1 公平な負担のための社会保障制度の構造の在り方について (1)社会保険と税 (2)財政方式(社会保険方式と税方式) ・現在、社会保障制度のうち主なもの(医療保険・年金・介護保険)は、社会 保険方式で運営されているが、基礎年金や高齢者医療など基礎的な部分を拠 出にかかわらず給付し、その財源を全額税で賄うべきとするいわゆる「税方 式論」の主張がある。 ・財政方式については、本研究会でも給付と負担の関係の明確な社会保険方式 を評価する意見が多かった。ただし、最低所得保障としての年金は税方式で あるべきという意見や、社会サービスである医療や介護は税方式であるべき だという意見もあった。 ・いわゆる「税方式論」の主張も、実は、最低保障だけで十分であるという制 度設計の問題を主張していることが多い。この主張には、生活保護だけでナ ショナルミニマムを保障すれば十分であるとして、公的年金保険を否定する 考え方も一部にあると言えよう。また、現行制度の設計も、生活保護制度を 含めて考えた場合には、社会保険方式と税方式の組み合わせの体系であると 言えるので、社会保険方式と税方式の選択は絶対的な対立と考える必要はな いとの見方もある。例えば、基礎部分を税方式にするという考え方について は、最低保障部分(1階部分)に所得制限を設け、被用者に対する社会保険 方式による上乗せの従前所得保障部分(2階部分)を残した場合には、税方 式の生活保護と社会保険方式の組み合わせである現行の制度構造と、社会保 険方式の対象範囲を除けば似たものになると考えることもできるといった意 見があった。 ・つまり、あるべき姿を考える場合には、制度設計と財政方式と財源調達の問 題の組み合わせで考える必要があり、社会保険方式か税方式かという財政方 式の点だけ択一を求めるという問題設定をすることは、対立をあおるだけで あまり意味がある議論であるとは思われない。 <注> 制度設計・財政方式・財源調達の問題を理論的に整理したモデル 現行の制度は社会保険方式であり、所得比例負担(給付は年金では負担に比 例する)のビスマルク型(厚生年金・健康保険などの被用者保険制度)と原則 定額負担(年金給付は最低保障)のベヴァリッジ型(国民年金・国民健康保険 などの国民・地域保険制度)の2本建てで、財政調整等を用いつつ組み合わせ る形をとってきた。仮に、社会保険と税の役割を明確に区分し、社会保険方式 の部分は社会保険財源で賄い、税方式の部分は税財源で賄うこととした場合、 このどちらをプロトタイプ(原型)と考えるかにより、理論的には制度の構造 を以下のモデルで考えることができる。なおこのモデルは、歴史的経緯や現実 性をとりあえず捨象し、理論的に純粋な形を整理したものであり、また年金・ 医療・介護の相違も考慮していないもので、これ自体が現行制度の改革案に直 接つながるものではない。 A 所得に応じて社会保険料を負担するビスマルク型社会保険を原型とし (給付は年金では負担に比例し従前所得の一定割合を保障)、負担が少な いため対応すべき給付が最低保障水準に満たない者に対して税方式・税財 源で補足給付するモデル。この場合、低所得者への補足のための税財源で あるので、累進所得課税を起源とする税が望ましいことになる。 B 定額の負担で最低保障を行うベヴァリッジ型社会保険を原型とし、低所 得者に合わせた保険料設定に対応した給付では最低保障水準に満たない部 分を税方式・税財源で補足給付するモデル(ベヴァリッジ型の最低保障そ のものを税方式・税財源にするバリエーションもあり、これがいわゆる 「税方式論」)。所得制限を設け低所得者のみに補足給付する場合と、所 得制限を設けず全員に補足給付して給付水準を底上げする場合が考えられ るが、前者の場合は累進所得課税を起源に、後者の場合は広く薄く比例課 税する消費課税を起源とすることが望ましいことになる。 なお、医療・介護については、いずれの負担方式をとった場合も給付はニーズに 応じて(負担に比例はせずに)行われる。