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2.施策展開における今後のあり方
本章では、各地域がそれぞれの事情にあわせて問題点の是正から取り組めるよう、
施策を提示している。具体的には、生徒・企業が互いに納得のいく仕事や企業、人材
を選べる仕組みの整備にあたっての選択肢を提示しているほか、就職を円滑に実現す
るためのさまざまな方策、キャリア形成の観点からの教育・職業能力開発等の基盤の
整備などをあわせて提案している。
2)就職を円滑化するためのサポートの充実
(1)情報ネットワークの整備による高校における求人情報の共有化の推進
(2)求人企業と生徒との情報交換の機会の拡大
(3)新規高卒者就職関係情報の幅広い提供
(4)企業・職業理解のための職業意識形成の促進
(1)情報ネットワークの整備による高校における求人情報の共有化の推進
現行の就職あっせんの仕組みでは、企業側は6月20日以降に求人票を一度ハローワ
ークに提出して確認を得たあとで、7月1日以降に学校側に求人申込みを行うことに
なっている。このプロセスは、当該求人が労働関係法令に照らして不適切ではないか
きちんと確認するという意味で大切であるが、企業側、特に中小企業にとっては手続
が煩雑で負担が大きいという指摘もなされている。
このような中小企業の負担を軽減していく上で有効と考えられるのが、職業安定所
で確認をした求人を、例えばインターネット経由で各高校に配信できるような情報ネ
ットワークの整備であろう。インターネットによる求人情報の閲覧は学校への求人申
込開始日から可能となるよう取組が進められているが、これが実現すれば、企業から
高校への求人手続を簡素化させることができる。
また、高校間での求人の共有も容易となることから、適切に運用されれば、高校間
における求人の偏りの改善にもつながり得る。さらに、生徒にとっては職業選択機会
の拡充に、企業にとっては適正なコストで採用活動が行えるような環境の整備につな
がることも期待される。ただし、その仕組みがかえって指定校制の固定化につながら
ないように十分配慮すべきである。
なお、求人受付自体の電子化を進めることで、求人企業にとっては採用にかかる負
担をより一層軽減させることができる。その点についても今後検討をすすめていく必
要があろう。
(2)求人企業と生徒との情報交換の機会の拡大
(生徒にとってのメリット)
現行の仕組みの下では、どの生徒がどの企業に応募するのか、学校内での選考を経
て決まる場合が多く、実際に応募企業と接触を持つのは採用選考当日であり、面接後
短期間のうちに決まってしまう場合が多い。自らが高校卒業後働くことになる企業の
実際をほとんど知らないままで就職することになっており、そのような事前情報の不
足が、生徒の希望と企業のニーズに齟齬をきたし、就職後の定着率低下の一因となっ
ているとの指摘もある。
したがって、応募前に生徒が、できれば複数の企業について実際に自分の目で確か
めた上で、どの企業に応募したいのかを自分自身で選択する機会をあたえることは大
切なことであろう。そうすることで、就職した後で「こんなはずではなかった」と不
満を抱くことも少なくすることができよう。
(企業側にとってのメリット)
一方、企業側にとっても、自社の経営のあり方や仕事の内容、求める人材に関する
情報を積極的に生徒側に提供することで、より自社のニーズにあった人材の応募が期
待できるほか、生徒側との誤解を防ぐことができ、それが採用者の定着につながって
いくなど、メリットは大きい。
なお、求人企業と生徒の間の情報交換機会を拡大していく上では、企業側が情報を
出す際には、可能な限りどの学校の生徒に対しても公平であることが望ましい。前に
も述べたように指定校制の合理性を完全に否定するわけではないが、基本的には指定
校以外の学校の生徒に対しても情報が提供され応募が可能な仕組みを広げていくこと
が望ましい。
<方策>
(a)地域経済団体と連携したキャンペーンの実施
求人企業と生徒との情報交換の機会の拡大に資する方策として、第一に考えら
れることは、地域の経済団体と連携したキャンペーンの実施であろう。より具体
的には、次に述べる職場見学会やジョブフェア、インターンシップの推進ととも
