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序 なぜいま「少子化社会を考える」のか





 (いのちあるものと共に生きる喜び)



   20世紀は、物の豊かさや技術進歩による便利さに幸せを感じる世紀でした。

  そして、夫が外で働き妻が家事と育児を担うという役割分担が一般的な時代でも

  ありました。ところが最近は、そうしたことよりも、好きな人と一緒に過ごすこ

  とに幸せを感じるという人が、多くなってきたように思われます。技術文明の成

  熟は、かえって「いのちあるものと共に生きる」ことを、最大の価値と感じさせ

  るようになったのです。21世紀は「いのちの世紀」と言うことができ、歴史の

  大きな転換期にあるといってよいのではないでしょうか。

   現代は先行き不透明な時代であるといわれます。お金だけでは安心が得られな

  い時代には、生まれ育つ「いのち」とともに生きることが、何ものにも代え難い

  喜びであり、子どもがいることによってはじめて得られる励ましや元気が、大き

  な心の支えにつながるのではないでしょうか。

   「いのち」の中でも、子どもはいわば「未来からの預かりもの」です。こうし

  た特別ないのちだからこそ、社会みんなで愛おしんでいく必要があると思われま

  す。



  

 (夫婦出生力の低下という新たな現象)



   今回、改めて「少子化社会を考える」きっかけとなったのは、平成14年1月

  に国立社会保障・人口問題研究所が出した新しい人口推計で、「夫婦の出生力の

  低下」という現象が見られるようになったことです。

   これまでの出生率の低下は、もっぱら、結婚年齢が遅くなったり(晩婚化)、

  結婚しない人が増えていること(未婚化)が要因であるとされてきました。晩婚

  化・未婚化という現象は変わっておらず、引き続きこの点への注目が必要です。

   ところが、最近の調査で、1960年代前半生まれ以降の結婚した女性が産む

  子どもの数が少なくなっているという新しい現象が見られます。このため、今回

  の新しい人口推計では、将来の少子化が一層進むという予測となりました。今回

  の検討では、とくにこの点に焦点を当てています。



  

 (これまでの少子化対策の評価)



   近年の我が国の合計特殊出生率の急速な低下で、平成2年には「1.57ショ

  ック」という言葉を生んで以来、少子化は社会問題として認識されるようになり

  ました。政府においても「エンゼルプラン」(平成6年)、「少子化対策推進基

  本方針」及び「新エンゼルプラン」(平成11年)などにより、少子化対策が推

  進されてきています。

   これまで、「産む産まないは個人の自由」であることを前提としながら、もっ

  ぱら子育ての肉体的・精神的・経済的負担を軽減することで、産みたい人が産め

  るようにする環境整備を進めるという対策がとられてきました。とくに、働く女

  性を念頭において、保育サービスの充実をはじめとする、子育てと仕事の両立支

  援を中心に対策を進めてきました。

   その結果、少子化対策を進めることの必要性が一般に認識されるようになり、

  施策のメニューもひと通りそろって、分野別にそれなりの成果を上げてきたとは

  言って良いでしょう。しかし、依然として、出生率の低下という現象は続いてい

  ます。

   施策分野や地域によって施策の効果が異なっていたり、制度はあるが十分普及

  していないという問題点もあり、いままでの施策で何が足りなかったかの評価が、

  今こそ必要です。



  

 (今回のアプローチ)



   これまでの対策がそれなりの成果をあげてきたとしても、少子化社会への対応

  を一層進めていくためには、保育などこれまで行ってきた対策に加えて、男性を

  含めた働き方の見直し、地域における子育て支援、社会保障における次世代支援、

  若い世代の自立支援など、比較的力を入れてこなかった分野にも重点を置いてい

  くことによって、「必要な対策」を「必要かつ十分な対策」にしていく必要があ

  ります。

   本懇談会では、こうした観点から、今後の少子化社会への対応を進めていく上

  での「4つのアピール」と「10のアクション」を示しています。また、この際、

  それぞれの対策同士が有機的につながって総合的な対策になるようにするととも

  に、一層国民各層の皆さんに知られ、取り組みが広がっていくことが求められま

  す。

   個々人と社会の両方にこうした対策の必要性を理解してもらうためには、単に

  子育て負担の軽減を図るというアプローチだけでは限界があります。魅力的な生

  き方の一つとして家庭を持って子育てをするという生き方が自然にできるような

  「望ましい社会像」を提示し、そうした社会を目指して対策を講じていくという

  アプローチが求められているのではないでしょうか。少子化社会への対応の目的

  は、単に子どもを増やすことにあるのみならず、あるべき経済社会の在り方をさ

  ぐり、未来への展望を拓くことにあるのですから。

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