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IV 企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題



 2 企業組織再編時における労働関係上の問題点及び対応



 (2)労働契約の承継に伴い考慮すべき事項



  1)通常の営業の一部譲渡の場合



    譲渡会社が経営上の問題を抱えていたり、その譲渡部門が不採算であるとい

   った特別の事情がない通常の営業の一部譲渡の場合には、一般に、当該譲渡部

   門の労働者で譲受会社に承継されない場合よりも、当該譲渡部門の労働者のう

   ち本人の希望に反し譲受会社に転籍させた場合に問題が生じている。



    III2でみたように、営業の一部譲渡の場合で裁判で争われているものは、

   ほとんどが、譲受会社への転籍に合意しなかったことを理由に譲渡会社を解雇

   された労働者が譲渡会社に対して解雇無効等を求めたケースや、譲受会社への

   転籍に同意していない譲渡会社の労働者が譲渡会社に対して雇用契約に基づく

   賃金の支払いを請求したケースである。

    これは、通常の営業の一部譲渡の場合には、譲渡会社、譲受会社ともに、当

   該譲渡部門がそのまま営業を継続できるようすべての労働者が譲受会社に移る

   ことを望んでいるケースが多いのに対して、労働者の中には、譲渡会社の人事

   ローテーションによってその時点では当該部門に配属されているが、将来は譲

   渡会社の他の部門で働くことを希望している者など、会社を変わりたくない者

   がいるためと考えられる。



    現行法の下では、多くの裁判例は、営業譲渡における労働契約の承継を特定

   承継とし、民法第625条第1項の規定に基づき、営業譲渡に伴う譲受会社への

   転籍に際しては、該当する労働者の個別合意を必要とすると判断し、労働者側

   の主張を認めている。

    この点に関して、一般的には、営業譲渡に際して、譲渡会社は当該譲渡部門

   の労働者に対しヒアリング等を実施するなどして、営業譲渡に伴う転籍につい

   て個別の同意を得た上で行っているが、明確に同意を得ていない場合や同意を

   得る手続きをしないまま自動的に転籍させようとした場合に紛争になっている

   ものと思われる。このような紛争が生じることがないよう、譲渡会社は転籍に

   ついて同意を得なければならないことについて、周知することが必要である。



    また、譲渡部門の労働者が転籍に同意しない場合に、譲渡会社と当該転籍を

   拒否した労働者との労働契約は転籍拒否によって終了するものではない。また、

   転籍拒否だけでは解雇理由とはならない。その場合には、譲渡会社は、当該労

   働者を他の部門に配置転換するなどの対応をしなければならない。この考え方

   を明確に示して、企業に周知を図るべきである。



    なお、譲渡会社が営業譲渡に伴って労働者を転籍させたい、あるいは譲受会

   社が営業に必要な労働者を確保したいというニーズがあるとしても、それぞれ

   の会社が労働者に適切な条件を示して個別の同意を得るべく努力をすべきであ

   り、労働者の個別の同意がなく転籍を可能とするような特段の法的措置を講じ

   ることは適当ではないと考える。

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