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1 公平な負担のための社会保障制度の構造の在り方について



 (1)社会保険と税



  (1)財源調達(社会保険財源と税財源)



   ・現行制度においては、社会保険方式の制度の中でも、基礎年金に要する費用

    の3分の1、政府管掌健康保険の場合は原則13%、国民健康保険で50%、

    老人保健の給付費の30%、介護保険の給付費の50%が税財源で賄われて

    いる。



   ・このように社会保険方式の中で税財源が投入されてきた理由としては、次の

    ようなものがあげられる。



     ア 保険制度間の財政力格差等を調整するため。とりわけ低所得者・高齢

      者が多く財政力の弱い地域保険に手厚く税財源を投入してきた。全国民

      に社会保険方式の制度に加入義務を負わせる皆保険制度を維持するため

      には、加入する保険制度にかかわらずなるたけ公平な給付を行うことが

      望ましかった。



     イ 保険制度内の低所得者の保険料負担を軽減するため。税財源を投入す

      ることで保険料水準を引き下げてきた。皆保険制度の維持のためには、

      低所得者でも負担できる水準に保険料を抑える必要があった。



     ウ 負担の賦課ベースを広げるため。保険料は所得比例又は定額による負

      担賦課(国民健康保険の場合はその組み合わせ)であるので課税ベース

      が狭い(特に定額の国民年金の場合は逆進性が強い)ため、それを緩和

      するため課税ベースの広い税財源を投入してきた。





   ・アの保険者間の財政調整については、基礎年金制度と老人保健制度の創設以

    来、社会保険財源の移転により財政調整が行われるようになり、税財源によ

    る調整の必要は低下したとも言える。ただし、社会保険財源による制度間財

    政調整については、保険者自治(ガバナンスや財政における独立性)の原則

    に立ちつつそれを曖昧にするもので適当ではないとの考え方がある一方、国

    民皆保険を実現する上では保険者の自主的努力を超える構造的な違いを調整

    することで保険者自治を実現する条件を整えるものとして不可欠であるとの

    考え方もある。



   ・イの低所得者対策については、制度に対して税財源を投入して全体の保険料

    水準を下げるのではなく、個々の低所得者だけに着目して税による補足的な

    給付の補填を行うべきであるとする考え方もある。一方、低所得者以外には

    国庫負担が行われずその分保険料が高くなり、またそれが年々変化するとい

    った不安定な運営をもたらすといった逆の意見もあった。



    また、国民年金の保険料を免除された低所得者に基礎年金の3分の1水準し

    か給付されなかったり、生活保護(医療扶助)を受けている低所得者に国民

    健康保険が適用されていないことは、皆保険・皆年金の原則の下では変則的

    であり、これらの者に対しては保険料拠出時に負担能力が不足する分を税財

    源で拠出時に補填することとし、他の者と同様に給付すべきであるとの考え

    方もある。



   ・ウの賦課ベースの拡大については、投入する税財源の税の種類(またはその

    組み合わせ)が問題になる。これまでは、所得比例又は定額による負担であ

    る社会保険財源に対し、累進所得課税・消費課税・資産課税等の組み合わせ

    である税財源を組み合わせることにより、全体として、課税ベースを広くし、

    公平な賦課を目指してきた。



    一方、社会保険方式に対して税財源を投入する理由として、上記ア及びイを

    考えた場合、財政力の弱い制度や低所得者への再分配の要素を重視すれば

    (国民健康保険など)、税目としては累進所得課税を起源とすることが望ま

    しく、これらに対する最低保障の要素を重視すれば(基礎年金など)広く薄

    く課税する消費課税がより望ましいという意見があったが、いずれにせよ目

    的税としない限り明確な区分はできない。

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