タイトル:「IT革命」が我が国の労働に与える影響についての調査研究報告書



発  表:平成13年4月26日(木)

担  当:厚生労働省政策統括官付労働政策担当参事官室

                  電 話 03-5253-1111(内線7723)

                      03-3502-6726(夜間直通)

I.調査の概要

 近年、企業活動において、パソコン、LAN、インターネット等のIT機器・システム

の利用が急速に広まっている。こうしたIT化の進展は、ビジネス環境や労働者の働き

方自体を大きく変えていくと言われる。しかし、「IT革命」は今まさに進行しつつあ

る状況にあり、そのイメージは先行しているものの実態が十分把握されているとは言

いがたい。
 このため、企業におけるIT化の進展が、労働者、なかでもIT化の影響を最も受ける

とされるホワイトカラーの仕事にどのような影響を与えるのか、ひいてはそれが企業

全体の雇用の量や質をどのように変えるのかについて、現状と今後の課題を把握する

ことを目的として、厚生労働省では、「IT革命が我が国の労働に与える影響について

の調査研究会」(座長:山越 徳 獨協大学教授、別紙参照)を開催、調査研究を行

った。
 また、調査研究の一環として、企業(2,000社)ならびにそこで働くホワイトカラー

正社員(10,000人)を対象としたアンケート調査を実施した。





II.報告書の概要

1. 本調査研究の目的


○ 目的

 「IT革命」が進展することにより、ホワイトカラー正社員の仕事にどのような影響

を与えるのか、それが企業全体の雇用の量や質をどのように変えるのかについて、現

状と今後の方向について実態把握を行うとともに、今後の課題について検討する。

○ 実施した調査

・ 従業員30人以上、農林水産業と公務を除く全国の企業を対象に、業種別・規模別

に層化して抽出した企業(2,000社)に対しアンケートを実施(平成12年10月実施)


