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2.施策展開における今後のあり方

 本章では、各地域がそれぞれの事情にあわせて問題点の是正から取り組めるよう、

施策を提示している。具体的には、生徒・企業が互いに納得のいく仕事や企業、人材

を選べる仕組みの整備にあたっての選択肢を提示しているほか、就職を円滑に実現す

るためのさまざまな方策、キャリア形成の観点からの教育・職業能力開発等の基盤の

整備などをあわせて提案している。



3)キャリア形成の観点からの教育・職業能力開発等の基盤の整備

(1)小学校からの発達段階に応じたキャリア教育の推進
(2)時代の変化や産業界のニーズ等を踏まえた教育内容等の改善・充実
(3)学校とハローワーク等関係機関による支援体制の強化
(4)学校を離れた者へのキャリア形成、能力開発、就職活動などへの支援
(5)若年者の職業意識啓発に対する国民的な理解の促進



(1)小学校からの発達段階に応じたキャリア教育の推進

 生徒の職業意識を高め、生徒の意思等に基づく進路の選択・決定を可能にしていく

ためには、もちろん高等学校における職業意識形成も大切であるが、それだけでは必

ずしも十分とはいえない。高校に入学する前の段階から自らの将来・進路について考

えることができるような教育が同じように大切になってくる。
 将来の進路・職業を見据えた上で進学する高校を選択したり、高等学校卒業後、自

らの適性にあった進路を決定したりできるようになるためには、職業への関心や理解、

働くことへの意欲や態度、目的意識の向上をはじめ、望ましい職業観・勤労観や、自

らの進路を主体的に選択できる力等を育てていくことが必要であり、より早い段階、

すなわち小学校から発達段階に応じて系統的・計画的にキャリア教育を推進すること

が求められる。
 また、生徒一人一人がこのような資質や能力を身に付けることができるよう、進路

指導担当教員等のキャリア・カウンセリング能力の向上、専門的な知識技術をもった

外部人材のキャリア・アドバイザーとしての活用などにより、進路指導がよりきめ細

かな質の高いものとして機能するようにしていくことが求められる。

(2)時代の変化や産業界のニーズ等を踏まえた教育内容等の改善・充実


  (a)学校教育における職業意識の啓発


   職業意識啓発の大切さについては、インターンシップの節でもすでにふれたと

  ころであるが、企業の協力を得ながら行うインターンシップとあわせて、生徒の

  職業意識を高める仕組みとして、学校の授業をより一層活用していくことが大切

  である。特別活動、教科の時間等、学校のさまざまな教育活動の場で進路・職業

  意識を高めていくことが求められるところであり、新たに設けられた「総合的な

  学習の時間」などを職業意識啓発の機会として積極的に活用していくことが考え

  られよう。
   特に最近は、生徒が現業職を避ける傾向があるなど、職業に対する認識に偏り

  が見られるようになっていると言われる。授業を通じ、ものづくりの楽しさを教

  えることで、職業に対する偏りのない認識を形成していくことも大切なことであ

  る。その際には、ものづくりの技能・技術に熟練、熟達した者を講師等として活

  用することも効果的である。

  (b)高校の教育課程の見直しも視野に


   また、時代の変化や産業界のニーズ等に応えるような人材育成を行うためには、

  学科編成や教育内容等を改善、充実させていくことも必要である。特に普通科に

  ついては、入学する生徒がすべて進学を希望しているとは限らないにもかかわら

  ず、学科の制約から、商業科や工業科などに比べて、専門教育を充実させること

  は難しい。しかしながら普通科であっても希望する生徒に対してはある程度の専

  門教育を受けることができるようにすることが、高卒人材の価値を高めることに

  もつながると考えられ、各学校の実態に応じてこうした面での教育課程の編成を

  工夫することも大切である。その際、近隣の専門高校との学校間連携を積極的に

  導入したり、学校設定教科・科目として「産業社会と人間」を設置したりするな

  どの方法も有効であろう。また、自己の進路を探索しながら普通教育と専門教育

  を同時に履修できる学科として成果をおさめている総合学科の設置促進について

  も積極的な対応が求められる。
   一方、商業科や工業科では、より職業的専門性を高めることを意識した教育の

  実施も検討すべきであろう。高卒人材の質を高め、それがひいては高卒人材に対

  する評価の向上、さらには高卒者に対する求人の質の改善につなげていくことが

  可能となるだろう。

(3)学校とハローワーク等関係機関による支援体制の強化


  (a)学校における就職支援の体制の強化


   現在の高校生の就職あっせんの仕組みが機能しているのは、学校の進路指導担

  当教員の努力によるところが大きい。今後の高校生の職業生活への移行のあり方

  を、生徒の職業意識を高めて自らの意思等に基づく選択・決定を一層重視すると

  ともに、採用選考機会を拡充するという視点から改善を図るためには、進路指導

  担当教員の果たすべき役割はこれまで以上に幅広く重要になってくると考えられ

  る。このため、進路指導担当教員の負担軽減を含め、学校における就職支援体制

  を充実し、より一層強化する必要がある。また、指導の質をより高めるという観

  点から、高等学校就職支援教員(ジョブ・サポート・ティーチャー)として進路

  指導に精通した退職教員等を再雇用などによって活用したり、キャリアアドバイ

  ザーとして産業社会などについて専門的な知見や経験を有する外部人材を活用す

  ることが大切である。
   さらに、学校の進路指導を充実し就職支援を強化していくための方策として、

  指導する教員自身が実際の職業に対する認識・理解を深めて、生徒の指導に役立

