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IV 企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題



 1 企業組織再編の手法ごとの法的性格及び特徴



   企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題を分析する際には、実際に活用される

  企業組織再編の手法の法的性格を踏まえて考える必要がある。

   企業組織再編の主な手段である、営業譲渡、合併及び会社分割のそれぞれの法

  的性格について分析すると、組織再編を行うに際して、以下のような点で違いが

  みられる。



  

  (1)営業譲渡



   ・「営業ノ全部又ハ重要ナル一部ノ譲渡」を行う際には、譲渡会社は株主総会

    の決議を必要とするとされている(商法第245条第1項第1号)。



   ・権利義務の承継の法的性格は特定承継であり、譲渡会社及び譲受会社間の合

    意により、移転させる権利義務関係の範囲を自由に選別することが可能。



   ・債務超過に陥っている営業部門を、譲渡することが可能。



   ・債権者保護手続については、商法上規定されていない。



   ・営業の承継に伴う、権利義務関係の移転については、個別に債権者の同意が

    必要。



   ・税務上、譲渡対象となる営業の簿価と売却価額との差額について、譲渡会社

    に課税所得が発生。





  

  (2)合併



   ・会社が対象。(商法第56条等)



   ・合併後消滅する会社の権利義務関係について、合併後存続する会社が包括的

    に承継。



   ・資本充実の原則により、債務超過会社を消滅会社とする合併は不可能。



   ・債権者保護手続が商法上規定されている。



   ・資産の個別譲渡手続や、負債、契約関係及び雇用関係等の承継に際しては、

    個別の同意を必要とせず、当然に承継。



   ・税制適格要件を満たす場合、合併によって消滅する会社の資産・負債を、合

    併後存続する会社が簿価で引き継ぐことが可能。(企業組織再編税制)





  

  (3)会社分割



   ・商法上「会社の営業の全部又は一部」が対象。(商法第373条及び第374条の

    16)



   ・分割会社の権利義務関係については、設立会社又は吸収会社(以下「設立会

    社等」という。)が包括的に承継。



   ・会社分割後の分割会社及び設立会社又は吸収会社のそれぞれが、その負担す

    べき債務の履行の見込みがあることが要件とされていることから、債務超過

    に陥っている営業を分割して、設立会社等とすること、また分割会社に債務

    超過に陥っている営業のみを残すことは不可能。



   ・債権者保護手続が商法上規定されている。



   ・資産の個別譲渡手続や、負債、契約関係及び雇用関係等の承継に際して、個

    別の同意を必要とせず、当然に承継。



   ・税制適格要件を満たす場合、分割会社の資産・負債を、設立会社等が簿価で

    引き継ぐことが可能。(企業組織再編税制)

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