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2.施策展開における今後のあり方

 本章では、各地域がそれぞれの事情にあわせて問題点の是正から取り組めるよう、

施策を提示している。具体的には、生徒・企業が互いに納得のいく仕事や企業、人材

を選べる仕組みの整備にあたっての選択肢を提示しているほか、就職を円滑に実現す

るためのさまざまな方策、キャリア形成の観点からの教育・職業能力開発等の基盤の

整備などをあわせて提案している。



1)生徒・企業が互いに納得のいく仕事や企業、人材を選べる仕組みの整備

<就職慣行の見直し等>

(1)採用選考期日等全国的な取り決めについての透明性の確保
(2)各高校における求人の一層の共有化の推進
(3)地域の状況を踏まえた就職の仕組みや就職支援についての検討の場の設置
(4)地域の状況を踏まえた応募・推薦方法の見直し



(1)採用選考期日等全国的な取り決めについての透明性の確保

 選考開始期日の設定等新規高卒者の就職に関する基本的な取り決めについては、全

国高等学校長協会や主要経済団体の意見を踏まえて、厚生労働・文部科学両省の通知

によって行ってきたが、今後は、一層透明性を高めるため、基本的な取り決めについ

ては「高等学校就職問題検討会議」(仮称)を両省が共同で設置し、この会議を通じ

多面的に検討していくことが適切である。
 また、この会議には、行政関係者のほか、全国高等学校長協会や主要経済団体が加

わることが必要である。
 なお、この会議での検討は、検討された結果やその結果に至る過程が公開されるこ

とをを前提とすべきである。
 このほか、このような場を活用して、文書募集の期日などについても関係者の間で

意見調整を進めていくことが求められる。

(2)各高校における求人の一層の共有化の推進

 どのような学校に対して求人募集を行うかについての決定は企業の自由な採用選考

の一環として行われるものであり、また、各学校が長年に渡って築きあげてきた企業

との信頼関係という側面もあることから、一概に否定されるべきものではない。しか

しながら、均等な就職機会の確保といった観点からは必ずしも望ましいものではなく、

また、最近では、求人の減少に伴って、一部の伝統ある専門高校に指定校求人が偏り、

そうでない学校との格差が一層著しくなってきているとの指摘もある。
 従来からハローワークでは、求人先を指定する求人者に対して、就職機会の均等を

確保する観点から「指定しない学校からの応募、選考の機会を与える」よう助言・指

導等が行われてきているが、引き続き、企業に対して理解・協力を強く求めていくべ

きである。ただし、その職種や具体的な仕事内容から、その学校や学科の指定等に一

定の合理性が認められる場合があることに留意する必要がある。
 さらに、従来と同様に求人者に対する指導等を行うだけではなく、新規高卒者求人

関係の情報ネットワークを整備し、求人を一カ所に申し込むだけで、各高校への求人

情報の提供が一括してできるようにすることや二次募集の際の情報提供を簡便化する

こと等によって、求人者の負担を軽くし、高校を限定しない求人を増やし、生徒の就

職機会の均等を図っていくことが重要である。

(3)地域の状況を踏まえた就職の仕組みや就職支援についての検討の場の設置

 選考開始期日等については、全国的なルールとして定めていくことが望ましいが、

就職慣行については、その有り様も地域によって大きく異なっているため、その見直

しを行う際には、地域差を考慮する必要がある。全国一律のルールをすべての地域に

適用することに理解を得ることは難しく、決して妥当な方法とはいえない。また、元

々、企業と学校の間において派生してきた慣行を一律に禁止することは新たな規制を

設けることにもつながる。このため、高卒者の就職あっせんをどのような仕組み・ル

ールで実施していくのか、基本的には各地域(都道府県)ごとに検討する場を設け、

地域自らが仕組み・ルールを決めていくことが適当であろう。
 具体的には、各都道府県ごとに、新規高卒者の就職あっせんについて、どのような

方式で行い、どのように支援をしていくのかを、都道府県(雇用対策主管部署、私立

学校主管部署)、学校、地元企業を含め関係者が集まって検討していく「都道府県高

等学校就職問題検討会議」(仮称)を都道府県労働局と教育委員会が共同で設置する

ことが考えられる。当会議の場では各都道府県における基本的な仕組みやルールの他

