第1 総論
1 労働者代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
労働者派遣事業は制度創設以来10年余が経過し、社会経済構造の変化の中にあって、労働力需給調整システムとして一定の役割を果たしてきたところである。しかし、一方では、適用対象業務を逸脱した違法派遣、派遣契約の中途解除や実質的な事前面接、試用期間(トライアルターム)、新卒者を有料で職業訓練を行った上で派遣するという制度等の脱法的行為がみられるほか、派遣労働者の就業条件の確保、適切な苦情処理等派遣労働者の保護のための具体的措置について十分な改善がなされていない。 |
○ |
雇用・労働分野の規制は社会的規制であることから、その在り方については、労働力の需要側である企業側の経済的側面や市場万能主義からのみ議論されるべきではない。もとより、産業構造の転換や国際的な競争への対応などの観点を否定するものではないが、ILO憲章にある「労働は、商品ではない」(フィラデルフィア宣言)との基本原則に立ち、労働者の保護、均等待遇の確保などの観点から労働者派遣事業制度の見直しが議論されるべきである。 |
○ |
労働市場の安易な流動化は、派遣労働者の労働意欲の低下や労働条件の低下につながるとともに、雇用構造・社会構造を不安定化するものであることから、雇用・労働分野の規制緩和については、その影響を十分に考慮し、公正な雇用・労働ルールの確立が優先されるべきである。 |
○ |
適用対象業務を専門的な業務に限定することにより派遣労働者の常用雇用の代替を防止し、また、この限定により結果として派遣労働者の高賃金につながっている労働者派遣事業制度の現行の枠組みを維持すべきである。 |
○ |
労働者派遣事業制度の見直しの議論に当たっては、派遣元事業主及び派遣先の使用者責任の強化と明確化、中途解約、賃金不払い、社会保険の適用の問題などについて派遣労働者の保護措置等の実効性が担保される法整備が不可欠である。 |
○ |
民間職業紹介所に関する条約(仮称。ILO第96号条約の改正条約)における労働者保護に係る規定を念頭に置き、労働者派遣事業制度の在り方を検討すべきである。 |
○ |
平成8年12月に施行された改正労働者派遣事業制度の評価を踏まえて労働者派遣事業制度の在り方を検討すべきである。 |
○ |
民間職業紹介事業制度と労働者派遣事業制度との区分があいまいになっており、それぞれの趣旨にかんがみて適切に運営されるべきである。 |
○ |
労働者派遣事業が、企業における人件費の高コスト構造の改善に利用されている実態がある。 |
|
2 雇用主代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
閉塞状況にある日本経済再生のためには、労働市場の柔軟化を基盤に新規雇用の創出に成功した米国に倣い、労働市場についても他の分野での規制緩和と同様、参入、退出が自由な市場の創設が不可欠である。 |
○ |
情報通信事業をはじめ、企業や産業が構造転換を迅速に行うには、必要とする人材を早期かつ随時に充足することが可能となるよう労働力の流動化がなされなければならない。そうしないと、日本企業の脱皮は遅れ、国力の低下、雇用の不安は長引くことになる。 |
○ |
日本企業の国際競争力維持のためには、不透明かつ複雑な環境への柔軟な対応が必要であり、最適な労働ミックスと柔軟性を確保することにより、競争力向上に向けての見直しを進めていくことが不可欠である。加えて、自由化は時代の流れであるので、労働市場の自由化を進め、活力ある社会の実現を目指すべきである。 |
○ |
個別企業にとって、労働力の流動化の促進は、従業員の定着や処遇にこれまで以上の労力とコストを要求される。それでも、在るべき姿を見据えて、雇用主側はこれに積極的に取り組もうとしている。 |
○ |
また、新たに労働市場に参入してくる人たちをはじめ「働く姿勢」は年々柔軟になってきているので、多様な労働形態、多様な人生の選択の余地を用意すべきである。新しい労働環境の到来を予想し、意欲のある労働者はどの企業でも通用する能力、いわゆるエンプロイアビリティーの向上に取り組んでおり、これが我が国の次の飛躍のひとつのエネルギーになろうとしている。その中にあって、過去及び現在にこだわり、現実にとらわれすぎた判断で社会の活性化、経済の発展の芽をつんではならない。 |
○ |
企業は不況の到来に備え、好況時においても長期継続雇用の正規従業員の採用を絞り込むので、これのみに頼るのでは失業率の回復に役に立たない。雇用創出のためにも、長期継続雇用にとらわれない労働者を増やすことが結果として雇用の増大につながる。 |
○ |
平成8年12月の改正法は、過渡的なもので、かつ雇用主側の意見が十分反映されたものとなっていないので、抜本的改革を早急に行うべきである。その際、日本の労働市場の実態や現在及び将来のその必要性に合致させるという観点から見直すべきである。 |
○ |
以上述べたような理由から、労働者派遣事業制度については、就労確保の一方策として積極的に位置づけ、限定列挙方式により規制されている現行の枠組みを自由化し、事業参入規制を撤廃すべきである。 |
○ |
あわせて、スムーズな労働力需給の結合の必要性と労働者保護のバランスをとりながら労働者の選択肢を広げるという立場から、規制は最小限にとどめるべきである。 |
