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I 「研究会における検討の範囲と課題」

II 「インターンシップの現状と課題」

III「インターンシップの普及・発展のための条件」



インターンシップ等学生の就業体験のあり方に関する研究会
中間まとめ

平成9年9月


 (はじめに)
 近年、新規学卒者にとって厳しい就職環境が続く中で、若年者の失業率や、就職後短期間で離職する比率が上昇する傾向がみられる。この要因として、学生が現実の就職活動に直面するまで、職業や産業の実際に接し、働くことの意味を考える経験に乏しいことや、大学教育と実社会との間にギャップが生じていること、若年者の将来にわたる職業生活に対する認識や価値観が変化してきていることなどが考えられる。
 学校教育の立場からも産業界等の立場からも、学生から社会人への移行過程を円滑化することが、これまで以上に重要であるという問題意識が広がりつつあり、その一つの手法としてのインターンシップに対する関心が急速に高まっている。
 しかしながら、わが国においては、インターンシップの概念について、必ずしも定義が確立しているわけではなく、その趣旨・あり方とも関連し、関係者間でも認識にかなりの幅がある。インターンシップへの関心の高まりに伴い、今後、導入事例が増加し、普及がすすむことが期待されるが、インターンシップのバランスある発展のためには、その望ましいあり方について、関係者間の共通の認識を早急に形成していくことが必要である。
 政府としても、インターンシップの導入について「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月16日閣議決定)に盛り込み、関係省庁で推進していくこととしており、労働省、文部省、通商産業省が連携しながら、課題の検討を行っている。
 本研究会は、平成9年6月に発足し、インターンシップ等の学生の就業体験方策について、主に若年者の職業問題という観点から検討を行ってきた。インターンシップの原点は教育と社会をつなぐ架け橋の役割を果たすことにあり、インターンシップを通して、学生・学校・企業等のそれぞれがメリットを得られ、お互いに貢献し合うバランスのとれた関係が構築されるよう、そのあり方についてさまざまな立場から建設的な議論が行われることが重要である。この中間まとめは、インターンシップの導入を検討している関係者の参考に供するため、現時点での研究会における検討状況について概要をとりまとめたものである。
I 研究会における検討の範囲と課題

1.「インターンシップ」の定義について
 学生が企業等において実習・研修的な就業体験をする制度全般について広くインターンシップと称されるようになってきている現状に対応し、「経済構造の変革と創造のための行動計画」では、インターンシップを、「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」と幅広くとらえており、本研究会においても、これに沿って当面の検討をすすめる。

2.インターンシップの意義と検討の目標
 若年者の職業問題という観点からみたインターンシップの意義としては、学校と産業界等が連携して学生の職業意識を育成し、適切な職業選択と専門能力の向上のための多様な機会を提供することにより、次代を担う学生の職業人としての成長を社会全体として支援していくという点が重要である。また、インターンシップの原点である「学業と実社会をつなぐ場」としての役割からみると、専門分野の学習とそれに関連した実務経験を積むという基本的な目的が忘れられてはならない。
 したがって、研究会における基本的な検討のスタンスは、インターンシップが、学校と産業界等との交流を深め、社会全体として学生の職業意識を育成し、学校における学習を生かした適切な職業選択を支援するという観点から、
 1)インターンシップが効果的に実施されるための条件
 2)インターンシップにより弊害や問題が生じないようにするための共通認識の形成
 3)インターンシップの健全な発展と普及のための支援策
等について明らかにしていくことである。
II インターンシップの現状と課題