に、新規高卒者を採用した企業の好事例の提供などが挙げられる。このような生
徒(高校側)と企業側との間で交流機会を増やすことで双方の理解が深まるだけ
でなく、高校と企業との風通しが良くなり、高卒人材を見直すきっかけにもなり
得る。現在は高卒人材について厳しい見方もなされているが、こうした活動を通
じて高卒者の良さを再認識してもらうことで、高卒者の採用を行っていない企業
に対して、採用の検討の契機につなげていくことも十分可能であろう。
(b)夏休み期間を利用した職場見学会の開催
夏休み期間を利用した職場見学会の開催については、生徒が自分の目で応募先
企業を選定・確認する機会となり、それが企業や仕事内容に対する誤解を防ぎ、
ひいては実際に就職した後の定着率の向上にも資するものと考えられる。また、
文部科学省の検討会議報告で指摘されているように、新規高卒者の就職に関わる
求職活動をより開かれたものにする必要があるという観点からしても、夏休み期
間の職場見学会を推進していくことが望ましい。
ただし、職場見学会の第一の主眼は生徒が希望する企業の情報を得て自らの選
択の一助とするところにある。したがって情報は基本的にどの生徒に対しても公
平に開かれているべきである。また、職場見学会は内定に結びつかない情報収集
期間と明確に位置づけ、採用選考開始日前の早期採用選考につながることがない
ように、細心の注意を払う必要がある。
したがって、求人票に企業説明会や職場見学会の開催日を明記するようにして
公平を保つこと、推薦開始日以前の職場見学会の場に、応募書類やそれに類する
書類は持たせないことについて、ルールを徹底するなどの条件の下で職場見学会
を実施する必要がある。
なお、遠隔地からの就業を希望する生徒に対して公平性を担保するために、た
とえば開催された職場見学会の模様(画像等)を、インターネットなどを通じて
配信するなどといった工夫を今後の技術の進展を踏まえながら検討していくこと
も大切であろう。
(c)ジョブフェア(仮称)の開催
(b)の職場見学会は、開催企業の経営や仕事内容について詳細な情報を得るこ
とができる貴重な機会であるだけでなく、企業側にとっても応募者に自社に対す
る理解を深めてもらうことができるというメリットがある。しかしながら、一方
で職場見学会の開催は、企業にとっても相応のコストを要するものであり、特に
中小企業にとっては負担が大きい。
そこで、地域の実情に応じて、労働関係部局、教育委員会、経済団体が連携し
て合同企業説明会(ジョブフェア(仮称))を開催していくことが考えられる。
ジョブフェアという形で多くの企業と多くの生徒が一堂に会する場を設けること
で、生徒にとっては一度にたくさんの企業について知ることができ、企業にとっ
ては個別に職場見学会を開催する場合に比べ少ない負担で自社についての情報を
提供することができるなど、生徒と企業の情報交換をより効率的にすすめること
が可能となる。特に生徒にとっては、地元の企業を自分の肌で感じられるような
場として、非常に有益であろう。
ジョブフェアの開催を推進していく際には、企業の協力が不可欠である。行政
や学校側が押し進めるだけではなく、企業側も積極的に参加する形で実施してい
くことが重要である。そのためには、企業側からの参加を促すような仕組みづく
りをあわせて工夫する必要がある。
ジョブフェアを通じて、企業から生徒への情報提供の大切さや職場見学会を開
催する趣旨について理解を深め、個別の職場見学会の日程について、その場で説
明することが考えられる。また、この機会を活用し、企業自らがその場では早期
採用選考を行わないように申し合わせることも有効であろう。
ジョブフェアの実施にあたっては、各職場の情報を紹介したパンフレット等の
作成・配布などが行われるが、インターネットを活用する等によりこうした情報
を広く公開し、遠隔地の生徒などジョブフェアに参加できなかった生徒も入手で
きるようにしておくことが望ましい。
(d)ホームページなどでの事業や仕事内容等の情報提供
もっと気軽に、生徒が企業の情報を得る手段として、ホームページを通じた企
業紹介も一層すすめていくべきであろう。すでに新規大卒予定者に対しては、各
企業が自社のホームページの中に採用に関するページを設け、その中で事業内容