○ |
民間職業紹介所に関する条約(仮称)が、民間による職業紹介等を原則禁止とするものから、国内法令・慣行及び国内諸条件を勘案して、労働者保護の観点からの一定の規制の下で民間職業紹介所による職業紹介や労働者派遣を認める方向に転換したことを踏まえ、健全な人材ビジネス育成の方向での労働者派遣事業制度を含む職業安定関係法令の見直しを早急に行うべきである。
そして、改正された趣旨を踏まえ、民間職業紹介所に関する条約(仮称)を、直ちに批准できるよう国内法を整備すべきである。 |
|
3 公益代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
諸外国における労働者派遣事業制度の在り方及び実態との比較を行いつつ、我が国における同制度の在り方の検討を行うべきである。その際、諸外国と比較して我が国においては個別の労使紛争に係る紛争処理システムが十分に整備されていないことも考慮すべきである。 |
○ |
事前規制を行うことによるコスト及び影響を考慮しながら、労働者派遣事業制度の規制の在り方を検討すべきである。 |
○ |
労働者派遣事業制度は、派遣労働を希望する労働者のための制度であるべきであることから、非自発的に派遣労働に就業する労働者ができる限り少なくなるような制度の在り方を検討すべきである。 |
○ |
新たな国際的基準として民間職業紹介所に関する条約(仮称)が採択されたことを踏まえ、同条約の規定の内容を考慮し、労働者派遣事業制度の在り方を検討すべきである。 |
第2 適用対象業務
1 労働者代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
適用対象業務を専門的な業務等に限定することにより常用雇用の代替を防止し、また、結果として派遣労働者の高賃金につながっている現行の枠組みを維持すべきである。したがって、適用対象業務の原則自由化(ネガティブリスト化)は、反対であり、適用対象業務の追加を行うとすれば、現行の枠組みにのっとり行うべきである。 |
○ |
罰則を含め事後規制が十分でない我が国において、事前規制として適用対象業務を専門的な業務等に限定する現行の方式を見直すことは疑問であり、また、必要ではない。 |
○ |
適用対象業務の原則自由化により、労働者派遣事業の過当競争や派遣労働市場の混乱が生じ、派遣労働者の労働条件が低下する危険性がある。 |
○ |
我が国は欧米と比べて個別の労使紛争処理システムが確立されておらず、個別紛争処理に係わる適切な受け皿がないという労使関係のもとにあるが、このような状況下で適用対象業務の自由化を行うとすると、派遣労働者の諸権利が担保されないおそれがあることから、我が国における個別紛争処理システムの現状を踏まえ、実態に即した議論がされるべきである。 |
○ |
派遣労働者が、雇用契約や派遣契約、労働条件等に依然として多くの問題を抱えている現状においては、労働者保護と使用者責任の公正なルールの確立が見直しの前提となる。そして、こうした現状のもとでの安易な適用対象業務の拡大は、不安定かつ低劣な労働条件の労働者層を作り出し、これを増大させる可能性があるので反対である。 |
|
2 雇用主代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
現行のポジティブリスト方式については、迅速かつ的確な指定の観点から、指定基準の妥当性について疑問であるため、問題の蓋然性が高い業務のみを禁止するネガティブリスト方式に早急に移行すべきである。あわせて、現在適用除外業務とされている港湾運送業務、建設業務及び警備業務について、適用対象業務とすることに問題があるのか再考すべきである。 |
○ |
派遣か否かにかかわらず、賃金は労働者本人の能力の高さ、発揮度に比例していくものであり、適用対象業務を限定して高賃金を維持するという考え方は、限定業務従事者の部分最適論、既得権維持に過ぎない。市場原理が働く限り、ネガティブリスト化しても専門性を備えた派遣労働者そのものの市場価値が変わるわけではなく、賃金水準に影響を及ぼすものとは考えられない。 |
○ |
省令の改正によりすぐに実施できることとして、高齢特例労働者派遣事業制度における適用対象業務について、物の製造の業務を早急に適用対象業務とすべきである。 |
○ |
通達などの指導基準の見直しも企業経営の実態に合わせて迅速に行い、現行の適用対象業務の周辺業務を拡大すべきである。 |
|
3 公益委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
諸外国における労働者派遣事業制度の在り方及び実態との比較を行いつつ、適用対象業務の在り方の検討を行うべきである。その際、諸外国と比較して我が国においては個別の労使紛争に係る紛争処理システムが十分に整備されていないことも考慮すべきである。 |
第3 派遣期間等
1 労働者代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
派遣期間の制限は、適用対象業務を限定することとあいまって、常用雇用の代替を防止し、労働者の安定した雇用機会の確保を目的としていることから、これを維持すべきである。 |
|
2 雇用主代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
