III 企業組織再編に伴う労働関係上の実態 1 国内の現状について (2)合併 (1)目的 合併を行う目的としては、企業規模拡大による経営効率の向上を図るものが 非常に多く、それに次いで、市場占有率上昇による競争優位の確保といった、 企業の積極的な拡大戦略に基づくものが多い。 (2)労働契約等の取扱い 合併が行われる場合の、労働者の雇用及びそれに伴う労働条件等の取扱いに ついては、以下のような状況にある。 1)労働者の雇用 合併に伴い退職した労働者の有無について、企業調査、労働組合調査のい ずれにおいても、「退職者はいない」とする回答が過半数を占めており、 「退職者がいる」場合であっても、希望退職制度の活用によって退職した者 がほとんどであり、合併に伴う解雇は生じていない。 2)労働者の労働条件等の取扱い 合併前後における、労働者の労働条件の取扱いの変化をみると以下のとお りである。 a 賃金 合併前後における賃金の取扱いについて、企業調査、労働組合調査のい ずれにおいても、「同一の賃金額が維持された」とする回答が、約8割前 後と高くなっている。また、企業調査、労働組合調査とも、合併前後で 「賃金額は増加した」とする回答が、「賃金額は低下した」とする回答を 上回っている。 b 退職金 合併に伴う退職金制度の取扱いについて、企業調査、労働組合調査のい ずれも、合併前の退職金制度を適用するという回答が最も多くなっている が、合併後に新たな退職金制度を採用するものとして、退職金を清算せず、 合併前後での勤続年数を通算した上で、合併後の新たな退職金制度を適用 するものや、合併に伴い退職金をいったん清算し、合併後の新たな退職金 制度の下で、勤続年数をゼロから起算するもの等をあげる回答もみられた。 また、退職金受取額については、「ほぼ同水準」とする回答が約6割と 多く、「やや下がる」「大幅に下がる」とする回答は併せても1割強と少 ない。 (3)会社分割 会社分割については、II2(2)で記載したように、商法の改正による会社分 割制度が施行された平成13年4月から1年間で、会社分割公告を官報に掲載し た分割会社は538社となっているが、これについては、同法の施行後間もない ところであり、昨年段階では労働条件等について実情を把握することが困難で あったことから、JIL実態調査においては具体的な調査は行っていない。 この点に関し、厚生労働省への問い合わせ等で把握している事例においては、 会社分割を行う目的は、同一企業グループ内における組織再編成として、一般 的な分社を行うケース、将来的に持株会社に移行するケース等がみられるほか、 企業グループを越える組織再編成として、他社との間で共同して新設会社を設 立するケース等、様々である。 当該対象部門のすべての労働者が設立会社等に承継されるケースが多いが、 一部には、会社分割後暫くの間は分割会社からの在籍出向という形で措置して いる事例もみられる。