1.インターンシップの現状
(1) わが国における現状
 わが国で就業体験を大学教育に組織的に組み込んでいる例としては、教員養成課程や医歯学系学科、福祉系学科などで資格取得の必修条件となる場合の他、工学系学科等において現場実習等の名で授業科目に取り入れている場合等がある。これらの場合は、大学や研究室等が受入先を確保し、実習内容についても概ね標準化され、単位として認定される(あるいは単位取得の条件となっている)等、組織的に実施されている。
 最近では、社会科学系の学部においても、企業等における実習を積極的にカリキュラムに取り入れようという大学が増加しており、これらの例には、大学が受入先との折衝や学生へのガイダンス等を行い、2〜3年生の夏休み期間等に1〜2週間程度実務を経験するという内容のものが多い。
 また、企業等の主導で、インターンシップという名称のもとに学生をいわゆる研修生、実習生等の形で職場に受入れる動きも広がりつつあるが、これらのケースでは、大学側の組織的関与やカリキュラム上の位置づけはほとんど行われておらず、アルバイト的就業との区別が事実上明確でない例もみられる。
 現状では、1〜2日といったごく短期の職場実習を行うものから、月・学期単位といった比較的長期間に及ぶものまで、また、学校が正規の教育課程に位置づけ、単位を認めるものから、企業等の募集に学生が直接応じ、学校教育とは無関係に行われるものまで、幅広くインターンシップと総称されており、その中には、インターンシップの本来の趣旨とは異なる職場見学的なものや事実上のアルバイト就労まで含まれているのが実態である。
(2) インターンシップの類型
 インターンシップ等と呼ばれている学生の就業体験教育の実施事例をみると、主な類型として、1)資格要件型、2)職業選択準備型、3)学習意欲喚起型の3パターンに大別することができる。
 このうち1)の「資格要件型」は、教育実習をはじめとして、内容が法令等で規定されているとともに、長い歴史のあるものが多く、実施のための方法論も概ね確立されている。2)の「職業選択準備型」は、学生の職業選択や職業生活への理解を進め、将来の就職活動や就職後の適応を円滑にすることを主な目的としている。3)の「学習意欲喚起型」は、専攻分野と実社会との関連や社会における位置づけを理解することにより、学校における専門教育の学習への動機づけを行うことを主な目的としている。
 実際のインターンシップの実施事例においては、これらの類型の混合型も多いが、このうち2)、3)については、工学系の分野を除き、取り組みの歴史が比較的短いことから、その効果的なあり方について、模索段階にある。

2.インターンシップに期待される効果
 インターンシップ導入の効果として学校・学生・企業等のそれぞれの立場から期待されるのは、次のような点である。

〔学生にとっての効果〕
  •  実際の仕事や職場の状況を知り、自己の職業適性や職業生活設計など職業選択について深く考える契機となる。
  •  専門領域についての実務能力を高めるとともに、学習意欲に対する刺激を得られる。
  •  就職活動の方向性と方法についての基礎的な理解が得られる。
  •  就職後の職業生活に対する適応力を高めることができる。


〔学校にとっての効果〕

  •  職業指導と関連させることにより、学生に職業適性や職業生活設計について考える多様な機会を与え、職業選択への主体的かつ積極的取り組みを促すことができる。
  •  学生が実際的な職業知識や経験を得て、専門能力・実務能力を向上させることにより学校の人材育成に対する社会的評価が高まる。
  •  カリキュラムの魅力を高めることにより、学生の学習意欲を喚起するとともに、入学希望者に対してアピールできる。
  •  産業界等との連携を深め、企業等の最新の情報や人材に対するニーズを把握できる。


〔企業等にとっての効果〕

  •  学校等との接点が増えることにより、人材育成や学校教育に対する要望等を学校や学生に伝えることができる。
  •  学校との連携関係を確立し、情報交流を進める機会となる。
  •  学生の職業意識や実務能力の向上、職場に対する理解を促進することにより、学生を実践的な人材として育成することができる。
  •  学校や学生、社会に対して存在をアピールでき、長い目でみると人材確保の面で企業等自身に資する。特に、中小企業にとっては、広く学生や学校等から理解され、認知される好機となる。


3.インターンシップ運用上の問題点
 インターンシップの運用に関しては、次のような問題が懸念されている。

  •  実習内容の設定や実習前後の指導が適切に行われなければ、職業意識や実務能力の向上といった効果が十分に得られない。
  •  インターンシップと就労(アルバイト等)との区別が不明確であると、報酬や就業条件についての取扱いに問題が生じる可能性がある。また、労働関係法令の遵守について問題が生じるおそれがある。
  •  実習中の責任の所在が不明確な場合には、実習中の就業時間・安全衛生等の水準の確保や万一の事故等への対応(保険の適用等)が難しくなるおそれがある。
  •  採用・就職活動との区別があいまいになると、採用選考の過度の早期化を招き、採用秩序の維持や公平・公正な競争の確保が困難になる。
  •  参加希望者に開かれた制度とならなければ、特定の学校と企業等が結びつく閉鎖的なシステムとなるおそれがある。
III インターンシップの普及・発展のための条件

1.インターンシップに求められる条件
 わが国におけるインターンシップの実態にはかなりの幅がみられるが、今後、さまざまな取り組みが行われるにあたり、期待される効果を生かし、懸念される問題の発生を防ぐために、推進していくべきインターンシップのあり方や範囲について明確化しておくことが必要である。このような観点から整理すると、インターンシップに確保されるべき条件は次のように考えられる。

     