や仕事内容、さらには先輩従業員がこれまでどのような仕事を担当してきたのか、
また現在はどのような仕事をしているのか、さらには一日のタイムスケジュール
などについて豊富な情報を掲載する企業が増えており、学生は、そこから当該企
業の情報を得て、就職活動に役立てている。
同様のことを、新規高卒予定者に対しても進めることは有効である。その際に
は、たとえば高校生に対する分かりやすい情報提供のあり方を検討した上で、見
本となるようなモデルページを作成・紹介していくことなどが、経験の少ない企
業に対しては有効であろう。
そのような施策を通じて、ジョブフェアや職場見学会に参加できなかった生徒
のために、ジョブフェアに参加したり職場見学会を実施した企業が、企業紹介の
ための情報を映像や画像などの形でホームページなどを通じて公開し、出席でき
なかった生徒に対しても補完的な情報提供ができるようにすることが望ましい。
(e)地域求職活動援助事業の活用
改正地域雇用開発促進法の施行により、求職者が多数居住し、当該求職者に求
人に関する情報が適切に提供されずミスマッチが生じている地域として求職活動
援助地域を設け、地域内の雇用構造の改善を図るために地域求職活動援助事業を
実施することとしているが、上記(a)〜(d)の事業についても当該事業の一環とし
て積極的に展開していくことが望ましい。
(3)新規高卒者就職関係情報の幅広い提供
生徒が就職活動中や就職するまでの間に、企業情報だけではなく、一般的な労働市
場の現況や職業生活を営むに当たって、必要となる労働関係法令や年金・社会保険制
度の知識、ハローワークに関する情報などを得ることができるようにすることが大切
である。こういった情報が生徒に対して幅広く提供できるように、たとえばインター
ネットを通じた新規高卒者に役立つ就職関係情報の提供や、高校で活用できる労働市
場の現況や労働関係法令、就職に関する制度などに関する情報が盛り込まれたガイド
ブック(「高校生就職スタートブック(仮称))の作成などをすすめていくことが必
要であろう。
(4)企業・職業理解のための職業意識形成の促進
(2)でふれた職場見学会やジョブフェアの開催は、生徒が就職を希望する企業を直
接確かめることで、実際に就職したときのミスマッチを防ぐという意味がある。職場
見学会やジョブフェアを通じて得た情報を具体的な就職先選択に役立てていくために
は、具体的な就職活動が始まる前に、職業意識の十分な育成・形成を行っておくこと
が重要である。
(a)高校生の職業意識の育成
高校生の職業意識の育成については、職業の意義や自己の適性等についての理
解を深めるとともに、希望する職業を探索しそれに関する知識を身に付けて、将
来の職業選択を主体的に行うことができるようにすることが大切である。したが
って、高校2年の終わり頃までには一定の職業意識が形成されるようにし、3年
時の就職活動に備えることが望ましい。また、このような取り組みを進め、現実
感のある職業選択を可能にするためには、実際に企業で働く経験のできるインタ
ーンシップは大きな意味を持つと考えられる。
(b)企業・職業理解のためのインターンシップの促進
<期待できる効果>
インターンシップの効果としては、まず、生徒自身の職業意識の形成に大きく
役立つということである。実際に、たとえ短い期間であっても、インターンシッ
プに行く前と後では生徒の意識が変わり就職に対する心構えができてくるなど、
その効果は非常に大きいと言われている。さらに、このような実際の職業の経験
とそれによる職業意識の形成を通じて、生徒の就業への動機付けが進み、生徒の
資質が高まるという点も指摘できる。
このように、インターンシップには大きな効果が期待されている。
<教育プログラムとしてのインターンシップ>
インターンシップは、実際の職業を経験することによって、生徒の職業意識の
形成を促す重要な教育プログラムの1つであると位置づけることができる。この
ため、各学校はインターンシップの実施にあたっては、その他の授業等と同様に、
教育課程の中に位置づけて取り組むことが必要である。また、単に受け入れ先企
業を見つけてきて生徒を送り出すだけでなく、インターンシップの内容について
も企業と協力して検討することが望ましい。
