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III 技能の空洞化を越えて──金型技能・技術者の人材確保──

〜金型製造業雇用高度化懇談会報告書の概要〜


<課題と雇用高度化策のポイント>
○ 優秀な人材の確保・育成と高度技能の円滑な継承
○ ユーザーからの過剰要求への対応

 (雇用高度化策)      ↓  
  • モノづくりの重要性・楽しさの社会に対するアピール
  • 技能工や技術者の処遇の一層の改善
  • 技能継承に向けた体系的な教育・研修体制の強化
  • 取引問題是正のためのユーザーへの働きかけ


 我が国の金型製造業は、価格的にも品質的にも優れた製品を提供することにより、自動車、電気、産業機械等の基幹産業の発展に貢献してきた。また、業界としてもこれらの需要産業とともに日本経済・産業の高度成長に伴って拡大発展をとげてきた歴史を持っている。しかしながら、最近の金型需要の低迷に加え、国内外企業間の競争激化、ユーザーからの短納期化要求等により多くの企業の収益は悪化しており、相当疲弊した状況にあると言われている。こうした中で、業界においては将来の金型製造業を支える優秀な人材を確保・育成し、高度技能の円滑な継承を図っていくことは重要な課題となっているが、雇用管理面では必ずしも魅力のある状況にはなく、また、社会的にも良好なイメージを持たれているとは言い難い状況にあり、これらのことが優秀な人材の確保を困難なものとしている。そこで、現在の金型製造業が直面している雇用管理上の課題への対策として、以下のような検討を行った。

1 社会、ユーザー、若者へのアピール
(1) 金型製造業の魅力・重要性のアピール
 金型製造業に対する社会のイメージを向上していくためには、金型製造業の産業としての重要性を社会や若者に対して認識させることに加えて、仕事自体の面白さ、モノづくりの魅力をアピールすることが重要である。
(2) 取引問題の是正
 値引きや短納期化は企業を疲弊させ、日本の金型製造業の健全な発展ないしは存続そのものを危うくするとすれば、その是正に向けて、ユーザーと金型メーカーの双方が十分な理解のもとに見直しを図る必要がある。
(3) 将来の経営ビジョンの提示
 企業について言えば、将来の明確な経営ビジョンを従業者や就職を目指す若者に示すことが重要である。企業や業界として、明るい希望が持てる将来ビジョンと確固たる経営理念を提示し、それを実行することが経営者等には求められる。

2 コンピュータ関連技術の強化
 金型製造業における今後の経営戦略を展開するに当たっては、コンピュータ関連技術の充実・強化が、特に経営上不可欠の課題として挙げられる。しかし、中小企業を主体とする金型製造企業が、独力でアプリケーションソフト等の開発を行うことは、資金的にも人材的にも困難な面がある。従って、業界全体としても独自のソフト開発への取組の強化が特に求められる。

3 労働条件改善〜魅力ある職場づくり
(1) 経営者の意識改革
 労働条件を改善し従業者にとって魅力ある職場づくりを行うためには企業経営を合理化し、収益改善を徹底することが前提となる。そのためには、現在の経営者の意識の改革が必要となる。
(2) 賃金、労働時間改善
 従業者の低賃金、長時間労働に依存したような経営を行っている企業は、今後、事業遂行に必要な人材を確保できず、生き残ることは難しいと考えられる。そのため、可能な限り改善に向けた努力につとめるべきである。
(3) 職場環境改善、福利厚生充実
 人材の確保・定着を図るためには、職場環境の一層の改善や福利厚生の充実が必要である。また安全衛生管理面についても、安全で衛生的な職場づくりのための管理体制の充実をより一層図るべきである。

4 人材の確保・育成、活性化対策の推進
(1) 職場イメージ改善、モノづくりの楽しさを教える
 人材の確保・定着のためには金型製造業の持つモノづくりの楽しさを教えることが重要であり、また、より明るい職場づくりに努める必要がある。採用体制の強化については、地元の学校との連携を深めることなどが重要である。
(2) 社内外の教育・研修体制強化、技能継承体制の整備
 企業における人材の育成のためには、社内外における教育・研修体制を強化することが必要である。とりわけ、従業員の職業生涯全体を見据えた体系的な教育・研修体制を構築していくことが求められている。特に、CAD/CAMソフト開発等のための技術者の養成は業界の発展にとって特に重要となっている。ただし、これらの技術習得については個別企業ごとの対応では困難な面もあるため、各企業が共同で取り組むことなどが有効である。
(3) 職能資格制度、技能検定制度等の充実・整備
 従業者の活性化や定着を図るためには、現場の技能や技術に対するより適正な評価と処遇が不可欠である。そのためには、職能資格制度や技能検定制度等の導入・充実や、より能力主義的な人事制度の採用を検討するとともに、技能工や技術者の処遇の一層の改善を図ることが必要である。
(4) 技能と機械化との調和的発展
 機械化が可能の技能とそれが困難なものとを見極め、生産性と品質の両面でヒトと機械のバランスのとれた役割分担の上に製造体制を整備することが重要である。
(5) 高齢者、女性の積極的登用
 高齢者については、長年培った経験と知識を活かして教育担当者として後進を指導するなどの道も考えられる。また、機械化が進む中で女性の体力的なハンディも小さくなってきており、より一層、女性の受入れ体制や活用体制を整備し、女性の能力の活用を図るべきである。

5 公的助成の積極的活用
 国においては、主に中小の製造業を対象に産業の活性化や雇用管理の改善、高度化に向けた各種支援を行っているが、各企業や業界団体においてはこれらの公的な助成を積極的に活用することが雇用の高度化を図る上で効果的である。

 (金型製造業雇用高度化懇談会メンバー)
   赤 松 基 次 アカマツ フォーシス(株) 代表取締役社長
大 坪 睦 治 (社)日本金型工業会 専務理事
大 野 高 裕 早稲田大学理工学部 教授
加瀬谷 勝 彦 ゼンキン連合 上尾精密労働組合 委員長
河 西 正 彦 イースタン技研(株) 取締役社長
北 村   務 全国金属機械労働組合 岐阜精機支部 執行委員長、金型労協議長
神 代 和 欣 横浜国立大学経済学部 教授
佐 藤   厚 日本労働研究機構 副主任研究員
(座長) 鈴 木 安 正 全矢崎労働組合榛原支部 執行委員長
高 村   豊 全国金属機械労働組合 金属機械中央本部 産業政策部長
山 本 清 尭 シミズ工業(株) 取締役総務部長

   第1回懇談会  平成9年2月19日
   第2回懇談会  平成9年3月28日
   第3回懇談会  平成9年4月23日
   第4回懇談会  平成9年5月28日
   第5回懇談会  平成9年6月25日


(五十音順敬称略、役職等は当時のもの)

 


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