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IV 企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題



 2 企業組織再編時における労働関係上の問題点及び対応



   企業は、それぞれの組織再編手法の特徴・利点等を考慮した上で、組織再編を

  行っている。それぞれの組織再編手法における法的性格等の違いを踏まえて、労

  働契約の承継の考え方や問題点及び立法措置の要否を含めた対応のあり方に関す

  る検討結果は次のとおりである。



  

  (1)営業譲渡



   (1)労働契約の承継について



    1)営業譲渡の範囲



       商法における営業譲渡に関して、最高裁判例では「一定の営業目的の

      ために組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経

      済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、

      これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全

      部または重要な一部を譲受人に受け継がせる」ものとされている。



       ただし、この商法における「営業譲渡」の概念は、株主保護の関係で

      用いられているものであって、これに該当する場合には、株主総会の特

      別決議が必要となるが、これに該当しないような事業や施設等の譲渡に

      ついて、何らの制約があるわけではない。実際にも、商法の営業譲渡に

      該当しないような、会社の事業の一部の譲渡や営業用設備の売却などは、

      多様な形態で行われている。



       ちなみに、EU既得権指令における営業譲渡の範囲について、III3

      (1)でみたように、これまでヨーロッパ諸国における裁判例で争いがあ

      り、解釈に変化が見られるところであるが、いずれにしても、我が国の

      商法の営業譲渡よりは広い概念である。



       商法の営業譲渡に該当しなくても、労働関係に影響が及ぶ場合はある

      ので、企業組織の再編に関して労働関係上の諸問題を検討するに当たっ

      ては、商法の営業譲渡に該当するもののみを対象にすることは適当では

      なく、営業譲渡に準ずるような事業や施設等の譲渡についても、検討の

      視野に入れる必要がある。



  

    2)営業譲渡の法的性格



       営業譲渡における権利義務関係の承継に関する法的性格については、

      包括承継とされている会社分割や合併とは異なり、特定承継であり、権

      利義務関係の移転については個別に債権者の同意が必要とされている。

       これまで、商法の「営業」概念に労働者という人的要素が含まれるか



      について、商法の学説では、営業には労働関係を含まないとする考え方

      が一般的であった。最近、営業の同一性に不可欠な労働関係は含まれる

      という見解も見られるが、その場合にも、営業に含まれるのは特殊な技

      術を持っているなど他者では代替できない者に限るとされている。一方、

      会社分割制度における「営業」に関して、労働関係も含まれるという見

      解も見られる。しかし、商法の営業の概念に一定の労働関係が含まれる

      としても、労働関係を含まない形での事業や施設の譲渡が規制されるわ

      けではなく、また、商法の「営業譲渡」の場合でも、権利義務関係は特

      定承継であるので、それによって大きな違いはない。

       一方、労働法の学説には、営業譲渡時における労働契約の承継につい



      て、当然に承継されるとする説(当然承継説)、特定の雇用関係を排除

      する等の特段の合意がある場合は別として、原則として承継を肯定する

      説(原則承継説)、譲渡会社及び譲受会社間の個別の合意を必要とする

      とともに、民法第625条第1項の規定に基づき、労働者の個別の同意が

      必要であるとする説(非承継説)等があるが、現在の学説、判例では、

      営業譲渡における労働契約は特定承継であり、承継する場合には個別の

      同意が必要であるとする考え方が主流となっている。

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