   企業調査 対象:人事担当者2,000人
        有効回答 610票、有効回答率 30.5%

   個人調査 対象:正社員ホワイトカラー10,000人(各社5人)
        有効回答2,749票、有効回答率 27.5%

2. IT化の進展状況

○ IT化の進展状況
  
・企業において、ITシステムは広く普及し、88.2%の企業は何らかのITシステムを導

入しており、7割強の企業が電子メール、インターネット、LANを導入している

(図表1)。

・約40%の企業が、ホワイトカラー正社員1人1台以上のパソコンを配備しており、2

〜3人に1台の企業と合わせると約75%になる。ホワイトカラー正社員のうち約95%が、

職場でパソコンを使っており、そのパソコンの約90%はネットワークに接続可能なも

のである。

3.IT化によるホワイトカラーの仕事の変化と雇用への影響

○ IT化による個人レベルの仕事内容の変化
  
・職場にITシステムが導入・拡充された後、担当する仕事内容に関し、IT化で減少し

た仕事として「定型的な仕事」を最も多くの人が挙げた。増加した仕事として「創意

工夫の余地の大きい仕事」「専門的な仕事」及び「文書、画面、プログラムの作成な

ど非対人的な仕事」が多い(図表2)。

・IT化は、正社員の仕事の中身について、「デジタル」化できない、「アナログ」的

な仕事のウェイトを相対的に高めていくと考えられる。

(注)「アナログ」的な仕事とは、機械に置きかえられない、人間にしかできないも

のを指す。逆にマニュアル化、知識・ノウハウの文字化、数値化できることを「デジ

タル」化という。

○ 定型的な仕事の多い部門での正社員の減少

・IT化の進んだ企業ほど非正社員化率や外部委託利用が増えている。また、定型的な

仕事の減った人事・労務などの部門では、IT化で「一般事務職の数が減少した」とい

う割合が特に高い。

・ITシステムが導入されることによってデジタル化された仕事は、コンピュータ処理

で省力化されるとともに、誰にでもできる仕事になり非正社員化やアウトソーシング

が進むと考えられる。

○ IT化による今後の雇用量の変化
  今後IT化による従業員数の変化については、34.1%の企業が減少、40.2%が不変、

10.5%が増加するとしており、IT化は、従業員を増やすよりは減少させる企業の方が

多いという結果になっている(図表3)。ただし、本アンケート調査では、従業員

30人未満の企業を調査対象から除いており、「IT革命」で成長が見込まれているベン

チャー企業やSOHO等を対象に含んでいないので、労働市場全体として雇用量が減少す

ることを結果が示しているわけではないことには注意が必要である。

・なお、ITを利用した効率化によって企業の収益率が向上したり、ビジネスチャンス

の拡大や新製品・サービスの創出によって売上高が増加するという企業は34.2%とな

っている。

○ IT化と中間管理職の役割変化

・IT化によって中間管理職の役割や必要性が低下すると回答した企業や従業員の割合

は多くなく、顕著な変化はみられない。
  
・雇用量に関し、今後については、IT化度の高い企業において、IT化により中間管理

職が減少するとみる企業が多くなっている。なお、これらの企業で過去3年間に実際

に最も大きな減少を示したのは、中間管理職ではなく役員層であった(図表4)。

4.IT化による人材ニーズの変化

○ ITリテラシーの必要性
  
・ホワイトカラー正社員全員について、基本的なITスキル(ITリテラシー)が必要と

考える企業が多い(図表5)。

・実際には社員のパソコン能力は不足しており、全員がパソコンを使える必要がある

という企業でも、実際に全員が使えるという企業の割合は30%強にすぎない(図表6)。

・企業のIT化が進展するのに伴い、全ての正社員にITリテラシーが求められるように

なる。

(注)「ITリテラシー」とはIT活用に関し、必要最低限の知識・技能が備わっている

ことを指す。

○ 正社員に求められる能力

・ITリテラシーは、正社員にとって最低限必要な能力であり、その上で、デジタルな

能力よりも、人間にしかできない能力――アナログ・スキルこそが重要になる。
  
・ホワイトカラー正社員に求められる能力として、若手社員については「コミュニケ

ーション能力」「論理展開力」「協調性」という基礎的な能力が、中高年社員につい

ては「創造力」や「変化への柔軟性」といった新しい可能性を開拓する力が、IT化に

よってより強く求められる(図表7)。

○ ITを推進する人材に求められる能力
  
・6割の企業はIT化を推進していく「IT人材」が「不足している」と答えている。企

業が最も必要としているのは、「ITを活用した業務効率化のためのアイデアをだせる

人材」、次いで「パソコンを使って基本的な業務ができる人材」「ネット化に対応し、

ワープロだけでなく情報通信機器の操作ができる人材」といったITリテラシーを持っ

た人材である。前者はIT化が進んでいる企業で、後者は遅れている企業でニーズが高

いという特徴がある(図表8)。

○ 「コア人材」に求められる能力
  
・コア人材にとって重要な能力は、「変化への柔軟な対応力」と「創造性」であり、

これらの能力は「ITをビジネス化する能力」よりも重視されている。一方、高度なIT

技術力はあまり重要と考えられてはいない(図表9)。

・IT化が進むほど、会社の付加価値を支えるのは、人間にしかないアナログ・スキ