に、例えば、職場見学会の実施方法等新規高卒者の就職支援の詳細についても地域の

状況にあわせて具体的な提案を行うようにしていくことが望ましい。
 なお、このような形で具体的な施策を決めていく際には、その検討の過程や結果を

報道やホームページを利用して公表していくことが、情報公開の観点からだけではな

く、地域におけるコンセンサスの形成の観点からも重要である。
 また、最近は就職の地元志向が強まっているとはいえ、地域の労働市場を超えて県

外に就職する生徒も少なくないことから、他地域からの意見を検討の過程にフィード

バックすること、また会議の場で決まったそれぞれの地域の具体的な施策を他地域に

も周知するなど他地域との理解・調整を推進することが、広域調整という観点から欠

かせないであろう。


(4)地域の状況を踏まえた応募・推薦方法の見直し

 高校からの応募・推薦の多くは、指定校制と密接に結びついた形で一人一社制や校

内選考によって行われている。最近では、指定校からの応募であっても採用されない

場合がみられること等を踏まえ、複数応募・推薦を前提とする仕組みへと見直してい

くことが必要である。見直しの方向性としては、上記(1)及び(3)の前提を踏まえた上

で、当面、現行の採用選考開始期日等(求職者の推薦開始日=9月5日、選考開始及

び内定開始日=9月16日)の枠組みを維持しつつ、各地域がそれぞれの実情に応じて、

下記の選択肢のいずれかを選択することが妥当であろう(選択肢についてはいずれも、

地域的・部分的に実施しているものを参考に作成した)。
 地域によっては、検討の結果、当面、学校の推薦は一人について一社までという従

来通りの方法をとることもあり得るが、その場合にあっては、今後の具体的な改善の

方向性を示すべきである。



           具体的な応募・推薦における選択肢

イ 一次募集の時点から複数応募・推薦を可能にする。ただし、応募数は限定する

 (2〜3社まで)。
ロ 一次募集までは1社のみの応募・推薦とする。それ以降(例えば、10月1日以

 降)は複数応募・推薦を可能にする。



(複数応募・推薦における基本的考え方)
 上記選択肢では、複数応募・推薦を認めてはいるものの、二次募集以降のみ、ある

いは2〜3社を上限とするなど、限定的なものとなっている。その理由としては、た

とえ現行の採用選考期日の枠組みを踏まえた上であっても、一次募集の段階から応募・

推薦企業数の制約を完全に撤廃すると、場合によっては応募倍率が著しく上昇する一

方で、複数の内定を得る生徒と一つも内定が得られない生徒が多く発生し、現行の仕

組みに比べて一次募集段階での内定充足率が大幅に低下する可能性が生じるためであ

る。仮にそうした状態となった場合、短期間で内定を得ることができる生徒数が減少

したり、内定を得るまでの期間が長期化したりすることになるなど、就職協定撤廃後

の大学生の就職活動と同じ状況になることが予想される。

(二次募集以降に複数応募・推薦を行う選択肢)
 選択肢ロについては、一次募集(9月5日の推薦から9月16日以降の内定開始日ま

で)までは従来通りの方法で生徒1人につき1社のみの応募・推薦とし、それ以降、

例えば10月1日以降は複数応募・推薦を可能にするという選択肢である。この選択肢

は、職場見学会等を大規模に実施することにより、期日までの推薦は一人一社であっ

ても、事前に生徒が企業を良く吟味検討して応募できるようにした上で、期日後につ

いては、一次募集において内定とならなかった生徒の二次募集以降の複数応募・推薦

を可能にするものである。

(一次募集時からの複数応募・推薦を行う選択肢)
 一方、選択肢イは、ロとは異なり、一次募集の段階から複数応募・推薦を可能にす

るが、応募・推薦可能な企業数は2〜3社程度に限定するというものである。
 応募・推薦可能企業数を限定することは、就職活動が長期にわたり、高校教育への

影響が懸念されるため、発達過程にある生徒にとっても過重な負担が生じることを避

けることを念頭においている。複数応募・推薦は可能であるが、限定されることから、

ロの場合と同様に職場見学会の実施等による生徒自身による事前の吟味検討が重要で

ある。

(校内選考)
 事前の職場見学や複数応募・推薦の方式を導入することで、生徒が納得する形での

あっせんが行われることになると思われるが、これと平行して、従来、ややもすれば、

学業成績に偏りがちであった校内選考のあり方も「進路選択は生徒自らの意志と責任

で行う」という基本に立ち返ることが望まれる。