  • 学生の職業意識の啓発、職業選択の円滑化に資するものであること。
     
  • 学校内における教育との連続性・関連性を有するものであること。
     
  • 学校と産業界等との連携・協力により行われるものであること。
     
  • 制度の運用に関し、責任の所在と役割分担が明確になっていること。
     
  • 特定の学校や企業等に偏ることなく、希望者に対して開かれた制度であること。
     
  • 採用・就職活動の秩序に悪影響を及ぼすものでないこと。


2.インターンシップの実施にあたり、受入れ側が留意すべき事項
 インターンシップは、学校、学生、企業等の自由な発意と創意工夫を生かして、多様な形態で行われるのが本来の姿であるが、その意義や趣旨が有効に生かされるためには、インターンシップのあるべき姿について、関係者間で一定の方向を確認しておくことが必要である。また、インターンシップは、採用・就職をはじめとする雇用・労働問題と密接に関わる問題であることから、労働の分野において広く認識されている一般的ルールのうちインターンシップについても適用されるべきものはなにか、明確にしておくことも必要である。
 このような観点から、主としてインターンシップの受入れ側において留意すべき点と実施のルールを整理すると、次のような事項をあげることができる。

1) インターンシップの本来の趣旨は、学生の職業意識啓発と専門能力の向上への支援である。インターンシップに期待される教育的効果を実現するため、学校側にも努力と工夫が必要であるが、受入れ側においても、職場や職種の実態に応じて、できる限り多様な就業経験と専門能力の向上の機会を提供できるよう努力することが望ましい。

2) インターンシップの運用は、学校と企業等受入れ側との産学連携により、学校の主体的取り組みとして行われることが基本であり、学校教育との連続性や一貫性が確保されることが重要である。企業等が学校を介さずにインターンシップ等と称して直接学生の職場実習等を募集するケースも増えてきているが、このような場合には、学事日程等学校における学習に配慮するとともに、インターンシップの趣旨が生かされるよう、受入れ目的、実習内容、通常のアルバイト等との区別などについて明確化しておくことが望ましい。

3) インターンシップ中の実習条件や安全の確保について、責任を明確化することが必要である。企業等と学校との連携により実施する場合には、学校と企業等との間で、実習条件(時間、報酬のあり方等)や安全等に関する義務・責任関係を明確にしておくことが望まれる。企業等のみの企画による場合には、学生の実習について企業等が責任を持つことが必要であり、学生に対し、実習に伴う条件や義務・責任関係を明確にするとともに、万一の事故等への対応(保険への加入等)を予め措置しておくことが望ましい。

4) インターンシップとして実習を行っている場合であっても、実習の態様(業務遂行上の指揮監督、時間的・場所的な拘束性等の状況)によっては、学生が労働基準法上の労働者に該当し、労働基準法や最低賃金法をはじめとする労働関係法令が適用される場合があることに留意する必要がある。

5) インターンシップと採用・就職活動の区別があいまいになると、わが国の現状では、採用活動の過度の早期化等、新規学卒者の採用・就職のあり方へ混乱をもたらすことが懸念される。企業等においては、インターンシップを通じて学生の将来の自由な就職活動を阻害したり、進路選択を心理的に拘束するようなことのないよう、節度ある対応が必要である。

6) 企業等がインターンシップを行うにあたっては、特定の学校からのみ学生を受け入れたり、性別や年齢等で受入れの可否を左右するということなく、職務内容や技能等の条件が許す限り、幅広く公平な受入れの努力を行うことが重要である。また、受入れに関する情報は、広く一般に公開するなど、できるだけ広く門戸を開く努力をすることが求められる。

3.インターンシップの受入れの拡大を図っていくための方策
 インターンシップは、受け入れる企業等にとって、業務面・体制面・経費面でさまざまな負担を伴うものである。企業等においても、インターンシップの受入れを通し、教育に対する協力や社会貢献が必要であるという認識と受入れ拡大の気運は高まりつつあるが、インターンシップの今後の普及促進のためには、企業等受入れ側にとって、インターンシップによるメリットが認識でき、また、コストや負担が軽減されることにより実施のインセンティブが高まることが必要である。このために資する行政の対応として、例えば次のような方策について、今後具体的な検討を行う必要がある。

1) インターンシップの受入れは、企業等のイメージアップや活性化、学校との日常的な連携等を通して、長い目でみると企業等に資するものであるという点について、理解を深めていくこと。特に中小企業等に対して、このような観点からの取り組みを支援していくこと。

2) インターンシップの類型別にみた効果的な実施のための条件やプログラム、留意事項等について整理し、情報提供を行っていくこと。また、質の高い実習機会を提供する企業等について積極的に紹介し、好事例として広報していくこと。

3) 実習のプログラム・教材作成の支援、ノウハウ・事例の提供、受入れ体制や学生指導のあり方についての相談等を行うことにより、実習の質の向上を図るとともに、企業等の手間や負担感を軽減する体制を整備すること。

4) 企業等の側からも実習の機会を積極的に提案できる環境をつくるため、産業界等と学校との情報交換や企業等による情報発信の機会の拡大を図るとともに、本格的な導入に先立って、企業等がインターンシップを試行できる機会を設定すること。

 


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