派遣期間制限は、以下に述べる理由により撤廃されるべきである。適用対象業務の拡大にあわせて、派遣期間に対する規制を強化することは反対である。 |
○ |
現在、派遣期間制限をしている理由は「常用雇用代替の防止」とされているが、「常用雇用」と「派遣労働」を対峙してとらえる考え方は既に日本の企業の置かれている実態を反映していない議論である。企業が直接雇用するという形態の中にも対象業務が限定されない「有期契約社員」、「パート労働者」が多数存在する。さらに、「海外の工場の外国人労働者」への「雇用の代替」が起きているという実態を抜きにして、派遣労働の期間を制限することにどれほどの意味があるのか疑問である。 |
○ |
派遣就労を積極的に希望して選択している労働者にとって、期間制限を設けることはかえって不安定雇用になる。また、一定期間を過ぎたら派遣先に直接雇用させるという考え方は、派遣労働者自身の意思に反することが多い。 |
○ |
高齢特例労働者派遣事業制度における派遣期間の制限について、60歳台前半層の雇用確保が喫緊の課題であることから、最低限65歳までの契約更新は認められるべきである。あるいは、労働基準法改正により労働契約期間が長くなった場合には、更新なしの65歳までの派遣契約期間は認めるべきである。 |
○ |
育児・介護休業特例労働者派遣事業制度における派遣期間の制限について、各企業で認める休業期間を上限とすべきであり、また、産前・産後休業に代替派遣が認められないのは不合理である。さらに、業務の性質上配置転換が現実に不可能なときなどに母性保護の観点から企業が産前休業前の妊娠期間中に自主的に休業を付与する場合などについても、代替派遣は認められるべきである。 |
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3 公益代表委員から、以下の意見が出された。 |
○ |
諸外国における労働者派遣事業制度の在り方及び実態との比較を行いつつ、派遣期間及び派遣事由の制限について検討すべきである。 |
第5 労働者保護
1 総論
(1) 労働者代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
労働者派遣事業制度の見直し議論に当たっては、派遣元事業主及び派遣先の使用者責任の強化と明確化、中途解約、賃金不払い、社会保険の適用問題などの派遣労働者の保護措置等について実効性が担保される法整備が不可欠である。 |
○ |
民間職業紹介所に関する条約(仮称)において労働者派遣事業が適用対象となり、かつ、派遣労働者の保護に関する規定が盛り込まれることとなったことから、同条約の規定を念頭に置き、派遣労働者の人権と権利に関する具体的な法整備が不可欠である。 |
(2) 雇用主代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
通常の労働関係法令により派遣労働者についても通常の労働者と同様の保護がなされている上に、平成8年改正により、中途解除に係る措置や苦情処理体制の義務化など、派遣労働者に対する労働者保護の整備は進んだ。労働者保護を考える際に、諸外国の法制度との比較をする場合でも、日本で従来とられてきた措置と日本の労働市場一般の状況、特徴などを念頭におくべきであり、柔軟な雇用を望む派遣労働者の選択の幅を狭める方向での派遣労働者のみに対する新たな保護措置の法整備には反対である。 |
(3) 公益代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
諸外国における労働者派遣事業制度の在り方及び実態との比較を行いつつ、派遣労働者の保護の在り方の検討を行うべきである。その際、諸外国と比較して我が国においては個別の労使紛争に係る紛争処理システムが十分に整備されていないことも考慮すべきである。 |
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2 派遣元事業主又は派遣先への行為規制等
(1) 労働者代表委員から、以下の意見が出された。 |
○ |
労働者保護の観点から、現行の行為規制等は維持されるべきである。 |
|
(2) 雇用主代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
登録制度を採用している場合に、登録に際し派遣元事業主が派遣労働者から手数料相当額を徴収することの禁止を廃止すべきである。 |
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3 派遣元事業主又は派遣先に対する制裁措置
(1) 労働者代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
派遣先が適用対象業務外の業務に違法に派遣労働者を就業させた場合において、適正な派遣に是正する措置をとるか、又は、派遣先が直接雇用することを義務づけるかにより労働者保護を図るべきである。 |
(2) 雇用主代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
平成8年改正により法違反企業に対して、企業名の公表という場合によっては実質的に刑罰よりも重い措置がとられることになった。こうした、企業名の公表などについては事前に本審議会でも慎重に検討した上で、行われるべきである。 |