 また、このためには、生徒の職業意識の形成が進むよう早い段階から取り組みを行

っていくことが重要である。

(新たな応募・推薦の方式を導入するに当たっての留意点)
 生徒の選択肢を広げるという観点からは、ロよりもイの方式がより望ましいもので

ある。二次募集から複数応募・推薦を可能にするという選択肢が比較的移行しやすい

が、一次募集時から複数応募・推薦を可能とするという選択肢を導入する際には、さ

らに以下の事項を考慮すべきである。
 第一に、複数応募・推薦に伴う就職活動の長期化をできるだけ回避し、就職活動に

よる授業時間への影響を最小限にしなければならない。そのために応募企業数を制限

するという方式を用いているが、新規高卒者求人関係情報ネットワークの整備により、

未充足の求人について、リアルタイムでの情報提供を実施する等、現在は各学校ごと

に集めている二次募集の情報が得やすくなるといった措置が必要である。
 次に、企業の求人時期との調整が必要であろう。現在のように、採用選考開始日当

日にほとんどの企業の選考が集中している状況のままでは、複数応募・推薦を認めた

としても、仕組みとしては事実上機能しない可能性もある。したがって、生徒側、企

業側双方の採用選考機会を拡充するという観点から、複数応募・推薦が機能するよう

日程についてのさらなる検討を行う必要があろう。具体的には、一次募集期間である

9月16日から9月30日までの間に、できるだけ複数の選考日を企業側が設定すること

と、その日程を9月5日の推薦開始日前に開示することが望ましい。高校や職業安定

機関から、地元の経済団体等を通じて、複数応募の趣旨を説明し、応募機会の拡大に

協力が得られるよう企業に働きかけていくことが重要だろう。
 三番目に、複数応募・推薦を可能とした場合でも、企業側としては単願者を優先す

るか、併願者も可とするかの選択は自由であり、学校側もそれを知って生徒の理解を

得た上で推薦をすることが重要であるため、企業の採用についての考え方が分かるよ

うな情報が提供されるよう努力していくことが大切であろう。
 四番目に、前年度の募集人数、応募者数、採用者数などの情報を明らかにして、次

の年の就職指導に役立てられるように配慮することも大切であろう。もちろん、応募

倍率だけで生徒の応募先を決めるような指導は慎まなければならないが、一方で前年

度の実績が指導の際に有用な情報となり得ることもまた事実である。そこで、仕事の

内容や会社の概況など企業側のより一層の情報提供とあわせて、前年度実績を求人票

に記入するよう依頼し、仕事の内容の面からも、採用の難易度の面からも、両方から

生徒が情報を得て判断できるようにして、納得ずくで応募先を選定できるようにする

ことが望ましい。
 最後に、現行の仕組みでは、企業側も自社にあった生徒を自ら選考する余地が小さ

いというデメリットはあるものの、一方で内定辞退者を補充するリスクもほとんどな

く、低コストで良質な新卒者を確保することが可能であった。その点に、高卒求人の

魅力を感じていた企業も少なくないと言われる。それが、複数応募・推薦が可能とな

ることで内定辞退者の数は増加し一次募集時点での内定充足率が低下し、二次募集の

コストがかかるなど、企業側の負担が大きくなり、これに伴い現在でも減少傾向にあ

る高卒求人がさらに縮小されてしまうことも懸念される。そのような事態をできるだ

け招かないよう、求人情報ネットワークの整備によって、採用コストの軽減を図ると

ともに、企業側に理解を求めさらに、高卒者の人材としての魅力を訴えていくことが

重要であろう。



<新たな職業紹介経路等への対応>

(1)民間資源の活用(民間職業紹介や紹介予定派遣の活用モデルの提案)
(2)学校における新規高卒者に対する有期雇用への条件付き職業紹介の検討



 生徒と企業が互いに納得のいくマッチングを実現する方策としては、就職慣行の見

直しを検討することのほかに、新たな雇用形態・雇用経路へ柔軟に対応していくこと

で、高校生が応募可能な求人先を広げていくことも大切である。新規高卒者への求人

は、現在その規模自体が縮小しているのみならず、職種の面でも偏りが生じているこ

とは先に触れたとおりである。それが、質量ともに高校生の職業選択を制約している

面があることは否めない。そこで、高校卒業後に就職する生徒が選択可能な機会を求

人数や求人の質の面から広げていく方法の一案として、下記の2点について検討を進

めることを提案したい。

(1)民間資源の活用(民間職業紹介や紹介予定派遣の活用モデルの提案)

