IV 企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題 2 企業組織再編時における労働関係上の問題点及び対応 (3)労働契約承継に伴う労働条件の変更 営業譲渡に伴って労働契約が承継される場合に、譲受会社の賃金体系に合わ せるなどのため、ある程度の労働条件の変更が行われている例が多い。譲受会 社において労働条件が下がる場合には、譲渡会社が一時金を支払うなどの対応 が行われている例もある。また、不採算部門の譲渡の場合などには、かなり労 働条件が引き下げられている例も見られる。 一般に、労働条件の変更は、両当事者の合意がある場合及び変更に合理的理 由がある場合に認められる。営業譲渡に伴う転籍には個別の同意が必要である ので、通常は、転籍後の譲受会社における労働条件を示した上で、労働契約の 承継について同意を得ており、労働条件の変更についても併せて同意があるも のと考えられる。この場合に、譲受会社への承継による雇用継続のため、止む を得ず労働条件の引下げに同意している場合もあると思われるが、法的には本 人が同意したかどうかで判断することにならざるを得ない。 なお、労働契約の承継について同意を得る際に、譲受会社における労働条件 を明示していない場合には、労働条件の変更までは同意していると判断するこ とは困難である。そのような場合には、理論的には、譲渡会社における労働条 件がそのまま継続することになろう。 いずれにせよ、労働条件の変更を巡る紛争が生じないように、譲受会社にお いて労働条件が変更されるのであれば、譲渡会社は、労働契約の承継に関する 同意を得る際に、労働条件の変更を含めて、労働者の同意を得る必要があり、 譲渡会社及び譲受会社が適切な対応を行うよう、これらの考え方を周知する必 要がある。