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IV 企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題



 2 企業組織再編時における労働関係上の問題点及び対応



  (4)労働組合、労働者との協議等



   1)労働組合



     譲渡会社において、労働組合等が組織されている場合には、譲渡会社は営

    業譲渡に際し、当該労働組合等に対して、営業譲渡を行う背景、状況等の説

    明、労働者の承継、労働条件の取扱い等について協議を行っており、協議の

    ための期間が短いという指摘はあるものの、大きな問題は生じていないと考

    えられる。



     営業譲渡が労働者の理解と協力を得て円滑に行われるためには、労働組合

    等と適切な協議が行われることが必要である。このため、労働組合が組織さ

    れていない場合を含め、労働者代表に情報提供が行われ、労働者代表と協議

    が行われるよう、適切な対応がなされるべきである。



     労使協議制については、この研究会における直接の検討課題ではないが、

    かねてから様々な論議があり、直ちに法制化がなされる状況にはないものと

    思われる。労働契約承継法の立法過程において、労使協議について議論が行

    われ、結局、国会における修正によって、労働契約承継法第7条に、「雇用

    する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとする。」という努力義務規

    定が設けられたところである。このような状況に鑑みれば、営業譲渡の際の

    労使協議について、法制化するのは難しいとしても、譲渡会社において適切

    な対応が行われるよう、労使協議のあり方等を示して、周知を図るべきであ

    る。



     この場合における労使協議の在り方については、労働契約承継法に基づく

    指針において示されている会社分割の際の労働者代表との協議に準じたもの

    とすることが適当である。また、可能な限り早く協議が開始されることが望

    まれる。

     また、営業譲渡に伴う労働契約の承継、労働条件等に関しては、労働組合

    法上の団体交渉事項に該当するので、譲渡会社は労働組合と誠実に団体交渉

    をしなければならないことは当然である。



  

   2)労働者



     営業譲渡に伴って譲受会社に転籍させる場合には、該当労働者の個別同意

    を得る必要があり、通常は、その過程で、譲受会社で従事することとなる業

    務、就業場所等について必要な説明が行われ、労働者の希望も聴いた上で、

    転籍についての話し合いが行われている。



     労働者の同意に関して、労働者が営業譲渡に関する全体の状況や譲受会社

    の状況などについて十分に理解した上で、譲受会社に移るか否かの判断がな

    されることが必要である。民法第625条第1項は、労働契約の承継について

    個別同意を必要としているが、これは労働者が必要な情報を知った上で同意

    することが前提となっているものと考える。



     譲渡会社における個別同意の手続きが適切に行われるよう、個別同意を求

    める際における労働者への情報提供等について、適切な対応のあり方を示す

    必要がある。



  

  (5)労働協約の承継



     営業譲渡時における労働協約の承継の法的性格は、特定承継であることか

    ら、労働協約の譲渡には、譲渡会社及び譲受会社間の合意とともに、譲渡会

    社と当該協約の一方の締結者たる労働組合の同意を要する。

     営業譲渡時における労働協約の承継については、個々の事例によって承継

    されるケース、承継されないケースがあるが、譲受会社が労働協約の承継を

    拒否した場合には、労働組合はあらためて団体交渉を行い、労働協約を締結

    しなければならないことになる。



     この点について、営業譲渡の法的性格が特定承継であることに鑑みれば、

    労働協約についてのみ、特段の取扱いをすることは適当ではないと考える。

    いうまでもないが、譲受会社に当該労働組合の組合員が承継されている限り、

    譲受会社は当該労働組合と誠実に団体交渉をする義務がある。

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