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IV 年齢にかかわりなく働ける社会の実現に向けたプロセス



  (プロセスの考え方)



   我が国の労働市場は、欧米諸国と異なり、年齢という要素が採用、処遇、退職

  のあり方を決定する上で重要な役割を果たしているという特徴をもっている。近

  年、我が国を取り巻く環境の変化に伴い雇用システムは変化しつつあるものの、

  年齢に代わる基準は確立されていない。年齢にかかわりなく働ける社会の実現に

  向けたプロセスについても、この点を踏まえて考えなければならない。年齢に代

  わる基準が確立されていない中で、直ちに年齢差別禁止というアプローチを採用

  した場合、本来の目的である高齢者の雇用機会の確保に、逆に悪影響を及ぼす恐

  れもある。定年・解雇など退職過程の在り方を含めた年齢差別禁止の問題につい

  ては、必ずしも十分な意見の一致が見られていないことから、能力を評価軸とし、

  多様な能力を最大限に活かす働き方を選べる雇用システムの実現に向けた条件整

  備の進捗状況、国際的な政策の動向等を考慮しつつ、導入の是非、導入する場合

  の時期・条件等について、さらに国民的な合意の形成に努めていくことが必要で

  ある。

   したがって、年齢に過度に偏りすぎた雇用システムから、能力を評価軸とし、

  多様な能力を最大限に活かせる働き方を選べる雇用システムへと円滑に移行でき

  るよう、先に述べた各種の条件整備のための取組みを先行させるべきである。

   その際、現下の中高年齢者を中心とする厳しい雇用情勢への対応を最優先とす

  ることが必要であり、持続的な経済成長の実現を図りつつ、雇用創出及び円滑な

  労働移動のための雇用対策やワークシェアリングの普及への取組を進めることと

  同時に、年齢にかかわりなく働ける社会の実現に向けた雇用システムの改革に取

  り組んでいくことが重要である。



  (募集・採用時の年齢制限是正、定年延長・継続雇用の促進)



   雇用システムの改革のための条件整備としては、とりわけ厳しい中高年齢者の

  雇用機会の確保を進めていくためにも、募集・採用時における年齢制限の是正が

  不可欠である。政府は、雇用対策法に基づく募集・採用時における年齢制限緩和

  のための指針を年齢制限の見直しに向けた取組の第一歩と捉え、今後の労働市場

  の動向を見据えつつ、年齢にかかわりなく働ける社会を実現する方向でさらなる

  年齢制限是正への取組を展開していくことが適当である。

   募集・採用時の年齢制限の是正とともに早急に取り組まなければならないのは、

  定年延長、継続雇用である。企業において、賃金・人事処遇制度の見直しや高齢

  者の職域開発などにより、雇用延長の取組が進められているが、原則として希望

  者全員が65歳まで働ける企業は約3割という状況を勘案すれば、政府として、

  定年の引き上げ、継続雇用制度の導入等の高年齢者雇用確保措置について、目標、

  時期を示したアクションプランを設定するとともに、各種助成措置、相談援助体

  制の充実などを含め、目標達成に向けた計画的な取組を促す対策の強化を図るべ

  きである。



  (能力を評価軸とする労働市場の枠組みづくり)



   募集・採用時の年齢制限や定年延長、継続雇用の問題は、能力評価、処遇、

  働き方などと密接に関連しており、雇用システム全体の見直しを進めなければ、

  根本的解決は難しい。

   能力を評価軸とする労働市場を作る上で、職務の内容やそれに求められる能力

  の明確化は避けて通れない。職務の明確化のための取組は、個人のキャリア形成

  や企業における能力開発の支援という視点から国の事業の一環として進められつ

  つあるが、今後は、能力を評価軸とする労働市場の枠組みづくりというビジョン

  の下で、職務の明確化と包括的な能力評価システムの整備に向けた事業を早急に

  スタートさせるべきである。こうした事業は官民一体となった形で進める必要が

  あることから、政府は、事業主団体、労働組合等の労使を始めとして関係者で構

  成する検討の場を設置し、政労使が連携して、業種別に職種ごとの能力評価の基

  準・手法を策定するとともに、労働市場の変化に合わせて改良を続けていくこと

  が必要である。

   併せて、これまでの分析を通じて明確化された職務体系やキャリア棚卸し支援

  のためのシステムを官民共通のツールとして利用できる体制を整え、個人や企業

  はもとより、政策的にも求人・求職のマッチングやキャリアカウンセリングを行

  う際に活用していくなど、職務や能力という要素を労働市場に根づかせていくた

  めの取組を並行して行うことが重要である。

   こうした取組により、労働市場の調整機能が十分に発揮されるようになれば、

  能力や職務を重視した賃金・人事処遇制度の普及と相まって、年齢にとらわれな

  い採用の拡大や高齢者の雇用延長の進展につながることが期待される。



  (多様な働き方を可能とするための取組)



   能力が評価軸となっても、個人がその多様な能力を最大限に活かせる働き方を

  選べなければ、誰もが年齢にかかわりなく働ける社会は実現しない。その意味で、

  多様な働き方を可能とするための環境整備は、年齢にかかわりなく働ける社会の

  実現の鍵を握っていると言っても過言ではない。まず、政府は、多様な働き方が

  可能となるよう労働関係法制の見直しを進めるとともに、働き方についての個人

  の選択を制約しないよう税制や社会保障制度等を見直すべきである。また、雇用

  就業形態の違いによる不合理な待遇の格差の是正が重要な課題となる。企業にお

  ける取組が基本であることは当然であるが、多様な働き方の定着を図る上で、我

  が国の実態を踏まえた公正な処遇の確立が求められていることから、政府はパー

  トタイム労働に関するガイドラインの策定など環境整備に努めることが必要であ

  る。

   さらに、雇用という形態にとどまらず、自営開業、地域の生活に密着した臨時

  的・短期的な就業やボランティア活動などによる就業・社会参加を政策的に支援

  していく必要がある。



  (65歳雇用システムから年齢にかかわりなく働けるシステムへの移行−

   今後10年の位置づけ)



   今後10年間は、団塊の世代が60歳台前半にさしかかるとともに、厚生年金

  の定額部分の支給開始年齢が65歳まで引き上げられる時期に当たることから、

  少なくとも65歳までの安定的な雇用を確かなものとすることを最優先とすべき

  期間である。年齢にかかわりなく働くことができる社会を実現するための条件整

  備としてすでに述べた職務の明確化と社会的能力評価システムの整備、賃金・人

  事処遇制度の見直し、多様な働き方を可能とする環境整備は、当面の課題である

  65歳までの雇用確保を定着させるためにも欠かすことのできない取組である。

  これらの取組を進めることは、学卒一括採用、年功処遇、定年退職といった我が

  国の雇用システムの在り方を決定してきた年齢という要素の重要性を減少させる

  ものであり、結果として、年齢にかかわりなく働ける社会により近づくことが期

  待される。

   65歳雇用システムから年齢にかかわりなく働ける雇用システムへの移行を連

  続的に捉え、円滑に行っていくためにも、今後10年間を、65歳までの雇用を

  確かなものとするとともに年齢にかかわりなく働ける社会の実現に向けた基盤整

  備の期間と位置づけ、政労使を始め関係者が一体となった取組を集中的に実施し

  ていくことが必要である。ここに示した条件整備とプロセスを基に、着実な取組

  がなされていけば、誰もが年齢にかかわりなく、自分の価値観に基づいて働き方

  を選び、その能力を最大限に発揮することのできる社会への展望が必ず拓けるも

  のと確信する。

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