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II 年齢にかかわりなく働ける社会と労働市場の姿



1.年齢よりも能力を評価軸とする社会、雇用システムの構築



 年齢という要素に過度に偏りすぎた雇用システムを見直すに際し、年齢に代わる評

価軸を何に求めればよいか。既に企業においては、職務に必要な能力や発揮された能

力、成果を重視した、賃金・人事処遇制度の見直しが進められている。また、個人の

側においても、自己の有する能力を最大限に発揮して自己実現を図りたいとするニー

ズが高まっている。こうした動きを勘案すれば、年齢にかかわりなく働ける社会を年

齢よりも能力を評価軸とする社会と位置づけ、各人の有する能力が明確かつ公正な基

準で評価され、雇用・処遇される雇用システムを構築していく必要がある。

 こうしたシステムの構築のためには、何よりも職務の内容とそれに求められる能力

をより明確化するとともに、それに基づいた能力評価システムを労働市場に根付かせ

ていくための社会全体としての取組が欠かせない。こうした仕組みが整備され、労働

市場の調整機能が十分に発揮されるようになれば、能力・職務を重視した賃金・人事

処遇制度の見直しと相まって、年齢にとらわれない採用や雇用延長の拡大につながっ

ていくと考えられる。



2.多様な能力を最大限に活かす働き方を選べる社会、雇用システムの構築



 一人一人の持つ能力はきわめて多様である。また、評価軸となる能力は、必ずしも

企業社会で一般に重要とされるような、効率性を重視する経済的基準に立ったものに

限られるものではない。例えば、教育や福祉分野における対個人サービスなどのよう

に、人と人との触れ合いが求められる職務においては、相手との関係を全人格的に築

いていくような能力が必要となる。年齢にかかわりなく働ける社会とは、多様な能力

を最大限に活かせる働き方を、誰もがその価値観に基づいて選べ、生きがいをもって

活躍することができる社会でなければならない。

 多様な働き方を選択できるためには、何よりもまず総量としての雇用需要が確保さ

れていることが不可欠であり、安定した経済成長とともに、サービス化・高齢化に伴

うシニア産業等の拡大などを通じて、特に雇用の厳しい高齢者を中心とした雇用需要

の創出に社会を挙げて取り組む必要がある。

 こうした前提の下で、個人の意見が尊重される形で、各人の能力やニーズに応じて

多様な働き方の選択ができるよう、フルタイムのみならずパートタイム、有期雇用、

派遣労働などの様々な働き方を可能とするシステム、また、ライフステージに応じて

働き方を変えたり、自己の能力をより発揮できる職場へ円滑に転職することができ、

それが不利にならないような柔軟な働き方を可能とするシステムづくりが必要である。

さらに、高齢期になれば就業ニーズがより多様になることから、雇用という形態にと

どまらず、第1次産業から第3次産業まで幅広い分野での自営開業、さらには地域の

生活に密着した臨時的・短期的な就業、ボランティア活動など、社会参加という視点

をも加えたより幅広い働き方を可能とする環境整備が求められる。



3.年齢にかかわりなく働ける社会の実現に向けた取組の進め方



 年齢にかかわりなく働ける社会、すなわち年齢よりも能力を評価軸とし、個々人が

その多様な能力を最大限に活かす働き方を選べる社会に円滑に移行していくためには、

段階的に条件整備のための取組を進めていくことが肝要である。

 今後10年程度は、労働力人口が減少へ向かう大きな転換点であり、また、団塊の

世代が60歳台前半にさしかかる時期でもあることから、少なくとも65歳までの雇

用の確保を確かなものとするとともに、将来の年齢にかかわりなく働ける社会の実現

に向けた基盤整備の期間と位置付け、(1)職務の明確化と社会的能力評価システムの

確立、(2)賃金・人事処遇制度の見直し、(3)能力を活かした多様な働き方を可能とす

る環境整備、(4)募集・採用時における年齢制限の是正に向けた取組などの条件整備

を、政労使が機能分担を図りながら一体となって進めていく必要がある。

 年齢にかかわりなく働ける社会を目指すに際して、政府の果たすべき役割は大きい。

持続的な経済成長の実現を図りつつ、年齢に過度に偏った雇用システムを改革すると

いう視点に立って、働く意欲と能力のある個人が年齢という要素のみで働く機会を阻

害させることのないよう、誰もが能力に応じて雇用、処遇され、多様な働き方を選べ

る労働市場の枠組みやルールづくりに向け、労働関係法制、税制、社会保障制度など

を適宜見直すとともに、自ら公務員制度改革の具体化を進める必要がある。また、企

業においては、労使の話し合いを通じて賃金・人事処遇制度の見直しを進め、複線型

の働き方が可能となるような処遇の定着を図るとともに、年齢にとらわれない採用や

高齢者の雇用の継続に取り組んでいくことが求められる。同時に、年齢にかかわりな

く働けるためには、個人が主体的に自分のキャリアを形成していくことが重要であり、

そのための労働者自らの努力はもとより、企業や政府の支援が不可欠である。

 なお、年齢にかかわりなく働ける社会の実現に向けた条件整備に関する考え方とし

て、アメリカにおいて導入されている年齢差別禁止というアプローチをとる必要があ

るという意見がある一方、年齢にかかわりなく働ける社会というのは雇用における年

齢差別を禁止することとイコールではなく、人権保障政策的観点と雇用政策的観点と

を区別すべきとの意見や、年齢に代わる基準が確立されていない中で年齢差別禁止と

いう手法を導入すれば、労働市場の混乱を招きかねないとの意見があった。

 この点に関しては、IIIの「4.採用と退職にかかわる条件整備」に示す様々な論

点があり、誰もが高齢期を迎えるという意味で「年齢差別」という概念が他の差別と

異なるという点などを勘案しつつ、高齢者の雇用の促進のためにはいかなるアプロー

チがより効果的であるかといった観点から、総合的な検討を深めていく必要がある。

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