  てることができるよう、教員自身がインターンシップを経験することも大切であ

  る。

  (b)ハローワークと学校の連携強化


   また、学校側の就職指導体制を強化するだけではなく、地域の労働市場に精通

  した各地の職業安定機関との連携を強めていくことで、より効率的・効果的な職

  業移行の実現が期待できる。
   具体的な取り組みとしては、就職あっせんという観点からは、共同での求人開

  拓のほか、職業安定機関による求人情報の提供、面接会や就職準備講習などのマ

  ッチング機会拡大の支援が挙げられる。なお、就職面接会、就職準備講習は成果

  がでており、高校や生徒においても評価が高いことから、さらに積極的に実施さ

  れることが期待される。また、生徒の資質を高めるという視点からは、職業安定

  機関と学校の連携による生徒の職業意識形成支援が全国的に広まってきており、

  就職に当たっての職業指導の推進と併せさらに職業安定機関と学校の連携を強化

  していくことが望ましい。

(4)学校を離れた者へのキャリア形成、能力開発、就職活動などへの支援

 高校から職業への移行に際しては、生徒が学校に在籍している間であれば教員によ

る支援・指導を受けることができるが、学校を卒業したあとは、サポートの仕組みが

ないのが現状である。しかしながら一方では、高校卒業時までに就職先が決まらない

者、卒業後も定職に就かない者、就職後短期間のうちに離職する者などは少なくない。

こういった人たちこそ、就職活動などの職業移行面のほか、キャリア形成、能力開発

などの面でも最も支援を必要としているにもかかわらず、実際は十分な支援体制が整

備されていない。このような学校を離れた者に対する効果的な支援を行っていくため

には既存の職業安定機関のほか、直前まで在籍しており、その人物について情報の蓄

積、指導実績のある学校も含めた支援体制を構築していくことが必要である。
 具体的には、未就職卒業者に対して継続して就職活動を支援するために、学校と職

業安定機関との連携を強化する。特に、継続的な情報提供や相談体制の確立を重視す

る。なお、その際には学校と職業安定機関の間での連絡・連携の具体的な手続を明確

にすることで、より円滑な支援体制を構築できるであろう。
 また、フリーターに対しては、個別の状況等に即したマンツーマンによる相談・指

導や講習、訓練、就職後支援を行うといった施策を推進していくことが望まれる。フ

リーターをやめて就職したいと思ったとき、職業への移行が円滑にすすむよう、フリ

ーターでは身につけることが困難な職業能力を高めるための職業能力開発支援も大切

である。
 なお、能力開発に関する情報提供や相談等を行い、各労働者のキャリア形成を支援

するため、平成13年10月から雇用・能力開発機構都道府県センター内に、「キャリア

形成支援コーナー」が設置されているところであるが、これらの者が今後とも、同コ

ーナーを有効に活用することが期待される。

(5)若年者の職業意識啓発に対する国民的な理解の促進

 高卒者の職業移行の問題は、わが国における若年層の職業意識醸成のあり方に疑問

を投げかけているといえる。そこで、若年層の職業意識啓発がいかに大切なことであ

るかを、社会全体に訴えかけていくことが重要である。そのためには、若年者の職業

意識啓発について、国民全体が考える機会を積極的に作っていくことが望まれる。
 その一環として、生徒の保護者に対する意識啓発も重要になってくる。生徒の個性

や適性といった点に考慮しない保護者の安易な大学進学志向が生徒の職業への関心や

意識の形成を阻んでいる面も伺えるためである。
 また、企業側の意識啓発を促すことも非常に大切な点である。高校生をはじめとす

る、若年者の職業意識啓発に参画することは、企業の社会的責任でもあることを訴え、

働きかけていくことが不可欠である。
 高校生をはじめとする、若年層の職業移行の問題は、国民全体で検討し取り組んで

行くべきテーマであり、この認識を大きな流れとしていくことが現在求められている。


  
4)中長期的な展望に立った「職業生活への移行」の検討

 現状と課題の章で見たとおり、新規高卒者についてもその労働需要には構造的な変

化が生じており、今後も産業構造や企業の雇用システムのあり方に応じて変化してい

くものと推察される。特に労働力需要そのものが、高卒者からより高学歴者へシフト

を続けたり、また学校から輩出される人材の質が、労働力需要からあまりに乖離して

いるようでは、新規高卒者の就職をサポートする仕組みを充実させたとしても、学校

から職業への円滑な移行が実現できないことになる。高卒者に求められる資質や労働

市場の動向の把握、労働力需要との乖離を防ぐための高校生や未就職卒業者に対する

資質向上方策などのあり方が課題となってくる。
 また、高校生の就職問題の背景には、学校における進路指導のあり方や産業界の需

要の変化の他に、家庭や地域社会等の高校生を取り巻く環境や若者文化の影響など複

合的な要因があることが考えられる。その意味で、就職問題は、若者が社会の構成員

となる過程におこっている「ゆらぎ」の一つの現れであるというとらえ方もできる。

次代を担う若者を社会の構成員としてどう迎えていくかという視点から、若者の現状

を総合的にとらえ、就職問題をその一環として位置づけて考えていくことが今後重要

になると思われる。
 このような若年層の職業への移行のあり方及びその支援方策について総合的に検討

することが求められる。
 なお、その際、その検討に資するような情報や資料が十分には収集・整理されてい

ないというのが実状である。今後は、そういった情報や資料を充実させていくことが

必要であろう。例えば、卒業直後の無業期間やアルバイト就業の経験が、その後のキ

ャリア形成にいかなる影響を及ぼすのかなどに関するデータの収集が求められる。

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