III 企業組織再編に伴う労働関係上の実態 1 国内の現状について (1)営業譲渡 (2)労働契約等の取扱い 営業譲渡が行われる場合、譲渡される事業部門に在籍する労働者の雇用及び それに伴う労働条件等の取扱いについては、以下のような状況にある。 1)労働者の雇用 譲渡会社が、経営破綻等に直面している等の特別の事情がない場合におい て、譲渡時における労働者の雇用の取扱いとして最も多くみられたのが、譲 渡部門に在籍する労働者のうち希望する者すべてを譲受会社が引き継ぐケー スである。これは、対象労働者の雇用確保に対する譲渡会社の努力や、対象 労働者すべてを承継しなければ営業として成り立たないという譲受会社の認 識等に基づくものであるといえる。 また、譲受会社の意向により、譲渡部門に在籍する労働者の受入れについ て、人数を制限したケースがある。こうしたケースにおいては、譲受会社に 受け入れられなかった労働者については、譲渡会社内において他部門への配 置転換を行うことによって、雇用の確保が図られている。 一方、倒産法制の活用をした場合など、譲渡会社自体の経営破綻に伴う営 業譲渡事例においては、結果的に営業譲渡時における労働者の雇用が守られ ないケースも生じている。これは、譲渡会社自体が存続しなくなる場合、営 業譲渡部門に従事している労働者が当該部門に必要な労働者数より過剰であ るとして譲受会社が対象労働者全員を受け入れず、譲渡会社でも経営問題が 生じていて配置転換等による対応ができない場合等である。さらに、こうし たケースの中には、譲渡会社の使用者に労働者保護に対する意識が希薄で対 象労働者の雇用が守られないものもごく一部にみられた。 2)転籍した労働者の労働条件等の取扱い 営業譲渡前後における、転籍した労働者の労働条件等の取扱いの変化をみ ると以下のとおりである。 a 賃金 営業譲渡時における、転籍した労働者の賃金の取扱いについては、 @)譲渡会社における制度をそのまま適用 A)一定期間譲渡会社における制度を適用後、譲受会社の制度に移行 B)譲受会社における制度を適用 等様々な形態がみられた。A)やB)の場合、営業譲渡前後で該当労働 者の賃金水準について、企業側は「同一の賃金額を維持した」あるいは 「賃金額は低下したが、一定期間は差額の全部又は一部が補填された」と する回答が多い一方で、労働組合側は「賃金額が低下した」とする回答が 多くなっており、その低下割合については、「1割程度」及び「2割程 度」が多くなっているが、一部に「3割程度」とするものもみられた。ま た、一時金の支給等何らかの調整措置が講じられている事例もある。 b 退職金 営業譲渡における、該当労働者の退職金の取扱いについては、 @)譲渡会社における制度をそのまま適用 A)譲渡会社でいったん清算後、譲受会社の制度を適用するが、その 際に譲渡会社での退職金支給額や勤続年数等について一定の考慮を行 うもの B)譲渡会社でいったん清算後、譲受会社の制度を勤続年数ゼロから適用 等様々な形態がみられた。A)やB)の場合で、特に勤続年数が長くな るほど受取額を算出する際の支給割合が逓増していくような退職金制度を 採っているときは、営業譲渡前後で転籍対象労働者は、退職金をいったん 清算されることによる不利益を受けることになるが、この点については、 労働者側からの要望に基づき、退職金清算時の一時金の上乗せ支給措置が 講じられるなど、当該会社における労使自治に基づき妥当な解決が図られ ている事例もみられるところである。 c その他 年金等の福利厚生の取扱いについては、譲渡会社で措置されていた制度 に相当する制度が譲受会社に存在するときに承継されるケースはあるが、 制度が存在しない場合には、承継されないケースが多かった。ただし、譲 渡会社における福利厚生制度が承継されない場合においても、一時金を支 給することによりある程度の補償をするなど、一定の考慮を払っている事 例もみられる。 また、名称は様々であるが、営業譲渡に伴う転籍に対して転籍金を支給 するケースがみられた。 3)労働契約の取り扱い 営業譲渡に伴う対象労働者に係る労働契約の取扱いについて は、当該労 働者に係る労働契約上の地位を譲渡するもののほか、譲渡会社との労働契約 を合意解約して譲受会社との間で新たに労働契約を締結するものがみられた。 また、一部には、譲渡会社の配慮により、譲渡対象部門の労働者について、 譲渡会社から譲受会社への在籍出向として措置するケースもみられた。