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IV 企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題



 2 企業組織再編時における労働関係上の問題点及び対応



 (2)労働契約の承継に伴い考慮すべき事項



   3)倒産法制の活用を含め、譲渡会社が経営破綻している場合



     倒産法制を活用した場合など譲渡会社の経営が破綻している場合において、

    企業再生等に向けて、営業の一部譲渡又は全部譲渡が活用されている。譲渡

    会社自体が経営破綻していることから、当該譲渡会社の全ての雇用を確保す

    ることは、一般的には困難であり、様々な努力によって、どれだけの雇用の

    場が確保できるのかが焦点となる。

     このような場合には、譲渡会社の破綻処理・再建の過程を通じて、労働者

    の雇用や労働条件について、適切な配慮がなされることを期待することにな

    る。このため、具体的には、会社更生法等法律に基づく手続等において、労

    働組合等に適切な関与の機会が与えられ、管財人等が労働関係法を遵守し、

    裁判所が手続の過程で雇用等に適切な考慮をすることによって、対応すべき

    である。



  

   4)新会社を設立し、営業を全部譲渡する場合



     累積債務の精算、信用力の向上など、様々な理由で、既存会社が新たに会

    社を設立し、当該新設会社に全営業を承継させるケースがある。これらのケ

    ースで、すべての労働者をそのまま承継するものもあるが、新・旧会社の実

    態が変わらないのに、一部の労働者を承継しないケースの中には、労働組合

    活動を嫌って、労働組合員を排除するものなど、問題がある事例も含まれて

    いる。



     このような問題のある事例については、III2で記載した裁判例のように、

    資本系列、役員関係、本店所在地、営業目的、企業施設、従業員等の関係か

    ら、譲渡会社及び譲受会社間の同一性がある場合で、その法人格が形骸化し

    ているとき、あるいは、解雇法理や不当労働行為制度の適用を回避するため

    に法人格が濫用されたものと認められるときには、法人格否認の法理を用い

    て、譲受会社と労働者との間における雇用関係の存在が認められている。



     同じ経営者の下で、新たに会社を設立して、営業を全部譲渡する場合には、

    労働者の承継に関して、不当労働行為に当たる行為や解雇に関する法理を潜

    脱することはあってはならない。このような事案については、当然、不当労

    働行為法理や権利濫用法理により救済が行われるものであるが、そのような

    事案が生じることがないよう、この点を明確に示して、使用者に周知を図る

    べきである。



  

   5)既存の会社に、営業を全部譲渡する場合



     譲渡会社が既存の別会社に営業を全部譲渡し、会社を解散する場合は、実

    態としては吸収合併に類似したものとなる。しかし、この方式の場合には、

    合併と異なり、権利義務関係の承継は特定承継となり、譲渡会社及び譲受会

    社間で合意された範囲で権利義務関係が承継されることとなる。



     譲渡会社が、合併ではなく営業の全部譲渡を選択する背景としては、商法

    の資本に関する原則により、合併において債務超過企業を吸収合併すること

    ができないということがあげられる。すなわち、譲渡会社が大幅な債務超過

    にあるなど、経営上問題がある場合に、この方式が使われるものと考えられ

    るが、譲渡会社に経営上の問題はなく、譲渡部門も採算上の問題がないよう

    な通常の場合に、このケースに該当する事例はみられない。

     債務超過に陥っている企業について、すべての労働者を承継して営業を引

    き受ける企業があれば、雇用の観点からも望ましいことはいうまでもないが、

    現実には、経営上問題がある会社をそのまま受け入れる企業を見つけること

    は難しい。



     営業譲渡に際して、譲受会社にとっては、その部門が将来採算がとれるよ

    うになるかが大きな関心事であり、譲受会社が受け入れる労働者数は重要な

    交渉事項となる。この場合に、必ず労働者全員の受け入れを求めることとな

    れば、債務超過企業において営業譲渡先を見つけることがかなり困難となる

    ことは容易に予想される。



     このような場合において、譲渡会社は、譲受会社との間で労働者の受け入

    れに向けて努力すべきであるし、譲受会社に承継されない労働者の再就職等

    についても努力すべきことは言うまでもない。この点における譲渡会社の積

    極的な努力を奨励すべきである。



  

   6)承継対象労働者の選定について



     譲受会社が譲渡部門の労働者全員の承継を希望する場合は問題ないが、譲

    受会社が譲渡部門の労働者のうち一部の承継を希望する場合には、承継する

    労働者の選定が問題となる。



     営業譲渡に際して、譲受会社が承継する労働者の職種、人数等については、

    譲渡会社と譲受会社との間の交渉で決まる。それを受けて、譲渡会社におい

    て、労使協議等を経て、承継対象となる労働者の選定基準が決まり、具体的

    な人選、同意の取り付けが行われることになる。

     この場合に、労働者の理解を得て円滑に手続きを進めるためには、労使協

    議において、承継対象となる労働者の選定基準について、適切に協議される

    ことが必要である。



     また、具体的な人選に当たって、労働組合員について不利益な取扱いをす

    れば労働組合法の不当労働行為になり、労働委員会による救済の対象になる。

    また、第154国会に提案されている人権擁護法案(審議未了のため、次期国

    会に継続審議)が成立すれば、人種等を理由として労働契約の承継について

    不当な差別的取扱いをすれば、同法に基づく救済の対象になる。また、客観

    的な合理性を欠くような理由で、特定の労働者を承継の対象から排除するこ

    とは、公序良俗違反等の問題を生じさせるおそれがあることも考慮すべきで

    ある。少なくとも法律に違反するような取扱いが行われることがないよう、

    渡会社及び譲受会社に対して周知を図る必要がある。

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