ルであり、IT化は正社員の「コア人材」化を促すと考えられる。


(注)「コア人材」とは、「会社の競争力の源泉を担い、外注や非正社員では決して

置きかえることのできない重要な人材」を指す。

○ 中高年ホワイトカラーの可能性
  
・我が国では、いわゆる「デジタル・デバイド」の問題は中高年労働者の問題として

言及されることが多く、中高年社員にITリテラシーが不足していると考える企業は多

い。50歳以上の年齢層でも「パソコンは、まだ十分に使いこなせない」という人は1

割強しかいないが、他の年齢層に比べると、全般的にIT関連スキルが不足している

(図表10)。


・ただし、時間をかければ中高年でも仕事に必要なITリテラシーを習得できると考え

ている企業が多く、実際にIT化が進んでいる企業ほど楽観的な見方をしている

(図表11)。

○ 中高年のアナログ・スキル


・IT化は、正社員にとって、アナログ・スキルの重要性を高める。これはIT化の中で

取り残されると言われる中高年ホワイトカラーが、豊富なビジネス経験や現場感覚、

社内業務に精通していることを活かし、ITのビジネス応用力という点で強みを発揮で

きる可能性を示している。
  
・ITを利用した「業務効率化のアイデア」「新しい商品、サービス」「新しいビジネ

スモデル」の提案、特に「業務効率化の提案」について管理職の提案経験率が高い

(図表12)。また、パソコン利用歴が1年未満の者にも提案経験者はいる。

5.IT化の下での企業の人事労務管理の変化

○ IT化の人事戦略への影響の有無

・IT化が人事戦略に影響しているという企業の割合は4割弱、IT化が進展している企

業では5割前後である。影響の内容としては「新卒採用戦略」(65.8%)、「教育訓練

戦略」(41.5%)が多く、「賃金報酬制度」「昇進・昇格」に影響したという企業は

少ない。

○ 賃金・報酬制度等への影響

・今後、ホワイトカラー正社員について、賃金や昇進昇格に格差をつける時期を早め

たいという企業が、約3分の2に及ぶ。
  
・IT化の進んだ企業ほど、能力主義的あるいは成果主義的な賃金制度を導入している

割合が高く、賃金格差を拡大したり、昇進昇格時期を早めているという企業も相対的

に多くなっている(図表13図表14)。

○ 採用・育成方針

・今後のホワイトカラー正社員に対する採用・育成方針は、中途採用や選抜投資を重

視する企業が増加する。
  
・特に育成方針の変化が大きく、「全員に投資する」という企業が減少して、「選抜

して投資する」という企業が現在の51.6%から71.3%に増加して主流になる(図表15。

○ 企業による従業員のIT対応の支援策
  
・ホワイトカラー正社員がITリテラシーを身につけるために、何らかの支援を講じて

いるという企業は74.1%である。規模が大きいほど、IT化の進んでいる企業ほど支援

策を講じている割合が高くなっている(図表16)。


・支援策の内容としては、「職場の仕事を通じた学習機会」「パソコン・ワープロ等

の社内集合研修」「通信教育のあっせん(費用援助を含む)」が主となっている。

6.まとめと今後の課題

○ 求められる人材

・ITリテラシーは雇用の最低条件であり、正社員の職業能力としての「強み」にはな

らない。電話やFAXが使えるのと同程度の能力になると考えられる。高度なIT技術力

についても、それほど多くは必要としていない。

・ホワイトカラー正社員にとって「強み」となる能力は、創造性や企画力、変化への

柔軟性及び対人能力といった、人間にしかできないアナログな能力である。

○ 正社員の分化

・IT化によって業務が標準化されていくと、従来は正社員が担ってきた仕事の一部が

非正社員によって置き換えが可能になる。正社員については「会社の競争力の源泉を

担い、外注や非正社員では決して置きかえることのできない重要な人材」=「コア人

材」化が進むと考えられる。

・今後の、企業のホワイトカラー正社員は、
 (1) 長期雇用を前提に企業が人的投資を行う「コア人材」化した正社員層
 (2) IT機器・システムを利用しデジタル化された知的単純業務を担う非正社員層
の2極に分化していくと思われる。

○ 雇用の最低条件としてのITリテラシーの習得

・職場のIT化が進む中、すべてのホワイトカラー正社員に、ITリテラシーが求められ

る。ITリテラシーは今後雇用の最低条件となっていくと予想されることから、すべて

の労働者が、ITリテラシーを習得する機会を得られるようにすることが求められる。

・IT化時代には、アナログ・スキルこそ正社員にとって重要な能力となるが、ITリテ

ラシーが不足していると、その能力が発揮できず、「コア人材」化できないケースが

ある。ITリテラシーの習得を支援することは、特に中高年層など豊かなアナログ・ス

キルを持つ労働者が、IT化時代において能力を十分発揮していくことにも資する。

○ 就業者の自己啓発に対する支援

・すべての労働者についてITリテラシーの習得機会を確保していく際に、今後は失業

者や未就業者のみならず、就業者についても、個人の自己啓発による職業能力開発を

支援していく必要性が高まる。

・また、その際、労働時間の短縮を図り、労働者の余暇時間を増やすこと、休職して

専門的な教育訓練を受けることについて、企業の理解・協力を求めることも重要であ

る。

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