 民間職業紹介事業者による紹介は、採用選考開始期日等について、ハローワークお

よび学校が行う職業紹介の日程に沿ったものとなるよう配慮することと、求人情報等

を提供する際には生徒が在籍する学校を通じて行うようにすること等を踏まえること

で現在でも可能である。また、試用期間のないまま、いきなり期間の定めのない正社

員として雇用することには、経済状況が厳しい中では、企業側も慎重にならざるを得

ない。そこで、求人数の拡大という観点から、紹介予定派遣も就職経路として検討に

値するものである。
 しかし、現実には新規高卒者に対する民間職業紹介事業者の本格的な参入はまだ行

われていない現状にある。民間職業紹介事業者が高校と協力して実施する新規高卒者

の職業紹介や紹介予定派遣の活用について、行政としてモデル例を提案し、民間によ

る職業紹介機能の活性化を図っていくことが考えられる。
 また、各都道府県に社会福祉事業従事者の確保を図ることを目的に都道府県社会福

祉協議会や市町村社会福祉協議会が無料職業紹介事業の許可を受け、福祉人材センタ

ーや福祉人材バンクを設置している。介護や福祉事業の従事者の需要は今後増大して

いくことが見込まれることから、高校においてもこれら福祉人材センターとの連携を

具体化していくことが望まれる。

(2)学校における新規高卒者に対する有期雇用への条件付き職業紹介の検討

 学校における新規高卒者への職業紹介は、制度上、雇用期間の定めのない求人に限

定されるものではないが、実際上は、新規高卒者の将来に渡る職業生活を考慮し有期

雇用の求人に対する紹介は浸透していない。生徒にとって将来のキャリア形成につな

がっていくと思われる場合の有期雇用の求人(例えば、正社員への登用制度があって、

かつ、1年契約でフルタイム勤務の求人)の紹介を積極的に行っていくかについて、

以下に示すプラス面とマイナス面を踏まえた上で検討していくべきである。

(有期雇用への紹介のプラス面とマイナス面)
 有期雇用の求人を紹介することのメリットとしては、就職先が決まらないまま卒業

して短期のアルバイトや無業者となるよりは、(1)職業意識の形成や職業能力の開発

の面でプラスが大きいということ、(2)正社員として働くための職業規律の育成につ

ながるということのほか、(3)長期雇用を前提に正社員として働き続けることを負担

に感じる生徒にとっては、1年働いた上で雇用契約を継続するかどうかを選択できる

有期雇用の形態の方が、受け入れやすい可能性がある。
 一方、マイナス面としては、(1)必ずしも常用雇用につながらないという可能性が

あること、(2)仮に有期雇用の求人が浸透すると、新規高卒者の求人自体が常用雇用

中心から有期雇用の方に大きく移行してしまう可能性があること、(3)正社員として

長期間就業することが期待される正規雇用に比べて有期雇用としての就職者の方が、

企業が行う教育訓練投資が少なくなる可能性が大きいことなどが挙げられる。
 平成13年度は、高卒者の就職環境が特に厳しいことから、厚生労働省では、緊急支

援策として、ハローワークの適切な職業指導の下、短期間の試行雇用の機会を活用し、

事業主の求める水準と若年求職者の現状の較差を縮小しつつ、その業務の遂行可能性

を見極め、その後の正規雇用へつなげていくことを目的とする「若年者トライアル雇

用事業」を新規高卒者に対し機動的に適用することとした。このトライアル雇用も有

期雇用の活用の一つの形態であり、高卒者への就職あっせんに当たっては、若年トラ

イアル雇用事業の成果を的確に把握しつつ、今後の有期雇用の活用についても検討し

ていくべきであろう。

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