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(参考)


     人権救済制度の在り方について(答申)
     (抄、労働分野で指摘されている部分)


                            平成13年5月25日

                             人権擁護推進審議会

第2 我が国における人権侵害の現状と被害者救済制度の実情

 1 人権侵害の現状

  ○ 差別の関係では,女性・高齢者・障害者・同和関係者・アイヌの人々・外国

   人・HIV感染者・同性愛者等に対する雇用における差別的取扱い,ハンセン

   病患者・外国人等に対する商品・サービス・施設の提供等における差別的取扱

   い,同和関係者・アイヌの人々等に対する結婚・交際における差別,セクシュ

   アルハラスメント,アイヌの人々・外国人・同性愛者等に対する嫌がらせ,同

   和関係者・外国人・同性愛者等に関する差別表現等の問題がある。

 2 被害者救済制度の実情

   法務省の人権擁護機関は,広く人権侵害一般を対象とした人権相談や人権侵犯

  事件の調査処理を通じて,人権侵害の被害者の救済に一定の役割を果たしている

  が,現状においては救済の実効性に限界がある。また,被害者の救済に関しては,

  最終的な紛争解決手段としての裁判制度のほか,行政機関や民間団体等による各

  種の裁判外紛争処理制度(ADR)等が用意されているが,これらは,実効的な

  救済という観点からは,それぞれ制約や限界を有している。

  (2) 司法的救済と各種裁判外紛争処理制度(ADR)等


    イ 各種裁判外紛争処理制度(ADR)等


      労働問題,公害,児童虐待等の分野においては,最終的な紛争解決手段

     である裁判制度を補完する裁判外紛争処理制度(ADR)や被害者保護の

     ための特別の仕組みが設けられており,また,様々な分野で,公私の機関・

     団体による被害者保護の取組が行われている。これらは,それぞれに被害

     者救済の機能を果たしているが,実効性の観点から限界や問題点を指摘さ

     れているものもあり,改善のための取組も行われている。また,これらの

     制度等は,そもそも総合的な人権救済の視点に立って設置されるなどした

     ものではないため,救済が必要な分野をすべてカバーしているわけではな

     い。

第3 人権救済制度の果たすべき役割

 1 人権救済制度の位置付け

   人権侵害の現状や被害者救済制度の実情,特に,最終的な紛争解決手段である

  裁判制度における一定の制約などを踏まえると,今日の幅広い人権救済の要請に

  応えるため,人権擁護行政の分野において,簡易性,柔軟性,機動性等の行政活

  動の特色をいかした人権救済制度を整備していく必要がある。すなわち,新たな

  人権救済制度は,被害者の視点から,簡易・迅速で利用しやすく,柔軟な救済を

  可能とする裁判外紛争処理の手法を中心として,最終的な紛争解決手段である司

  法的救済を補完し,従来くみ上げられなかったニーズに応える一般的な救済制度

  として位置付けられるべきである。
   既に個別的な行政上の救済制度が設けられている分野,例えば,女性の雇用差

  別に関する都道府県労働局(雇用均等室)・機会均等調停委員会や児童虐待に関

  する児童相談所など,被害者の救済にかかわる専門の機関が置かれている分野に

  おいては,当該機関による救済を優先し,人権救済機関は,当該機関との連携の

  中で必要な協力を行うとともに,当該機関による解決が困難な一定の事案につい

  ては,人権救済機関として積極的な対応を行うなど,適正な役割分担を図るべき

  である。

第4 各人権課題における必要な救済措置

 1 差別

   人種,信条,性別,社会的身分,門地,障害,疾病,性的指向等を理由とする,

  社会生活における差別的取扱い等については,調停,仲裁,勧告・公表,訴訟援

  助等の手法により,積極的救済を図るべきである。差別表現については,その内

  容,程度,態様等に応じた適切な救済を図るべきである。

  (1) 人権侵害の現状と救済の実情


    (1)先に指摘したとおり,女性・高齢者・障害者・同和関係者・アイヌの人

     々・外国人・HIV感染者・同性愛者等に対する雇用における差別的取扱

