3 社会保障負担の水準等について 本研究会では、負担の賦課の在り方を主たる検討テーマにしたが、負担の水準に ついても若干の検討を行った。 (1)現役世代の負担水準 (1)負担の上限 ・現役世代の負担の上限については、いわゆる国民負担率を高齢化のピーク時 においても50%以下に抑えるという目標があり、経済と社会保障の調和を 図り、公私の活動の適切な均衡を図る上での目安となりうるものとされてい るが、国民負担率という指標に関しては、経済成長率との関係がない、家計 における負担と誤解される、国民所得を分母とすることの問題、税負担の将 来推計が困難であることなど、さまざまな批判もあり、負担の上限について は一層の議論が必要である。 ・社会保障の負担水準については、社会保障の負担が給付に対する拠出という 応益的性格を持っていることから、基本的には、あるべき給付を考え、それ を賄うに足りる分という観点から考えるべきである。そのために、質・水準 及び効率の面で国民が満足できる給付を行うようにしなければならない。た だし、各分野の負担を合計した全体での負担水準については、国民所得や家 計所得のどの程度を再配分にあてるかの国民の選択の問題であるため、給付 全体とのバランスを考えて、国民が納得して負担を甘受できるような説明が 必要である。 ・国民負担率に代わる負担の上限の目安となる指標が求められ、いろいろな議 論があるが、社会保障負担全体での水準(合計)を考える場合、医療と年金 では給付の内容も異なり、給付と負担のつながりも短期保険と長期保険では 異なることに注意する必要があり、あらたな目安を設けることには困難が多 い。 ・国民経済に占める比重ではなく、より国民の負担感を切実に表すものとして、 家計における負担に着目できないかという観点から、税・社会保険料が家計 に占める負担が現在の15%程度から2025年には20%以上になるものと推計 したり、これらの負担が増えても労働生産性が上昇しグロス賃金が実質ベー スで伸びていけば可処分所得が増加するため、可処分所得の伸びとの関係で 負担の上限を論じる考え方もあるが、一層の議論が必要である。 (2)世代間の公平 ・今後、高齢化に伴い社会保障費用が増加するが、現役世代の負担が過大にな りすぎないよう、また高齢世代と現役世代の公平を図るためにも、負担能力 のある高齢者に一層の負担を求める必要がある。消費課税や資産課税の活用 によるほか、保険料や利用時自己負担額の水準や、高齢者に対する給付の水 準の在り方を検討すべきである。ただし、高齢者の負担増を消費税により行 うと、現在の年金物価スライド制の下では効果が相殺されてしまうことに注 意する必要があり、物価スライドのあり方も考える必要がある。 ・世代間公平を考える場合には、現在の高齢世代と現役世代のバランスのみで なく、世代コーホート間の生涯を通じたバランス(世代会計)を考える必要 があるという考え方がある。しかし、この考え方においては、社会保障制度 の中でのバランスのみを論じ、社会保障が未成熟な時代の私的な扶養負担を 考慮していないなどの問題がある場合がある。なお、世代会計の考え方によ れば、将来の高齢世代である現在の現役世代、とくに団塊の世代の負担を求 め、保険料引上げペースの前倒しや、所得税増税による国債の早期償還を求 めることになる。いずれにせよ、どの世代も、私的にあるいはその時代の制 度の下で親世代の扶養負担を行ってきており、これからもそれが繰り返され るはずである。少子高齢化が進行すれば、どのような仕組みの下でも一人当 たりの負担は高まるものであり、単純な不公平論では論じられない。 ・今後の少子高齢化の進行を予想した上で、中長期的視野で世代間でどのよう に負担を分かち合うかという観点から、将来の保険料の引き上げ方法につい て一層の議論が行われるべきである。この問題は年金においては積立方式と 賦課方式の問題につながるが、長期的な観点で負担設計がされている年金制 度では、過去に負担に対応しないまま給付された部分の処理をどうするかと いう問題(過去債務の問題)や、予想を越えて将来少子高齢化が進んだ場合 に、どのように約束された給付を調整して対応するかといった問題がある。