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III 企業組織再編に伴う労働関係上の実態



 4 労使団体からのヒアリング結果



   本研究会は、企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に対する労使団体の考え

  方を把握するため、日本労働組合総連合会及び日本経営者団体連盟(当時)から、

  それぞれヒアリングをしたが、その概要は以下のとおりである。

  

  (1)労働者側意見の概要



   ・企業組織再編は、事業所閉鎖、会社更生法及び民事再生法等を用いた企業再

    建への対応と並ぶ大きな対策課題であるが、欧州ではEU既得権指令により

    企業組織再編時の労働者保護が図られているのに対して、日本では、企業組

    織再編に伴う労働者の権利保護が遅れている。



   ・現行の労働契約承継法は会社分割時のみを対象としていることから、合併、

    営業譲渡等企業組織再編全般に関して、労働条件を含めた労働契約の当然承

    継、労働協約の効力継続等を内容とする、新たな労働契約承継法の制定が必

    要である。



   ・企業組織再編時に労使協議が行われることこそ必要であるが、特にグループ

    外企業への営業譲渡の場合など、現状は労使協議が十分に機能していない面

    もあり、制度として確立することが必要である。



   ・倒産時における営業譲渡については、民事再生法に種々の労働組合関与の規

    定が設けられているが、再生計画とは別に営業譲渡が可能であり、その譲渡

    に伴う解雇事例が生じており、営業譲渡に伴う労働者保護の点に関し、労働

    法制によって補うことが必要である。





  

  (2)使用者側意見の概要



   ・国際競争が激化する中で、経営効率化、企業統治の実効性向上等の観点から、

    企業組織再編は不可欠である。営業譲渡時における労働者の権利保護につい

    ては、民法第625条第1項の規定に基づく労働者の同意を必要とする判例が

    確立しており、問題ある事例は判例法理で救済されている。



   ・営業譲渡時の「移転するものの範囲」については、労働者の雇用や労働条件、

    労働協約も含めて、契約自由の原則に則り、非承継説が妥当である。また、

    営業譲渡の形態は様々であり、一律的な法的保護措置等の制定は困難である。



   ・労使協議の在り方は、各企業ごと多様であり、法律による一律義務付けは不

    適当である。また、労使協議に時間を費やすことで、譲渡資産の陳腐化や外

    部への情報漏洩を誘発し、結果的に労働者保護が図られないことになる。



   ・倒産時の営業譲渡においても、取引の自由は保障されるべきであり、債権者

    や株主等との関係からも、労働者保護のみを重視することは困難である。ま

    た、民事再生法における再生計画によらない営業譲渡については、労働組合

    等に対する意見聴取の場も確保されており、実質的に労働者保護が図られて

    いる。

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