     い,ハンセン病患者・外国人等に対する商品・サービス・施設の提供等に

     おける差別的取扱い,同和関係者・アイヌの人々等に対する結婚・交際に

     おける差別,セクシュアルハラスメント,アイヌの人々・外国人・同性愛

     者等に対する嫌がらせ,同和関係者・外国人・同性愛者等に関する差別表

     現等の問題がある。


    (2)これらのうち差別的取扱いに関しては,雇用や公共的な各種事業等の分

     野ごとに禁止規定が設けられているが,社会的身分に基づく募集・採用差

     別や,一般業種に関する商品・サービス・施設の提供等における差別的取

     扱いなど,私人間における差別に関しては明示的に禁止されていない領域

     もあり,違法な差別の範囲が必ずしも明確ではない。


    (3)そのほか,これらの差別に関する司法的救済については,一般に,異な

     る取扱いの差別性,不合理性を立証するための証拠収集が被害者にとって

     重い負担となっており,また,特に雇用等の継続的関係における相手方と

     の力関係や人間関係悪化等への懸念もあり,被害者が訴えにくい状況があ

     る。


    (4)雇用における差別に関しては,厚生労働省都道府県労働局長による紛争

     解決援助や機会均等調停委員会による調停,募集等における個人情報の収

     集制限に関する厚生労働大臣(公共職業安定所長)の指導,助言,改善命

     令等の行政上の取組がなされている。


  (2) 必要な救済措置等


    ア 差別的取扱い等


     (ア)救済対象


       これらのうち差別的取扱いに関しては,一般に積極的救済が必要であ

      るが,まず,その対象とすべき差別的取扱いの範囲を明確にする必要が

      ある。


      (1)積極的救済を行うべき差別的取扱いの範囲は,上記の問題状況や,

       差別を禁止する憲法14条1項,人種差別撤廃条約(特に1条,5条)

       の趣旨等に照らし,人種・皮膚の色・民族的又は種族的出身,信条,

       性別,社会的身分,門地,障害,疾病,性的指向等を理由とする,社

       会生活(公権力との関係に係るもののほか,雇用,商品・サービス・

       施設の提供,教育の領域における私人間の関係に係るものを含む。)

       における差別的取扱いを基本とすべきである。


      (2)一定の年齢以上であることを理由とする差別の問題については,雇

       用の場面では定年制等の年齢を基準とする雇用慣行が存在し,許され

       ない差別の範囲が必ずしも明確でないことから,これを積極的救済の

       対象とすることは困難である。一方,住宅の賃貸等の場面において人

       権擁護上看過し得ない事案があれば,個別に事案に応じた救済を図っ

       ていくことが相当である。


      (4)セクシュアルハラスメントや人種,民族,社会的身分等にかかわる

       嫌がらせも,差別的取扱いと同様,積極的救済の対象とすべきである。


     (イ)救済手法


      (1)積極的救済の対象とすべき上記差別的取扱い等に関しては,当事者

       間の合意を基本とする調停や仲裁のほか,勧告・公表,さらには,こ

       れらが奏功しない場合の訴訟援助の手法が有効と考えられる。


      (2)差別の事後的救済には限界があることから,差別的取扱いを内容と

       する営業方針が公表されるなど,将来,不特定又は多数の者に対して

       差別的取扱いが行われる明白な危険がある場合に,勧告・公表までの

       手法で解決をみないときは,具体的な被害発生後の被害者による訴訟

       提起を待つことなく,人権救済機関の積極的な関与により当該差別的

       取扱いを実効的に防止する仕組みを導入すべきであり,そのための手

       法を検討する必要がある。

第5 救済手法の整備

 第4において各人権課題との関係でみたとおり,人権救済制度における救済手法を

大幅に拡充することが必要であり,簡易な救済のための相談やあっせん,指導等に加

え,積極的救済のための調停,仲裁,勧告・公表,訴訟援助等の手法の整備を図る必

要がある。

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