戻る


I はじめに



 これまで、我が国の労働市場においては、(1)学卒一括採用による長期雇用、(2)年

功処遇、(3)定年退職に見られるように、年齢や勤続年数が、採用・処遇・退職の在

り方を決定する上での重要な要素となる雇用慣行が一般的であり、我が国の雇用の安

定、人材の育成等に大きく寄与してきた。しかしながら、企業経営を取り巻く環境、

働きがいを求める個人の意識、少子高齢化の進展する我が国の人口構造などの変化の

中で、これまでの雇用システムが十分に機能できない面が現れている。

 第一は、中高年労働者の雇用面での影響である。最近の労働市場を見ると、経済成

長率の低下等により雇用需要が減退する中で、雇用情勢は厳しい状況が続いている。

とりわけ人件費コストの相対的に高い中高年齢者を中心に雇用調整が拡大し、離職す

れば採用の年齢制限や職業能力、労働条件などのミスマッチにより中高年齢者の再就

職は極めて難しい状況にある。また、今後、厚生年金の支給開始年齢が65歳まで徐

々に引き上げられていく中、60歳台前半の雇用確保が極めて重要であるが、処遇の

変更や職域の開発の難しさもあって、定年の引上げや継続雇用がなかなか進まず、原

則として希望者全員が65歳まで働ける企業は、約3割にとどまっている。厳しい雇

用情勢の中でも、特に、中高年齢者という特定の年齢層が深刻な状況におかれており、

その雇用の場をいかに確保していくかが重要な政策課題となっている。

 第二は、企業経営にとっての問題である。グローバル化の進展、産業構造の転換な

どにより企業間競争が激化する中で、企業において引き続き年功処遇など、年齢を重

視した従来の人事処遇制度を維持することは難しくなっている。企業にとって、国際

競争力を高め、雇用を維持するためにも人件費コストの適正な管理を行うとともに、

環境変化に柔軟に対応できる能力・職務重視の人事処遇制度を構築することが緊急の

課題となっている。

 第三は、個人の就業意識の変化である。若年労働者にとっては、能力を活かして働

こうと思っても年功処遇の下では十分に処遇されないという不満が生じるとともに若

年失業率も上昇しつつある状況にあり、各人が能力や適性に基づいて仕事に従事し、

意欲を持って働けるような取組が求められている。また、労働者個人の意識において

も、若年層に限らず、自らの能力が公正に評価・処遇され、自分のライフスタイルに

即して年齢にかかわらずに能力を発揮して生きがいを感じることができる、より多様

な働き方を求める傾向が強まっている。

 第四は、人口・労働力供給との関係である。今後の人口・労働力供給の動向をみる

と、団塊の世代が60歳台にさしかかるなど一層高齢化が進む一方で、少子化による

若年層の大幅な減少により労働力人口が減少に向かうこととなる。このため、社会全

体として、年齢にかかわりなくより幅広い層を労働力として活用していくとともに、

社会保障制度等を維持していくためにも、幅広く社会の支え手を確保していく必要が

ある。

 働く場の確保が必要な中高年齢者、競争力の強化を図らなければならない企業経営、

自己の能力を発揮できる多様な働き方を志向する個人、幅広く支え手を確保しなけれ

ばならない社会全体、それぞれの要請を勘案すれば、持続的な経済成長の実現を図り

つつ、ワークシェアリングを含めた雇用面での総合的な対応を通じて雇用機会を維持・

増大させるとともに、過度に年齢に偏った我が国の雇用システムを見直し、意欲と能

力を持つ誰もが年齢にかかわりなく能力を発揮して働ける社会を作り上げていかなけ

ればならない。そのための取組がなされず、今後も年齢に関する労働力の需要構造が

変化しなければ、若年労働力が大幅に不足する一方、高齢労働力は大幅な過剰となる。

対応の如何によっては、労働力供給が減少する中で、潜在的な労働力需要が満たされ

ず、我が国で実現される雇用の総量が縮小するという悪循環に陥るおそれもある。

 年齢にかかわりなく働ける社会や雇用システムの在り方を考える場合には、採用や

退職というシステムの一部のみを取り上げて検討するだけでは不十分である。採用時

の年齢制限や定年延長等の問題は、処遇や働き方などと密接に関連しており、雇用シ

ステム全体の見直しを進めなければ根本的な解決は難しい。このため、採用、能力評

価、処遇、働き方、退職など雇用システム全体を問い直し、今後の在り方を総合的に

検討することが不可欠である。

 以上のような認識と考え方に基づいて、年齢にかかわりなく働ける社会と労働市場

の姿、具体的な条件整備の在り方について検討を行い、中間的なとりまとめを行った。

とりまとめの内容については、「年齢にかかわりなく働ける社会に関する研究会」に

おいて行われた詳細な検討の成果を基礎としている。この報告は、厚生労働大臣の要

請を受けてとりまとめたものであるが、年齢にかかわりなく働ける社会の実現のため

には、以下に述べる様々な条件整備を、政労使が役割分担を図りながら一体となって

進めていく必要がある。その意味でこの報告は国民全体に対するメッセージであり、

政労使を始めとする関係者が積極的に取り組むことを期待したい。

                        TOP

                        戻る