の形成 * 個人、事業主団体等を含む地域全体で事業をサポートする支援団体の 形成が課題(特定公益増進法人制度を活用した寄附や仕事の発注、運営 上の助言等)。 ○ (1)〜(5)に加え、公共職業安定所との連携を強化する等により、事業 を自己完結させるのではなく、幅広い観点から地域の高齢者の雇用・就業の促 進に貢献するという姿勢が必要。 3.シルバー人材センターの機能強化 〜制度見直しの視点〜 ○ 今後の就業を希望する高齢者の急速な増加の見込み、一方で厳しい高齢者 の雇用失業情勢等を踏まえ、高齢法上規定されている「臨時的かつ短期的な 」就業の枠を越えたある程度継続的な就業にも視野を広げてシルバー人材セ ンターのシステムの見直しを検討することが必要。 ○ その場合、シルバー人材センターの機能強化策としては、以下の(1)〜 (4)が考えられる。(1)〜(3)はシルバー人材センターの様々な形で の雇用への関与を強化することになるが、その結果、実態的に雇用関係にあ ると疑わしい就業は明確に雇用関係として整理されることになり、不適正就 労の問題が解決される。すなわち、シルバー人材センターが雇用への関与を 深めることは、請負・委任の基本線を適正に発展させていくための土台にも なる。 (1) 無料職業紹介の充実強化 * 現状では「臨時的かつ短期的」な雇用に限定されている無料職 業紹介の機能を拡充し、「短時間」の雇用も斡旋できるようにす ることについての検討が必要。 * 無料職業紹介の強化により、これまで扱いが手控えられてきた 分野の就業機会の開拓及び斡旋が可能となり、高齢者の就業機会 の一層の拡大、特に、ある程度長期間就業する場合が多い事務系 職種の就業機会の広がりが期待される。 * シルバー人材センターが無料職業紹介を強化する場合は、短 期、短時間の地域的な仕事を斡旋することで公共職業安定所の機 能を補完する役割を担うこととなると考えられる。 (2) シニアワーク・プログラムの拡充 * シニアワーク・プログラムにおいては幅広い形態の雇用をカバ ーしているが、特に、高齢者の希望の多い「短時間」雇用の斡旋 機能を強化すること(具体的には、「短時間」求人の開拓専門員 の配置)についての検討が必要。 * これまでのシニアワーク・プログラムは、高齢者の能力開発と いう労働供給側に主に力点が置かれていたが、今後は事業主等の 労働需要側への働きかけも徐々に強化し公共職業安定所の需給調 整機能の向上に貢献することについての検討が必要。 (3) 登録型労働者派遣事業の実施 * 登録型労働者派遣事業の実施により、無料職業紹介の強化と同 様、これまで扱いが手控えられていた「臨時的かつ短期的」を超 えるある程度継続的な雇用の場の確保が可能になる。特に継続的 な就業が多い事務系職種の就業機会が拡大する。 (4)就業(雇用を除く。)範囲の拡大 * ある程度継続的になされる就業機会の提供を可能にすることも 検討課題。これにより、従来の「臨時的かつ短期的」を超える就 業機会の開拓及び提供が可能となり、高齢者の就業機会が拡大。 特に介護等の家庭へのサービス提供の分野において効果が期待さ れる。 * ただし、この場合、実態的に雇用と判断される事例の発生によ る労災や就業者保護の問題、正規雇用の労働者を代替してしまう 恐れがあること等に留意が必要。 ○ シルバー人材センター事業は、地域に限定された性格や、高齢者の多様な ニーズに対応するため手間暇がかかることなどから、採算性の面で市場メカ ニズムに任せていては、十分なサービスが供給されない。しかし、就業機会 の確保を通じた高齢者の生きがいの充実、地域社会の活性化、就業による健 康の維持・増進効果、及び医療費負担の抑制効果等の大きな副次的効果があ る。 ○ こうしたシルバー人材センター事業の性格、有効性を踏まえると、今後と もシルバー人材センター事業の円滑な運営のためには国及び地方公共団体か らの支援をしていくことが不可欠。 W 結語 ○ 活力に満ちた明るい高齢社会を築くためには、高齢者が意思と能力に応じて 社会生産活動に参加することが益々重要。このためには、高齢者が雇用か社会 に役立つ活動に参加することへの国民的なコンセンサスの形成が必要。 ○ シルバー人材センターは、地域の中で高齢者が生きがいを持って働くことを 推進する一つの運動体であり、その事業運営そのものが上記の国民的コンセン サス形成に多大な貢献をしている。 ○ 高齢化の進展に伴い、健康で元気な高齢者が増加する中で、これら高齢者の 就業に対するニーズも幅広く多様化。シルバー人材センターは、新たな高齢者 の就業ニーズに適切に応えられるよう事業のあり方を見直し、これまで蓄積し たノウハウを有効に活用して追加的収入を得るための雇用を含め幅広く就業機 会の確保・提供に関与していくべきかを検討する時期に来ている。 ○ 本報告書は、シルバー人材センターの発展方向について一義的に結論づけた ものではなく、こうした方向性についての着眼点を示すことを目的としている 。本報告書で提示した視点が、今後、関係者の間で更に議論を深めていく際の 一助になることを祈念する。