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2 能力に応じた公平な負担の賦課の在り方について



 (1)負担能力の把握とバランスのとれた賦課



   現在、社会保険料は被用者は報酬のみに、それ以外は定額の要素を加味して

  (国民年金では定額のみで)賦課されているが、高齢化などにより社会保障負担

  が増大せざるを得ない中で、保険料引上げへの過重感、高齢者の資産に賦課され

  ていないことや自営業者の所得が十分把握されていないこと(クロヨン問題)へ

  の不公平感が高まっている。負担能力を適切に把握し、その能力に応じた公平な

  負担の賦課をおこなうことで、社会保障負担について国民に理解を得られるよう

  にしていく必要がある。この場合、社会保険負担と税負担とを合わせて考える必

  要がある。

   なお、ここでは、所得・消費・資産等のバランスのとれた公平な負担の賦課の

  方法について論じるものであって、負担の水準の問題は別に後で論じることとす

  る。



  

  (1)資産



   ・資産への賦課については、所得・資産・消費に対しバランスのとれた賦課を

    行う観点から一層注目すべきである。とりわけ、金融資産の半分を保有して

    いる高齢者の資産には、世代間公平の観点からも、適切な方法で負担を賦課

    することを考える必要がある。この場合、社会保障番号制度など、金融資産

    の把握のための適切な方法を早急に講じることが必要である。



   ・資産への賦課の方法については、再分配は税の役割であることや、本来社会

    保険料は雇用に基づく賃金に着目して賦課するものであって資産に賦課する

    のは適当でないということを理由に、税の体系において行うべきだとする意

    見と、社会保険料の賦課ベースを広げる必要性や、被用者以外にも社会保険

    料が賦課されており賃金だけに着目する必要はないということを理由に、社

    会保険料の賦課標準として資産に着目してもよいのではないかという意見が

    あった。



   ・社会保険料の賦課標準として資産に着目しているものとして、資産割の制度

    がある国民健康保険制度の例があり、これは市町村民の共同事業に対する会

    費(参加費)のようなものとして、資産の保有そのものに基づく負担を求め

    ているものであると考えられる。国民年金等において、資産保有に対する賦

    課を求めていくことも考えられるが、年金制度の場合は給付にどのように反

    映するかという問題がある。



   ・一方、資産の保有そのものではなく、資産を起源とする所得(資産性所得)

    に賦課すべきだという意見もあった。こうしたものとしては、資産性所得を

    賦課ベースに加え社会保障目的税としたフランスの一般社会拠出金(所得型

    付加価値税)や、資産性所得をも社会保険料(自営業者保険)の賦課ベース

    にとり入れたドイツの例がある。



   ・社会保障制度における資産への着目としては、資産を担保とした貸付制度を

    充実するべきであるとの意見もあった。



  

  (2)消費



   ・所得・消費・資産に対しバランスのとれた賦課を行う観点からは、消費への

    賦課も一層重視されるべきである。報酬比例の社会保険料である被用者保険

    では報酬以外の負担能力にも着目するという点で、定額の要素が強い国民年

    金・地域保険では負担能力の差異に一層着目するという点で、消費への一層

    の賦課は賦課ベースの拡大に資することになる。



   ・また、高齢者の消費にも着目して負担を賦課することは、世代間公平の観点

    からも望ましいと考えられる。



   ・個人ごとの消費を把握して社会保険料を賦課する仕組みにすることは、現行

    の制度では難しいので、現在のところは、消費税制度を活用することが適当

    である。消費税の引上げを行って、これを社会保障財源に充てることは、社

    会保障負担の賦課ベースの拡大と世代間公平に資することになると考えられ

    る。ただし、現行の消費税は比例税率であるため、税収全体における比重と

    しては累進所得税とのバランスをとり、適切な再分配が行われる程度の拡充

    に留めておく必要があることには注意するべきである。また、益税問題など、

    現行の消費税の問題点の解決も図られるべきである。



   ・なお、現行の年金の物価スライド制度の下では、消費税を引き上げた分年金

    額も引き上げられるため、消費税引上げ分は高齢者が負担しなくなり、世代

    間公平に寄与しないことに注意する必要がある。こうしたことから、消費税

    の引上げにあたっては、年金の物価スライド制を見直し、消費税の引上げに

    よる物価上昇分を物価スライドから控除するべきだとする意見があった。



   ・そのほか、リスクに応じた負担として、タバコ税の社会保障財源への活用を

    検討すべきであるとの意見もあった。



  

  (3)定額負担



   ・社会保険は給付のための拠出という応益的性格を有しているために、定額負

    担の要素を加味することが認められる。自営業者等について公平な所得把握

    が困難な中で、国民年金は定額の保険料負担、国民健康保険は課税標準の半

    分が世帯及び個人の平等割・均等割となっている。



   ・社会保障の受給者が増えるなど普遍的性格が強くなってきていることから、

    全ての人で支え合うという意味で、社会保障の受益のための会費(参加費)

    のような負担として、定額負担は今後もある程度認めることができる。



   ・ただし、国民皆保険制度の下では、定額負担の場合低所得者が負担できず、

    免除制度を設けたり、全体の負担及び給付の水準を引き下げたりしなければ

    ならないという問題があるため、社会保険料負担における定額負担の比重を

    高めることには制約があり、基本的な部分は、能力を適切に把握した上で、

    能力に応じた負担を課するべきである。こうした観点からは、現在の完全定

    額負担である国民年金制度には問題が多く、所得の把握を適切に行った上で、

    所得比例の要素を加味するべきである。



   ・また、定額負担は逆進性が強いことから、税による再分配と適切に組み合わ

    せることが必要である。



  

  (4)相続



   ・相続と扶養は一定の交換関係にあることから、社会保障の充実で老親扶養の

    社会化が進んでいる分、相続課税の強化を図ることが適当である。



   ・また、現行の相続税は、相続を死亡時の支出であると見て課税する性格が強

    いため、消費課税の強化を行う場合は、現役時代の支出と死亡時の支出のバ

    ランスをとる観点から、相続課税の強化が必要である。



   ・年金を受給しながら長期入所した者などの死亡時に残した年金が問題にされ

    ることがあるが、これについて特別に税をかけて回収するようなことは適当

    でなく、入所などに係る自己負担の適正化とともに、相続課税を行うことで

    対応すべきである。

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