○ |
適用対象業務以外に従事させることによる違法派遣の場合、派遣先で直接雇用させることにより雇用を守るという考えは、派遣労働者自身の意思に反することが多い。これは、業務指定という現行法規制を改めることにより解決すべきことである。 |
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4 苦情処理等
(1) 労働者代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
平成8年改正により整備された苦情処理システムは、必ずしもその機能を果たしている状況にない。
このため、労働者派遣事業適正運営協力員制度や、派遣労働者苦情処理アドバイザー制度を抜本的に改革し、公労使による監視機構を設置し、苦情の相談や処理にあたる新たな委員会の創設を図るべきである。 |
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(2) 雇用主代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
平成8年改正により整備された苦情処理体制の適正な運用等により苦情処理の解決を図るべきである。 |
○ |
人材派遣協会等が自主的に企業の枠を超えた苦情処理体制を整備することは奨励されるべきことであるが、新たに「公正な第三者機関」を設立するという考え方は、行政のスリム化の観点から反対である。 |
(3) 公益代表委員からは、以下の意見が出された。
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○ |
現行の司法による民事上の紛争処理システムを前提に、仮に労働者派遣事業制度が大幅に自由化された場合に生じる問題、及びこの問題の解決のために必要となる現実的な処理システムの在り方について検討を行うとともに、あわせて、個別的労働紛争全般に係るあるべき紛争処理システムについて議論を行う必要がある。
|
|
5 派遣元事業主及び派遣先の連帯責任
(1) 労働者代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
派遣元事業主と派遣先との間で責任の分担を明確に定めることができない事項、及び派遣元事業主と派遣先との間ですでに責任の分担が明確化されているが、労働者保護の観点から派遣元事業主と派遣先との連帯責任制度を新たに導入すべき事項について、連帯責任制度の導入を検討すべきである。 |
(2) 雇用主代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
平成8年改正により整備された様々な制度の中には、苦情処理をはじめ派遣元事業主及び派遣先が連携して責任を負うことなどが定められ、さらに、これまでの法令により派遣元事業主及び派遣先それぞれの責任が明確に定められているので、それぞれの措置の適正な運用を進めることで足りるので、連帯責任の新たな設定には反対である。 |
|
(3) 公益代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
諸外国の制度との比較を行いつつ、派遣労働者の保護の観点から、賃金・社会保険料の支払い等について派遣元事業主と派遣先の連帯責任制度の導入について検討すべきである。 |
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6 社会保険等の適用
(1) 労働者代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
当面は、現行の社会保険制度等の枠内で厳格に運用されるべきであるが、現行の枠組みが登録型派遣労働者の実態に合致しないことを踏まえ、新たな立法措置を含め社会保険制度等のシステムを確立していくべきである。
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(2) 雇用主代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
人材派遣業界では、現行の社会保険制度等の下でその適用を進めてきている。しかしながら、制度が派遣労働の実態に合致しない面もあるので、その実態や特性等を考慮した方向での社会保険制度等及びその運用の在り方について見直しが図られるべきである。 |
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7 労働者派遣契約の中途解除
(1) 労働者代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
派遣先による労働者派遣契約の中途解除に係る派遣労働者からの苦情件数の減少の背景として、労働者派遣契約の期間の短期化又はいわゆるトライアルターム(試用期間)の導入が進んでいることから、労働者派遣契約の期間と派遣労働者の雇用契約の期間を同一にすべきである。 |
(2) 雇用主代表委員からは、以下の意見が出された。 |
○ |
平成8年改正により整備された労働者派遣契約の中途解除に係る措置の適正な運用等により中途解除に係る問題は解決を図るべきである。 |