V モノづくり技術を支える人材の高度化に向けて
〜金属プレス加工業雇用高度化懇談会報告書の概要〜
≪課題と雇用高度化策のポイント≫
○優秀な人材の確保・育成と高度技能の円滑な継承
○長期的展望に立った戦略的経営
(雇用高度化策) ↓
・ モノづくりの重要性・楽しさの社会に対するアピール
・ 能力や実績を適正に評価するシステムの整備
・ 技能継承に向けた体系的な教育・研修体制の強化
・ 取引問題是正のためのユーザーへの働きかけ |
金属プレス加工業は、日本の産業発展を支えてきた基礎産業であり、また、今後の日本の経済社会が地球環境と調和しながら順調に発展を続けてゆく上でも重要な役割を担っている。しかし、当業界をとりまく環境変化等により、金属プレス加工業を営む企業の多くは、経営の安定、人材の確保、技能・技術の継承等さまざまな問題を抱え、これらの対応に苦慮している状況にある。これらの問題への対策として、以下のような検討を行った。
1 社会、ユーザー、若者へのアピール
(1)モノづくり産業としての重要性、仕事の魅力のアピール
金属プレス加工業の産業としての重要性や、仕事自体の面白さ、モノづくりの魅力を社会や若者に対して、具体的にアピールすることが重要である。こうした取組みを、個別企業のみならず業界団体等を中心に業界全体として進めるべきである。その際、マスメディア等の活用や教育現場への働きかけも有効と思われる。
(2)取引問題の是正
値引きや短納期化の問題について、ユーザーの要求が、行き過ぎたものにまでなっている場合には、その是正にユーザーとメーカーの双方が努めるべきである。また、価格設定については、ユーザーの十分な理解のもとに適正な人件費等原価を客観的に積み上げた設定方式を導入するなど見直しを図る必要がある。業界団体としても適正な発注が行われるような気運の醸成やルールづくりに取り組む必要がある。
(3)将来の経営ビジョンの提示
企業や業界として明るい希望がもてる将来ビジョンと確固たる経営理念を提示し、それを実行することが経営者に求められる。
(4)地域、環境との融和
工場周辺の住宅化の進展に伴い近隣住民との共生がより強く求められてきているため、環境対策には万全を期すとともに地域との交流と融和に努める必要がある。
2 労働条件改善〜魅力ある職場づくり
(1)経営者の意識改革
経営者は、長期的展望に立った戦略的経営を行う必要があり、情報化等を進めることにより新しい経営管理手法を取り入れる積極的姿勢が必要である。また、業界団体に組織されていない企業経営者に対しても広くPRを実施し、労働条件の改善に向けた意識を高めていくことが必要である。
(2)労使が協調した取組みへの期待
労働条件の改善を進めていく上では労使が協調した取組が期待される。
(3)賃金、労働時間改善
可能な限り他産業と遜色ない賃金や労働時間をめざして、ユーザーの十分な理解を求めた上で、従来にも増して労働条件の改善に努めるべきである。
(4)安全衛生管理の強化
より安全性の高いプレス機械の導入等設備対応はもとより、安全作業標準の徹底等従業員への安全教育の一層の強化が必要である。一部、零細企業を中心に未だ安全面においての取組みが不十分な企業も存在し、これらの企業の支援、指導を含め、業界団体等を通じて一層の取組強化が求められる。
(5)職場環境改善、福利厚生充実
職場環境の一層の改善や福利厚生の充実などについては、企業、労使、業界団体が一体となって、魅力ある職場づくりに取組むべきである。
3 人材確保・育成・活用・活性化対策推進
(1)人材確保・定着対策
コミュニケーションの良い職場づくりに努めることでイメージ改善を図り、従業員等に高度なモノづくりの楽しさを教える必要がある。
人材確保の施策としては、新卒採用と合わせて中途採用を実施することや積極的な人材のスカウト、休日増など労働条件の改善等が挙げられる。
また、従業員を定着させるには、経営者自らによる従業員へのアピールや労働条件改善とあわせて、従業員の意識、ニーズ等を的確に把握し、それに応えることが重要である。さらに、仕事に対するやりがいや職場の活性化につながる職場改善提案等の小集団活動についての積極的な支援も同様に必要である。
(2)人材育成対策
社内外における教育・研修体制や技能継承体制の整備等、教育の重要性を十分認識した取組みが必要である。また、従業員をローテーションすることにより能力開発を図り、各人の適性の見きわめや、多能工の育成に努めることが重要である。
(3)人材活性・活性化対策
職能資格制度や技能検定制度等の導入・充実を検討するとともに、働く人のモチべーションをいかに高めるかが重要である。それには目標管理システムの導入など従業員の能力や実績を適正に評価するシステムを整備することが求められる。
また、高齢者、女性の積極的活用、障害者の受入環境整備、外国人技能実習制度の活用も、企業の人材活用や活性化に重要である。
(4)多様でバランスのとれた人事制度等の構築に向けた取組み
新卒採用と中途採用者とが共に活力を維持しつつ働ける複線型の人事制度や、高齢者や女性、パートタイマーのやる気や意欲を人事処遇に反映していくことができる人事制度等を構築していくことが求められる。
4
中小・零細企業の雇用高度化への取組に対する指導・支援
業界団体等が中心となり雇用管理の重要性を企業の将来に関わる問題として認識させ、指導や支援の強化を図るべきである。また、これらの対策の実施に当たっては、企業規模や事業内容等に応じた現実的、段階的取組みが必要である。
5 公的助成の積極的活用
公的な助成の積極的活用が効果的であるが、その活用促進には、業界団体が中心となって、企業に対する周知、徹底に努めることが必要である。また、業界団体に属していない企業に対しても広く周知を図ることが求められている。
(金属プレス加工業雇用高度化懇談会メンバー)
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岡 本 輝 興 |
株式会社岡本製作所 代表取締役社長 |
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鬼 頭 克 巳 |
全国金属機械労働組合 東海プレス工業支部 執行委員長 |
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齋 藤 恵 吉 |
スピック株式会社 代表取締役社長 |
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清 水 宣 行 |
ゼンキン連合本部 企画労政部門局 部長 |
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鈴 木 宏 二 |
全日本自動車産業労働組合総連合会 部品政策局長 |
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高 田 勝 之 |
太平洋工業労働組合 組合長 |
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橋 本 久 義 |
埼玉大学大学院 政策科学研究科 教授 |
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濱 中 豊 |
社団法人日本金属プレス工業協会 専務理事 |
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船 見 正 |
株式会社進藤製作所 代表取締役社長 |
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山 内 重 平 |
プレス工業労働組合 執行委員長 |
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山 本 堅 詞 |
株式会社レック・コンサルティング・グループ 取締役 |
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吉 田 多佳志 |
大東プレス工業株式会社 代表取締役社長 |
(座長) |
依 光 正 哲 |
一橋大学 社会学部教授 |
第1回懇談会 平成9年12月22日
第2回懇談会 平成10年1月22日
第3回懇談会 平成10年2月15日
第4回懇談会 平成10年3月9日
第5回懇談会 平成10年4月6日
(五十音順敬称略、役職等は当時のもの)
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