現在、学習指導要領上、インターンシップについてはかなり自由に取り組むこ
とが可能になっており、各学校や受け入れ先企業の実情にあわせて柔軟に対応す
ることができる。企業の幅広い支援を得ながら、インターンシップを推進してい
くためには、高校生の職業意識の啓発が、企業にとっても重要な課題であるとい
う機運を醸成するとともに、都道府県あるいは地域段階で、受け入れ企業等の開
拓・確保やそのリストの作成及び情報提供、さらには生徒・学校の希望と企業の
受け入れとのマッチング等を図る仕組みを整えていくことが大切である。既にこ
のような取組が進められているところもあるが、そうした取組を広く普及・充実
させ、インターンシップがより一層円滑に実施できるよう、地域の実情に応じた
システムづくりを進める必要がある。
なお、職業意識形成のためのインターンシップは高校1年生、2年生の頃から
取り組むことが望ましい。また、就職を希望する生徒だけではなく、進学を希望
する生徒など就職以外の進路を希望する生徒も対象とすべきである。就職か進学
か迷っている生徒にとっては、インターンシップはその後の進路を決めていく際
に役立つと考えられ、進学を希望する生徒についても、いずれは就職して働くこ
とになるのであり、高校の段階でインターンシップの経験を通じて職業意識を形
成していくことは、生徒の将来に役立つことはあっても、無駄になることはない
はずである。
<企業の協力を得やすくするために>
(インターンシップのメリットをアピール)
インターンシップは、企業の協力があってはじめて可能となるものである。こ
のため、インターンシップの受け入れが、企業の社会貢献の一つであることや企
業にとってのメリットをアピールして理解を得ることが大切である。事実、多く
の企業はインターンシップを受け入れることによって職場が刺激を受け、活性化
したと評価している。
また、新入社員を育てるということは、教える社員の教育にもつながるという
側面があり、インターンシップにより高校生を受け入れることが、新入社員を十
分に確保できていない企業にとって社員の教育につながるという効果が期待でき
る。このようなことをアピールすることによって、インターンシップに前向きに
協力してくれる企業を増やしていくことなどが考えられる。
近年は資質などの面で高校生に対して厳しい見方をされることが少なくない。
しかし、一方では高卒人材に対し過小な評価がされている可能性もあり、インタ
ーンシップを通じて生徒の働きぶりを実際に地域の人に見てもらうことで、高卒
人材を見直す絶好の機会となり得る点を訴えていくことが大切である。
(受け入れ企業に対する、受け入れノウハウの提供)
より具体的なインターンシップの受け入れ支援として、協力企業に対して、イ
ンターンシップ受け入れノウハウを提供することも必要であろう。既に文部科学
省から「高等学校インターンシップ事例集」や協力要請の際のリーフレットが刊
行されているが、こうしたことを通して、受け入れを行ったことがある企業での
経験等を整理して、インターンシップの受け入れをはじめて行う企業が参考にす
ることができるようにしていくことも大切である。
(生徒に対するマナー教育の徹底)
受け入れ先企業の負担を少しでも軽くするという意味で、また、インターンシ
ップ効果を拡大する上で、生徒を送り出す前にマナー教育を徹底しておくことも
大切である。高校においては、地域や関係機関と連携しながら、マナー教育を充
実していくことが重要である。
(自社従業員の子どものための職場見学会の開催を働きかける)
インターンシップの推進のためには、長期的に、インターンシップに対する受
け入れ素地を作るという観点も大切である。まずは、保護者が子どもに働く姿を
見せるという趣旨で職場見学会の開催を働きかけるということが考えられる。企
業の従業員の子どもを中心に、地域の児童・生徒を対象として、職業意識啓発の
ための職場見学会の開催からはじめ、それを徐々に高校生のインターンシップま
でつなげていく。そういった社会的な素地を作ることで、インターンシップに対
する企業側の理解もより得やすくなっていくであろう。
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